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転生スキル『貪食』  作者: とまてるの
第三章逃亡者の名
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第39話治らない呪い

戦いは終わり、砂埃が舞う荒野に死体が砂で埋もれ掛けていた。


――ここ数年。

俺はずっと逃げてきた。

魔大陸と呼ばれるこの地は、隠れるのに最適で、数々の犯罪者もそうしてきたらしい。


俺がやって来たのは、アスラーム王国の外れにある、ポツンと置かれた隠れ家だった。


「リリス、砂は吸ってないか?」


「うん…大丈夫……」


彼女を車椅子に乗せ、俺は乾いた血を洗い流す。


「もうしばらくは安全だ。また呪いの解除に時間が出来た」


「ごほっごほっ!そうだね……」


俺は手を洗うと薬を用意してリリスに飲ませた。

咳が収まった後も、彼女の指は小刻みに震えていた。


喘息と心臓。

それだけで、彼女の身体は自由を奪われていた。


「それじゃあ俺はまた呪詛師を探しにいくよ」


そうして玄関に向かおうとすると、車椅子に乗ったリリスが手を差し伸べ、俺の服を摘まんだ。


「今日はゆっくりしよ…?賞金稼ぎ達、追ってこなくなってきたんでしょ……?」


「でも」


言い掛けるとリリスは遮り、俺の手を掴んだ。


「久しぶりにゆっくりしよ…だから、ね……?」


「ね……治ったらさ、外を一緒に歩こう。車椅子じゃなくて、ちゃんと……」


「そうだな」


それでも胸の奥に巣食う焦りは、砂嵐のように消えてはくれなかった。


リリスはすっかり車椅子で眠り、俺は彼女を抱えてベッドに寝かせた。


俺は彼女の手を離すと、理由もなく時計代わりの魔道具を見た。

まだ半日も経っていない。それでも、遅すぎる気がした。


もう三日も眠れていない。


だけど、リリスを治したいと考えると、力が湧いてくる。

俺は古びた家を出て、同じアスラーム王国の外れにある冒険者協会へやって来た。


入った瞬間、一瞬にして俺に視線が集まる。

酒と血の匂いが充満している。

大半が魔物のだが…賞金稼ぎが流行ってる今となっては人間の血だろう。


協会の壁に貼られてある手配書。

背中に棺桶を背負い、顔は黒く塗り潰されている。

素性はバレているが、運が良い事に顔はバレてはいない。


名前を聞かれたり、魔力の反応を覚えていたりするヤツがいればバレてしまうが、当然名前は偽名で、魔力反応を知っているヤツらは勿論、全員死んでいる。


そしてこの協会に来た理由は、リリスを治す為の呪詛師を探す事。


受付所に行き、指名手配されている呪詛師をターゲットにしてそいつと話を付ける。

何十回も繰り返しても、諦められない理由がある。


根性とか、そんなのではなく、尋ねた呪詛師は全員口を揃えて――「私じゃ無理」と言う。


だから、いずれ出来る者が現れるまで、俺は続ける。


「呪詛師の捕獲ですね。かなりの危険人物になりますが大丈夫ですか?」


「ああ」


「では、この書類にサインを」


親指にインクを付け、書類に押す。


「報酬は金貨七枚、条件は三日以内で、戦闘不能の状態でこちらまでお越し下さい」


そうしてまた違う書類を渡される。

この紙に魔力を込めると、インクが魔力に反応してターゲットの居場所を記す地図が浮かび上がる。


昔の光景が脳裏をよぎった。

――俺以外が触れても、地図は沈黙したままだった。


「魔力が違います。あなた専用です」


受付の言葉を振り払うように、俺は紙を畳んだ。


地図を受け取った後は、リリスを心配させない為に一度家に帰り、簡易的な食料を買って、怪しまれる前にさっさと町を出る。


帰る道中、魔物に遭遇する恐れはない。

なぜなら、魔物は人が群れている場所を嫌っているからだ。

この国の外れにあるこのボロ家ぐらいの距離だったら、知性の低い弱い魔物がいるだけ。


帰途中の砂漠に死んだ賞金稼ぎ達は、カラスのような魔物に喰い荒されている。


「リリス、帰ったぞ」


玄関を開け、服を叩いて砂を落とした。


「ふぅ……やっぱり、夜は冷えるね…」


「また違う呪詛師に話を聞きに行く。半日程で帰ってくるから、ご飯置いとくぞ」


ベッドの横に食料を置き、暖まるように安い魔道具を付け、リリスに熱気が当たる。


「ほら」


リリスに魔道具の電源ボタンを投げ渡し、背を向ける俺に黙って手を振った。


「いってらっしゃい……」


「今度はきっと治せる手が見つかるさ」


「無理、しないでね……」


そうして俺は家を出て、地図に記された目的地へと向かった。


そこは砂漠地方から北へ向かった、湿った森林地帯。

地面は沼だらけで、ブーツに泥が入りまくる。

そして地図が差す目的地に、古びた砦があった。


きっとこの沼も呪詛師が作り出した物なんだろう。

この砦も、かつては栄えていたはずだ。

たった一人の女性に完膚なきまでにやられてしまうとは……今回は手強そうだ。


砦の廃れた門を潜り抜け、軽く殴れば壊れそうなボロい扉を開けて中に入る。


基本、呪詛師は魔法の研究を好む。

稀にヤバい趣味を持ったヤツと会うことはあるが、今回はそうじゃないことを祈ろう。


天井や壁に張り付いた白骨死体を見て、周囲を見渡す。


掠れた魔法陣……無視してもいいな。


そのまま真っ直ぐ歩き、階段や他の道もあるがそこは通らない。

他の道には魔力反応がないし、この道にだけ魔力が込められてる罠がある。

と言っても、もう使えない物だらけだが。


最後に動き出しそうだけど頭がない石像の横を通り過ぎ、そのまま扉を開けた。


歴戦の呪詛師だと思っていたが、そんなことないな。

きっと、当初は危険すぎて誰も応募しなくなったのだろう……それで部屋に引きこもり、罠は年月が経って機能しなくなったって所か。


「だ、誰だ!」


蝋燭に付いた青い炎を明かりの中、熟年の女性は物音に後ろを振り返り、俺は手を上げた。


「敵意はない。ただ聞きたいことがある」


「嘘おっしゃい!」


呪詛師は真っ白な手から魔法を発動させようとする。

長年戦ってなかったのだろう、少しの間が出来た。


「今の間でお前を殺すことだって出来た。これで敵意はないとわかったろ?」


「な、何が聞きたいの」


「心臓が弱まる呪いなんだが、罹ったヤツは心臓がスキルの代償で弱まった状態で罹った」


「他の熟練した呪詛師にも話を聞いたが、解呪は出来ないと。お前は出来るか?」


「うーん……私は無理だけど、出来そうな人は知ってるわ」


一瞬だけ、彼女の声が揺れた。

――本当に知っているのか、それとも賭けか。


「ほ、本当か!?」


だが、初めての進展に俺は心を震わせた。

期待が高まり、鼓動が速くなる。


「ええ、名前は……忘れたけど、居場所は知ってる」


「教えてくれ」


「教えてくれたら見逃す?」


「当然だろ」


「わかったわ」


呪詛師は俺に地図を渡した。

インクを操り、地図に丸く印を付ける。

場所はここから北西、寒い草原だった。


「ここに行けば、呪詛師の空間に迷い込めるわ。あとは頑張って」


「……その子を、救いたいんでしょう?」


「ありがとう」


俺は紙を受け取り、その場から立ち去る。

彼女は禍々しい氷を手の中に生み出し、放とうと腕を突き出した。


ビュンッ!!!


短剣を生成し、氷を避けると同時に後ろを振り返りながら短剣を投げる。

短剣は呪詛師の目の前で止まり、呪詛師はニヤリと笑顔を浮かべ、俺は強風を放つ。


「キャアッ!!」


部屋に散乱した研究のノートや、材料が吹き飛び、距離を詰めた俺は剣を両手に出し、呪詛師の胸を貫いた。


「ボホッ……!!!」


彼女は壁に磔になり、命は徐々に薄れていく。


「信じた俺が馬鹿みたいだ」


そう言いながら、胸の奥で懐かしい声がした。

――信じたかっただけだろ。


胸を貫いた感触が、嫌に手に残った。

また一人、間違っているかもしれない命を奪った。


呪詛師を殺した事は少ないが、殺す度に毎回卑怯じゃない呪詛師が可哀想だと感じる。


こいつが吐いたこの呪詛師もこんなヤツじゃなければいいんだけどな……


そうして砦から出て、ひとまず地図に記された場所に行くことにした。


もし、あの女の言葉が嘘だったら。

そう考えた瞬間、胸の奥が軋んだ。


その時、乾いた金属音が鳴った。


聞いたこともない音だ。特殊な魔道具か?


「おっと、早とちりは命取りだぜ」


声は上から降ってきた。

遅れて、殺気が背中を刺す。


木の上。カウボーイハットの男が、魔道具を指で回していた。

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