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オイリーガール Ⅱ  作者: しきゐこづゑ
ようこそ旧車の世界へ!菜々緒の車選びの第1章
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第6話 やっぱりポルシェでしょ?

 菜々緒の冀求を汲んでそして其の'深度'を推しはかり見極めると、古い車とお付き合いしてゆくその上で肝心な幾つかのこと……老整備士は滔々と、このうら若き入門希望者相手に語り出す。可能な限りわかり易いよう



「興味本位、ファッションなんかで'入門'するのも勿論ひとつのキッカケじゃが、余んまり過度の期待をしてしまうとの、その落差は大きくてのぉ、ほりゃ? 恋愛・結婚なんかと一緒じゃ。現代いまの車と比べてもの、パワステなんぞ付いとらんし操作性とか快適性なんかは欠如しちょるし運転し辛い。飽く迄も古い機械じゃから故障もしよる。水温計・油温計と睨めっこしたり、壊れないかビクビクしながら乗ったり、果ては急に止まって立ち往生なんて事も起こり得る、のぅ?才子や?


 ……で、だんだん思い描いてた理想像=颯爽とした旧車ライフとやらとのギャップに苛まれてストレス溜まる様なって、お金もようけ出て行きよる。結局は耐えきれん様になってお別れ……離婚。ドナドナじゃ。


 あ、ドナドナはほれ? 例の売られていく儚いロバじゃったか?仔牛じゃったか?荷馬車ならぬ積車に乗せられてサヨウナラという意味じゃな。


 ま、これも恋愛と同んなじで盲目になっとる時はそんな忠告も馬の耳にナントカじゃがの。特に猪突猛進の菜々緒ちゃんなら殊更じゃろ? 違うかい? ほっほっほっほ……まぁある程度の覚悟は必要って事じゃよ」



 残った泡を一息に飲み干しコップを置いて、そして続けた。


「……それでもの、コンピューターで完全に制御されてて、況してや自動運転!なんて今の時代の車と比べればの、キッチリ整備されて手の入ったシンプルな構造の昔の車は実に正直じゃよ。よりダイレクトとでも言うかの?人馬一体じゃ」



「人馬一体……」


 随分古めかしい表現だと思ったけど、確かにあのサーキットで同乗した才子の912にはワクワクする様なそんな挙動があったし、三浦半島の海岸線をゆったり流した倫士のウチの優雅なSL。共に性能云々ではなく自分のボクスタースパイダーとは全く異なるベクトル上にあると謂えよう現代の車では《《絶対に味わえない何か》》、風情・贅沢さの様なもの。ただ効率よく高性能なだけでは語れないそんな所に惹かれたのは確か(…それとチョットばかしの値上がり期待)だと菜々緒は思った。



 「で、何か具体的な候補はあるわけ?やっぱりその……SLとか?」


 森が尋ねる。



 ボクスタースパイダーを買った時も、どうしていいのか判らなかったから取り敢えずその時の彼氏に引退交流戦インコー後の車中で才子への対抗心からメーカーだけ訊いて、父親にディーラー繋いで貰い何も解らないまま、訪れたショールームで偶々「こんなのもあります」と紹介された本来手に入る筈もない希少車をその場の閃きで即決して強引に廻させた。だからモデルとか車種の知識なんてある筈もなく、況してやどうやって買うかすらも分かっていないのであった。


 ただひとつ、


 あの高校生活最後の数ヶ月間、それまで味わう事もなかったスリルや興奮、充実感を齎してくれた上に長年に渡る幼馴染みとのすれ違いと確執さえも取り去ってくれた、そのキッカケを作ってくれた'存在'……尚且つJapanese real Sailor Moon soldiersとして全世界に名を轟かせたから!……を第一候補として選びたかった。



「それは、やっぱりポルシェ!でしょ?」



「ポルシェ……か? ヴィンテージカーの括りを何処までって問題はあるけど、大まかに356、征馨さんの911、国松の912にシゲルコちゃんの914辺り」


「数字で言われてもわかんないわ」


 森はすかさずスマホで画像検索し差し出したので、つらつらと眺めた菜々緒はその内の直感的にピン!ときた一枚を指し示し「これは?」と訊いた。サングラス掛けた白いTシャツ姿のラフな感じの若い男性が脇に佇む銀色の丸っこいオープンカーのカラー写真、ボンネットには130番のゼッケン。


「う?コ、コレ?……さ、流石にお眼が高いね? ジェームス・ディーンの550A スパイダー。海外オークションで数億単位で取引きされてる、ちょっとコレは乗るって言うよりコレクターアイテムだよ。レプリカもあるけど……」


「へぇ〜?ジェームス・ディーン? 名前聞いたことある」


「ちょっと曰くつきなんだ。この車で事故って亡くなってる。しかもその後もこの車体やパーツに纏わる不幸が続いてね、何人も亡くなったり大怪我したり最後は残骸が忽然と姿を消す……って言う」


「それは何か薄気味悪いわね?それに数億?確かにチョット非現実的ね? ……この赤いのは?」


「356だな?」


「……う〜ん?なにか写真じゃピンと来ないな。どっかで実物纏めて色々見れる所ないかしら?」


「近くのショップか、じゃの?それこそ横浜の方なら底々ストックしとるもあるがの」


 そんな森と菜々緒の遣り取り眺めてて爺ちゃんは業者間ネットワークで知り合いのクラシック系のショップを紹介することも吝かではないとは言ったが、残念乍ら都会限らず点在する特化した品揃えのお店とは異なり数少ない地元・近郊のお店はやはり若干在庫台数も限られてくる。


 あ!


「そうだ!シゲルコのなんとかってサークルの叔父さん方の集まりとかは?確か全部クラシック・ポルシェだったよね?」





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