第12話雨上がり
豪雨が土を打ち、雷が洞穴を震わせる。
冷たい風が洞穴に入り込み、アルダは息で冷えた手を必死に暖めている。
ようやく雨と雷が止み、アルダの寝息とその後の静けさだけが残った。
兵隊は消えたか?
聴覚を変化させると洞穴の外から蹄鉄の音が聞こえ、兵隊が近くに来ていることがわかる。
俺は立ち上がり、洞穴に近づくとふと、アルダの方へ目をやった。
そして洞穴から外を観察し、兵隊が松明を用いて辺りを散策しているのを見つけた。
手から投げナイフを生成し、投げる構えを取る。
その瞬間、不安が押し寄せ躊躇していると、少しして兵隊は去って行き、俺は投げナイフを手の平に吸い込むように消した。
しばらくして、日が昇り光が強く洞穴を照らした。
その光はアルダの顔に差し込み、アルダは声を上げて上体を起こした。
「ん~、あれ?カイ、起きてたの?」
「ちょっと寝れなくて。だが体力は平気だ」
ヴェイルとの戦いにて、殴打された胸と受け止めた時の腕が少し痛む。
その様子を見てアルダは不安な顔をして俺を気に掛ける。
「カイ?痛むなら少し休んでからにする?」
「この先に町があるんだろ。休むならそこでいい」
「そうね、早く目的地に着きたいし」
そう言うとアルダは微笑みながら荷物の支度をし始めた。
その様子を黙って見つめ、支度が出来ればすぐ洞穴を出た。
「そうだ」
俺は木材を加工し、手の平から旅芸人が着けていそうな狐の仮面を生成した。
「あの女に顔がバレてんなら毒帝にもバレてる。本拠地付近に行くんだし、顔は隠しとけ」
「冴えてるじゃん」
アルダは受け取り2人は歩き出す。
外は雨で酷く濡れていて、焦げた臭いを放ちながら道を塞いで倒れている大木がある。
それを跨いで地図通り森を進んで行くと、道にある手配書がある看板を見つけた。
この先、人斬りあり
「やな感じ」
森は薄暗く雨のせいで霧がかっている。
「出会しても俺もお前だ、人斬りぐらいなんてことないだろ」
そして再び目的地へと向かう。
森が開けた先には湿地があり、光に向かって進んでいると、突如ガシャッと武器が揺らぐ音がした。
「アルダ!」
即座に聴覚を変化させ俺は投げナイフを生成し、背後に向かって数本投げつけた。
ナイフは空中を切り裂く間、何本へと分裂し、背後にいる者に浅く刺さる。
気配が震え、雷鳴の残響のように低い息が聞こえた。
槌を握り、顔を血で染めた男―ヴェイルだった。
「俺は、毒帝様に……」
「毒帝様に仕える者!!」
「決して死なない!」
口から血と肉塊を吐き出しながら言い、槌を握る拳を強め、腫れた目で俺をしっかりと捉えながら槌を放った。
「カイ!」
俺の名を呼ぶその声はアルダでも、当然ヴェイルでもない。
その声は感情から逃した男、ハンであった。
影のような糸を飛ばし、放たれた槌と結びつきハンは槌をヴェイルに投げ返した。
ガシッ!!!
ヴェイルは槌を受け止め、ハンは隙を与えず槌と木に糸を張りつけ、槌は動かせない。
そしてハンは拳を振り上げ、ヴェイルの顎を殴った。
「貴様らが向かう先は知っている!足止めをしても、必ず俺は毒帝様の前に立ち塞がる!!」
「見ろ!この俺を見ろ!!お前と同じ化け物だ!」
「貪食よ、我が名を言ってみろ!」
ハンは糸でヴェイルの両腕を木に張りつけ拘束した。
振り向き俺に見えた顔は、先に行けと言わんばかりであった。
「行くぞ」
俺が肋を抑えている様子を見ると、アルダは納得した表情をして言う。
「確かに今は人斬りさんに任せてもいいかも」
2人は激しく争う衝突音を感じ取りながら、森が開けた先へと向かい、湿地へと訪れた。
日差しが焼ける程晴れているおかげで魔物はあまりおらず、時々背後を確認して湿地を抜けた。
時間はお昼前。
あともう少しで町に到着する所で、アルダは膝に手を着き、息を荒げて呼吸を続けた。
「やっぱ……一緒に戦った方がよかったんじゃない?」
「あのスキルなら逃げる事も容易い、それに奴は夜だけ力を発揮する。いくらしぶといとはいえ、重傷の奴にはやられない」
「人斬りを殺して追ってきてないといいんだけどね……」
呼吸を整えると再び歩き出した。
湿地を越えた先は木が1本も生えていない広大な草原が広がっていた。
夢のような景色に呆然としていると、段々と空気が濁り、辺りは薄暗く、松明でさえ消してしまいそうな霧の森に入った。
「ここが獣谷か」
「確認するわ」
アルダが地図を開き、地図と辺りを見て見比べ、確認をした。
「合ってるみたい。この薄気味悪い所が獣谷よ」
「嫌な場所だな」
草が開けた道をただ進んで行くと、簡易的に作られた木の門が道を塞いだ。
すると門の側の灯台から灯りを持った警備が顔を出し、すぐに引っ込んだと思ったら門が開かれた。
「ここの先に砦があるんだな」
「ええ、そうよ」
門を潜ると石畳の町が広がっていた。
森の中の水臭い匂いが消え、代わりにパンを焼く香ばしい匂いが漂う。
人の声、商人の呼び掛け、生のある場所に辿り着いた。
だがしかし、毒帝の手が及んでいる以上、安堵よりも奇妙なざわめきが残っていた。
そして目的地まであと一歩、アルダの手は微かに震え、呼吸は乱れていた。
「大丈夫か」
「ん?うん、平気。今日は宿を借りて休んで、次の日に偵察しよ」
「わかった」
そうして町の中を歩き、宿を借りて一休みする事となった。
アルダは治癒スキルでの魔力の消費が多かったのか、宿へ着くとすぐ眠りに着いてしまいその間、毒帝の情報を聞き出す為に宿から少し離れた酒場へとやってきた。
酒場に入ると町の酒場だからか、冒険者が受ける討伐手配書などが壁に貼られていている。
ドンッ
「ご、ごめん!急ぎなんだ」
1枚の手配書を持ち、仲間で行動している男に肩がぶつかり、男は笑いながら立ち去っていった。
「若い奴らは礼儀がなってないな」
1人でカウンター席に座っている男は俺に話しかけ、手で招く仕草をする。
「隣、とりあえず座れ」
そう言われ俺は疑う事なく隣に座った。
その時、目に入った男の剣に妙な既視感を覚えた。
「こいつに同じのを」
そう酒場の店主に言い、店主は酒を作り出した。
「すまないが金は払えない」
「俺の奢りだ、金持ってないなんてそんな放浪者の格好してちゃわかる」
男は高そうな酒を1口飲み、俺にある手配書を出した。
その手配書は壁に貼られてある手配書と随分と違う。
「これは?」
「個人依頼の手配書だ。これを請け負ったパーティーの始末を願いしたい」
宿の宿泊費や食事は全てアルダが払っている。
彼女ばかりに払ってもらっては威厳が傷つく、そう思って俺は興味本位で話を聞いた。
「理由は?」
「集団ゴブリンが俺の館を襲ってな、娘の大事なペンダントを盗みやがったんだ。そのあとにこの依頼を出して受けて貰ったんだが……ペンダントはそのまま帰ってこない」
「妻の形見なんだ。娘が泣いてる」
「酷い事をするもんだな」
「だろ?依頼料より高値がつくってことに気が付きやがったんだ」
「場所は正門から西に進んだ貧困街の赤いレンガの建物だ。有名だから分からなくなったらそこらの奴に聞くがいい」
そこで俺はある疑問を抱く。
俺の事を知らないのにこんな大事な依頼を出すか?
それにこいつは俺の事を放浪者だとも言っている。
「アンタ、よくそんな依頼、俺に引き受けさせようとするな?俺がそのペンダント盗むかもしれねぇぞ」
「アルダと一緒なんだろ?それだけで信頼できる」
「お前一体……まあいい、いくらくれるんだ」
「銀貨10枚、妥当だろ」
「わかった。取り返したらここに戻る」
「おう、赤い宝石が埋め込まれたペンダントだ。2日以内にここに帰ってこい」
怪しい。だが金が必要だ。
俺は手配書を受け取り俺達が入ってきた正門から西へ足を踏み入れた。
人の気配がない。
まるで取りに来るのを知っているかのようだった。




