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第2話貪食の代償

俺は青年の遺体を補食した後、血が固まっているウサギを手に取り他に発見者がいないか辺りを確認した。


「誰もいない……よな」


冷や汗が出るがこの程度どうってことない。

森を抜けて道に戻り最後に背後を確認すると家に向かって走って帰っていった。


ガチャ


家の玄関を開くと母が俺を心配して待っていたようで笑顔を向けると俺は片手に持っているウサギを見せた。


「う、ウサギ?」


「狩ってきたんだ。俺スキル、役に立つでしょ?」


俺のスキルは貪食、食せばその物質の特性を得ることができスキルを持つ人間を食せば弱くはなるがなんだって使える。

こんな異常なスキルを持っている俺は両親に悪心はないと証明したかったんだろう。

だが母の目は泳いでおり無理矢理笑顔を作り俺の目を見た。


「え、ええ!でもお洋服が汚れてるから洗濯に出しましょ?晩御飯の前にお風呂に行っておいで」


そう母は表面上では優しく接し俺は疑問に思いながらも脱衣所へ向かい風呂へ入る。


「母さんのあの感じ……」


俺は鑑定を受けた時に修道女からの目線を思い出した。

怯えているがその中には悲しみもある、こんな小さな子供があんなに恐ろしいスキルを持っているだなんて。

そんな目をしていた。

スキルを制御……いや、レベルアップというべきか?その為にあの青年も食べたのに。

そうして風呂に浸かってリラックスをしている時、脳にスキルの情報が入ってきた。

貪食の注意点は生物を食す時、同時に人格をも食してしまう。

そしてその人格は自分の人格に取り込まれ徐々に自分ではなくなっていく。


「うぷっ……!!!」


その情報を自覚した瞬間、口から唾液が溢れ俺は咄嗟に風呂にゲロをぶち撒けないように上半身だけ外側へ出し口から吐瀉物を吐き出した。

吐瀉物は排水口へ、吐き終わると俺は樽を使って風呂の水を汲み流れていないゲロを流す。

あの時、青年を食べてしまった理由はスキルの解析の為でもなんでもない。

動物が人間の死体を食うように、過去に食べた動物が本能で食欲を満たす為にあの青年を食べた。


「不安がっちゃダメだ、不安がっちゃダメだ!」


「落ち着け、落ち着け……」


ゆっくりと深呼吸をし、風呂から上がり風のスキルで体を一瞬で乾かすと食卓へ向かった。

すると台所で調理器具を洗っている母が俺を話しかける。


「ねえカイ?このウサギ……」


「捨てに行く」


「え、ああ、そう?」


ウサギを掴み玄関を出て埋めるには丁度いい場所を探す。


「あそこにするか」


貪食スキルで爪を尖った鋭い鉄の爪へと変えると、両手で木の下の土を掘り穴にウサギを入れ土をかけて埋葬した。

多分この時は青年に対してのせめてもの償いだと思いたかったんだろう。

後悔が胸を締めつけずっと罪悪感が頭に残る。

そしてあの時、青年に反抗的になった理由がわかった。

ウサギを仕留めた時、青年に見つかり自分は不安と焦りで貪食スキルが暴走してしまったのだ。


「もうしません、神様に誓って、絶対にしません」


土にいるウサギに言い俺は食欲が沸かないながらも家へと戻った。

食卓に着いたが当然食べる気はない。

そうしていると母は察したのか優しい顔をして皿を下げてくれた。

すると父は俺がウサギを小汚なく仕留めたのが気に障ったのか溜め息を吐いて言った


「カイ、初めての狩りは俺と一緒に行くべきだった。今度は黙って狩りなんかするんじゃない」


「はい」


「わかったならいい、それで突然だが、明日は市場に向かう」


「市場?なんで」


「そのスキルを人混みの中でも制御できるか試さないといけない」


「母さんとも話した、もし暴走しそうになったら俺と母さんがついてる」


「だから行こう?な?」


「市場……」


確かにこれからの人生で貪食スキルを扱うとなると人混みは避けれないだろう。

確かにいい経験だ、これでスキルが暴発しなかったら俺はもっと前向きに生きれるかもしれない。


「うん、行きたい!」


「そうか、ならちょっとは食って寝とけよ」


「はい!」


未来へと安心で食欲を取り戻した俺は下げた皿を自分の食卓へ戻し食べ始めた。

満腹になり俺は寝床につこうと自分の部屋へ戻った。

窓は木の板で封鎖されておらず夜空が見える。

自分なりに一歩ずつ進んでいこう、そしたらこのスキルを使って冒険者にでもなろうかな。

そんなことを思いながら俺は眠りにつき夢を見ていた。


「ライト、今から何処に行くんだ?」


「ちょっと動物観察に」


「本当に好きだな、気をつけて行ってこいよ」


「わかってるよ父さん」


青年とその父親が話している様子、青年が玄関を開けると光りが差し込み次の瞬間、空を飛んでいる生物へ、海を泳いでいる魚へ、次々へと場面が切り替わり肉を貪り喰っている場面へと移った



---翌日



「はあっ!はあっ!はあっ!」


全身汗だくになり呼吸が乱れる。

胃から消化物が込み上げるが吐き気を我慢して飲み込んだ。


「これって……」


すると嗅覚や聴覚が鋭くなり鳥の鳴き声がうるさく頭が割れそうになった。


「ッ!!!!」


しばらくして落ち着くと汗だくの服を着替えて前日、父が言っていた通りその準備をする為外出着に着替えた。

一階へと降りると両親はもう支度を済ませていてあとは俺だけのようだった。


「母さん、支度は?」


「お化粧も済ませたしお金も準備した、カイはもう準備できた?」


「う、うん」


「あっ、でも朝食食べてないでしょ?」


「馬車の中で食べたらいいだろ?なあカイ」


「そうだね」


「じゃあ混んじゃう前に行きましょ」


そうして身支度を済ませると馬車に乗り父は手綱で馬を叩き市場へと走らせていった。


「カイ、緊張するか?」


父が運転席から言い俺は答える。


「少しだけね、でも楽しみ」


「そりゃよかった」


すると道の通りすがりに見たこともない馬に乗っている兵士達が村へと向かっているのを見て思わず母が言った。


「兵隊さんかしら?村になにかあったのかしら?」


「どうせ取り立てで来ただけだろ、そんなの気にするな」


「ならいいけど」


そして時間は数時間前の朝がまだ完全に昇っていない時刻、青年の父親は一夜を越しても帰ってこない息子を心配して森へと入っていった。


「おーい!ライトー?返事をしろー!」


父親は森を走り息を荒くしながらも必死に辺りを見渡す。


「一体何処に行ったんだ?」


緊急事態だと推測した父親はまず記録をつけている聖職者がいる教会へと向かおうとした瞬間、なにかを踏みつけた。

そこにあったのは青年が着ていた服に血痕の跡がついてある石。


「ゆ、許さねぇ……!」


父親は町へと馬で走り出し兵隊と共に馬で現場へ向かって馬車と通りすがると現場の森へと案内した。


「これだ!息子は拐われたのか!?」


1人の兵士が馬から降り目を凝らした。

瞳孔は青く光り大きくなったり小さくなったり変化を続ける。


「探偵スキルか!」


「少し静かに」


兵士は血痕がある石を見る。

表面には微かに擦りむいてできた頭皮とその際に砕けた頭蓋骨の破片が残っており、兵士は目を瞑った。


「一体なにを?」


青年の父親が兵士に聞くと別の兵士が答えた。


「探偵スキルの一つだ、微かな証拠を頼りに魔力の流れを掴み取りその時の再現を思い浮かばせる」


「もうこれ以上は言えねぇ、スキルの個人漏洩防止の為だ」


「わ、わかりました」


そうしてしばらくすると兵士は目を開き転々と別の場所へと移動した。

そこには石とそれでなにかに投げつけ気絶させた場所、押して木にぶつけさせた痕跡、そしてこの場から少し離れた場所にある白い毛が混じった血痕の側にある血のついた石。


「な、なにかわかったのか?」


「ええ、これはかなりマズイ事態ですよ」


「ラーユ、君はまずザイトライヒ様に連絡を」


「ザイトライヒ様に?そこまでしなくても………」


「禁忌スキルの可能性があります。直ちに連絡を」


兵士がそう言うと他の兵士達は顔を見合せ、あまりの恐怖に目が泳いだり手が落ち着かない者達が出てきた。


「は、はい!」


「他の者達は増援とこの村の人々に聞き込み、そして……意味はないと思いますが被害者の捜索してください」


『はい!!』


1人の兵士以外全員は馬に乗って命令に従いこの場に残った兵士は枯れ葉を見つめた。


「い、意味がない……?」


「あ、あの!息子は一体どうなったんですか!?動物観察好きですが……夢中で何処かへ行ったりしない年齢なんです!」


父親が聞くと兵士血痕がついた石の付近に立つとハッと息を吐いて落ち着いて説明し始めた。


「加害者は息子さんと遭遇する前、少し遠くにいるウサギに石を投げつけ狩りをした」


「それも頭に、"確実"に」


「息子さんはそれを見て加害者に注意をし、恐らく攻撃をされる前に風のスキルで吹き飛ばし、加害者はあそこの木に衝突した」


「加害者は反撃し、石は息子さんの頭へ、気絶し倒れた所に後頭部を打ちつけ死亡した」


「し、死んだ!?だったらこの引き裂かれた服は!?なんの為に!」


「スキルを獲得する為、加害者は息子さんを捕食した」


「加害者は禁忌スキル、"貪食"のスキル……でしょうね」


「な、なっ!だったら兵士さん……!」


「ザビエク・スカル、とお呼びください」


「サビエクさん!どうかお願いです!息子の仇を!!」


「それは私ではなくザイトライヒ様がしますよ」


「伝説の英雄がね」

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