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転生スキル『貪食』  作者: とまてるの
第三章逃亡者の名
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第27話狂気の兄弟

俺はしばらくカールを見つめていた。


「座れ。立たれると視界のバランスが崩れる」


「いやいい、俺の質問に答えるだけでいいからな」


「傲慢だな。いいだろう、俺の前にしてその高圧な態度…気に入った。話せ」


その時。俺は計画実行前のザビエクとの会話を思い出した。

リビングの外の廊下にて、リリスを抜いて話していた。


「カールは良くも悪くも、扱いやすい人物だ。だが選択を間違えるなよ、死ぬならカールを殺してから死ぬんだ」


カールは俺が話すのを待ち、指輪を眺めている。


「力帝について話してほしい。ヤツの居場所を聞きたい」


「お前が力帝の手先ではない理由は?」


「そんなの……」


「嘘ならやめとけよ?俺は力帝と手を組んでた仲だったからな」


カールは一気に雰囲気が変わり、変態からボスへと風格が変わった。


俺が力帝の手先ではない理由……


「毒帝殺害の犯人は俺だ」


アルダの事は察されず伏せておきたい。

さあ、どう出る?カール。


「ヤツを殺せる者はいない。きっと偉い奴らは死因がダサいから捏造しただけだ」


「俺が"貪食者"だったら?」


「なに?」


「食いついたな」


カールはしばらく悩み、俺にこう言った。


「俺は力帝と対立してんだ。いつか殺そうと思ってたが、こうも簡単に協力者が現れるとはな」


「対立?なぜ?」


カールは深く息を吐き、指にしていた指輪を外してテーブルに置いた。


「……力帝はな、昔の俺の"仲間"だった。利害で繋がってただけの関係だが――まあ悪くない相棒だったよ」


「だが、ある日突然だ。俺の縄張り、客、取引先……全部奪いにきた」


「理由は簡単だ。『世界を統べる王の為に不要な者は排除する』ってな」


カールの笑みは、怒りを抑え込んだものへと変わる。


「俺は力帝を裏から支えてやってたんだぜ?金を回し、人間を集め、武器を流し、取引の通し方まで、そして全部利用し終えた瞬間、俺の首を取りに来やがった」


「だから対立した。……あのくそ野郎は最初から殺しておくべきだったのさ」


カールは俺を見据え、ニヤリと口角を上げた。


「だから俺は“殺す側”に回った。お前が本当に"貪食者"で、力帝を殺す気があるなら……利害は一致する」


「協力してやってもいいぞ」


「タダじゃないんだろ」


「金は要らない。余る程あるしな、だから信頼の証として任務を遂行してもらいたい」


「この国の西側、ロセック区にいるある組織を皆殺しにしてもらいたい」


そう言うと"通信石"と呼ばれる魔道具を渡された。


「理由は?」


「簡単、事業に邪魔だからだ」


「俺は殺し屋じゃないがそれで"本当に"協力してもらえるんだろ?ならお安い御用だ」


「よし、なら皆殺しにした次第、また来てくれ。黒服達には伝えておく」


「カール。もし裏切るのなら力帝の前にお前を殺す事になるぞ」


「この業界に何年もいるんだ、そんなこと分かってるよ」


カールは優しく微笑むがその奥には闇が隠れている。


「さあ皆、戻ってきておいで」


カールが呼び掛けた瞬間、木目の重い扉から女達が入ってきた。


「またおいで?坊や」


「カール様が言っていた事は正しいのよ?あなたは女の子なの」


「カール様は優しかったでしょう?」


女達はカールに依存するかのようにそんな言葉を放つ。

俺はその言葉を無視しながら進み、VIPルームから立ち去った。

彼女達が去ったあとでも香水の匂いは漂っていた。

だが、どこか妙だった。

俺は自分の鼻がおかしくなったのかと思い、思いっきり何度も呼吸をした。


自分の鼻を疑ったぞ。さっきの香り……明らかに男だったな?


そうして黒服から変な目で見られながらもリリスと合流し、ナイトクラブから出て行った。


帰ってきたのは俺の家。リリスは速攻ソファーに体を投げ、一瞬で眠りに着いた。

時計を見ると時間は10時。カールとの話は翌朝にでも話そうと休憩がてら冷蔵庫を開けた。


「魔力万歳だな」


「そうだな」


独り言を喋った瞬間、気配もなく背後からザビエクの声が聞こえた。

薬が染み込まされた布を口と鼻に当てられ、俺は一瞬で眠りに落ちた。


目を覚ますと肌を傷つけるような寒い閉鎖空間にいた。

ただ、石でできた空間に閉じ込められている事と、鎖が皮膚に食い込み、縛られ椅子に座っている事だけわかる。


浜辺でリリスと帰っていたのを覚えてる。

まさか、その道中に襲われたのか?


「おい!返事しろ!」


「声を荒げるな、カイ」


ザビエクが目の前の暗闇から現れる。

その瞬間思い出す。こいつが俺に何をしたのかを。


「カイ、どうやらカールと取引したようだな」


「カールと組むのはよせ、糞溜めの世界に入ることになる」


「あいつと組めばザイトライヒの殺すのが速くなる」


「力帝の勢力を利用しろ」


「毒帝がああだったんだ。力帝も狂ってる」


「"貪食者"としての自覚を持て、狂っている同士は気が合うぞ」


「なわけないだろ!」


「私とお前がそうだ!!」


ザビエクは俺の両頬を両手で掴み、右手の人差し指で額を突いた。


「人間の倫理観を捨てろ。俺とお前は呪われた存在、それは決して消えはしない」


「だとしても俺はカールと協力する」


「そうか……それなら明日、カールが出した任務に同行する」


「好きにしろよ。わかったならさっさと解放しろ」


ザビエクは鎖に手をかざし、鎖は手の中に入るように消えて行った。

解放された瞬間、背筋に冷たい汗が流れた。

ザビエクは本気で俺を"同類"にしようとしていた。


「本当にアルダやリリスで気が軽くなったみたいだな、カイ」


"アルダ"

一瞬にして心臓が跳ねた。

その名を、こいつの口から聞くことになるとは思わなかった。


俺は即座に後ろを振り向き、ザビエクを壁に叩きつけた。

喉を腕で押し潰すように締め上げる。


「俺を調べたな!?」


「お前はそう生きるべきじゃない…私と同じ"側"に来い……!」


「2度とアルダの事を捜索するな!これが最後だぞ」


俺はザビエクを離し、視覚を変化させ、出口を見つけた。

この地下室から抜け出す終始、ずっとザビエクの笑い声が耳に響いていた。

地下室から上がるとここはザビエクの家だった。


「くそッ!!」


暴言を吐きながら隣の家へ向かい、中に入ってリビングの食卓の椅子に座り込む。

ソファーに目をやるがそこにリリスはいない。


「リリス?」


「ニャ?」


リリスはヒョイとキッチンから顔を出した。


「お前…何してんだよ」


キッチンに隠れるように屈んで果物を食べており、猫のように握り拳で自分の頬を掻いていた。


「お腹空いてたからちょっとつまみ食いしてた。もしかして食べたかった?」


「いいや。それにしても逃げないんだな」


「なにが?」


「スキルが使えるように体が回復したのに、折角の機会だから逃げろよ」


「なあに意味わからない事言っちゃってんの?あたしの居場所はもうここって決まったんだから」


「刑務所暮らしはもう嫌なの」


余った果物を俺に投げ渡し、ちょうど俺の口の中に入った。


「嫌なことでもあった?」


「……いや、特に」


「あたし、前に自分の過去の話したんだから、次はカイが話して?そっちの方が楽になるでしょ?」


「あまり話したくない過去だが、リリスもそうだったんだろ?仕方ないから話してやるよ」


俺はリリスが逃げていない事。リリスがここを居場所だと言ってくれた事で、なんだか救われた気がした。

ザビエクと俺は同じじゃない。

胸の奥に溜まっていた冷たい塊が、少しだけ溶けた気がした。

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