プロローグ
目が覚めると、見知らぬ木造の天井を見上げていた。病院でも夢でもない。周囲を見渡すと、自分の手は赤子になっていた。
――一体どういうことだ?
思考を巡らせるが、答えはひとつしかない。
俺は転生したのだ。
家に帰る途中、スマホに集中しすぎていたせいか、建物の上から落ちてくる物体に気付かず頭を強く打ったのだろう。
気が付けば、暗闇から赤子として目覚めていた。
体は重く、立つこともままならない。窓から差し込む光が朝を告げていた。
母や父に会いたい――不安で胸が詰まる。
左のベッドから軋む音がした。
体を伸ばす女性の声。慣れない体を動かすと、そこには赤子の母親らしき女性がいた。
鮮やかな金髪に青い瞳。絵本に出てくる理想的な西洋人だ。
母親は揺りかごの俺を覗き込み、父らしき男性もそばで微笑んでいた。
俺、どうやって生きていこう…
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時は流れ、俺は3歳になった。
「カイちゃん、行くよ」
「うん」
母の手を握り、外へ出る。秋の空気が頬を撫でる。
俺は考える。
もう前の世界には戻れない。ここで生きるしかない。
まずはこの世界を知るため、本を読むことにした。
言語は異なるが、意外と簡単で安心した。
両親が忙しいときは、よく近所のおばさんおじさんの家に預けられる。
今回も、俺はその家に向かった。
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リビングでおばさんは編み物をしながら俺を見守る。
手の届く本棚から歴史書を取り出し、ページをめくる。
理解できない単語もあるが、この世界の大枠はすぐに把握できた。
ここは「スキル」の世界。
生まれると神から与えられる恩恵――力のことだ。
炎や水、錬金術など、スキルの種類は様々。
忌み嫌われるスキルもあり、場合によっては迫害や奴隷にされることもある。
3歳になると教会で神父に鑑定されるらしい。
スキルは力の象徴であり、扱いを誤れば命を奪う危険もある。
階級は「下級、中級、上級、究極、禁忌」。禁忌なら即座に処分される。
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翌日、俺は教会に向かった。
馬車に乗ると、父が手綱を握り、母は手を差し伸べてくれる。
怖いものを引き付けないよう、母は熊のぬいぐるみを渡してくれた。
教会に着くと、神父と2人の修道女が待っていた。
別室に両親を待たせ、俺は神父の前に立つ。
「名前は?」
「カイです」
神父は俺の人差し指に小さなナイフを当て、血を少し採取した。
すると、一滴の血が宙に舞い、紋様を描く。
それは――角の生えた老人の姿だった。
「……これは……」
無意識に声が出る。忌み嫌われるスキルに違いない。
その瞬間、修道女が小さなナイフを神父から奪い振りかざす。
「この悪魔の手先めッ!!!」
騒ぎを聞き、駆けつけた両親が俺を抱きしめた。
母は泣き、父はため息をつく。
俺はただ、手に持っていたぬいぐるみが消えていたことに気付いた。




