第一話 『死』の王国
─無意味な『死』を許してはいけない
─だが終わりのない『生』はあってはならない
─人の命とは死をもって完成するものなのだから
業火に照らされ紅く染まる夜空を、一本の柱が舞っていた。
その柱は巨大な時計塔の先端だった。天高くそびえ立っていたその塔は、今まさしく『死』を迎えようとしていた。
だがそれを嘲笑うかのように、落ち行く塔の上には『死を否定する者』が群れをなして巣食っていた。
獅子、狼、鷹、鮫。様々な獣の面影を残しつつも異形と化した者達。
その視線の先には大きな耳と尻尾を携えた、男とも女ともつかない端正な容姿の若者が立っていた。
足場は落下、前方には異形の群れ。絶体絶命の状況であったが、されども若者に怯える様子は見られない。
獅子の顔をした先頭の異形が吠え、若者に飛びかかる。それでも若者は動じず。
その拳を獅子の顔面に叩き込み。
獅子の頭は蒼い炎を吹き出し爆散した。
返り血を浴びる若者。その両目は血と同じように真紅に染まっていた。
仲間を『殺』され一瞬、動揺する異形達であったがそれも束の間。仇を討たんといきり立ち、一斉に若者に襲いかかる。
そんな異形達の頭部に若者は次々と手足を叩き込み、爆散させていく。爆炎の蒼と鮮血の紅が辺りを彩っていく。
異形の群れを一掃した若者は時計塔の先端へと全力で駆け出す。もうじきこの塔の命は尽きる。
若者が宙に飛び出した数刻後、塔は地面に衝突し『死』を迎えた。
若者が次に見据えるのは機械仕掛けの巨大な山羊だ。
山羊は角…いや回転鋸を駆動させ若者を擦り潰そうとする。しかし若者は間一髪でそれを避けると片方の鋸をもぎ取り、超常の力で山羊を宙に打ち上げる。
空中で急加速した若者は山羊の体に鋸を押し当て、真っ二つに引き裂く。機械といえども、『死』の運命からは逃れられない。
爆発を背に落下する若者。先程の塔の二の舞になるかと思いきや、掌から発した蒼い炎を地面に叩き付け衝撃を和らげる。
それと同時に、周囲に放たれた衝撃波が異形の群れを吹き飛ばす。
若者が顔を上げるとそこは近代的な建築物が並ぶ広場だった。そしてその中央では、若者と同じく大きな耳と尻尾を持つ女性が巨大な光る鎌を振りかざし一際強大な異形の群れと交戦していた。
若者は一目散に女性の下へと走り出す。
─姉さん。助けに来たよ。
しかし若者は身をもって知る事となる。
愛する人の『死』、それによる『痛み』を。