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六話


 与えられた服に着替えたルーナが連れて行かれた先は、王宮の外……城下町だった。


「ねぇ、いいの? 私を勝手に外に出したりして……」


 さすがのルーナも不安になって訴えたのだが、騎士は笑顔で頷くだけだ。


「そんなことより姫、噴水の向こう側を見てくれ」


「……え? ――まぁ……!」


 人が大勢集まっているが、それだけではない。どの人も皆、幸せそうな笑顔を浮かべており、いっぱいの花が入った籠を手にしている。

 見れば、中央には一際着飾った男女が腕を組んで立っている。人々は、男女を囲むように立っていた。


「おめでとう!」


 子供の、高く弾んだ声が響くと同時に、鐘の音が鳴り響いた。

 みんなが一斉に歓声を上げ、籠の花を手に取るとパッと空に散らす。花の雨は、中央にいる一等幸福そうな男女に向かって降り注いでいく。

 ルーナにも、その光景がなにを意味しているか分かった。


「結婚式ね……!」


 見ているほうまで嬉しくなるような幸せの構図に、自然ルーナの声が上擦った。

 振り返れば、騎士もまた朗らかな笑みを浮かべルーナに頷いてくれる。


「……なんて素敵なのかしら……」

「皆が楽しく、愉快に笑っているところに行きたいと言っただろう? あの結婚式もそうだが、屋台通りも賑わっていて楽しいぞ」

「…………」


 移動を促されていると思ったが、ルーナの足はどうしてか、そこから動かなかった。

 視線も、幸せそうな二人から外すことが出来ない。


「…………姫は、結婚式が好きなのか?」


 ルーナが、あまりにも熱心に見つめているからだろうか。騎士がまたしても妙なことを言い出す。


「…………違うわ。ただ、幸せそうで素敵だと思っただけよ」

「姫も、結婚するだろう。そうすれば、幸せで素敵な花嫁になれるだろう。なぜ、そんな他人事のような言い方をするんだ?」


 心の底から分かっていないだろう疑問に、ルーナは笑った。

 何故か腹は立たなかった。


「そうね。私もいずれ、父王の命令で誰かと結婚するわ。…………でもきっと、私はあの花嫁さんのように笑えない」


 きっと斬首台に登る罪人のような気分で、見知らぬ誰かと婚礼の儀をあげるのだろ。ルーナは、惨めな自分の姿を想像すると同時に、もっとも……と付け加えた。自分にその程度でも価値があれば、と


「どうして笑えないんだ?」


 ルーナの自嘲を無視した騎士は、なおも問いかけを重ねてきた。

 先ほどまでの朗らかな笑みは消えている。


「どうしてって……」

「それに、誰かと結婚するとはどういうことだ? 内々とは言え、貴方にも此度の縁談の話は通っているはずだ。…………もしかして、嫌なのか?」

「……やっぱり、知っていたのね。…………あのね、嫌もなにも、先に私を拒否したのはセライアでしょう。おかげで私は、ただの邪魔者に成り下がったんだから。……こんな価値のない石ころみたいな女のお守りなんていう貧乏くじを引いた貴方には、少しだけ同情するわ。けれど、私だってそちら側に拒絶されて傷心なんだから、お互い様よね」

「え? 待ってくれ、拒絶なんて、そんなことは一度も……」

「無価値な私と、みそっかすな王子様は、お似合いな無能同士って周りは思っていたみたいだけど、貴方の所の王子様は、一枚上手だったみたい。私に会わなかったんだから。おかげで私は古王国を釣るための餌から、価値のないお荷物に逆戻り。――滞在中、私がやることなんてなにもないから、せいぜい貴方を振り回して溜飲を下げてやるわ」


 ルーナは意地悪い笑みを浮かべて騎士を見上げた。

 騎士はなんだかとても困った顔をしている。

 今になって、大変な任務を請け負ってしまったと後悔しているのかもしれない。


「そうだわ、名前を教えなさい。振り回してやる相手の名前を知らないと、不便だもの」

「…………ディー」


 迷っているような素振りを見せた後、騎士は言った。


「親しい人は、みんな僕をそう呼ぶ。……だから、出来たら貴方にも、呼んで貰いたい」

「…………」


 なぜ、こんな顔をするのだろう。

 ルーナの前に立つ騎士は、切なげな顔をしている。


「……ディー?」


 ひどく落ち着かなくなって、ルーナは誤魔化すように教えられた名を口にした。


「…………あぁ。是非、そう呼んでくれ」


 ルーナの呼びかけに答えるように騎士は微笑んだ。胸を締め付けられるような、美しいけれど憂いを帯びた笑みだった。

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