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転生スキル『貪食』  作者: とまてるの
第三章逃亡者の名
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第29話偽物になる前夜

事が済んだ後、罪悪感と後悔が津波のように押し寄せてくる。

カラフルなライトは天井から落ち、大きな音を立てて机を破壊した。

周りは暗黒に包まれる。


「カイ。何も後悔する事はないだろう?」


「お前は人を殺せたからだろ、俺は違う」


「そうか?襲われた時、すぐ反撃して殺したろ?」


ザビエクは床に転がる死体を一目見ると、興味を失った玩具を見るように鼻で笑った。


「人はな、理由がなくても殺せる。だが理由があればそれは正義にすらなる」


「……それを正義だと思ってるのか?」


俺の声は自分でも驚くほど震えていた。

ザビエクは肩をすくめ、血に濡れた大きな斧を軽く振って血を払い、背中に携えた。


「思ってるかどうかなんて、どうでもいい。大事なのは“結果”だ」


「私は悪人しか殺さない。お前が見た広場の女も娼婦を偽り冒険者を殺し回っていた」


結果。

その言葉が胸に突き刺さる。


床に広がる血溜まり、転がる肉片。全部俺がやったことだ。


「お前は俺と同じだよ、カイ」


ザビエクはゆっくりと近づき、耳元で囁いた。


「迷ってるくせに、その手は止まらなかっただろ?」


反論しようとしたが、言葉が出てこない。

確かにそうだ。

恐怖もあった。嫌悪もあった。

だが――殺した瞬間、体は迷わなかった。


「違う……」


絞り出すようにそう言うと、ザビエクは楽しそうに笑った。


「違うと思いたいだけだ」


その笑みを見た瞬間、はっきりと理解した。


こいつは“壊れている”。

そして俺は、その壊れた世界に足を踏み入れてしまった。

通信石が震え、青白い文字が宙に浮かぶ。


『確認した。仕事は完璧だ』


カールだ。


その短い文面を見た瞬間、胃の奥がひっくり返るような感覚に襲われた。

俺はもう、後戻りできない。

ザビエクは背を向け、軽い調子で言った。


「死体はそのままにしておけ、さっさと帰るぞ」


その背中を見つめながら、俺は思った。


――もしこの先で、俺自身が“偽物”だと断じられる日が来たら。


その時、俺は誰を恨むんだろう。


深夜、俺はただ1人でナイトクラブへ向かった。

黒服は俺を見た途端、近づいてきた。


「カイ様、ご案内致します」


黒服は丁寧に扉を開け、ナイトクラブへ入るとメインフロアへ、あの螺旋階段は上がらず、リリスが前にチケットを盗んだ時に入ったオーナーの部屋に繋がる扉をに案内された。


「すみませんがこの先はカイ様だけになります。真っ直ぐ進めばカール様が待っていますので、これで私は失礼します」


「わかった」


扉を抜けて廊下を歩く。

ここはメインフロアとは違く品があり、従業員の部屋や、監視室の部屋などがあった。

そうして言われた通り進んで行き、そこの扉を開いた。


「任務は果たしたみたいだね?カイ」


カールは書類が数枚置かれてある黒い木目の机に、皮で出来た上品な椅子に座っていた。

カールは机の上の書類に目を落としたまま、ペンを指で転がしていた。

その仕草が、ひどく落ち着いて見えて、胸の奥がざわつく。


「……何か言うことは?」


俺がそう言うと、カールは初めて顔を上げた。


「特にないよ。結果は十分だ。死体の数も、処理の速さもね」


評価するような視線。

そこには善悪も感情もない。ただの“確認”。


「ザビエクとは、上手くやれているみたいだね」


その名前を聞いた瞬間、胃の奥が冷たくなる。


「……あいつは、異常者だ」


思わず口をついて出た言葉だった。

カールは少しだけ目を細め、興味深そうに笑った。


「そうかい?でも君も一緒にやったんだろう?」


言い返そうとして、言葉が詰まる。


――違う。

俺は、あんなふうに楽しんでいない。

だが、

殺した事実は変わらない。


「君は優しいね、カイ」


カールは立ち上がり、机を回って俺の前に立つ。


「だからこそ、使い道がある」


その言葉に、背筋がひやりとした。

カールは俺の目を真っ直ぐ見る。


「疑われた時、人は今までの行いで裁かれる」


胸が締め付けられる。


「君がこれまで何をしてきたか。誰と組み、誰を殺してきたか。それが、そのまま君自身になる」


俺は唇を噛みしめた。

正義のつもりだった。

悪人を殺しているだけだと思っていた。

だが今、

その正義は、誰の目にも映らない。


「……もし」


声が掠れる。


「もし俺が、間違っていたら?」


カールは一瞬だけ沈黙し、そして穏やかに言った。


「その時は、選び直せばいい」


「殺すか、生かすか」


「壊れるか、戻るか」


「ではまた後日連絡するよ」


そのどれもが、簡単に言われるのが恐ろしかった。

部屋を出た後、俺は夜の街を歩いた。

ネオンの光が滲み、足元がふらつく。

ザビエクの笑顔が、頭に浮かぶ。


――お前は俺と同じだ。


違う。

そう思いたい。

だが、もし悪人を殺して、俺が少しでも楽になってしまったら。

その瞬間、俺は本当に――アイツと同じ、"化け物"になってしまう。


夜風が冷たく、

俺は初めて、武器ではなく自分の手を見つめた。

血はもう付いていない。

それでも、洗っても落ちない何かが、確かにそこに残っている。


途方もなく歩いていると、路地裏の奥で、誰かが泣いていた。


最初は気のせいだと思った。夜の街では、珍しいことじゃない。

だが足が止まったのは、泣き声がやけに小さく、必死に抑え込まれているように聞こえたからだ。


角を曲がると、壁際にうずくまる少女がいた。

年は十にも満たないだろう。服は汚れ、肩を震わせている。


俺は反射的に周囲を見渡した。罠かもしれない。そう考える自分に、吐き気がした。


――いつから、こんな思考をするようになった。


「……大丈夫か」


そう声をかけると、少女はびくりと跳ね、怯えた目で俺を見た。その瞳に映った自分が、ひどく恐ろしい存在に見えていることが分かる。


「追われてるのか?」


少女は小さく首を振りこくりと縦に振った。


「……お父さんが」


その一言で、胸が締め付けられた。


理由は聞かなくても想像がつく。酒か、借金か、それとも――もっと救いのない何かか。


俺は拳を握りしめた。


もし今、この場にその父親が現れたら、俺は、どうする?


守るために殺すのか。

それとも、殺さずに済ませる道を選べるのか。


ザビエクなら迷わないだろう。

カールなら、利用価値を計算する。

じゃあ、俺は?


「ここは危ない。知り合いの所に連れて行く」


それが正解かどうか分からない。だが、少なくとも刃を抜かずに済む選択だった。

少女の手を取ると、驚くほど細く、冷たかった。


その温度に、はっきりと理解する。

俺はまだ、人の重さを感じられる。


その事実に、わずかな救いを感じた瞬間――背後で、聞き慣れた足音が止まった。


「随分、優しいじゃないか」


振り返るまでもない。


ザビエクの声だ。


「仕事の帰りに随分寄り道をするな?カイ」


俺は少女を庇うように一歩前に出た。


「関係ない。先に帰れ」


「それは出来ないな」


ザビエクの目は、少女ではなく、俺だけを見ていた。

まるで問いかけるように。


――さあ、どうする?


その夜、俺は初めて気づいた。


敵は外にいるんじゃない。

俺自身の中にいる。


そして次に刃を向ける相手が、“誰”になるのかで――俺の未来は決まる。


「警備隊の所に連れてくよ。取り合って貰えないだろうが、ここにいるよりか幾分もマシだ」


「そうか、ならさっさと帰るぞ」


少女を連れて警備隊の所に置き事情を説明した後、少女の見えない所にある打撲傷を証拠に、警備隊は父親の所へ向かっていった。

そうして浜辺の家に帰る間、ただザビエクと俺は黙っていた。


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