第9話音を取り戻す者
2人は異様な女と対峙する。
スキルの使いすぎで聴覚を一時的に無くした俺は、視覚で戦おうと変化させる。
「あなたのその感じ、自分の部位を強化するスキルね?」
すると女は俺に手をかざし、スキルを使った。
「絶影」
俺は突如、暗黒に閉じ込められた。
分かるのは隣にいるアルダが話す時の空気の振動。
暗闇に閉じ込められ、耳も聞こえない。そんなパニック状態で俺は直感で感じた。
奴に目を奪われた。
アルダは俺が膝から崩れ落ち、佇むところを見ると困惑する。
「あなた、一体なにしたの?」
「私のスキルは絶影って言ってね、五感を使えなくさせるの」
「彼は今、耳と目が使えない。暗闇の中よ」
それを聞いた瞬間、アルダは剣を構え、女に向かって走り出した。
女は腰から鎖鎌を取り出し、中距離から重りを振り下ろし、アルダは上手く近づけない。
「私はセレス、毒帝様の仕える駒よ」
「あら、名乗るのね。あのゴミの手下とは思えない」
アルダが適当な挑発するとセレスは血相を変え、般若のように顔を歪ませた。
「私は医者なの、捕まえ次第、いじくってあげるわ!」
セレスは鎖鎌を持ってアルダに接近し、重りを振り、土はへこみ宙を舞う。
アルダは一気に距離を縮め、セレスに向かって剣を振るうが、セレスは鎌で剣を逸らし、アルダの横腹を切りつける。
幸い、傷は浅く、アルダは呼吸を整えた。
「いい?毒帝様は素晴らしい御方なの、肉体は美しくお顔も素敵、どこも欠点なんかないの」
それを聞いた途端、アルダは吹き出した。
「お顔が素敵?私がつけた右目の深~く切りつけたあの傷が見えないの?」
「このッ……」
セレスは怒りを抑え冷静を保つ為に、呼吸を整え目の前にいる女をただの置物だと。
「とりあえず、あなたを捕まえます。毒帝様に捧げるため、私達の為」
「毒帝様の願いを叶える為に」
セレスは鎖鎌の鎖を回し、遠心力を使って鎌が見えない程素早い。
見えない鎌は地面を切りつけ、その度に土埃が舞う。
「来い、手下」
アルダが剣を構えた瞬間、セレスは鎖を振り下ろし、月光で光る鎌の刃がアルダの頭上に振るわれた。
速い……でもこの程度の攻撃ならすぐ距離を縮めてぶっ叩ける!
アルダは恐れず前に出て鎌を避け、そのまま丸腰のセレスに向かっていった時。
鎌は突如引かれ、背後から迫る鎌はアルダの剣に鎖と共に絡まり、物凄い力で奪い取られた。
「なッ!?」
アルダの剣は鎌と共に宙を舞い剣はセレスの手元。
アルダからセレスまでかなりの距離があり、武器を取られた以上、丸腰で奪いに行かなければいけない。
「どうする。丸腰で、間抜けにこっちに来る?」
強調して言う様にアルダは拳を握り締める。
また、剣を取られた……あの剣を、取られた……!
思い出すのは、町を燃やし人も殺し、女子供関係なく無惨に殺していく。
父の形見を手に握り、不意打ちをして受けさせた右目の傷。
簡単に武器は奪われ、そして幼い自分を殴り蹴り、挙げ句の果てには磔にされ、斬り殺され燃やされたみんなを眺めさせられる。
1人、指が動く幼子がいた。
だがアルダはただ、眺めることしかできなかった。
縄が劣化していたおかげで手首の拘束は解け、町の酒で乾杯をしている手下に、奪った父の形見で次々へと寝床を襲う。
そんな過去を思い出し、アルダは腰に下げた短剣を引き抜いた。
「かわいい武器……奪ってごらん?」
アルダは声を上げ奮闘し、短剣1本でセレスに向かって立ち向かう。
鎖に繋がれた重りを躱すと、セレスは動きを変えて、アルダに重りを振るう。
腕で受け止め骨に響き、左腕が激痛で動かない。
セレスは鎌を振り落とし、アルダは避けて右へと走り出す。
こうすれば、攻撃は制限され、隙があれば一気に攻め込める。
「なるほどね……」
セレスが太ももに付けている小型の投げナイフを素早く投げ、アルダは胸に突き刺さり勢いの
まま転倒した。
「私が鎖鎌だけだと思った?」
「毒帝の駒よ。毒を塗った飛び道具だって持ってるに決まってるでしょ」
傷口から一瞬で全身が麻痺し、まるで自分の体じゃない。
セレスはポケットから怪しげな筒を取り出し、土臭い液体を飲ませようと倒れていたアルダに近づけた。
一向、俺は暗闇に閉じ込められ抜け出せないままにいた。
耳さえ治せれば……
そう思った瞬間―アルダの言葉が蘇った。
魔力の流れを感じ、巡る血と共に巡らせる感覚……
そして耳の傷を癒すイメージをする。
アルダの教え通り進めて数分後、次第に俺の耳は機能するようになった。
焚き火、風、血が流れる音、様々な音が聞こえる。
ドサッ!!
誰かが倒れた。
一体誰だ?敵か、それともアルダか?
すると女が倒れたアルダに向かって喋っているのがよく聞こえる。
心拍音、筋肉や骨が軋む音。
正確な位置を特定し、手に投げナイフを生成すると躊躇なく俺は敵の腹に向かって投げつけた。
グザッ!!!
「ばはっ!!」
女は刺された痛みで跪き、口から大量に吐血すると地面にうずくまった。
武器が落ちる音が聞こえ、荒々しく呼吸している。
「み、見えるのか……!?」
女はナイフを投げ、俺は避けると同時に宙にあるそのナイフを掴み、女に向かって投げ返した。
ザクッ!!!!
「があぁぁ!!!!」
今度は横胸に刺さったのか、大声を上げ、ごぼごぼと肺に血が溜まり苦しそうに咳と共に血を吐き出す声が聞こえた。
「ごぼっ!ごぼっ!!」
途端に視力が回復し始め、辺りがハッキリ見えるようになると、女がまだ足掻こうと倒れた際に落とした鎖鎌を投げつけ、重りは鈍い金属音を立てて俺の足元に落ちた。
「こ、この……やられてたまるか……」
女は小さく言いながら這いつくばって下がっており、俺は倒れているアルダに近づいた。
「立てるか?」
手を差し伸べるとアルダはゆっくりと手を掴み、弱々しいと思えば急に強く俺の手を握り締め立ち上がった。
「この毒、即効性だけど弱いのね、焦っちゃった」
「無事か」
「ええ、左腕以外」
そして2人は這っている女を追いかけ、焚き火で出来た2つの影を見ると、女は動きを止めてゆっくり後ろを振り返った。
「私はこいつに色々聞きたい」
「こいつのスキルは別にいらねぇ、1つ感覚を遮断するのは別に武器でいい」
取りすぎでまた暴走しちゃったら嫌だしな。
「そんじゃあカイ、逃げれないように縛って」
「ああ」
そうして俺は鉄の太い棒を地面に突き刺し、縄のように編まれている鉄で女の手を縛り棒に固定した。
「ちょっ、ちょっと、本当にやるの?」
セレスは震え声で言い、アルダはセレスの服を脱がし始める。
「隅々まで見てやる。なあに、私が受けてきた事よりかはマシだから」
セレスの顔は恐怖で包まれ、耳を塞いでいても叫び声が聞こえる。
アルダが隅々までセレスを調べ込むと、鎖鎌以外に毒が塗られてある飛び道具や、何処に隠してたかわからない"吹き矢"。
セレスは黒装束と仮面を脱がされ、下着だけとなっていた。
「殺してやる!呪い殺してやる!!」
額に血管が浮き上がり、全身に力を込めて脱出しようと足掻いていた。
情報を吐き出させようとすれば、舌を噛み切って死のうとしそう。
「カイ、吐くかな」
「話さないだろうな」
どうやって情報を得ようかとしばらく考え、ある答えに至った。
「俺達を見つけたなら、類いのスキルがあるんじゃないか?」
「確かに!あっ、でもそのスキル持ってる奴わからないじゃん」
「そうなるよな……そんじゃあ」
俺は女の指を掴み爪に指を当てる。
「爪でも剥ぐつもりか?スキルで手の感覚を無くせばいいから意味ないよ?」
女の指先を尖った爪で引っ掻き、傷を作ると俺はそこに人差し指を強く当てた。
アルダは困惑の表情を浮かべ、ただ見つめている。
「この傷口から鉄を送り込む。肉を裂き、腕の血管まで入り込む」
「いくら部位の感覚を無くせるとはいえ、全身は無理だろ」
それを聞いた途端、女は顔色を変えて真っ青になった。
そしてアルダは舌を噛み切らないように、ベルトを女の口に捩じ込み準備が整った。
「ま、まっ……!」
夜が明ける頃、叫びは止み、静寂が朝を迎えた。
「あの方の居場所は知らない……でも、知ってる人を…知ってるからやめて……!お願いします……やめてください……」
腕まで到達した瞬間、口から体液を垂れ流す彼女はあっさりと情報を吐き、その情報と共に旅の準備を始め、アルダは彼女の鎖鎌を手に取るとここから離れる準備が出来た。
拘束され、力も出ない彼女に背を向け立ち去ろうとすると。
「た、助けてぇ」
枯れた声で言う彼女に口を開いた。
「俺は英雄でも、お人好しでもねぇ」
そして再び歩きだすとアルダが彼女の方を向き言った。
「殺してきた奴に謝りながら死ぬんだな」
そうして俺達は毒帝の右腕である、ある男の居場所へと向かった。




