第28話血に濡れた選択
目を開けると目の前にある机には酒瓶が数本置かれ、いつの間にかソファーで寝ているのに気が付いた。
「起きたか」
机の向こうにあるソファーに座っているのはザビエク。
「リリスは何処に行った」
「さあ?」
手の中に短剣を生成しようと身構えた瞬間、頬に冷たいグラスが当たった。
ビクンと体は驚き、思わず目が覚めた。
「り、リリス!」
「驚かせちゃった?ごめんね」
リリスは笑い俺の隣に座り、冷えた水を手渡した。
「昨日あんだけ飲んだんだから、ちゃんと飲んでよ?」
「ああ」
一通り水を飲むと前回の事は何もなかったかのようにザビエクは接してきた。
「昨日の事は気にするな」
クソ野郎。
ズズズッ
ポケットの中から何かが振動した。
「カールからの連絡だろう?」
ザビエクは表面上はただの会話だが、その言葉には嫌味のような不快なものを感じる。
それはまるで、無理矢理にでも出ろと言われてるようだった。
通信石を取り出すと、空中に青白く文字が浮かび上がった。
『準備は整ったか?ロセック区の連中を潰せ。一週間以内にな』
また人を殺さなくてはならない。
"あの日"からずっと悪人は死ぬべきだと考えてきた。
だが何故だ?なんで今となってこんな気持ちになる?
胸の奥が重く、今まで感じてこなかった"迷い"が初めて指先を冷えさせた。
ザビエクは微笑み、立ち上がると俺の肩を優しく叩いた。
「お前が決めた道なんだろ?最後まで付き合ってやるよ」
背筋がヒヤリと冷たくなり、同時にこうも思う。
どうしてか、あいつが笑う時だけ、世界が凍てつくような気がする。
ザビエクはキッチンへ行き、冷蔵庫から瓶に入ったビールを取り出すと栓抜きで開けて飲み始めた。
「今日は休みを取った。君の準備が出来たら私の家に来い」
「今日の夜は存分に楽しもう。カイ」
俺の家から出て行くとこの場には俺とリリスだけが残った。
「今の……カールと協力する条件の依頼だよね?まさかだとは思うけど、ザビエクとやるの?」
「そうだ」
「あたしと一緒にやろ?アイツはちょっと……ダメだよ」
リリスは珍しく俺に心配をかけている。
必死に言うその表情は本当に心配をしている。だが、今回の件にリリスを関わらせるわけにはいかない。
「リリスとはダメだ。人殺しなんて出来ないだろ?」
「……カイが傷つくの、嫌なの」
「結局敵は悪人だ。気にすることなんてない」
そんな事を言っているが内心こう思う。
ザビエク――あいつと俺は、本当に"同類"なんじゃないのか?
「ねえカイ……」
俺はリリスの会話を遮るように言った。
「すまないが、もうザビエクと合流することにするよ」
俺がソファーから立ち上がるとリリスは俺の手首を掴んだ。
「せめて朝食は食べてからね」
「……そうだな」
リリスはキッチンに立ち、慣れた手付きでパンケーキを4枚焼くと2枚ずつ分けて、皿に乗せたパンケーキを俺の前に置いた。
食べる間、ただ沈黙が続く。
気まずくもない丁度よい静けさ、そんな空気にリリスは口を開いた。
「ザビエク1人に任せるのはどう?あいつ1人でもいけそうでしょ?」
「ダメだ。もしカールが何かしらの方法で見ているなら2度と協力してもらえなくなる」
「本当にやるんだね」
「そのつもりだ」
「じゃあこれだけは約束して」
リリスは恥ずかしそうに言うが決してそれは嘘ではないことがわかる。
「死なないで」
「もちろん」
そうして朝食を済ませ、水を一口飲むと席を立ち、玄関に向かい扉に手を掛けた。
「あたし、逃げずに待ってるから」
なんて返そうかわからなかった。
ただ俺は頷き返し、ザビエクの元へ向かった。
ヤツの家に向かうと庭小屋に何か楽しそうに見ている。
「なにしてんだ」
ザビエクは手招きをしてなにも言わない。
俺は腰ぐらいのフェンスを跨ぎ、ザビエクの隣にやって来た。
「これがなんだよ」
庭小屋の中には様々な武器があった。
湾曲した剣や東洋の刀、色々な武器が飾っている。
こいつは自分の事を話した時、まるで被害者のような言いぶりをしていたが……
ザビエクは武器を宝石のように見ており、プレゼントを貰った子供のように目を輝かせている。
もうただ単に殺しが好きな変質者だな。
「何か言ったか?」
「いや、さっさとロセック区に行ってちゃちゃっと片付けよう」
「そうだな」
後に通信石で写し出された組織の詳細はロセック区の魚ビジネスらしい。
自称魚ビジネスは裏では怪しい草やクスリを流出させていて、それがカールの事業に影響しているんだと。
俺達2人は詳細を聞くと、早速下見兼偵察に向かった。
目立たない海岸。
海に上に建つ家の横にはボートか2台浮かび、クロスボウや剣、槍を持った警備が立っていた。
そして家の中でパーティーでもしているのか騒がしく、窓からカラフルな光が見えていた。
「いつまで偵察してんだよ。もう夜だぞ」
「まだもう少し待て」
ザビエクは質素なパンにジャムを塗り、双眼鏡で食べながらひたすら家や監視を見ている。
「行くか」
「やっとかよ」
腰や背中には必要もないであろう武器を下げていて、到底理解ができない。
奴らの家を見渡せる程見晴らしのいい山から下山し、ザビエクは武器を構えた。
腰から引き抜いたのは腕ぐらいの長さの武器。
刃は長くかなり扱いやすそうな武器、そして最初に動き出したのはザビエクだった。
ザビエクが投げた武器は回転しながら綺麗に脳天に突き刺さる。
するとすぐ異変に気付いたのか、鐘が鳴り敵襲の合図が鳴り響いた。
「なにやってんだよ!」
「こっちの方が手っ取り早い」
周りの警備を無視して家の中に突撃すると、敵はまだ準備をしている最中だった。
ザビエクは背中に携えた長い斧を頭上に上げ、天井を切り裂きながら振り下ろした。
バズッ!!!!
斧は男の頭から股まで切り裂き、真っ二つになった体から臓物が地面に崩れ、連中は唖然とする。
「あいつマジかよ……」
そんなザビエクを見ていると男が横から鉈を振り下ろし、俺は間一髪で避けた。
「死ねぇ!!」
両手に短剣を生成し、左手に握る短剣で鉈を受け止め、勢いを落とさず右手の短剣で首を深く突き刺した。
ブシャッ!
天井や地面に大量の血飛沫が飛ぶ。
俺は無意識に考える暇もなく、体が勝手に動いていた。
また1人を殺してしまった。俺は本当にあいつと変わらない狂人なのか?
背後から襲いかかる男の腹に短剣を突き刺し、顎を押し上げ、天井に下がったカラフルに光るライトに頭をぶつけた。
その衝撃でライトが壊れたのか家の中はチカチカと暗黒に包まれ、辺りが照らされたと思えば赤、紫、ピンク、連中達はパニックになっていた。
連中はかなりの大人数であっという間に多勢に無勢、だが、最悪な視界環境ともう1人の仲間がいるおかげで、状況は変わらず逆に押し返していた。
「オラッ!!!」
大男はハンマーを振るい、俺は少し体を反らして避け、短剣を大男の頭に突き刺す。
ザビエクは男が剣を振り下ろそうとした瞬間、体当たりをして壁際まで追い詰め、左腕を使い男の右腕と首を抑え、短剣で何度も腹を突き刺し、最後は心臓に深く突き刺した。
『ウオォォオ!!!!』
攻撃を避けながら壁を走り、男が手に握っていたクロスボウを手に取ると矢を生成して隙もなく連続して放った。
そして10分にも渡る激闘の末、血塗れで血だまりの家の中には2人の男が立っていた。
俺は全身肉片と血に濡れ、そこにはただ人を殺してしまった後悔があった。




