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転生スキル『貪食』  作者: とまてるの
第三章逃亡者の名
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第33話化け物の自覚

凶暴になった獣人はよだれを垂らし、獣のように雄叫びをあげながら、ベンジャミンの足元に食いついた。

ベンジャミンは足を軽く振るい攻撃を避けると、通りすぎた獣人の顔に拳を振るう。


攻撃はタイミングも距離感も完璧。

――力任せではなく、最短の殺しを選んでいた。

そして獣人はその一撃で顔面が血まみれになり、戦意を喪失していた。


だがここは闘技場――

逃げ場はない。


一定時間が経過すると武器が支給される。

ベンジャミンは手斧を取ると、四足歩行で逃げ回る獣人に向けて投げ放ち、手斧は獣人の横腹を突き破った。

獣人は激痛で叫びながらバランスを崩し、地面に転がる。


ガシッ


ベンジャミンは短剣や剣、槌、様々な武器を手にして獣人に投げ放ち、武器は獣人の背中を突き破っているが薬物で中々死なない。

酷い苦しみで踠き、そこにベンジャミンは浅く食い込んだ武器をゆっくりとねじ込んだ。


「ギャアア!!!!」


獣人はゆっくりと死んでいき、死ぬまで安らぎはなかった。

ただの惨殺が終わった後、ベンジャミンは俺を見つめる。

その目は、俺にスキルを使えと言っているようだった。


「耐えろカイ。ここで耐えるんだ」


俺がスキルを使い、乱入すれば彼は助かったかもしれない。

俺は唇を噛み締め、黙って座席の肘置きを握り潰していた。

ベンジャミンが歓声を浴びながら立ち去って行き、俺はその場にはもうおらず、ホテルの部屋に戻っていた。


俺はベッドに寝そべり、ただ普通の天井を見つめる。

助けられなかった罪悪感は、確かにあった。


だが今は、それよりも――

自分が“何者なのか”を理解してしまった事実の方が重かった。


ただこう思う。

俺は正義のヒーローじゃなかった。

ザビエクと同じ、人を殺す言い訳として人助けしてる。


――気付かない方がよかった。

ザビエクや毒帝、ヴェイルが言っていた事が今、分かった。

俺は"化け物"だ。


---


目が覚めた時、部屋は静かすぎた。

カイの気配がない。

それだけで、胸の奥がひやりと冷えた。


ベッドから身を起こし、窓を見る。

外は相変わらず穏やかで、南国の夜は優しく光っている。


――なのに。


「……遅い」


小さく呟いても、返事はない。

私は羽織を掴み、部屋を出た。

廊下は静かで、足音だけがやけに響く。

すれ違う人間はいる。

笑っている人も、酒に酔った人も。


でも、その笑顔はどこか薄っぺらく見えた。


「……おかしい」


この島は綺麗すぎる。


掃除が行き届き、建物は豪華で、夜風も心地いい。

それなのに、どこか――“人の匂い”がしない。


ロビーへ降りると、受付の女性が私を見て一瞬だけ言葉に詰まった。


「何かご用でしょうか?」


「一緒に来ていた人を探してるの」


「……」


その沈黙が、答えだった。


「どこへ行ったか、知ってる?」


「申し訳ありません。お客様の行動については――」


嘘。


私はそれが分かった。

ホテルの外へ出ると、夜の島は明るい。

音楽、笑い声、灯り。

でも、一本裏道に入った瞬間、空気が変わった。


湿った匂い。

鉄のような、嫌な臭い。


「血……?」


気のせいじゃない。


確実に、ここから何かが“流れている”。

私は無意識に、その匂いを辿っていた。


止める理由がなかった。


止まったら――

カイが、もっと遠くへ行ってしまう気がしたから。


途中、奇妙な光景を見た。


鎖を引きずる人。

目を伏せた獣人。

笑いながら見送る観客。


誰も、それを異常だと思っていない。


「……ここは」


ここは、楽園なんかじゃない。


胸の奥が、じわじわと重くなる。


カイは、こんな場所を見たのだろうか。


こんな光景を、一人で。


「カイ……」


名前を呼んでも、返事はない。

でも、不思議と確信があった。

彼はまだこの島にいる。


ただ――

私の知っている“カイ”のままでは、いられなくなっただけだ。


私は足を止めた。

遠くから、歓声が聞こえる。

それは喜びの声じゃない。

何かを壊す音だ。


……行かない方がいい。


本能が、そう告げていた。

それでも、私は引き返さなかった。


だって。

あの人は、いつも私より先に――

“地獄”を見てしまうから。


小さな隙間から、闘技場のような光景を見る。

何がどうなっているかわからないが、ここから血の匂いが来ているのは間違いない。


その時。1人の男がエレベーターで帰っていくのが見えた。


カイだ。

その瞬間、安心を覚えるが同時に不安も現れる。

遠くからでも、見間違えるはずがなかった。


だけど彼は肩を落とし、足取りは重く、誰とも目を合わせない。

まるで、この島の光すら鬱陶しいと言わんばかりに。


――無事だ。


その事実に、胸の奥が一度だけ緩む。


けれど、次の瞬間、私は気づいてしまった。


……違う。

あの人は、こんな歩き方をしない。


私の知っているカイは、どんなに疲れていても、どこか周囲を警戒していた。

逃げ道を考え、次の一手を思考し続けていた。


今の彼には、それがない。


まるで――

もう何も期待していない人間の背中だった。


エレベーターの扉が閉まる。


私はホテルへ戻り、部屋に向かうエレベーターで帰るカイを見つけ、少し遅れてから乗り込んだ。

距離はあったはずなのに、狭い箱の中で、彼の存在がやけに大きく感じられる。


チンッ

エレベーターから降り、私は部屋の扉をノックしてから入った。

ベッドには、ボーッと寝そべっているカイが見える。


「……ただいま」


声をかけると、カイは一瞬だけこちらを見る。

その目は、冷えていた。


怒っているわけでも、悲しんでいるわけでもない。

ただ――感情の温度が、どこかに置き去りにされたような目。


「……ああ、おかえり」


それだけだった。


「……何があったの?」


カイはベッドから起き上がり、コップに水を注ぐ。


数秒。


たったそれだけの沈黙なのに、胸が苦しくなる。


「……何でもない」


嘘だ。


あまりにも、分かりやすい嘘。

カイは上着を脱ぎ、無造作に椅子へ投げた。

その手が、微かに震えているのを、私は見逃さなかった。


「闘技場、行ってたんでしょ」


私がそう言うと、カイの背中が僅かに強張る。


「……どうやって?いや、そんなことはいい。見てたのか?」


「全部じゃない。でも分かる」


この島に来てから、私は知ってしまった。

ここでは、人の命が娯楽として消費されることを。


カイは、しばらく黙っていた。

そして、低い声で言った。


「……助けられなかった」


その言葉は、後悔でも、弁解でもなかった。

ただの事実報告だった。


「助けられた。でも、助けなかった」


私は言葉を失う。


「……それで?」


「それで、分かった」


カイは、コップの水を見る。

反射した顔を見て、彼は言う。

そこに答えが書いてあるかのように。


「俺は、人を救う側の人間じゃない」


胸がキュッと締め付けられる。


「そんなこと……!」


「ある」


はっきりとした否定。

その声には、迷いがなかった。


「俺は選んだんだ。見殺しにすることを」


沈黙。

部屋の中で、夜の音だけが響く。

私は、一歩近づいた。


「それでも」


そう言って、カイの隣に立つ。


「それでも、ここに帰ってきた」


カイは、ようやく私を見る。


「逃げなかった。島を壊そうともしてない。誰かを殺しに行ったわけでもない」


私は、彼の手をそっと掴んだ。

冷たい。


「それが、答えじゃないの?」


カイは、何も言わなかった。

けれど、その手は――

振りほどかれなかった。


私は思う。


この島は、きっと彼を壊す。

でも。

壊れたままでは、終わらせない。


この人は、いずれ“力帝”と相対する。

その時、彼は選ぶだろう。


成長のために、生かすのか。

それとも、自分を貫くために、殺すのか。


その答えが出る日まで。


私は、そばにいる。


彼が――

化け物になりきる、その一歩手前で。

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