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転生スキル『貪食』  作者: とまてるの
第三章逃亡者の名
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第44話狂気の右腕

人を刺した瞬間、周りにいた皆は悲鳴を上げた。

子供は踞る母に抱きつき、俺が子供を殺そうとしても、誰も止めやしない。


探偵事務所が側にあり、そこには警備隊もいるのにだ。


ベンジャミンはその子供に手を伸ばした時。

力帝の横に新しくいた右腕を思い出した。


見捨てられるくらいなら、先に壊してやる。


「やめろ!」


ハンは手から糸を出し、ベンジャミンの両腕を縛って引っ張り出した。

ベンジャミンが宙にいる隙に、アルダは母子を安全な場所に連れて、母親の傷を両手で抑えた。


「いい?ここを強く押して」


「う、うん…!」


子供は涙を流しながら母の傷を抑え、アルダは一か八か治癒スキルを使った。


せめて内蔵だけでも……!


ハンは上から落ちてくるベンジャミンの横胸に蹴りを入れて肋骨が折り、建物へ吹き飛ばすが、ベンジャミンは全く効いていない。


「うっそー、マジかよ」


治癒スキルで治し、ブチブチと両腕を広げて拘束を引き剥がすと、建物の壁に着地してすぐさま街路の端にいるアルダの方へ飛び移った。


痛みが残っていても、ベンジャミンには関係ない。


ベンジャミンの胸を満たすのは、ただ一つの衝動だった。

殺したい。

絶望する顔が見たい。


心臓の鼓動が高鳴る。


「リリス!!」


アルダの前にハンが現れ、ベンジャミンは笑顔から怒りに満ち溢れ、ハンに体当たりをして建物の壁を突き抜けた。


「テメェ、マジでイカれてんのか?」


家具に布がかけられた引っ越し前のこの部屋は、狭く、戦いづらい。

そしてハンとベンジャミンは同時に立ち上がり、フード越しからベンジャミンは歯茎を剥き出しにする。


「邪魔をするな」


強く耳に響き、ハンの額から冷や汗が一滴垂れる。


ベンジャミンが地面を踏み出した瞬間、ハンは糸の形状を変え、素早く剣へと変形させた。


この場所のような狭い空間では、剣は役に立たない。

それを見越したベンジャミンは一気に距離を詰めるが、剣はレンガの壁と家具を、まるで豆腐を切るように切断し、ベンジャミンは腰を90度に反らして斬撃を躱した。


「驚いたろ?」


ハンは冗談半分でそう言い余裕を見せた。

だが、予想外にベンジャミンは短剣を持っていて、ハンは剣を再び糸にして解れた糸を盾へと変形させ、攻撃を間一髪防いだ。


ハンは既視感を覚えていた。

何処からか、突如出現した短剣に。 


そんなこと考える暇なく、ハンは左拳を突き出し、拳はベンジャミンの顔に激突する。


「お前、なにしてんのかわかってんのか?警備隊もそろそろ駆けつけてくる頃だ」


するとベンジャミンは、まるで自分に言うように強く言う。


「弱者は嫌いだ」


ベンジャミンの短剣は盾を貫き、注意を向かせた瞬間、ベンジャミンはハンの顔を殴る。

ハンが反撃しようとしても、攻撃を全て受け流し、攻撃だけが当たってしまう。


ふらふらとハンが後方へ下がり、ベンジャミンはハンの腹に前蹴りを喰らわせた。


ハンは建物の壁から突き抜け、ベンジャミンが短剣を振り下ろした瞬間、アルダが剣で阻止した。


ベンジャミンが距離を取ると、アルダはすぐ距離を縮め、剣を振るった。

どう来るかわからないその未知数な攻撃は、ベンジャミンを惑わせ、遂に肩に軽い切り傷を負わせた。


紅牙(べにきば)!」


血は固まり、一瞬にして毒が全身を回った。

発熱、嘔吐、目眩……あらゆる状態異常が現れる。


だがそれを、貪食は喰らった。


「あっ……」


その姿は彼を彷彿とさせる。

貪食の力、それを再び目の当たりにしていた。


手が震えていた。だが、剣は下げなかった。

しかし、動きが遅れたアルダの目の先には、短剣の刃が見えていた。


ザクッ!!!


事務所の方向からナイフが投げられ、ベンジャミンの鎖骨下に刺さり、ベンジャミンは防御の姿勢を取って障害物に隠れた。


アルダが目にしたのは、遅れて避難していた探偵が通り際にベンジャミンの方へナイフを投げていた姿。


そしてベンジャミンは事務所の中に逃げ、少しすると窓を割って建物に飛び移り、警備隊が来た頃にはとっくに逃げていた。


アルダが溜め息を吐くと、先程助けた母の少年が足元にいた。


「お、お姉さんありがとう」


「お母さんは?大丈夫?」


少年が指差す方向を見ると、その子の母は医師の完璧な治癒スキルによって一命を取り留めていた。


「お姉さんのおかげで助かったんだって」


「そ、そう」


アルダは照れながら返事を返し、少年は背を向けながら言った。


「じゃあボクもう行くね」


すると口と鼻から血を流しているハンは、首を抑えながら近づく。


「アルダ、気付いたか?」


「"アイツ"みたいな戦い方だったね」


あの狂人の戦い方、妙にカイに似てた……一体…


そしてふと、アルダは武器をベンジャミンに投げていた探偵を思い出す。


「それともう一つ気になることがあるの」


「どうした?」


アルダは警備隊から取り調べを受けている男性の方を見る。


「あの顔…探偵のザビエクか」


「ザビエク、あの人、ただの探偵よね?副業で格闘家とかしてない?」


「いいや、調べたが探偵以外は何も出なかった」


その時、アルダとザビエクの目が合う。

アルダは自然と目をそらすが、ザビエクは目を離さない。


「では、私はこれで」


ザビエクは警備隊からの取り調べを抜け出すと、アルダとハンの元に駆けつける。


「ザビエクさん。無事でしたか?」


ハンに対してザビエクは微笑んで答えた。


「ああ、お気遣い感謝する。所で以前は棺桶の男についての情報はないと言ったが……」


「事情が変わった」


「それはどういう?」


ザビエクは二人がカイの何かしら関係があると、直感で信じていた。


「カイについては長い話になる。別の場所で話そう」


そうして三人はザビエクの自宅へと招かれた。

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