第23話逃げる白猫
シルクでできた肌触りの良いシーツが肌をくすぐる。
模様の描かれたカーテンの隙間から太陽の日の光が差し込み、閉じた瞼に当たるとスッキリと目覚めた。
いつもは悪夢を見る。
ずっとずっと、誰かから逃げ続ける夢。
だけど今日は見なかった。
俺は埃も一つなく、布が破れておらず、壊れた様子もないベッドから起き上がった。
寝室の扉を開けると開いた窓から涼しい潮風が流れ込んできた。
別の部屋に入ると完全にシャワーと同じ構図の道具があり、蛇口を捻ると冷たく泥水でもない温水が出てきた。
温水で全身を浴び、久々に体を清めてシャワー室から出ると、隣に干されてあるバスタオルがある。
手に取って全身を拭き、ハンが施した武装を外した服を着た。
おもしろいことにハンが作った服は一切汚れない。
破れたとしても、数日もすれば勝手に修復される優れ物だ。
1階に降りてリビングにある様々な家具を試してみる。
どれもこれも魔力が流れていて、現代の電力のようだった。
ポットに水を入れて沸騰させ、その間に探しておいた適当な茶葉を入れて飲んだ。
自分がこんなに安心している理由がわかった気がする。
悪夢を見なくなった理由も、きっと人間らしい家で眠ることができたからだろう。
そうだもんな、ずっと移動して逃げてきた。
「久しぶりだな……こんなに安心できるのは」
俺は死んでしまった家族の背景を思い出しながら茶葉を飲む。
カランカランッ
ドアの上に飾られてある小さな金が鳴り、魔道具なのかよくわからない仕組みをしている。
扉を開けるとそこにはザビエクが立っていた。
「ビールでも飲まないか」
「折角黄昏れてたのによ…」
「いいだろ?」
ザビエクは腕時計を見て俺に微笑み返した。
「まだ朝の6時だ。任務に支障はきたさない程度に飲みながら、今回の任務について話そう」
「そうだな」
俺は呆れ気味にザビエクを家の中に入れ、俺はリビングのソファーに腰掛けた。
ザビエクは瓶に入ったビールを開ける為、棚から道具を取り出して栓を2本開けた。
「ほら」
ザビエクは後ろからビールを渡し、俺は瓶を掴んで一口飲んだ。
ザビエクはソファーの前にある机にビールを置き、フワフワの椅子に座った。
「栓抜きの場所知ってるって事は元々お前ん家か?」
「いや、叔父のだよ。じゃあ早速本題に入ろう」
ザビエクはポケットから綺麗に畳んでいる紙を取り出した。
白い髪に青色の綺麗な瞳、肩まである髪の毛。
「泥棒猫、名前はリリス。数々の監獄を脱獄している捕縛歴30回の極悪犯罪者だ」
「とはいっても殺人はなし、精々軽症を負わせたぐらい」
「スキルは"スピードアップ"の超素早く動く獣人族の女だ」
「獣人か、初めて見る」
「だろうな。彼女の種族は住んでる場所が遠すぎる」
そしてもう一つ、手書きの紙を取り出した。
「リリスは奈落監獄と呼ばれる監獄にいたがここも脱獄、少し前に私が言っていた宝石店の宝石を盗むと情報が入った」
「今日の夜8時、情報通りに動くのかよ」
「そういう女だ。それで毎回盗んで豪遊して捕まるの繰り返し、国家の指名手配犯でもある」
「どうしてそんな面倒臭そうな女を仲間に?」
「ザイトライヒの情報を握ってるであろう"力帝"に近づけるから」
力帝、五帝の一人。
文字通り力の帝王。
そいつがザイトライヒの鍵を握っているのか。
それからザビエクが個人的に調べて作った資料を見ながらビールを飲み、そして王国の外れにあるリリスの住み処へと訪れた。
時間は昼前の10時。
広い草原にポツンとボロい家が建っている。
本当にこんなところにいるのかよ?
一人で俺は岩陰に隠れて双眼鏡を手にして家の中を覗く。
聴覚を変化させても何一つ聞こえない。
視覚は太陽の真下だから迂闊に使えない……もしかしてザビエクの情報が間違っているのか?
ガチャ
扉の音がボロい家から聞こえ、鼓膜にズンと響かせた。
双眼鏡で見た先には、太陽の下で猫のように体を伸ばし、白色の髪をしているあの女がいた。
耳がピクッと動き、尻尾が揺れる。
あれがリリスか。変化させた聴覚でも感じ取れない程隠密に動く泥棒。
今回は別の意味で骨が折れそうだ。
彼女が行く先は王国の城下町、商店街だった。
人混みに紛れて尾行を続け、今のところバレている様子もない。
泥棒も買い物するんだな。
「この魚、一つください」
「はいよ!」
至って普通に買い物をしている。
心拍数に変化はない、尾行はバレてないはずだ。
それから2時間買い物を続け、ようやく変化が訪れた。
人気のない場所へと向かっている。
辺りは段々と建物が減っていきやがて畑だらけへ、人がいたと思えば見間違えたカカシか老人だった。
流石にもう隠れる場所がない。
俺は腰に下げている球状の魔道具に向けて話した。
「リリスはボロい家を出ると買い物に、それから別の場所に向かっていった。多分本拠地だろう」
「尾行はできない。宝石店近くに張り付いて待っててもいいか?」
建物の上からリリスが消えていくのを見届け、1時間して魔道具が光り返事が帰ってきた。
「わかった。リリスが犯行に及ぶまで待っておけ」
今から7時間少し、かなり暇になるな。
それから宝石店近くの酒場にて暇を潰しに潰しまくり、夜の8時近くとなった。
俺は宝石店全体を見渡せる建物の上に登り、様子を見ていた。
ザビエクの情報通りだと警備は階級が1級の特別な冒険者で構成されている警備隊と聞いたが……一体リリスは何処まで通用するんだか。
「7時59分、警備はガチガチだね」
街路灯の下を歩くリリスは装飾の付いた昼とは違う服装に着替えていてフードを深く被り、気楽に歩いてきた。
青い瞳の先には犯罪予告で警備体制がとてつもない宝石店が写っており、リリスの黒い腕時計の秒針が回り、時間は夜の8時となる。
その瞬間、白い閃光が走った。
宝石店の前にいた警備7名は一瞬で壁や街路灯にぶら下げられていて、店内に巡らされていた警備10名は宝石店のガラスの壁を突き破って外へ放り出された。
「ひ、ヒィィ!!」
店員は目を瞑り腰を抜かした。
そして武器によって頑丈な金庫は破壊され、あっという間に白い閃光はたったの5秒で宝石を沢山盗んで外へ逃亡していた。
白い閃光のように道を真っ直ぐ突き進み、建物の上から見てもかなりのスピードで一瞬にして視界の端っこへ行った。
「マジかよ」
俺は急いでリリスが逃げた方向へ建物から建物へ飛び移り、リリスが逃げた先へと進んでいった。
そうして5分が経過し、道に同じ服装をした女性が壁にもたれかけて息を整えていた。
「ハァッ…ハァッ……!!!」
相当息が上がったいるんだろう。
少しの間観察しても動きもしない。
貪食で記憶が消えるのと同じ…リリスの場合は体力を大幅に消耗するみたいだな。
俺は建物から飛び降り、街路灯に着地してリリスの目の前に降りた。
「うわっ!」
リリスは飛び上がり一瞬で距離を離された。
「ちょ、ちょっと、ビックリさせないで……」
「泥棒猫のリリスだな。話しがしたい」
「チッ!!」
するとリリスは裏道へと逃げていった。
先程のスピードではない、追い付ける!
俺はリリスの背中を追いかけ回し、建物の上や空き家の中、道をただひたすら走りって駆け回り、体力が尽きたリリスはとある地下で動きを止めた。
どうやら工事中で行き止まりらしく、逃げる道は俺の後ろの地上へ出る道だけ。
絶対に逃がさないように俺は背後に鉄の壁を生成し、もし逃げようとしたとしても時間稼ぎはできるぐらいの障害物を作った。
「リリス、話しを聞いてくれ」
「アタシの連続記録が切れちゃうじゃない!このアホ!」
リリスは牙を剥き出しにして怒りを露にして叫んだ。
ズドンッ!!!!
白い閃光が走り、俺の頬を強く殴り壁に激突した。
俺は肩にかかった瓦礫を払い、左腕に盾、右手に槍を生成する。
「結局こうなるのかよ」
リリスは力を入れると両手の爪をナイフのように尖らせ、両腕を大きく開いて構えた。




