第17話竜の咆哮
「げ、原初の炎よ!我がちか、ち、力……!!」
スキルを放とうとした手下は、格上の存在を殺す為、使ったこともない魔法を使おうとすると一瞬で距離を詰められ、視界が一段落ちた。
「あ、あれ!?」
崩れた脚を立て直そうと力を入れるが全く動かない。
毒でも使われたのかと下を見た瞬間、焼き焦げた土には血の水溜まりが出来ていた。
「うわぁぁあ!!うわぁ!!あああ!!!」
初めての本能的な恐怖。
余程信じたくないのか、視界が狭くなり、同時に体が熱く、痛みを通り越して快楽を感じ始めた。
自分の両足を持つ男は数々のスキルでの攻撃にて装備が剥がれ、布は焼き焦げている。
その姿はボロ布同然だった。
辺りは煙臭いが、それを掻き消すかのように血と肉、体液の刺激臭が漂っていた。
「俺達を殺しても、何も変わんねぇぞ!」
「知ってる」
俺は手から剣を生成し、腕を使って這いずり逃げる男の首を切り落とした。
「はあっ……はあっ……」
そこには息を整える息遣いだけが森に響き、周囲を見渡して手下が死んでいるか、無惨な表情をしたまま固まっているその顔を見つめた。
「これで終わりか?」
魔力の余力はまだある。
致命傷は腕の火傷だけ…革と鉄、取り込んどいて正解だな。
俺は自分の皮膚を手の平で触り、一息ついた瞬間、嫌な耳障りがした。
空気を張り裂くような轟音、まるで大岩が降り注いでいるかのような存在感。
そして荒々しく、身の毛がよだつ程の唸り声。
聴覚を強化し、その音を辿って空を見上げた。
「ガアァァアアア!!!!!!」
鼓膜が張り裂けるような咆哮。
ドラゴンが俺の目の前に着地した瞬間、脚がふらつき、思わず重心を低くして身構えた。
銀に輝く鱗に、氷河を思い出させる寒さ。
「ドラゴンなんかいんのかよ……!」
恐怖よりも先に、喰らいたいという欲望に支配された。
それに気がつくと、俺は正気を取り戻し、ゾクゾクと恐怖が滲み出る。
ドラゴンは巨大で鋭い爪を空気を裂いたように振るい、俺は抉られたような傷をつけられ、森の木に激突した。
「ごはっ!!」
全身が潰れ、肺が悲鳴を上げた。
そして必死に顔をあげると、ドラゴンは尻尾を薙ぎ払う。
剣を生成して尻尾に剣を突き刺し、尻尾に張り付いた。
「ああああ!!!!」
尻尾を伝って走り、尻尾で吹き飛ばされる直前に跳躍。
「ガアアアア!!!!!」
ドラゴンは口を大きく開け、空中で大剣を生成し、俺を口の中に入れて噛み砕こうとした瞬間、渾身の力で大剣を舌に突き刺し、ドラゴンは口を閉じれない。
狭い所で扱いやすい双剣を両手にし、口内をズタボロに切り裂く。
ドラゴンは痛ましい叫び声をあげ、自分の口を貫く勢いで大剣を砕こうとし、ミシミシと音を立てる。
閉じる瞬間、俺はドラゴンの歯を抉り抜き、口から飛び出すと唇に深く剣を刺して歯をドラゴンの目玉に強く突き刺した。
「アアアア!!!!!」
想像以上の咆哮による風と音で、体は簡単に吹き飛び、耳鳴りで周囲が把握出来ず、揺らぐ視界の中でドラゴンを見つめる。
ドラゴンは相当痛かったのか、あちこち大木にぶつかって段々体力を失っていった。
ヤツは混乱してる。どうにかして策を出さないと……
思考を巡らせ、無意識の内に手の平に風スキルを生み出していた。
攻撃を見切られたら防がれるかもしれない……それに、あんなキレてる様子じゃ、口から炎か吹雪を放ってきてもおかしくねぇ……
また口の中に入るか?警戒されてるよな。
なら……
両手に風スキルを発動し、深呼吸をして覚悟を決め意識を強くした。
俺は走り出し、ドラゴンが尻尾や爪で吹き飛ばす木を避けて確実に近づく。
ドラゴンは怒りを静め、着実に俺に向けての殺意を剥き出しにし、口を大きく開けた。
「やってやるよ!!」
ドラゴンは一瞬にして冷気と魔力を取り込み、自分だけの魔法を完成させ、冷気のブレスを吐き出した。
草は触れただけで棒のように折れ、感じない程の風で木っ端微塵。
数十の死体は凍るとまるで灰のようにバラバラになり、木を含め、植物は全て崩れ、放射性にある物は地だけとなった。
そして俺は直前に弱い風スキルで高く跳躍し、ドラゴンの死角を突いて上空から力強く魔力を注いだ風で銀の鎧を剥がそうとしていた。
ギョロ。
俺は一瞬で頭が真っ白になった。
あっという間に俺を見つけ、口を閉じると三つの爪から冷気の斬撃を飛ばす。
軌道を変えなくては!
だがここで強力な一撃を放つわけにはいかない。
それに、例え避けれたとしてもブレスかまた斬撃が来る!
ブレスの影響か、ドラゴンの背後にある砦の壁は凍っており、落下してドラゴンに近づけば近づく程、自分の体も凍っていく。
「ガアアアア!!!!!」
ドラゴンは雄叫びをあげ、俺は消えるように姿を消した。
ドラゴンは殺したのか一瞬迷うが、すぐに気配に気付く。
スキルで移動した俺に。
俺は渾身の暴風をドラゴンの首下に喰らわせ、風は一点に収束し、鎧を切り裂く刃となった。
丸見えになった胴体に力いっぱい振るった拳が突き刺さる。
深くめり込んだ拳はドラゴンの喉を潰し、あまりの威力にドラゴンは砦の壁に叩きつけられた。
ビリッ!!
雷のような激痛が走った。
グジャッ!!!!
次の瞬間、土埃が舞い上がる。
電撃のような痛みは殴った時の影響か?違う……
上空からドラゴンの頭へ鉄槌を振るい、生ぬるい血が頬にかかった。
一瞬だけ、森が静まる。
「遅れた。少々小賢しいガキがいてな」
ハン……
ドラゴンが死んだことによって、不安は消えた。
そう思った瞬間、また次の恐怖が現れる。
「傷は?」
「ねぇよ。約束通り、決着つけようぜ」
そう言った瞬間、ヴェイルは相当喜ばしいのか大きく笑みを浮かべると鉄槌を振るい一瞬で間合いを詰めた。
「行くぞ!!同志よ!」
----一方、アルダは毒帝の前に立っていた。
周りを囲む手下数人は、冷たい目線を向ける。
アルダはヤツの深く傷つけられた顔の切り傷を、まるで賞状を見るかのように、満足感と少しの達成感を得た。
「毒帝!」
アルダは強く声を出し、毒帝の耳に深く入り込んだ。
あの日、生きられない程屈辱を与えた弱い女が、殺しだけを取り柄にここまで来た。
毒帝が最も卑劣する者であり、同時に生贄の聖なる遺物と感じていた。
「生贄よ!私を不死身にしたまえ!」
毒帝が合図を出すと手下はスキルや武器を使い、毒や沼、影のような禍々しい闇のスキルがアルダに迫る。
アルダはかつてない程の殺意を出し、そこには人々の怨念まで混じっている。
「毒帝ィィ!!!」
アルダは今にも皮膚が溶けそうなスキルによる攻撃を躱し続け、アルダは剣を振るった。
その瞬間、アルダの心臓は本当に手で握られたかのような激しい痛みに襲われた。
「はあっ……!」
胸の奥が焼けるように熱く、同時に氷で締め付けられるような激しい痛みが走った
呼吸が浅くなる。視界は暗くなり、膝が勝手に震える。
このままじゃ死ぬ、そう本能が語っていた。
アルダは倒れなかったが一瞬で戦意を失ってしまい、手下からの攻撃に全く動こうともしない。
ここで見逃せば、あの日の私は本当に無駄になる……!
絶対に、絶対に逃がさない!!
「女ァ!」
その瞬間、頑丈な糸がアルダを捕まえ、その場から一瞬で脱出した。
「なにボサッとしてんだよ!死ぬぞ!」
「あ、アンタ…確かハン?なんでここに……」
「説明は一度しか言わねぇぞ!俺はカイに恩を返す為に来た!」
毒帝の手下はアルダとハンを壁際まで追い詰める。
ハンが指先をちょいと動かすと、仕掛けられていた糸は急速に引かれ、手下達の顔や腕を切り落とした。
「ど、毒帝様!どうか、どうかお助けをッ!!」
腕を切り落とされた手下は涙目になりながら毒帝の脚に寄り添った。
「失せろ愚民」
毒帝は手を手下に突き出すと、手下の全身はブクブクと沸騰するように膨れ上がり、耐えられなくなったのか体は爆散し、血飛沫をあちらこちらに撒き散らした。
「なに、あのスキル……」
「さあな」
爆散した血は砂利などの異物を含まず、綺麗に浮かび上がった。
「毒帝。さっさと決着を着けるぞ」
毒帝の背後から現れたのはアルダの師匠。
剣を引き抜き、明らかに毒帝に忠誠を誓っていた。
「いくら俺でも弟子は殺したくない」
師匠の瞳から"迷い"が完全に消えていた。




