第20話逆襲の狼煙
「贄の駒よ、わざわざ死にに来たのか?」
毒帝は手下の後ろから鳥のように両腕を広げ、まるで俺を歓迎するかのように姿を現した。
「お前を殺すのは最後だ」
「そうかい。なら、精々頑張りたまえ」
毒帝が指示を出すと、残り少ない手下達が構えを取る。
「いくぞ、お前ら!!コイツは一つじ縄じゃ済まない!」
「死ぬことは考えるな。勝つ事だけを考えろ!!」
『オオオオ!!!』
手下は声を上げ、戦意を高める。
眼には覚悟があり誰一人毒帝に近づけさせてはくれなさそうだ。
槍と盾を持った手下3人が陣形を取り、その背後には武器を持った手下が2人、スキルを構えているのが2人。
槍を持った3人が徐々に近づき、手下の両手の間にある電撃がバチバチと激しく点灯する。
焦げ臭く、そんな中でも血の匂いは消えない。
そして俺は動き出した。
「放ちます!!」
スキルを構えていた2人は辺りが真っ白に光るくらいの激しい電撃を放ち、周りにあるテントに火が付いた。
風スキルで跳躍し、ナイフを生成し宙でスキルを放つ2人の喉を貫く。
「毒帝様!!」
槍を持つ手下らは急いで着地地点に行き、槍を構えて落ちていく俺に向かって槍を突く。
その瞬間、姿を消し現れたのはその手下の一人の背後。
ゴギッ!!
顔を掴んで首をへし折り槍を奪った。
2人は盾を構え、俺は盾ごと槍で手下の体を貫き、もう一人は盾を構えながら槍を突く。
その槍を軽く避けて掴み、構えている盾を殴る。
ゴンッ!!!!
「うぼっ!!!」
手下は吹き飛ばされ毒帝の足元まで転がった。
そして残り2人が駆けつけた時には2人以外の誰も立っておらず、毒帝も手を貸す様子もなく何もかも遅かった。
風スキルでの跳躍、そしてあの怪力に加えて姿を消すスキル。
なるほど……私を殺すには最適な者を連れてきたのか。
「や、やってられるかよ!!」
手下が逃げるとその場に残った1人も慌てて逃げ始めた。
毒帝は溜め息を吐くと余程恥ずかしかったのか、背を向けた2人に緑に光る魔力の弾を放ち、優しく包み込むように着弾した2人は呆気なく倒れた。
「全く、恥さらしめ」
この場に残ったのは2人だけ。
毒帝は手を開き、そして拳を握る。
「ヴェイル、鎖鎌女、お前の手下は全員死んだ。アルダの師匠は戦えないだろう」
「私に挑む命は全て資源だ。燃やして使う。それだけのこと」
「生きる意味?ここでは私が決める」
「手下が死んだ?どうした?私の計画に支障はない」
「支障はある」
「なんだ。言ってみろ、"貪食者"」
「お前自身が死ぬことだ」
毒帝は見えない毒を周囲に撒き散らす。
道を走っていたリスは一瞬で口から血反吐を吐き、ブクブクと蒸発して死んでいく。
毒帝の足元にいた手下も同様ブクブクと蒸発し、最終的には液体となった。
「生け贄を傷付けない為に抑えていたが……今回は全力でいくぞ」
砦内にある建物全てが腐食され、小城までもが簡単に崩れ、瓦礫が地に落ちると灰のように地面に溶け込んだ。
俺は地面を強く蹴り、一気に毒帝の目の前まで進み拳を振るった。
ドスッ!!!!
毒帝は勢いのあまりひっくり返って地面に顔を激突させ、重く転がると思った以上に軽く立ち上がった。
「どうやら俺のスキルを理解しているみてぇだな……!」
「でもよ、これは知らないだろ!?」
毒帝が拳を振り上げ、俺を殴り飛ばした。
骨が鉄で出来て簡単には吹き飛ばされないはずの体が、意図も容易く吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた。
「ごはっ!ごはっ!」
こんなに直撃したのは初めてだ……
肋が酷く痛み、口が塞がったのかと勘違いする程息が出来ない。
胸の奥が焼けるように痛い。
それでも立ち上がる。ヤツを殺すために。
「範囲は……大体砦内か。私はこの毒の中にいる間、めっぽう強くなるんだ」
「大体の敵は触れたら死ぬから、君のような存在は本当に貴重だ。今後の戦闘にも活かさせてもらう」
「今後があるかどうか知らないけどな」
そうして毒帝は強く地面を蹴り込み、地面は爆発したかのように吹き飛んだ。
その勢いに乗った拳はあまりの速さで避けれず、顔面に直撃。
その瞬間に毒帝の腕を掴み、衝撃に耐えながら反撃を繰り出した。
殴り合いに発展し、枯れた地面にはお互いの血が垂れ、どれだけ激しい戦いだったのかを語る。
そして俺は肘から大きなブレードを生やし、拳を振るのと同時にブレードで攻撃をした。
思わず毒帝は腕を構えて斬撃を防ぎブレードは折れ、その腕の上から風を放ち体勢を崩した。
そこから状況が一変し、俺は生成した剣を振るい、毒帝は防御を取るしかない。
蔓延する猛毒以外取り柄のない毒帝にはかなり厳しい戦いだった。
俺は剣を振るうに見せかけて、体を回転させ蹴りを食らわせる。
「うっ……!!!」
毒帝は腕でガードしたが意味はなく、重たい衝撃が体に残り、ワンテンポ行動が遅れた。
その隙を狙い俺は渾身の一撃を毒帝にお見舞いさせた。
毒帝は咄嗟に防御姿勢を取るが、俺は手から風を放ち、防御を一瞬にして崩す。
「ああッ!!!」
俺は再び毒帝を殴り飛ばすと、怯んだ毒帝にタックルをして馬乗りになった。
毒帝は顔を腕で覆い防御を取った。
剣ではヤツを斬れなかった!ならどうする!?
俺はガードした腕を掴んで無理矢理引っ張ってこじ開け、顔ががら空きになった隙に拳を振り下ろす。
ズドッ!!!
ズドッ!!!!
腕が下ろされるとすかさず肘で顔を殴り続け、毒帝は俺の首を掴み反撃として頭突きをする。
すぐに毒帝は蹴りを出して俺を蹴り飛ばすとよろめきながら毒帝は立ち上がった。
俺は片方の鼻の穴を塞いで息を吹き込み鼻血を出して、リラックスするために呼吸を整えた。
一向、毒帝はふらついていてダメージが相当大きいのかまともに立ってられていない。
「強いな……毒じゃ死なない、ステゴロも私より一段上……」
「でも気付かねぇのか?治癒スキルが使えないことを」
毒帝の傷は瞬く間になくなり、俺はいくら意識しても治せない。
「毒の中にいる敵は猛毒によって治癒が出来ない。そして俺は身体能力と共に治癒スキルも遥かに向上」
「まだやれるぞ?ほら、来い」
日は完全に沈み、辺りは真っ暗になった。
聴覚を変化させ耳を澄ますと、森の向こうから女性の息遣いと足音が聞こえた。
目が覚めたのか、アルダ。
それなら……
俺は構えを取るだけで毒帝には近づかない。
「少し話しでもするか?貪食者」
「したくなさそうだな?なあ」
痺れを切らした毒帝は俺に一歩接近した瞬間、発熱と吐き気が毒帝を襲った。
「そういや、お前、アルダを剣で貫いた時に額と右手に沢山血が付いたよな」
「俺が待ってた理由はその毒が効くと思ったんだ。なんせ、アルダしか持たない毒…お前が効かないわけがない」
毒帝は跪き、血反吐を地面に吐き続けた。
何度も血を吐き、足元には水溜まりのような血ができ毒帝は必死に胸を抑え、俺を見上げた。
「皮肉なもんだな」
「毒の帝王が1人の毒で死ぬ」
毒帝は無意識にスキルを閉じ、タイミングよく後ろからアルダが来た。
「毒帝」
そう呟き、アルダは毒帝の目の前までやって来た。
「みんなの苦しみをしっかり味わって死ぬんだ」
「地獄でも、ずっとずっと苦しんで生きてるといい」
「貴様が殺したのではない……その男が殺した……」
「よかったな……?毒帝殺しとして名を轟かせろ……」
すると毒帝は何かを思い出したのか震える手で探し始めた。
「……稀血」
毒帝は腰から小瓶に入ったアルダの血を取り出し、蓋を開けると口元まで運んだが結局飲めずにその場に倒れた。
「ハンの所に戻るぞ」
アルダに呼び掛けるが全く返事をしない。
「やっと、やっと殺せた」
「やっと死んでくれた」
「……念は晴れたか?」
「うん」
そうして2人はハンがいる森の中へと戻っていく。
焚き火の前にたたずむハンはなにやら自分の糸で何かを作っていた。
「殺したのか、毒帝を」
「ええ」
ハンはしばらく黙り、ふと言う。
「大変だぞ。きっと世の中は脱獄したカイに毒帝殺しの名を着させる」
「覚悟はいいな」
「とっくに決まってる。それより、アルダやハンはこれからどうするんだ」
そう聞くと真っ先にハンが答えた。
「俺は服屋でも開く。もう監獄生活は嫌だからな、アルダは?」
「私は……カイを手伝うか…うーん。師範にでもなろうかな」
『カイは?』
2人は俺に聞く。
「復讐を果たす。今はそれだけだ」
「なら死ぬなよ」
「そうよ、定期的に新聞見てあげるからさ」
「あ!新聞記者にでもなろうかしら!」
「いいね」
ハンとアルダは笑い、ハンは腰から酒を取り出した。
「記念に飲むか?復讐祝いだ」
「俺は……そうだな。でも少ししか飲まないぞ?」
するとハンは完成した服を俺に投げ与え、酒瓶を開けて飲み始めた。
「この服は?」
「特製品だ。丈夫だし、お前が着てたのに似せた」
放浪者のようで丈夫な糸で出来ている。
そこに生成した革や鉄で格好よく肩当てを作り、ボロボロのズボンと服を捨てて着替えた。
「ほら、カイ。飲みなよ」
アルダは酒瓶を手渡し、受け取ると俺は口一杯に飲み始めた。
日が昇り焚き火の火が消える時。
そこに俺は居なかった。




