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三十三章

湖の淵でしゃがみこんで、ボーッと湖底を見つめていた漆黒の瞳が煩そうにウェンディに上がった。


「ギャーギャー騒ぐな。ロジャー達にバレるだろうが」

「あ…そうですね。じゃあ、静かな声で…―ってちがいますっ!!」


頭を抱えて、ウェンディもリチャードの隣にしゃがみこんだ。

これ以上大声を出そうものなら、不機嫌そうな視線に射殺(いころ)されそうになっていたので、渋々ウェンディは声を落とした。


「な・ん・で!殿下がいるんですか?近衛騎士も副官(ロジャー)も連れずに」

「…お前と同じ理由だ」

「…はい?」


まだ分からないのかと言わんばかりの眉間の皺の寄り方をした。


「お前()聞こえたんだろう、あの不思議な声を?」

()?――…あ、あぁ!」


ウェンディもやっと思い当たった。


((…助けて……))


囁くように途切れ途切れに頭に響いた声のことだった。


「あれって…。殿下も聖霊だとお思いですか?」


リチャードは、湖に戻っていた目線をチラリとウェンディに向けた。


「魔術関連のものだというのは確かだ。ああいうものは、騎士だけなどでは、片づけられない分類だろ

うからな。…それより、最初はなから気になっていたんだが、『物騒なもの』を持っている理由はなんだ?」


チラリとマントに隠した短刀に目が行っていた。


「た、ただの護身用ですっ!―――って言うより、『初めから』って、何で分かったのですか?」


王子の探りを入れるような目から庇うように、左手を後ろにして鞘を掌で包んだ。

これはもともとは、父親(スティーブ)から、母親(ソフィア)の形見として貰ったものだった。だが、(つば)についた猫科を思わせる獣の紋章を真っ先に気がついたボルトが、理由こそ言わなかったが、『形見』としてではなく、『護身用』としておくように言っていたのだ。

ウェンディの目線が泳いだことを見ると、ため息をつくように言葉を吐いた。


「服の皺だ。いくら大きなマントを羽織った所で隠しきれるものではない。―――隠すつもりがあるなら、もっと『上手く』隠せ」

「……?」


最後に呆れるような台詞にウェンディは、きょとんと意味を捉えきれずにいた。

そんなウェンディにまたため息をつくと、目線を湖底に戻した。


「ところで殿下」

「…何だ」


じっと湖底に目線は行ったままのリチャードの顔を覗き込んでみていた。

ウェンディの顔は、素できょとんとしていた。


「いや…じーっと見つめて、何が始まるのかな、と思いまして」

「「・・・・・・」」


しばしの沈黙が流れた。

それから、リチャードは眉間の皺を深くして立ち上がった。


「…帰るぞ」

「え?帰るって…」


一度、野営地に向かっていた足をウェンディへと戻した。そして、有無を言わせない迫力のある低い声で吐き捨てるように言った。


「帰る・ぞ!」

「・・・・・・はい」


渋々ウェンディも立ち上がった。

だが、リチャードの方に向かおうとしたが、湖の異変に気がついて振り向いた。

リチャードもつられて振り返ると、それまで静まり返っていた湖が渦巻き始めたのだ。


「お前、早く逃げるぞ!」


通常なら有り得ないその状況に何か危険な感じがして、離れようとした。しかし、遅かった。


「ぃやーっ!」


ウェンディに向かって渦巻きは、手を伸ばしていた。


「くそっ…!」


リチャードは手を伸ばし、ウェンディの伸ばしていた手を掴もうとしたが、何度も失敗した。


((あと少し…!))


やっと掴んだ。しかし、人の力が自然の力に勝てるはずが無かった。

二人は、湖の中へと引きずり込まれていった。



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