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転生スキル『貪食』  作者: とまてるの
第三章逃亡者の名
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第25話守るか、壊すか

開き切ったカーテンから朝日が差し込み、リリスは不機嫌そうに寝転がっていた。

その両手には、逃げられないように手錠をかけられている。


ザビエク曰く、彼女は昨日の無茶で今日1日はまともにスキルが使えないらしい。

まあでも油断は出来ない。


広いキッチンから適当な食材を選び二人分の料理を作って、モフモフのソファーの前のテーブルに置いた。


「こんなの食べるって本気で思ってるの?」


「腹、空いてないのか?」


「うん」


変化させた耳でどう聞いたって胃も、腸の中には何も動いてないぞ、嘘つき。

でも無理矢理食わせるのは酷いよな……


「毒味してやろうか?」


リリスの前に置いていた料理の肉をフォークで突き刺し、目の前で食べてしっかりと飲み込んだ。


「スープもか?手をつけた残飯がそんなに好きか?」


「うるさい」


リリスはフォークを掴み野菜を刺して、恐る恐る口の中に放り込んだ。


獣人の舌は多分鋭いだろう、何も入ってないとわかってくれるはずだ。


「……あんた、あいつと同類と思ってた」


「あいつは変人だ」


「否定になってないから」


逃げる気配はない。

少なくとも今は……


少しの間、咀嚼の音だけが聞こえ、気まずい雰囲気が続いた。


「ねぇ」


するとリリスが自分から口を開いた。


「あいつとは長いの?」


「いや……といえば嘘になるか。俺を小さい時から知ってるヤツだ。俺は全くもって知らないがな」


「それで?」


「2日ぐらいの仲だ」


「……それであんだけ信用してるだなんて」


「共通点が多い」


「ふ~ん」


リリスは恐る恐る食材を運び、俺を監視しながら食べ続ける。

そうして完食し、リリスはゆっくりと口を開いた。


「あたしの服ボロボロだし、トイレにも行きたいんだけど?」


「逃げないなら手錠を外してやる」


「逃げませーん。てか、あたしが逃げても追いつけないでしょ」


「変人がきっとお前を殺すぞ」


「……かもね」


手錠を外すと、リリスは一瞬目を伏せ、次の瞬間作り笑いを浮かべた。


「じゃあトイレ行くから着いてこないで」


「はいはい」


リリスはトイレに向かい、トイレから離れた廊下で俺は立ちながら待つ。


「終わったか」


「耳塞いどいて」


「………」


少ししてまた声をかけた。


「おい」


返事はない。聴覚を変化させると窓が軋む音が聞こえ、その意味を理解するより先に、背筋が凍った。


「あの女!」


俺は廊下を走り玄関を開けて急いで家から出た。


あの女!トイレの窓から逃げやがった!


庭を抜けた少し先の浜辺には彼女が走っており、俺は声を出して跡を追った。


「リリス!おい、リリス!!」


「バーカ!アホ間抜け!まんまと騙されるなんて間抜け過ぎ!」


一瞬だけリリスの声が裏返る。

鉄の棒を生成し、リリスの足元に向けて投げ放った。

棒は回転しながらリリスの足元に巻き付き、逃げ場を失った。

俺はそこに覆い被さるように行く手を塞ぐ。


「大胆ー」


「逃げるからだろ」


俺は彼女の目を見つめる。

青く宝石のように輝いている。


「ねえ、早く退いて?」


「ああ」


咄嗟に立ち上がり、リリスは腰の砂を叩き払って海を見始めた。


「猫って水が怖いだろ」


「あたしはちっとも?」


リリスがどんな手を使って逃げるかわからない。

しばらく観察するか。


俺はリリスを見つめ、その違和感にリリスは思わず手を叩いて注目を引いた。


「お馬鹿さん?ちょっとだけ話さない?」


リリスはその場に座り込み、俺は並んで座った。

リリスは戻ったり押したりしている波を見ながら言った。


「あたしね、昔は普通の子だったの」


「でも、五帝達が来てさ。捕まって、売られて、逃げて、気付いたら"泥棒猫"」


「速くなきゃ、逃げられなかったの」


リリスは俺の顔を見て、作り笑いじゃない本当の笑顔を見せた。


「でも、今回は捕まっても嫌じゃなかった。怖かったけど、今は怖くない」


「どうせ嘘だろ?」


「ニャ!バレた?」


俺はボロボロのリリスの服を見て思い出す。


「服を買いたいって言ってたよな」


「あー、あれ逃げる口実」


「だとしても本音だろ?買いに行くか?」


「……待ってそれ、デートの誘いのつもり?」


「違うって」


「あんた本当にバカだよ」


リリスは立ち上がり俺の後ろを回った。


「お風呂あるでしょ?汗かいたし、水浴びてくる」


「家で待ってるね」


俺は返事を返せず、リリスは後ろ姿を見せたまま歩いて家に戻って行った。


なんだか変な気分だ。

デートとかいうからだ。


「惚れたか?」


「うおっ」


突如ザビエクが足音も立てずに背後から話しかけてきた。


「飲めよ」


ビール瓶を投げ渡し、受け取るとザビエクは俺の隣に座った。

ビールの栓を抜く音が小さく響き、波と音と風の音がやけに大きく聞こえた。


「俺が惚れたって?冗談言うなよ」


そう答えたつもりだったが、俺の声は妙に乾いている。

ザビエクは口元だけ笑う。


「甘いな」


「酒がか?」


「いや、判断がだ。君はいつも感情を先に置く」


「どうして?」


「吐いた時に殺して、すぐに私とお前で向かえばよかったのに、君はわざわざ生かした」


「だからってあのやり方は――」


「間違ってるか?」


言葉を遮り、ザビエクは静かに言った。


「俺が捕まえた。お前が吐かせた。結果は同じだろ?」


俺はビールを一口飲み、目をそらした。


「敵だぞ」


「今だけな」


ザビエクは海の先を見つめながら続けた。


「大抵、敵味方の境界は"感情"で崩れる」


少しの沈黙が続き、ザビエクは言う。


「彼女には逃げ癖がある。だが、同時に"居場所"も欲しがるタイプだ」


「俺がその"居場所"?」


ザビエクは立ち上がり、ついた砂を払った。


「守るか、壊すか。どちらを選んでも、私にとっては"正解"だ」


「本当はどっちを望んでる」


「もちろん――一番面白くなる方さ」


そう言い残し、風の中に消えるように帰っていった。

俺は手の中のビールを見下ろす。


守る……ね。


しばらくして俺はリリスを連れて城下町の市場へとやって来た。


市場に来るのは"あの時"ぶりだ。


「おすすめの場所とかあるの?」


「ここに来て数日しか経ってない」


「あんな家持ってるのに?変なの」


「ここら辺回って探せばいいだろ?それみたいな服はいくらでもある」


「そうかもしれないけど……」


それから服屋を片っ端から周りリリスが満足するまで周り続け、気付けば時間は夕方となっていた。


「服も買ってくれたのにご馳走もさせてくれてありがとうね」


「気にするな」


そして家に帰る向かう道に向かう途中、石畳が広がる町の広場へと出た。


「ねえ、なんか変な臭いしない?」


嗅覚を変化させ辺りを嗅いだ。


「確かにそうだな」


この臭いは……腐敗臭か。屋台の肉でも腐ったのか?


「うわぁ…見てよあれ」


リリスが指を差しその方向を見ると、そこには沢山の人だかりができている。

その上を見るとこの国家の国旗が掲げられている高い棒の先端に、頭だけがない女の人間の死体が棒に腸が綺麗に巻かれたまま風で揺られていて、女性は腹を突き破られ死んでいた。


「食後に嫌なもの見たな…さっさと帰ってザビエクに明日の作戦の話でも聞こう」


「気持ち悪くなってきたかも……」


「なら見てないで帰るぞ」


俺は少し不安がっているリリスの手を引っ張って帰り道に向かい、家へと帰っていった。

その様子を廃れた建物の中で、ザビエクは口角を上げて血塗れの腕をタオルで拭いていた。

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