久遠の僕と永遠なる君 7話
今日は雨が降っていた。外はとても魔法の訓練をできるような状況ではなかった。なので、今日は室内でゆっくり過ごすことにした。これまでだったら雨の日は先生と沢山話せて、僕はとても嬉し…かった。でも今回は少し違った。当然だ、あんなことがあったんだから。僕を突き放そうとする先生に無理矢理近づいて、あんな顔をさせてしまった。先生は僕のことを許容してくれた。が、突然あんなことを言われて戸惑っているに違いない。僕たちはしばらく気まずい空気の中過ごすことになった。
時は経ち、僕はもう一人前の魔法使いになろうとしていた。今日は晴天、僕は先生から一人前の証を貰って旅立ちを迎えるそうだ。結局、名前のわからないあの感情のことはわからずじまいだった。けど、もういいんだ。今日で先生ともお別れだから…。
「嫌だ!!!」。気づけば、僕はそう言って、証を授けようとする先生を突き飛ばしていた。先生があの時、僕を突き飛ばしたのと同じように。先生は驚きの表情を隠せていなかった。これもあの時の僕そっくりだ。すると、突然僕の視界がぼやけ始めた。目を拭ってみると、自分の手が濡れていた。僕は涙を流していたのだ。どうして?いや、僕はわかっているはずなのに。寂しいんだ、先生とお別れするのが。さよなら、だなんて言いたくないんだ。なのに僕は自分の心を裏切って、寂しくないふりをして「先生っ、僕は…一人前になります!!」と言ってしまった。
あぁ、僕はあの時の先生の気持ちが、この長い間名前のわからなかった感情の名前がわかった。この感情の名前は"愛"だ。僕は先生に愛情を感じているんだ。僕は先生を親だと感じているし、烏滸がましいとは思いつつも、自分の教えを説いた雛のようにも感じていた。先生に「感情」というものを理解してもらえるように、そっと少しずつ導いたーそんな気持ちがあったからだ。
そして、愛の最大の特徴は、その感情に素直になるのが難しいこと。あの時、先生が僕を突き飛ばしたのも、今、僕が先生を突き飛ばしたのも、この「愛」が僕たちをそうさせたんだ。ここまでがわかって、不思議と僕の心はすっきりした気分だった。しかし、尚更僕の澄んだ心には「先生と離れたくない」という気持ちが重くのしかかっていた。すると、先生は「私と離れたくないんですか?」と僕に聞いてきた。え?!どうして僕の気持ちがわかったの?もしかして、今の僕の心の声が口から出てしまっていたのか?どうしよう、すごく恥ずかしい。僕は赤面してしまった。あぁ、これもあの時の先生と同じだ。僕は「そう…です!そうですよ!僕は先生とさよならしたくありません!!もっと先生と一緒にいたいです!」と答えるしかなかった。僕は涙をポロポロと流しながら先生に縋りついた。先生は僕に提案した。「それなら、私の弟子になりませんか?」一瞬、僕の思考は止まった。が、僕はすぐさまその意味を理解し、「もちろんです!先生!!いや、お師匠様!!!」と元気よく返事をした。先生は照れくさそうに「師匠…ですか」とつぶやきながら、それでも嬉しそうな様子だった。
家に帰った僕たちはいつものように寝る準備を始めた。今まで通りの生活がこれからもずっと続いてくれるなんて…嬉しすぎる。僕は思わず笑みがこぼれた。だけど、僕のその表情はすぐに赤面へと変わった。だって、僕とお師匠様は同じ気持ちなんだ。僕はお師匠様を愛している。なら、僕と同じ気持ちのお師匠様は僕のことを…と考えていたら、僕の顔はますます赤くなっていた。僕はお師匠様とお互いの気持ちを確かめてみたくなった。僕が素直になれば、お師匠様も素直になってくれるはずだと思った。僕はお師匠様に「お師匠様、僕…お師匠様のことが好きです。僕、お師匠様と一緒になりたい」とできる限りの勇気を振り絞って言った。「わ、私も貴方のことは好きですよ、しかし弟子と師匠が…そんなこといけませんよ」とお師匠様はだんだん僕の方から顔を背けて言った。お師匠様の答えは僕の予想していたものとは違うものだった。僕はこんなにも素直になったというのに!僕は悔しくも、悲しくなった。でも、これは僕の力不足だ。お師匠様を素直にできなかった僕がいけない。悔しい…!なので、早速僕はお師匠様のベットに潜り込み、今日からお師匠様と一緒に寝ることにした。必ずお師匠様を僕のものにしてみせる!と決意を固め、僕は眠りについた。