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転生スキル『貪食』  作者: とまてるの
第三章逃亡者の名
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第32話選ばれる側

続いて部屋の中を探索したが、これらしい不審物はなかった。

知らない間にリリスはベッドで眠っていて、戸締まりがしっかりしているのか確認してから部屋の外へ出た。


リリスを1人、置いていくのは気が引けるがカールが言っていた地下の闘技場が気になる。

もしものことがあってもリリスなら平気か。


俺はエレベーターのボタンを押し、ロビーへと降りていった。

カールが言っていた通り、受付に立ち寄った。


「ようこそ!いかがなされましたか?」


「"地下に行きたい"」


「しょ、少々お待ちください」


女性の声のトーンが落ちると、慌てて奥へと急ぎ足で向かった。

すると年老いた老婆が現れると受付の扉を開き、黙って手招きをする。


「あ、ああ」


戸惑いながらも着いて行き、どれだけ暴れても傷1つ出来なさそうな頑丈なエレベーターで下へ降り、エレベーターが開いた瞬間、俺は反射的に息を止めた。


熱気。

血の匂い。

歓声とも嘲笑ともつかない、濁った音。


地下は別の世界だった。


半円状に配置された少人数の観客席。

その中心に、巨大な円形のステージがある。


――闘技場だ。


檻が開き、引きずり出されるように現れたのは一人の男。

罪人と呼ばれる存在。


鎖で繋がれ、体は裂け、血と汗で判別がつかない。

それでも、立っていた。

いや――立たされている。


対峙するのは、闘牛のような獣人族。

角には金属が嵌められ、意図的に殺すための形をしている。


観客の中の誰かが、笑った。


「まだ動くぞ」


「思ったより持つな。あいつ」


命の残量を、娯楽として測る声。

男が突進を避けきれず、壁に叩きつけられる。

鈍い音が、腹の奥まで響いた。


――ここでは、人は死なない。


“消費される”だけだ。

俺の拳が、無意識に震えていた。


怒りか。

嫌悪か。

それとも――


「……力帝」


この島を作り、

この光景を“饗宴”と呼ぶ存在。


姿は見えない。

だが、確実に――ここにいる。

ステージから目線を外すと、既視感のある2人が観客席に座っていた。

ザビエクは俺に気付いたのか、後ろを振り向き俺に向かって小さく手を振るった。

俺はザビエクの隣に座り、試合を見る。


闘技場にいる2人は傷だらけで、死ぬまで止められない。

好きで殺し合っているわけじゃない。ここにいる奴らのせいで殺し合っている。


バギッ!!!


獣人が罪人に突撃し、罪人の腕はあり得ない方向に曲がる。

悲痛な叫びが闘技場に響き、少ない観客はコメディーショーでも見てるかのように、笑いながら拍手をし、それを見ていると、俺は無意識にスキルを発動しようとしていた。


「カイ」


ザビエクは強く冷静に俺の名前を言った。


「この場の掟に従え。それが無理なら帰るんだ」


「……わかってる」


俺は一息ついて、ただ傍観しているカールをチラッと見る。


「俺をここに呼んだんだ。何か意図があるんだろ?」


カールはグラスに入った酒を飲み、その時。カールが見ている先は闘技場ではなく、観客席の更に上にある特別な空間だった。


「カイ、あまりあそこを見るな。感づかれるぞ」


「わかってるさ」


あれが今まで感じてきた気配――

"力帝"、お前か?


「あそこにいるのが"力帝ヴァルガス"。そしてもう1つ厄介なのが、奴の右腕である"ベンジャミン"だ」


「ベンジャミン?」


「俺達側には一様、数百の軍勢と貪食者2名がいるが、ベンジャミンはそれを抑えれるだろうな」


「一体どんなスキルなんだ?」


模倣(コピー)。一度スキルを見せると、それを完全にコピーできる」


「奴自体、戦闘のエキスパートだ。いくら強いスキルを持ってたとしても、奴の経験と才能が相手じゃ勝てない」


「模倣だって?複数同時に使ったりしねぇよな」


「それは当たり前だが無理だ。やろうとすれば、まず先に脳ミソがやられる。私とお前、貪食もそうだろ?」


「ただ、私達より使い方は上手いかもな」


「模倣……か」


その言葉を反芻した瞬間、背筋に冷たいものが走った。

俺のスキルは“貪食”。

見せた時点で、奪われる可能性がある。

いや――奪われるどころか、上回られる。


カールはグラスを手に取り酒は揺れる。


「力帝が直接動かない理由が、それだ。ベンジャミンがいれば、敵は“動く前に殺される”」


俺は無意識に拳を握りしめていた。

闘技場では、すでに次の“試合”の準備が始まっている。


血を洗い流す水音。

引きずられていく罪人。

代わりに現れる、また別の“消費物”。


この場所に正義はない。

あるのは、効率だけだ。


「……で、俺は何のためにここに?」


俺の問いに、カールは少しだけ笑った。


「観察さ。力帝はな、直接会う価値があるかどうか――まず“選別”する」


その瞬間、空気が変わった。

闘技場全体を包んでいたざわめきが、誰かに首を掴まれたみたいに、スッと静まる。


観客席のさらに上。

視線を向けるなと言われた、あの特別区画。

そこから、低く、よく通る声が落ちてきた。


『――初めて見る顔だな』


直接じゃない。

だが、確実に俺に向けられている。


『貪食の反応を持つ者。君は、思っていたより“静か”だ』


ここで下手な反応をすれば、終わる。


「……光栄だな」


絞り出すように答えると、上から小さな笑い声が返ってきた。


『良いだろう。すぐに吠える犬は嫌いでね』


その言葉と同時に、闘技場の床が開いた。


現れたのは――先ほどまで観客席にいた男。

無駄のない体。

視線だけで、空間を支配する圧。


「……ベンジャミンか」


ザビエクが、息を殺して呟く。


男――ベンジャミンは、闘技場の中央に立つと、ゆっくりとこちらを見上げた。

その視線が、一瞬だけ――俺のスキルの奥を覗いた気がした。


「始めてくれ」


彼は淡々と言った。

その瞬間、観客は指笛を鳴らす。

圧倒的強者による遊びの始まりだった。


嫌な予感しかしない。


闘技場の下から檻が現れ、檻から出てきたのは薬物を打たれ強化された狼の獣人だった。

ベンジャミンは、檻の中の獣人から視線を外し、今度は俺を見た。


「安心しろ」


淡々とした声だった。


「今日は君に何もしない」


――その言い方が、逆に不気味だった。


「見るだけでいい。理解するだけでいい。君のスキルは考える前に使いすぎる」


俺は何も言い返せなかった。

あいつは、俺を見ているんじゃない。

――“俺の使い方”を見ている。


闘技場に響く獣人の咆哮を聞きながら、俺は初めて――自分のスキルが“狙われている”と実感していた。

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