第11話怪物の定義
町の人々は恐れながらも、窓からその様子を見ていて、酒場の店主は急いで椅子やテーブルを使って壁を塞いだ。
そして倒れた俺に迫る槌の使い手―ヴェイル。
彼のスキル、"ハンマー"は夜にしか発動せず、昼間はただの槌となる。
夜ではそのスキルの本領を発揮する。
胸に乗っている槌は重く動かせない。
常に胸を圧迫させられ、呼吸が出来ない。
「貴様は毒帝様になんの恨みがあるんだ?」
ヴェイルは槌を掴み俺に強く押し付ける。
「ガハッ……!」
肺は押し潰され、溜まった空気が一気に排出する。
「鉄の使いと聞いた。その力を見せてみろ」
ヴェイルが力を弱めると俺は風スキルを地面へ放ち、体勢を立て直すと、俺はヴェイルの顔に拳をめり込ませた。
ズドッ!!!!
衝撃でヴェイルの手からハンマーは離れ、血を唾のように吐き出し、微笑む。
明らかに大したダメージを見せていない。
「中々良いパンチだった」
ヴェイルは手を上げ、何かを呼び出す。
混乱と不気味さが、より一層手が出せない。
ガシッ!
ヴェイルが呼び出していたのは、吹き飛んだはずの槌であった。
「では行くぞ」
ヴェイルは槌を振り上げ、金属の衝突音が鳴り、俺は上空へと吹き飛ばされた。
頭から血が吹き出るような感覚に襲われ、そのまま民家へと落下する。
激しく建物が崩れる音が聞こえ、俺の下敷きになった壊れたテーブルから起き上がる。
脳内が熱く酔っぱらいのようにふらつき、吐き気が俺を襲った。
右には縮こまって震える母子がいて、俺は手を伸ばす。
「安心し……」
ドンッ!!!
壁を破壊して現れたのはヴェイル。
ハンマーは月光の力で紋様に沿って輝いており、ヴェイルのタトゥーも同様光っている。
「鉄であり、風をも操るか?さては貴様、"貪食"か」
ヴェイルは口角を上げ、槌を床に叩きつけた。
地面に青白い光を放った亀裂が走り、逃げる暇なく爆発し、辺り一面を吹き飛ばした。
頑丈だった自分は軽傷で済み、咳をしながら煙を掻き分けた。
目の前にはあの母子が縮こまりながら、焼け死んでいる。
あの時も守れなかった―あの日の血と悲鳴が、脳裏で重なる。
手足が震え、呼吸が乱れる。
守れなかった後悔、その苦しみが胸を強く握り締める。
「どうした?亡霊でも見たか?」
ヴェイルは死体を跨ぐ。
「俺は弱き者が嫌いだ」
「弱者を切り捨ててこそ、世界は強くなる―それが毒帝様の教えだ」
ヴェイルは笑いながらそう言い、俺は手から剣を生成し斬りかかった。
「そんな甘い攻撃……」
俺は消えるように姿を消し、ヴェイルの背後へと移動した。
"影スキル"かつて、アルダを襲った賞金稼ぎから奪ったスキル。
「三つ目か!」
グサッ!!!!
ヴェイルは完全に油断しており、心臓を貫かれ、口から血反吐を出す。
「うぅ!うおぉぉ……うおぉぉお!!!」
しかし、ヴェイルは死なない。
月光の力にて、生命が維持され、それに加え治癒スキルで回復しようとしていた。
ヴェイルは槌を振るい、それを回避すると、風スキルで衝撃波を出してヴェイルを怯ませた。
「このッ……!」
ヴェイルの腹を剣で貫き、距離を取ると同時に投げナイフで攻撃を続ける。
ヴェイルは頭や首にナイフが何本も刺さっていてもなお、笑っていた。
「よく生きてるな」
「貴様もだろう?」
ヴェイルは構え、対となる俺もそれに合わせて構える。
炎が辺りを燃やし尽くし、人の叫び声が耳を震わせる。
この一瞬、世界は静まり、息だけが聞こえていた。
今だ!!
風スキルで一気に背後に回り込み、ナイフでヴェイルの背中を刺す。
「はあぁあ!!!」
ヴェイルは槌を振るい、俺はガードを固めて槌を受け止めた。
ゴギッ!!
「折れたなッ!!」
すると俺は姿を消す。
ヴェイルは辺りを見渡し、目と頭を動かして必死に探す。
「上か!」
ヴェイルは槌を上空に投げ、放たれた槌は俺の腹を殴り、そのまま高く空へと飛ぶ。
「クソがッ…!離れろ!!」
槌の重さと空気抵抗で槌から逃げられず、雲の中に入っていった。
すると、槌が震えているのが全身で感じる。
まさかッ!
ヴェイルは槌を使って自分を引き上げ、俺の後頭部を掴んで思いっきり頭突きをした。
ゴンッ!!
槌を掴み、俺の顎を槌で殴る。
何度も殴り、意識が薄れかけ、追い打ちとして月光の力を存分に与えた槌で俺の胸を殴り、地面に衝突した。
俺は震える脚で立ち上がり、口から血を吐き捨てる。
重い雷のような音が聞こえ、振り返った瞬間、上から放たれた槌を両手で受け止めた。
槌は重く、いくら押してもビクともしない。
すると降りてきたヴェイルが、槌を掴んで更に押し込み、俺は跪いて耐えるしかなかった。
「お前は人間ではない。怪物だ」
「自分の中の化け物を見せてみろ!」
バスッ!!!!
ヴェイルの背から血飛沫が吹き出し、その血は固まり、黒く濁った。
「ごめん、追いかけてたら時間かかっちゃった」
アルダのスキルが発動し、ヴェイルは猛毒に襲われる。
ふらついているが油断は出来ない。
ヴェイルは槌を引き付け、そのままアルダへと投げつけた。
「アルダ!」
アルダは槌を剣で防ぎ、衝撃で吹き飛ばされ、地面に転がる。
「毒スキルか……厄介なスキルだ……」
朦朧としているヴェイルの横腹を殴る。
「ごばっ!!!」
ヴェイルは腹を抱えてうずくまり、顔に膝蹴りを喰らわせ、顔を殴り、地面に倒れる。
馬乗りになると、俺は拳を振り下ろし続けた。
ゴッ!!!!
ゴッ!!!!
鼻は潰れ口から血を噴射し、返り血が顔を濡らす。
ヴェイルが槌を呼び出すと、俺は重たい槌を掴み、勢いに乗ったままヴェイルの顔に振り下ろした。
グシャッ!!!!!
顔は陥没し、隙間風のような小さな呼吸が聞こえる。
「はあっ!!はあっ!!!」
こうして抗っていたヴェイルの手は動かなくなった。
辺りは焼け野原になり、もう町とは言えない。
死体が焦げた酷い匂いだけが充満しており、声はまだ微かに聞こえる。
「背中が……」
アルダは腰を抑えながら立ち上がり、騒ぎを聞きつけた兵隊が馬に乗って来ているのを見つけた。
「カイ!早く逃げるよ、兵隊がこっちに来てる!」
「……そうだな」
顔を拭い、血溜まりに反射した自分を見つめる。
そこに写っていたのは、人間じゃない。
「"お前は人間ではない。怪物だ"」
その言葉が何度も繰り返され、アルダのビンタで目が覚めた。
「早く逃げるよ!」
「あ、ああ」
立ち上がるとそのまま地図通り、北の湿地の先へ向かう事となった。
森にて、捜索をしている兵隊から逃れる為、土砂降りの中、暗く冷たい洞穴の中に身を潜める。
「痛い?」
「平気だ」
治癒スキルを使い傷を癒す。
アルダも同様左腕の骨折を治し、両手でしっかり剣を振れるのを確認して、やっと一息ついた。
「それにしても、ほんと魔力量多いね」
「そうなのか?」
「私と比べたらね」
アルダは荷物から布を出し、髪を拭く。
そして追われていないか、洞穴の外をチラチラ確認をする。
不安なんだろう、目が泳いでいる。
「雨で俺達の証拠は残っちゃいない。安心しろ」
「うん……大丈夫だよね」
雨で濡れて多少は血が落ちたが、やはりまだ残っている。
全く落ちずにイライラしていると、アルダが使っていない布を取り出し、俺に差し出した。
「使っていいよ」
「血で汚れるぞ」
「別にいいよ」
布を受け取り、アルダは地図を開いて、現在地にペンで印をつける。
「ここからちょっと歩いたら湿地に辿り着く。そこを抜ければ目的地なんだけど……」
アルダは湿地を指差し、俺の方を見て注意深く言った。
「夜の湿地は特に魔物が多いの、それもかなり強い個体」
「雨ともなれば更に多いでしょうね。だから朝になるまでここで待機、いい?」
「丁度休憩したいしな、流石に身が持たねぇ」
アルダは荷物から魔道具の布を取り出すと、それは寝袋となり、床に敷いた。
「実はこれ、一枚しかないんだ。どうする?コイントスで決める?」
「アルダが使え、俺は地べたで寝れ慣れてる」
「オッケー」
アルダは少し気まずそうに返事を返すと、魔力を消費して疲れたのか、すぐに寝息を立て始めた。
目を瞑ればあの日のトラウマを思い出す。
今夜は寝れそうにないな。
そう、俺は洞穴から外をただただ眺めていた。
その夜は雨の音と、冷たい風の音だけが聞こえていた。




