第27話狂気の兄弟
俺はしばらくカールを見つめていた。
「座れ。立たれると視界のバランスが崩れる」
「いやいい、俺の質問に答えるだけでいいからな」
「傲慢だな。いいだろう、俺の前にしてその高圧な態度…気に入った。話せ」
その時。俺は計画実行前のザビエクとの会話を思い出した。
リビングの外の廊下にて、リリスを抜いて話していた。
「カールは良くも悪くも、扱いやすい人物だ。だが選択を間違えるなよ、死ぬならカールを殺してから死ぬんだ」
カールは俺が話すのを待ち、指輪を眺めている。
「力帝について話してほしい。ヤツの居場所を聞きたい」
「お前が力帝の手先ではない理由は?」
「そんなの……」
「嘘ならやめとけよ?俺は力帝と手を組んでた仲だったからな」
カールは一気に雰囲気が変わり、変態からボスへと風格が変わった。
俺が力帝の手先ではない理由……
「毒帝殺害の犯人は俺だ」
アルダの事は察されず伏せておきたい。
さあ、どう出る?カール。
「ヤツを殺せる者はいない。きっと偉い奴らは死因がダサいから捏造しただけだ」
「俺が"貪食者"だったら?」
「なに?」
「食いついたな」
カールはしばらく悩み、俺にこう言った。
「俺は力帝と対立してんだ。いつか殺そうと思ってたが、こうも簡単に協力者が現れるとはな」
「対立?なぜ?」
カールは深く息を吐き、指にしていた指輪を外してテーブルに置いた。
「……力帝はな、昔の俺の"仲間"だった。利害で繋がってただけの関係だが――まあ悪くない相棒だったよ」
「だが、ある日突然だ。俺の縄張り、客、取引先……全部奪いにきた」
「理由は簡単だ。『世界を統べる王の為に不要な者は排除する』ってな」
カールの笑みは、怒りを抑え込んだものへと変わる。
「俺は力帝を裏から支えてやってたんだぜ?金を回し、人間を集め、武器を流し、取引の通し方まで、そして全部利用し終えた瞬間、俺の首を取りに来やがった」
「だから対立した。……あのくそ野郎は最初から殺しておくべきだったのさ」
カールは俺を見据え、ニヤリと口角を上げた。
「だから俺は“殺す側”に回った。お前が本当に"貪食者"で、力帝を殺す気があるなら……利害は一致する」
「協力してやってもいいぞ」
「タダじゃないんだろ」
「金は要らない。余る程あるしな、だから信頼の証として任務を遂行してもらいたい」
「この国の西側、ロセック区にいるある組織を皆殺しにしてもらいたい」
そう言うと"通信石"と呼ばれる魔道具を渡された。
「理由は?」
「簡単、事業に邪魔だからだ」
「俺は殺し屋じゃないがそれで"本当に"協力してもらえるんだろ?ならお安い御用だ」
「よし、なら皆殺しにした次第、また来てくれ。黒服達には伝えておく」
「カール。もし裏切るのなら力帝の前にお前を殺す事になるぞ」
「この業界に何年もいるんだ、そんなこと分かってるよ」
カールは優しく微笑むがその奥には闇が隠れている。
「さあ皆、戻ってきておいで」
カールが呼び掛けた瞬間、木目の重い扉から女達が入ってきた。
「またおいで?坊や」
「カール様が言っていた事は正しいのよ?あなたは女の子なの」
「カール様は優しかったでしょう?」
女達はカールに依存するかのようにそんな言葉を放つ。
俺はその言葉を無視しながら進み、VIPルームから立ち去った。
彼女達が去ったあとでも香水の匂いは漂っていた。
だが、どこか妙だった。
俺は自分の鼻がおかしくなったのかと思い、思いっきり何度も呼吸をした。
自分の鼻を疑ったぞ。さっきの香り……明らかに男だったな?
そうして黒服から変な目で見られながらもリリスと合流し、ナイトクラブから出て行った。
帰ってきたのは俺の家。リリスは速攻ソファーに体を投げ、一瞬で眠りに着いた。
時計を見ると時間は10時。カールとの話は翌朝にでも話そうと休憩がてら冷蔵庫を開けた。
「魔力万歳だな」
「そうだな」
独り言を喋った瞬間、気配もなく背後からザビエクの声が聞こえた。
薬が染み込まされた布を口と鼻に当てられ、俺は一瞬で眠りに落ちた。
目を覚ますと肌を傷つけるような寒い閉鎖空間にいた。
ただ、石でできた空間に閉じ込められている事と、鎖が皮膚に食い込み、縛られ椅子に座っている事だけわかる。
浜辺でリリスと帰っていたのを覚えてる。
まさか、その道中に襲われたのか?
「おい!返事しろ!」
「声を荒げるな、カイ」
ザビエクが目の前の暗闇から現れる。
その瞬間思い出す。こいつが俺に何をしたのかを。
「カイ、どうやらカールと取引したようだな」
「カールと組むのはよせ、糞溜めの世界に入ることになる」
「あいつと組めばザイトライヒの殺すのが速くなる」
「力帝の勢力を利用しろ」
「毒帝がああだったんだ。力帝も狂ってる」
「"貪食者"としての自覚を持て、狂っている同士は気が合うぞ」
「なわけないだろ!」
「私とお前がそうだ!!」
ザビエクは俺の両頬を両手で掴み、右手の人差し指で額を突いた。
「人間の倫理観を捨てろ。俺とお前は呪われた存在、それは決して消えはしない」
「だとしても俺はカールと協力する」
「そうか……それなら明日、カールが出した任務に同行する」
「好きにしろよ。わかったならさっさと解放しろ」
ザビエクは鎖に手をかざし、鎖は手の中に入るように消えて行った。
解放された瞬間、背筋に冷たい汗が流れた。
ザビエクは本気で俺を"同類"にしようとしていた。
「本当にアルダやリリスで気が軽くなったみたいだな、カイ」
"アルダ"
一瞬にして心臓が跳ねた。
その名を、こいつの口から聞くことになるとは思わなかった。
俺は即座に後ろを振り向き、ザビエクを壁に叩きつけた。
喉を腕で押し潰すように締め上げる。
「俺を調べたな!?」
「お前はそう生きるべきじゃない…私と同じ"側"に来い……!」
「2度とアルダの事を捜索するな!これが最後だぞ」
俺はザビエクを離し、視覚を変化させ、出口を見つけた。
この地下室から抜け出す終始、ずっとザビエクの笑い声が耳に響いていた。
地下室から上がるとここはザビエクの家だった。
「くそッ!!」
暴言を吐きながら隣の家へ向かい、中に入ってリビングの食卓の椅子に座り込む。
ソファーに目をやるがそこにリリスはいない。
「リリス?」
「ニャ?」
リリスはヒョイとキッチンから顔を出した。
「お前…何してんだよ」
キッチンに隠れるように屈んで果物を食べており、猫のように握り拳で自分の頬を掻いていた。
「お腹空いてたからちょっとつまみ食いしてた。もしかして食べたかった?」
「いいや。それにしても逃げないんだな」
「なにが?」
「スキルが使えるように体が回復したのに、折角の機会だから逃げろよ」
「なあに意味わからない事言っちゃってんの?あたしの居場所はもうここって決まったんだから」
「刑務所暮らしはもう嫌なの」
余った果物を俺に投げ渡し、ちょうど俺の口の中に入った。
「嫌なことでもあった?」
「……いや、特に」
「あたし、前に自分の過去の話したんだから、次はカイが話して?そっちの方が楽になるでしょ?」
「あまり話したくない過去だが、リリスもそうだったんだろ?仕方ないから話してやるよ」
俺はリリスが逃げていない事。リリスがここを居場所だと言ってくれた事で、なんだか救われた気がした。
ザビエクと俺は同じじゃない。
胸の奥に溜まっていた冷たい塊が、少しだけ溶けた気がした。




