三十二章
夜になり、篝火を燈して、見張りの騎士が回る中、寝静まっていた。
そんな中、ウェンディはジンと再び湖に向かおうとしていた。
「よし。今よ」
騎士の視界から見えないようにタイミングを見計らって森の中に入っていった。
(さっきの正体を調べておかないと。何だか…深刻な問題に思えた)
道を覚えていてくれたジンについていきながら、森を進んでいた。
「そういえば、王子も何だか湖の中に興味を持っていらしたみたいだった気がしたけど。何かあったのかな…」
そんなことよりさっきジョージアが言っていたことが気になる、とジンは走りながら呟いていた。
「ああ、『聖霊』のこと?確かに不思議よね」
* * * * * * * * * *
野営地に戻って、夕食をリチャードとロジャー、ジョージアと共にとっていた。
「それで、襲われたという商人の様子はどうでしたか?」
ジョージアはゴブレットに注がれたブランデーを飲みながら言った。
「湖で喉が渇いたから飲もうとして、手を入れたら、毒のありそうな紫色に変化したらしいよ。慌てて手を出したんだけど、毒気のある空気が漂ってきたように感じて、アクィナスに戻ってきたんだってさ。地方道から遠いこの森を何故通ろうとしたのか聞いたんだけど、それには答えてくれなかったな」
ロジャーがパンをちぎりながら、頬張っていた。
「恐らく、幻想でしょう。魔術師か聖霊のどちらかの」
「幻想…ねぇ…」
「レディ・ジョージア。聖霊とは何かお教え願えるか?」
手に持っていたスプーンをリチャードは置いた。
「聖霊とは、元々、木や花、湖。時には動物にも宿ると言われる、魔術の使える《宝石神》の使い魔です。
その中でも何種類かに分かれます。その土地を護るためにいる《守護聖霊》。ただ単に悪戯をする目的のもの《小妖精聖霊》。《宝石神》の使いとして地上界に降りて人間のそばにいるもの《従者聖霊》、の大きくは三つほどに分かれていると言われます」
ウェンディの足元で十分に冷ましたミルクを飲んでいたジンは、急にむせた。
「ちょっと。大丈夫?」
そんな様子を気にした様子なく、話は続いていた。
「今回は人間によるものでなければ、《守護聖霊》か《小妖精聖霊》でしょう」
「その解決策はあるのか?」
「はい。最近、魔術師がアクィナスに現れたことがあったか、尋ねていていただけますか?来ていたとなれば、魔術師を見つけさえすれば大丈夫です。ですが、もし、聖霊だとしたなら…。…古来から魔術師の力が強い者は魔法陣なしで聖霊と交信してきたといいます。それを応用すれば出来ないこともないかと」
「では、よろしく頼む。ロジャーは、夜が明けたら魔術師のことを聞きに回ってくれ」
「了解っ」
最後の一欠けらのパンをポイッと口に投げ込んで、ロジャーは立ち上がった。
「じゃ。僕、寝るから」
「相変わらず就寝時間が早いな。寝ても背は伸びないと思うが?」
「余計なお世話だいっ!」
長身のリチャードの皮肉にロジャーは、頬を膨らませてテーブルから離れて行った。
ふとウェンディの頬に風が当たり、先ほどの湖の澄んだ香りが不思議と感じられた。
「ねぇ、ジョージア。聖霊って…喋ったりする?」
「いや、そんな例は聞いたことはないが…。だが、魔力が強いか聖霊が許した相手になら聞こえるかもな」
「「…聞こえるかもしれない……か(ですか)…」」
リチャードとウェンディの声が重なったことにジョージアは驚いていたが、当の本人達はそんなことには気がつかず、互いに湖のある方向を見つめたまま腕を組んでいたのであった。
* * * * * * * * * *
「いくらダーウィンが国境に近かったからと言って、伝えられてることが同じだとは思っちゃいけないのね、やっぱり。聖霊ことなんて、聞いたこと無かったわ」
はぁ、とため息をつくようにとぼとぼ歩いていた。
ガサラはサファルと違って《魔術》を使うやつがそうそういないからな、と絶えずキョロキョロしているジンは真剣な声色で告げた。
「そうよね。……あれ。『そうそう』ってどういうことな――」
ジンとの会話を続けようとしたが、目の前の湖の近くに人影が見えた。
ウェンディは、腰に付けていた護身用の短刀に手をかけた。しかし、ジンは警戒した様子なく、逆に滅多にやらない『にゃー』という鳴き声まで出した。
「ちょっ…!馬鹿、ジン!!」
だが、目の前にいた人物にウェンディは唖然とした。
「り、リチャード殿下?!」
・・・短くてすいません。
フリッツ:本当だ。しっかりしろ、こののろま作者。
す、すいません。・・・ていうか、あなた今回出てませんよね?
フリッツ:むっ。出ていないから、ここに出ているのではないかっ!
あ・・・すいません(今回三回目)。ご感想・ご指摘お待ちしております。
フリッツ:ウィンディが消えて暇すぎるっ!!