第10話黒霧の町
アルダの指先はまだ痺れて、剣を何度も掴み直し、俺はスキルの使いすぎなのか、酷い頭痛が鳴り響く。
「カイ、大丈夫?」
「聞こえねぇよりかマシだ」
2人は笑いながらも、脚はフラフラとしていて疲労が見えていた。
「女が言ってた情報、確かなのか」
「従順そうだし……罠かもね」
「"黒霧の町"、"獣谷"か」
「右腕は槌使い"ヴェイル"。元王国軍の将」
「次は人間の化け物か」
そうして2人は黒霧の町の方向へと歩き、川沿いから離れた森の付近にある集落へと訪れた。
「宿を借りよう。とりあえず、俺は寝たい」
「倒れた時に寝てたくせに、まだ寝るの?」
「そうだよ」
集落へと入るとなにやら不気味で薄暗い。
村人や、商人は怯えており定期的に辺りを見渡している。
すると衝撃的な光景にアルダは言葉を失う。
「見せしめか」
逆らったであろう村人達が首を括られ吊るされており、カラス達が死体を貪って酷い臭いが充満していた。
「夜に出る。あの人に言わないの?」と子供が言いかけると、その母親は急いで口を手で塞ぎ、家の中へと慌てて帰っていった。
「今は宿を借りて休も?私は情報屋に話を聞いてくるからさ」
「ああ」
宿屋へ入り、そこでも不穏な空気が流れていた。
酒を囲んでいる輩は皆、武器を携えていて入ってきた2人を睨み付け、酒を口に運ぶ。
看板娘はその様子に酷く怯えていて、表面上は笑顔でも酒を注ぐ手が微かに震えていた。
「俺は先に部屋を借りる。お前は情報屋へ行ってくれ」
「わかった」
そして俺は階段を上がり部屋へ、アルダはそのまま宿を出て、情報屋へと向かう。
左腕は少しでも動かせば嫌な音が鳴り、時間が経っても痛みは冷えない。
左腕の痛みがズキズキと響くたび、俺は自分の無力さに苛立つ。
こんな状態で敵に立ち向かえるのか、少し不安になる。
「処置は後でいいや」
小さく呟き辿り着いたのは名のある情報屋だった。
各町に配置されていて、理由は過去の英雄が手掛かりにしていたからだそうだ。
こんな集落にあるのは予想外だけど、私もかなりお世話になったことがある。
情報屋に入ると真っ先に声をかけた。
「ルーピンさん、いますか?」
辺りを見渡すが誰もいない。
すると何1つ変哲もない扉が光りを出しながら開かれ、短い髭に体格のいい男がやってきた。
「おっ、アルダちゃんじゃん」
放たれる言葉や、体臭から酒臭いルーピンに思わず顔をしかめる。
「もー、ほんとにもう……」
と呟きながら、鼻をつまむ。
「酒臭かったか?いつものことだろ」
「ルーピンさん、あなた一体何処から出てきたの?」
「この魔法の扉から出てきたんだ」
「待て待て?毒帝の場所には行けないぞ?」
ルーピンは軽い冗談をアルダの耳元で囁き、アルダは酒臭さで思わず後退りをした。
「ほら、何が聞きたい?金は高けぇけど」
アルダはセレスが言った情報を話し、ルーピンはそれを聞くと辺りをチラチラ確認して答えた。
「「処刑人シアンは、この先の獣谷にいる。隣国の砦を乗っ取ってるらしい」
「砦?」
「ああ、王国軍時の手下達を仕えているんだとか」
砦、そう聞くとかなりの大勢だと予測が出来る。
「1人じゃ、ちと無理なんじゃねえのか?あんな大勢、勝てる見込みは?」
「正直、無理かも……でも、やらなきゃ先に進めない」
「なら正確な地図がいるだろ?」
ルーピンは散らかった部屋から探し始め、紙が詰められているタンスを開けると、そこから一枚のシワが入った地図を取り出した。
「ほらよ」
アルダは地図を受け取り確認する。
地図を見ると、北の湿地の先、砦の前に町がある。
「如何にもって場所ね」
「そうだ。砦の近くの町に酒飲みのやべぇ奴がいるんだと」
「気をつけておくよ」
アルダは地図をしまい、情報屋から出ようとした時。
ルーピンが何かを呟いた。
「伝承だと、俺の祖先が英雄の手伝いをしたんだとさ。俺はその名を受け継いでる」
「名に恥じない活躍をしろよ」
「はいはい」
扉を手に掛け、外へと出て、カイが寝ている宿の部屋へと戻った。
「はー疲れたー」
アルダは本を読んでいる俺の側に寄り、何を見ているか覗き見する。
「何見てるの?」
「医学の本だ。治癒スキルを身に付けたい」
「へぇー、熱心だねー」
アルダは汚れた重ね着を脱ぎ始め、ベットへと放り投げる。
「お、おい」
「えー?なにー?普通に水浴びしてくるだけだよ」
「……水浴び?」
「そう、カイも結構臭うから、私が上がったら入って」
アルダは部屋の奥へと向かい脱衣場へと向かった。
俺は自分の腕や脇ら辺に鼻を近づけ匂う。
長旅で汗をかき、人を斬ったせいか、アルダが言った通りかなり臭う。
「入るか…」
そうして日は消え、月が夜空を照らした。
食事がてら、酒場へ向かう。
外は夜風が冷たい。酒場の扉を押すと、中からは人々のざわめきが漏れ聞こえた。
こんな町でも、誰かの日常がある……と少しだけ安心する。
辺りはガヤガヤしており、目につくのは浪人か、盗賊か、法から背く輩しかいない。
「ご、ご注文をお伺いします」
「旨い酒を人数分!」
「かしこまりました」
店員の声は震えており、浪人達は別の席にいる冒険者にヤジを飛ばし、冒険者達は怒りと怯え顔を歪ませ必死に堪えている。
「注文は?」
太めの店員が飲み水を出して言い、手に伝票版を持ちながら無愛想な態度で言う。
「私はこれ、カイは?」
目についたのはポテトフライ。
俺はメニューに指を差し、店員はメモをしてキッチンへと向かった。
「ねぇカイ」
「ん?」
アルダは辺りを見渡し、ある紙を出す。
「情報か」
「毒帝がいる場所を示した地図よ」
地図には現在地と森を切り開いた先にある砦、その前にある町が写されていた。
「この砦に毒帝がいるらしいの」
そして前の町を指差す。
「この町にはなにやら悪い噂がある酒飲みがいるらしい」
「へぇ、酒飲み?」
「そう、情報屋が言うには、気をつけろだって」
「わかった。じゃあ明日は休憩を取って、明後日にはここを出て向かおう」
「そうね」
計画を話していると注文が届くと、店員は皿を放り、そそくさと厨房へ走る。
「無愛想だな」
「適当な酒場だしね、しょうがないよ」
運ばれたポテトを食べ、水を飲む。
酷い味だ。
そう思っていると、アルダはなにか話したげそうな態度を取り、俺は食べるのをやめて顔を向けた。
「あなた逃亡囚だからさ、捜索されるからその時はどうするの?」
「そん時はそん時だ。今は毒帝だけ考えればいい」
2人が食事をしてしばらくすると、酒を飲んでいた浪人らが隣の冒険者となにやら騒ぎ立て始めた。
「さっきからなんなんだよ!!」
「お客様困ります!」
店員が急いで止めに入るが浪人らは言うことを聞かない。
それが火に油を注ぎ、浪人らは店員を蹴り飛ばすと男の冒険者の胸ぐらを掴んだ。
「や、やんのか!」
冒険者は慣れない大声で言い、隣にいた魔術師や僧侶が止めに入り、かなりの大事となっていた。
「熱くならないでくださいよ!早く出ましょ?」
浪人はニヤニヤと嘲笑い、それを見せ物として楽しんでいる。
「女に囲まれてハーレム気取りか?お坊ちゃんよ、見る目がないのに気取りやがって」
「なんだと……!」
冒険者が剣に手を添えた瞬間、浪人の刃が冒険者の胸を切り裂いた。
壁に血飛沫が走り、冒険者の仲間が襲いかかる。
「やるぞテメェら!ぶっ殺しちまえ!!」
浪人はテーブルを蹴り、皿と杯が宙を舞った。
剣を引き抜き、酒場は瞬時に血と怒号で満ちた。
その様子を見ていたアルダは剣を掴み、俺に言う。
「カイ、止めるよ」
「……金でもいただくか」
義理はないが…そこまで嫌な奴じゃない。
手に剣を生成し、背後から斬りつけた。
「お、おい!関係ねぇだろ!」
浪人の剣を受け流し、次々へと斬り伏せる。
あっという間に片付き、アルダが抑え込んでいる浪人にナイフを投げ、この場を収めた。
「お前平気か」
アルダは左腕を抑えていて、無力さのあまり、唇が震えていた。
「へこたれんなよ、お前らしくない」
そう言うとアルダは深呼吸をして落ち着く。
「なあ、アイツが来る前にさっさと帰ろうぜ」
「そ、そうだな!」
すると冒険者達は斬られた男を抱えると、酒場から逃げ出し、看板娘の店員が近づいてきた。
「本当にありがとうございます!ですが、もう夜なので帰られては……」
娘が言った瞬間。
酒場の扉がゆっくりと開いた。
「夜に出る」子供が言っていた言葉を思い出し、俺は身構えた。
「夜明け様!今は散らかっていまして……!」
あの無愛想な店員が頭を下げながら言い、男はゆっくりと酒場へ入る。
髭面で30代。ローブを羽織っており、腰にはハンマーの魔道具が下がっている。
月明かりを背に、まるで闇から現れたようだった。
「俺のバカが世話になったな」
男は斬られた浪人を蹴り、そのまま歩いてカウンター席へと座った。
「……ヴェイル」
アルダは呟く。俺も思い出す。夜にしか現れない槌の使い手―ヴェイル
即座に男の前にここの店主が現れ、慌てて酒を作り出す。
「今夜はこの町、少し荒れるかもしれんな」
「は、はい?」
「そいつは毒帝様を狙う女の仲間でクビに金貨7枚がつけられてんだ」
店主が出した酒を飲み干すと、男は俺を睨み付けた。
ローブを払うと、腰につけたハンマーは月光の輝きを見せ、昼間には決して見せない光りが店を照らす。
そして手に取った瞬間。俺に向かって投げつけ、ハンマーは俺を巻き込んで壁を破壊し、外へと放り出された。
「カイ!」
アルダが大声で言うと男はアルダの腹を殴り、アルダは壊れた壁から外へと放り出され、俺の横で倒れた。
「そのクビ……いただくぜ」




