あなたは答えを知らない
レストランの帰り道、横を歩く可愛い彼女は僕を睨む。その表情も絵になる、なんて悠長に考えてている暇なんてなかった。彼女が怒っている原因を考えないといけない。
「どうしたの?僕なんかやっちゃった?」
言葉にしても彼女はそっぽをむく。教えてくれないとわからないじゃないか。
「謝るよ。ごめんね?」
「なんに対して?」
「えっと.....」
やっぱりプイッと顔を逸らす。横を向いても美人だなぁと感心している場合じゃない。
「じゃあ、ヒント。ヒントちょうだい!」
「そんなものない」
「えーひどいなぁ」
また黙っちゃう。この攻防はいくらか続いているが進展はない。
「なんだ、本当になんだろ?記念日は来週だし、プレゼントは買った。誕生日はまだ二ヶ月も先、今日は予定表にも何もかかれてなかったし、祝日でもない普通の土曜日だし......」
「......」
待ち合わせには僕が先に着いたし、一日怒らせるようなことは言ってない。彼女を見ると、なんか変な表情をしていた。見たこともない顔すぎてめちゃめちゃ可愛い。
「難しいな......。でも君は理由もなく怒るような人じゃないし......」
「ん」
「そうだ。今日じゃないな?」
目を逸らされる。違うってことか。
「誰か別の人に嫌なことでもされた?」
「違う」
「なんでこれだけはっきり否定するの!?」
「だって、変な心配しちゃうじゃない」
「そういうとこ好きなんだよなぁ」
ちょっと彼女が照れる。可愛い。でも何も解決してないんだよなぁ。思いつく限りはもう出尽くしたし、眉間に皺を寄せすぎておでこが痛くなってきた。
「でも」
目を逸らしていた彼女がちっちゃい声で話し出す。
「今日は楽しかった」
ええー今なのデレるとこ?可愛い、じゃあなくて、このままなんかうまく誤魔化せたりしないかなぁ。
「ね、あのレストラン美味しかったよね」
「そっちなの?私は展望台かな」
「ああー確かに。光る床とかスケスケの床とか」
「床にしか興味ないじゃん」
「今の聞いたらその反応も正しいな」
ふふっと彼女が笑う。その時、口を押さえた手が降りてきたのでそのまま掴む。しっかり握り込んで彼女の冷たい手を温めた。
「来週、日曜、空いてるよね?」
俺は空を見て言った。夜に白い雲が流れているのが見える。だがなぜか返事がこない。
「あれ、予定ある?」
「い、いや、ない」
「それにしては歯切れが悪いな」
照れ臭くて彼女の方を向けない。思ったように言葉が出なかったから、頭をボリボリと掻いた。
「その、今回は本気だから」
それくらいしかいえなかった。握っている手が汗をかく。なんか申し訳ないけれど、今更手は離せなかった。
「じゃあ、来週、ね?」
彼女はそういうと手を離す。とてとてと先を走ると、くるっと一周回った。何その所作、可愛すぎんだろ。
その時の表情は見えなかったが、笑ってるような気がした。うまく誤魔化せたか?声を聞く限り、怒っている様子はなかった。
電車の改札に着く。ここで彼女とはお別れだ。「家連れて帰っちゃえよ」もう一人の僕がいうが、それは来週だ、早まるんじゃない!
「じゃあ、また」
「じゃあ、ね」
名残を惜しむように時間をかけ、彼女が改札を抜ける。最後に手を振ると彼女は駅のホームへと向かう。
来週、そう、来週が本番だ。そう意気込んで彼女の背中を眺め続ける。彼女は肩にかけた鞄をかけなおす。コツコツと階段を上がっていく。
ん?
彼女のカバンから何かがはみ出している。飛び出ているという方が正しいか、それは包装に包まれている。
プレゼント?でも僕はもらってないし、これから誰かに会う予定でもあるのだろうか。
浮気....?なんて言葉が浮かんだが、固い意志でそれを拒絶した。だか、今日はずっとソワソワしていたような気がする。理由を考えたけど、今日怒らせた原因と同じくらい何も思いつかなかった。
わからない。わからないし、もやもやする。
もやもやするけど、次会った時にしよう。今考えても何も思いつかないなら僕にできることはない。
あなたは、答えを教えてくれるだろうか?
家に着いた頃、ベットにダイブした私は頭を抱えていた。
怒られるのは私の方だった。
勘違いして彼を睨みつけた挙句、誤魔化して帰ってきてしまった。
「記念日、来週かぁ」
カバンからはみ出したプレゼントを取り出して呟く。
来週あったら彼になんて言おうか、考えただけでも頭が痛い。
でも、どう考えても私が悪い。悪いのに謝罪もないのは私のポリシーに反する。ごちゃごちゃ考えても無駄だし埒が明かない。
ちゃんと、ちゃんと、謝ろう。私の勘違いで怒ってごめんなさいって。
伝えたら彼はなんて言うだろうな。
教えてくれたら謝りやすいのになぁ。