第24話優しい狂気
リリスは爪を剥き出し、超高速で音が遅れて聞こえる程速さで俺を切り裂いた。
盾が弾き飛ばされる程の威力!油断してられないな。
「硬ッ!強化系のスキル!?」
切り裂かれた箇所はそんなに深くはなく、紙で切ったみたいな傷だった。
「どうだろうな」
再度盾と槍を構え、リリスが動くのを待つ。
「ワンちゃんみたいに待つ事しかできないの?弱っちーヤツ」
リリスは残像を残して姿を消した。
全くわからなかった。一体何処に行った?
聴覚を変化して周囲を警戒する。
だが音は聞こえない。鉄の壁を破られたわけでもない……
辺りを見渡しても何も見えない。
「"見えないぐらい速いんだよ"」
背後から二重に聞こえる声が聞こえ、咄嗟に盾で振り払った。
「残念~、当たらないよ」
ドスッ!!!!
顔に拳がめり込みあまりの衝撃に倒れそうになった。
痛さは弱々しくて可愛いが……衝撃はヴェイル以上だ!!
なんとかして捕まえねぇと!
ゴンッ!!!
ドスンッ!!!!
ドンッ!!
ズドッ!!!!!!
肋、腹、鳩尾、的確に弱点を狙ってくる。
まるで鋼鉄の塊に衝突したみたいだ……!!
全身に激痛と衝撃が走り意識が薄れ、力もあまり入らなくなってくる。
「"アンタ随分耐えるね!"」
ゴギッ!!!
右腕の関節が変な方向へ曲がり、腕の骨が肉を突き破って外へと露出した。
ここままじゃ死ぬ…!!
腕の感覚がなくなり、残るは左腕と盾、衝撃でまともに動かない両足だけ。
リリスは決着がついたと確信し、動きを止めて俺の肩を叩いた。
「諦めて?もうダメだって」
優しく耳をくすぐるように言い、その場を立ち去ろうとした。
「おい」
「ん?」
リリスが振り返った瞬間、右腕から強烈な風を放ち、リリスは土埃を舞い上がらせながら
壁に激突し、風の威力で右腕は千切れた。
なに!?風を放った?魔道具じゃなかったし……一体どういう事!?
リリスが焦る中、俺は千切れた腕に再生の光がなり、腕は元通りになるとリリスは再び構えた。
今の再生で魔力を大幅に使った…もう強力な一撃は出せないな。
そして焦ったリリスはまたスキルを使い、超高速で動き始めた。
だがもう何回も見てきていた。リリスを捉えるのはそう難しくはなく、徐々に彼女が残像のように姿が見えてきた。
ゴゴゴッ!!
拳を突き出して飛び出してきた瞬間、リリスの攻撃を避け、腕を掴んだ。
「ニャ……!!?」
「動けば千切れるぞ、賭けるか?」
リリスがスキルを発動させた時。
胸の内側から無数のトゲが突き刺さったみたいな痛みが走り、リリスは呼吸を止めた。
その隙に俺は右拳を振るい、リリスの顔を殴って地面に叩きつけた。
「ちょ、タンマタンマ……!」
両手をハンマーのように振り下ろして、立ち上がろうとするリリスの背中を殴り、地面に衝突すると大きなヒビが入った。
リリスは背中を叩かれた影響で一時的に呼吸が出来ない。
俺は倒れたリリスの脚を掴んで宙吊りにした後、左腕の盾を変形させて鎖にしてリリスの脚に巻き付けた。
「何が目的…?自警団ならコウモリの格好でもしとけば……?」
「力帝について。お前は何か知ってるらしいな」
「そんなのが目的?知らない」
鼓動は速くなりほんの少しの汗が地面に落ちた。
「俺は法に属してない。お前をここで殺してもいいんだぞ」
「人なんてそう簡単に殺せるもんじゃない」
「自分の右腕を吹っ飛ばしたヤツだぞ?」
鎖を引っ張るとリリスの脚は鎖で圧迫され、千切れるような激しい痛みが襲った。
「わかったわかった!でもでも、あたしじゃなくてあたしの知り合い!」
「知り合い?」
鎖を徐々に弱めていくとリリスは淡々と話し始めた。
「王様だよ!力帝を知ってるのは王……」
今度は更に強く鎖を引っ張り、リリスの脚に紫色の鎖の跡が付き始める。
「名前は言えないけどナイトクラブのオーナーなの!そいつが知ってる!」
俺は腰から球状の魔道具を取り出しザビエクに連絡を取った。
「聞こえてたか?どうしたらいい」
少しするとノイズが走り、ザビエクが喋り始めた。
「とりあえずそいつを逃がさないように自宅に帰れ」
「わかった」
「ちょ、ちょっとなにする気?逃がしてくれるんじゃないの?」
生成した鎖を伸ばし続け、リリスをグルグル巻きに縛り付けて肩に担いだ。
「重っ」
「このッ……!」
そうして地下室から地上へ上がり、かなりの距離を移動してあの浜辺に辿り着いた。
時間は深夜。誰もおらず、辺りは真っ暗で街路灯だけが頼り。
「アンタ、さては金持ちお坊ちゃんの手下ね?獣人好きのお坊ちゃまの為に頑張りましたねー」
「あたしに変なことしようとしたら爪でズタズタにしてやる!」
しばらく聞き流していると突如閃いた表情をしてニヤつきながら大きく息を吸った。
「誰か助け……!!」
リリスの頭を叩いて落ち着かせ、しばらくして自宅へ辿り着いた。
玄関を開け、ぐったりしているリリスをソファーに寝かせ、目覚めること数時間。
あたし……疲れて寝てたの?
リリスはゆっくりと起き上がり辺りを見渡した。
霞んだ目でもわかる。ここは自分の家じゃない。
そして一瞬であの夜の記憶が戻り、リリスはスキルを発動させた。
「落ち着け」
ザビエクはリリスの首に腕を回し、思いっきり首を絞めた。
「ッ……!ァ…!!」
「超スピードを持つ犯罪者の結果では、通常の人間より遥かに時間経過を遅く感じる。そしてスキルのものによるが大抵は心臓発作で死ぬ」
「安心していい。苦しみは長くは続かない。あと数分で終わる」
「スキルも使えないだろ?心臓が酷く痛むはずだ」
俺はザビエクの肩を強く掴んだ。
「やめろ」
ザビエクは素直に離し、リリスは喉を押さえて酷く咳き込んだ。
「お前変だぞ」
「ちょっとした脅しさ」
ザビエクはキッチンへと戻り、遠くから俺を見つめ始めた。
「お前が聞き出してみろ」
それを聞いて俺は咳き込むリリスの前に、腰を下げて目線を上げ、リリスが落ち着くのを待った。
「あ、あいつ、あたしの事殺す気だよ!」
軽く頷き質問をした。
「そうだな。それで、話の続きをしたい。ナイトクラブのオーナーは何処にいる?」
「そ、それを言えば解放してくれる?」
「仲間に加わるならな」
「ごめんだけど、もう埋め合わせがあってー」
リリスが嘘をついてふざけるとザビエクが背後から近づいた。
「黙っていればいずれ逃げられるとでも?
ザビエクはリビングの机にあった縄とキッチンから取り出した薬品を取り出した。
「ネクロリンとガスラットを混ぜたネクロトキシンと言う薬品だ」
ザビエクは説明をしながらリリスの脚を縄で縛り、注射を指で弾いて空気を抜き、針をリリスの肌に突き立てた。
「5、4、3」
「ど、どうせ打たないでしょ?あたししか頼れないんだから」
強気で言っているがその声は震えている。
そしてザビエクはリリスの言葉を聞き終わるとまたカウントを始めた。
「2、1」
ザビエクは太ももに注射器を突き刺した。
「ッ!!!」
リリスは声にもならない悲鳴をあげたが、注射器の中にある薬品はまだ容器に入ったままだった。
太ももの縄を解き注射器に手を当てた。
「話す気になったか?それとも試してみるか?」
「……ここの浜辺から大体5キロ先のアマン区7の2にある。そこのナイトクラブ」
俺は注射器を抜き、ソファーの前のテーブルに置いた。
「物騒な事するな」
「君は吐かせるのが下手くそだ」
ザビエクは縄と注射器を持って廊下に出る扉の前に立つ。
「連絡が来るまで猫と仲を深めておけ、後日私から連絡する」
「本当は殺してもいい。でも―今日は"彼"が止めたから、君は生きていられる」
そうしてザビエクは微笑み、リビングから立ち去った。




