第22話影を追う者
周りは宿がある商売場。
夜は静かだが、まだ微かに人の声がする。
家族団欒の声。恋人の声。友人の声。怒りや悲しみ、恐怖の声。
そんな中、叫び声のように自分を切り裂く刃が走る。
「一体何者だ、お前」
「狩人と言ったろう?」
男は動きを止めず、俺に向けて刃を振るい続ける。
まるで隙がない、かなり手強いな。
「何故戦わない?君は毒帝を殺した。他にも、色々な人間を殺してきたはずだ」
「極悪人の囚人と手下しか覚えてねぇな」
手から耳が張り裂けるような音を出す風を放出し、男は爆風に吹き飛びそして頭を抑える。
「ああっ……!俺は殺しが出来るスキル以外は盗まないが…どうやらお前は違うらしい」
男は潮風で冷たい道の石盤に手を着き、ゆっくりと起き上がった。
「囚人と手下しか覚えてないと言ったな」
「ああ」
「お前のその風は一体誰のだ?」
「そりゃ……」
思い出せない……俺はこのスキルを何処で手に入れた?
「思い出せないだろ。スキルを喰らい続ければ、いずれか家族の事も忘れる」
「そのスキルは村の青年から奪ったモノだ」
それを聞いた途端、体温が上昇するようにジワジワと……やがて鮮明に、あの時の景色が蘇った。
「お前は知ってるのか?俺の過去を」
「そうだ。俺は殺しを止められないお前を殺しに来たんだ」
「殺しを止められない?」
「だから毒帝を殺したのだろう」
男は接近し、回転して俺の頭に目掛けて蹴りを振るう。
ギリギリで腕でガードしたが、その隙に腹に三発拳がめり込み、俺は倉庫の窓を突き破り、人気のない場所にやって来た。
潮で倉庫の中は臭く、割れたガラス片の上で靴が擦れ、音が倉庫に響く。
「カイ。今夜、お前を殺す」
男は破られた窓から飛び出し、右腕を大きな刃に変形させ、俺に向けて振り下ろした。
「おい!俺は快楽殺人鬼じゃない!」
「じゃあ何故毒帝やその手下、青年を殺した!」
「毒帝は死ぬべき事をしたからだ!青年は事故だった!」
男は右腕の刃を振り上げ、その勢いで回転すると同時に左拳を振り下ろす。
「事故?事故だと!?明らかな殺意があって彼を殺したんだろ!」
「お前も同じ貪食だから分かるはずだ。初めて動物の特性や、鉄の特性を奪った時、記憶が曖昧になって……」
「時々自分じゃなくなる」
男は動きを止め右腕の刃をしまい、共感出来る箇所があったのか、攻撃を止めた。
敵意がないとわかったのか、目からは殺気がなくなっていた。
「毒帝は意欲の為に村を襲い、一人の少女に永遠の心の傷を追わせた」
「お前の言動を聞く限り、お前は悪が許せない。だったらその悪は毒帝に当てはまるはずだ」
「時々自分じゃなくなるってのも、俺が青年を殺してしまったみたいに……お前も同じことがあったんだろ?」
すると男は口を開く。
「俺はただ止めたい。かつて止められなかった"誰か"の代わりに」
男は自分の手の平から血が出る程、強く拳を握り締める。
「俺はザイトライヒを殺す。奴は俺の村の人達を殺し、今までも無実の人々を殺してきた」
「仲間になろう。悪をこの世から消そう」
一か八かだがこれでヤツと交流を深める事が出来たなら…かなりの収穫になる。
「ザイトライヒを殺す……」
「いいだろう。話は別の場所で。今から時間はあるだろう?」
まだ信頼は出来ない。少しでも攻撃体制に入ったらその時は殺す。
そうして一時、休戦をとり倉庫から出ようとした時。
「お前は俺を知ってるだろ。だから名乗ってくれ」
「何者だ?」
「ザビエク。知らないとは言わせない」
凄腕の調査員……!何故俺を?
「戸惑っているようだなカイ、安心しろ。俺は味方だ」
「この説明も全部別の場所でしよう。ここでもいいなら別にいいが……匂いがな」
「正直、殺される前提でお前と話した。だから大体の説明を聞くまでここで聞く」
「わかった」
ザビエクが俺に近づいてくる。
「離れろ、まだお前が良いヤツだって分かってない」
「仲間になれって言った癖に……まあいい」
そして俺とザビエクは倉庫の端に行き、生成した布を敷いて少し距離を空けて座った。
「まず何処から話そうか」
「そうだな」
俺は自分と過去と今に至るまでの道のりを話し、ザビエクは過去と今の成り立ち、そして俺の幼少期の事件と親友だったザイトライヒについて話してくれた。
奴が世界を征服して真の王になりたいこと。
そんな理由で人を惨殺していることを教えてくれた。
「お前は"あの時"、ザイトライヒを止められなかったのか?」
「奴には強力なスキルがある。殺されない程度に止めようとはしたが無理だった」
「そうか……お前はザイトライヒの親友だったんだろ?どんなスキルなんだ」
躊躇せずザビエクは話してくれた。
「"爆発"スキル、ありとあらゆる物を爆発出来る」
「魔力の消費も無に近い。奴が使うからこそ最強のスキルだ」
「なるほど。それでどうやって止める?傲慢強欲な男なんだろ」
「ああ、元々私一人でやるつもりだった作戦があって、仕事のせいで上手く進められなかった」
「その作戦を君にしてもらいたい」
「お前は手伝わないのか?」
「仕事がある。私も裏で調べておくから安心しろ」
自分の過去と親友だった男のスキルを話してくれたんだ。
どうして別れたか教えてはくれないが、少しは信頼してもいいだろう。
「俺は何をすればいい」
「ここからそう遠くない所に泥棒猫が狙う宝石店を襲う。情報通り、明日の夜9時に盗むそうだ」
「宝石を盗んだ泥棒猫を取っ捕まえて、情報を聞け。その後は始末する」
「仲間にしよう」
「君がそうしたいなら、いいさ」
「だったら俺の寝床は?ちゃんとした人間だぞ」
「俺の横の一軒家を貸してやる」
「ならいい。それじゃあとりあえず帰るか?」
「明日は早いぞ?なんせ泥棒猫を朝から犯行に及ぶまで尾行するんだからな」
「先に言えよ……」
倉庫の潮風で酷く錆びた扉を開け、肩に細かく刺さっているガラス片を取り除きながら、ザビエクが住んでいる家へと向かう。
浜辺で辺りの家は明らかに金持ちの豪邸。
浜辺からの景色は素晴らしく、夜であまり見えないが夕焼けの景色はさぞ美しいだろう。
「ここがカイの家だ」
案内された場所は本当にザビエクの隣にある家だった。
「マジで隣なのか?気持ち悪い」
「そんなこと言うな。それじゃあまた明日朝にチャイムを鳴らすから、その時は出てくれよ」
「警備隊じゃないならな」
ザビエクと別れると俺は埃ひとつなさそうな綺麗な家に入り、誰か住んでいたと思う程家具が揃っている。
何か嫌な想像が頭に過るが、あいつと話してる感じだとそういうヤツではなさそうだ。
2階に上がると寝室に入る。
ベッドは何もかも質がいい物で、なんだか心が落ち着く。
そうして寝転がっているうちに俺は眠りに着いていた。




