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八話


 ルーナの母は、美しい人だった。

 言い換えれば、ただ美しいだけの人だった。


 成り上がりの男爵家から、王妃となった母だったが見た目だけしか取り柄の無い女は、各地から集められていた側室達により、事実無根の罪をあげつらねられ父に見捨てられた。 


 嘆くだけの弱い女などいらない。

 それが、父が母に向けた、最後の言葉だった。


 父の言葉通り、心はとても弱かった母は、その後一度も父に触れられる事無く世を去った。最後まで、男子が欲しいと嘆きながら。


 ルーナは母を救えなかった。

 女子として生まれてしまった事で、名ばかりの王妃だった母の立場を盤石にする事ができなかった。

 母にとって、ルーナは価値がなかった。 

 そして、母を亡くして泣くだけだったルーナは、父にとっても同様に無価値だった。


 自分は、どこに行っても軽んじられる。

 どこに行っても価値がない。


 ルーナは、セライアに来て痛感した。

 結局、自分という存在は誰にとっても等しく価値がない存在なのだと。




 ふと、目を覚ましたルーナは、目にたまっていた涙を拭う。

 母の夢を見た気がしたが、懐かしいという気持ちはわかない。ただ、いつも胸が苦しくなる。

 それを誤魔化すために、寝返りを打とうとして――ひっ、と息を呑んだ。


(どうして、こんなものが……!) 


 ルーナの枕元に、鈍く光る短刀が突き刺さっていた。

 血に見立てたのか、赤い花を串刺しにして。

 一体誰が、どうやって、疑問が頭の中を駆け巡る。


 ここは易々と外部から人が忍び込めるような場所では無い。王宮なのだから。

 何かあれば、誰かがすぐに気が付くはず。

 それなのに、枕元にまで侵入を許し、あまつさえ自分はそれに気が付かなかった事実に、ルーナは背筋を凍らせた。


(外部からの侵入者じゃなかったら?)


 ふと浮かんだ考えは、ぞっとするようなものだった。それでも、違うと否定する事が出来ない。


(どうしよう……)


 ルーナには腹違いの兄弟姉妹がいるが、仲は良くない。誰も彼もが、足を引っ張り合い、互いを消そうとしている。


 そんな中で力の無いルーナが生き延びてこられたのは、彼女自身が無力であるからこそだ。

 脅威にならないから捨てられていたのに、本国を離れた場所で命の危機にさらされるとは思っていなかった。

 

 しかし、相談できる相手がいない。

 ――国から共に旅してきた者達は、誰も彼もが信用できなかった。


(……落ち着くのよ、ルーナ。大丈夫、私は大丈夫なんだから。こんなもの、ただの脅しだわ。取り乱せば、犯人の思うつぼ)


 必死に自身を振り立たせ、たいしたことないと思い込もうとする。


(こんなの、馬鹿馬鹿しい嫌がらせよ。平気、なんとも思ってないわ。だって……――)


 寝台で膝を抱えたルーナは、薄暗い部屋の中、震える声で呟いた。


「……だって、私は強いのだから」


 まるで、自分自身に言い聞かせるかのように、頼りなげに呟いた。

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