勇気の死恋
ポツポツでは無くザーザー流れ降る雨の中、傘を差さずに一人、死んだ友の墓の前で空を見上げる。
「何してんだよ・・・まだ引きずってたのか」
声のした方を見る、でも興味が無いから視線を空に戻す。
「はぁひどいな、せっかく傘を持ってきたのに、たく、お前の兄様が優しくしてるっていうのに」
雨が止む、空はビニール越しにありムッとする。
「頼んでいないしいらないし」
「風邪引くぞ雪」
「うるさい邪魔」
友達は風邪なんか引か亡くなった。
無くなったが亡くなったになる。
ずっと続くと思っていた毎日が、ある日を境に亡くなった。
あの時も・・・・雨は降っていた。普通のじゃあない血の雨が。
「好きだったんだ」
「知ってる」
雨は止む様子もない。
蘇るのは昔の記憶、友達は笑ってた、最初の出会いは、こうやって私が彼に傘を差していた。
ポロポロと涙が出てくる、隠す様に拭うけど
「ハッ、こっちも雨模様かよ」
鼻で笑いながら、ハンカチを渡される。
「そんな服の袖で拭いたら、汚れるぞ」
うっぐ、うっぐ
彼はスポーツマンだった、天才とは言わず凡人。
普通の番号で運動場を走っていた。泥に汚れていたけど、人一倍頑張る彼がカッコ良かった。
遠い存在から始まった。
叶うことの無い世界に憧れた。
最初は他人からだった、でもある日。
雨が降っていた時に一人、運動場で練習する彼の姿。
「何してるの?こんな雨の中」
声をかけると彼は私の方を見て
「練習カッコいいだろ?」
ニカッと笑うが私は何を言っているのか分からない。
「雨の中で?風邪引いたら終わりじゃん。馬鹿じゃあないの?」
「いやいや俺は馬鹿じゃない、天才だ。天才だから頑張るんだろ?」
「・・・・・・あっそ、じゃあこの傘あげる」
「え、でも」
「貰っときなよ、どうせ安物の傘だし」
ずいっと渡して逃げるように去った。
今思えば少し照れくさかったのかもしれない。
―次の日―
ボーと木陰で例の彼を見ている。
何故か惹かれてしまうのだ。
「・・・・・野球馬鹿」
コロコロ~
汚れた野球ボールが転がってくる。
「あっ雪さん!昨日は傘ありがとう!後で返すね!!!!!!」
大声で手を振る男。
なんで私の名前を知っているのかと
「何で私の名前知ってんの!?きもいんだけど」
「え、普通に君のお兄さんに聞いたけどー!?お兄さんから何も聞いてないの-!?」
「聞いてねぇよ、あいつの名前だすんじゃねぇ!!」
怒りを込めて、投球フォームでボールを投げてやる。
パシッとグローブに綺麗に収まった事がまた気にくわない。
「ナイス~!!!!!!」
「こっちはナイスじゃないわ!野球馬鹿!」
――――――――
「・・・・・最後は確かさ、アイツは純粋だったんだよ」
「確かにな」
「私を見て、子共のようにはしゃいでさ。横断歩道の先に彼はいた。
手だって届いたかも知れないのにさっ!!!!!!」
「・・・・・・・」
ポロポロ涙は流れ続ける。
重い過去を乗り越えるまでが試練だと。
乗り越える勇気を持つのは、きっかけが必要だと俺の人生経験が語る。
(きっかけに関しては俺が作れるそう、俺の能力ならば)
「横断確認してたのにっぐすっ。青信号だったのにっぐすっ。信号無視で彼を奪ったんだっぐす!私の名前だけ言うだけ言って逃げた無い友がずるいし!!憎いよにいさん!!車もアイツも両方憎い」
思いを告げた妹を強く抱きしめる。地面に落ちるビニール傘。
「雪、お前はずっと苦しむのか?俺があいつなら、雪には笑っていて欲しいと思うんだ」
まだ泣く妹、止まらない妹を俺は抱きしめる。
"大丈夫俺は悔やんでいないよ。だから笑って欲しいって伝えよ。お兄さん。あと一つ言いたい事が"
頭に言葉が響く、聴いた事のある声がし、頬を緩める。
(・・・・・分かった)
俺の能力が起動したんだ。死者と生者を繋げる為にこの場に来たんだ。
俺は墓を見る。
「雪、いいかよく聞け、アイツは雪の笑顔を望んでいる。だから」
ガクッと俺は意識を奪われる。
「お兄ちゃん?お兄ちゃん!?嫌だよ、置いてかないでよ!!」
「"ありがとう"」
「え・・・・?」
「"雪。俺はね楽しかったよ、雪と関わる日々がさ!大好きだった"」
「お兄ちゃん・・・・じゃあない?まさか」
「"俺の名前は恋。ねぇ笑ってよ!もう俺はいないんだからさ。俺のせいで悲しむのは嫌だ"」
大粒の涙が私を襲う。
「恋!恋!」
「"大好きだよ!雪!"」
「うん・・・私も嫌いじゃなかったよ!!」
暗い意識の中で、向こうから見知った男が来る。
「ありがとう、お兄さん」
「どういたしまして」
二人は行くべき所へ歩み出す。
それは現実とあの世。
もう会うことも無いすれ違いだ。
俺が目覚めれば空は晴れている。
快晴だ。しかも虹もかかっている。
「お兄ちゃん、帰ろう」
妹の表情は晴れ笑顔という虹もかかっている。
「ああそうだな」
二人は今を歩み出す。
「ありがとうお兄ちゃん。」
「別に」
「ねえ私お兄ちゃんの能力は好きだけど、お兄ちゃん本体は嫌いだ」
良い雰囲気で終るかと思えば生意気な口、まあこれも妹らしさだが
「はいはい、潰す」
妹は俺から逃げ、
くるっと振り返って
「まっ好感度は大きく上がったよって言ったら信じる?」
END