第22話 悪夢のベイビードール・・・
……案の定、おじさんは散々キレたが今度は自分からシールド閉めた馬耳東風に呆れて最後は飲みかけ置いとくな!って瓶持って出たら、丁度帰って来たばかりのおばさんと鉢合わせして、酒瓶下げて肩組んでご機嫌なお年頃の娘達に呆れられたけど、何時もの無視か素っ気ない態度じゃあなく菜々緒は酔いを装って「お疲れ〜」とかなんとか言ったもんだから、おばさんキョトンとして目を丸くしてた。
鼻歌混じりの菜々緒先頭に玄関入って、靴脱ぐ時何気なくチラ……と振り返った家政婦、いや私は見た!おじさんとおばさん手ぇ繋いだりなんかしとった!ふ、と私の視線に気付くとその手はすっと離れたが、私は心中で口角あげたけど見なかったふりして菜々緒にもその事は告げなかった。
……
「はぁ〜気持ちよかったぁ、ようやく汗流せたわ」
10年振りくらい?の菜々緒の部屋。瓶の残りと夕食残骸。念願のシャワー浴びてスッキリはしたけど何か急にお酒回ってきた感じ?さっきの出来事と合コン話のW昂揚、そして……貸してくれた真新しいやけに布面積の小さいパンツ、そしてこれは?ベビードール?ってのか?サラサラのシルク?やん!透けてるトコあるし。もう何か修学旅行並のハイテンションだ。
「で?どういった趣向?」
「……ん、横浜の、彼。お友達と軽井沢で過ごした後、折角だからこっち迄足伸ばそうと思うんだけど会える?都合どうかな?って」
「わざわざ?そりゃもう完璧惚れられてるな?」(くそぅ羨まし!*心の声)
「で、どっか楽しそうな泊まれる所あるかな?って訊かれたけど田舎だからそんな気の利いたトコなんてないわよ?って言ったら自分達で探して予約取っちゃったみたい。何か最近オープンした新しい所ですって?」
「へぇ〜?何処?」
「ちょっと待って、え〜と?エル、パライーソ?山の方ね?あなた知ってる?」
「Lパーラー・磯?なんか海の家みたいな名前やな?知らんよ」
「自然遊び、グランピング出来るんだって。ってこの辺ってそれ以外何にも取り柄ないけどね?」
「んだんだ」
「都会の子はそんなんがいいみたい。友達呼んで皆んなでBBQでもしようよって」
「……で?何人来るん?」
「倫士くんと後2人」
「3対3か?で?こっち後一人は誰呼ぶん?」
「う〜ん?全然考えてなかった」
「あんた友達少ないしな?ひっひっひっ」
「うるさいっ!あなた外すわよ?」
「ひ〜冗談、冗談!お許し下されお代官様ぁ〜!」
「でも、確かにそうね?もう一人誰誘おうかしら?あなたと私共通の……」
「シゲルコとか?」
「繁子?あの娘、オトコ駄目でしょ?」
「でも可愛いし、男ウケしそうやろ?盛り上げも上手いし。コッチもある程度レベルの戦力装備しとかんと"菜々緒ちゃんの地元のトモダチって田舎臭いコばっかじゃん?クスッ”とかなったらあんたも面子ないやろ?」
「そ、そうね?確かに一理あるわね?でも私は別として、繁子モテたらあなた困らない?」
「そ、そりゃあ……確かに困る。困るけどここはやっぱ涙飲んでチーム最優先、ワンフォーオールだ!こん町の女のレベルん高さ見せつけたる!」(*と言いつつ、表面上は3番手甘んじても、絶対シゲルコは男の子にたなびかない確信・打算故の狡猾な余裕だった)
「あなた、なんか異様に気合い入り過ぎてない?ちょっと怖いわ……って言うか?発想がさっきのパパのあの決闘の昔話と同んなじレベルだと思うけど」
「そんな事、どうでもいい!ほら!早うLINE、LINE!」
「……」
『繁子、お久し振り 先日はありがとうね』
『やぁ〜!菜々ちゃん久しぶり〜❛ᴗ❛』
『ところで早速だけど』
『なになになに〜?』
『8月XX日空いてる?』
『なになになに〜?』
『才も来るんだけど』
『や〜んさえちゃ〜んも〜!車の何かかな˃̵ᴗ˂̵?』
『合コン』
『 』
『どう?』
『オトコ?』
『もち』
『パス』
「……無碍もないな?仕方ない、切り替えて行こう!作戦変更だ!ここは才女だ!才女擁立で勝負掛けよう!征馨さん!あの子クール・ビューティだし。ほらっ!菜々P!早くっ!」
「……」
『征馨、ごぶさた』
『菜々緒、元気?』
『帰省中なんだ、久しぶり会わない?才も一緒』
『いつ?』
『8月XX日』
『ごめん!その日親戚の所』
「バッカ!合コンって言わないからやろ!あ〜もうっ!征馨も頭いい癖、肝心な時使えん!」
「あなたさっきから煩いわ」
「そんな事、言うてる場合違うやろ?もう日ぃないんよ?後一人どうするんよ?」
「あ〜!もう五月蝿い五月蝿い!わかったわかった!」
『元気?』
『あ〜お久し振りぃ!元気だよ〜!この前は久し振りに会えてお話出来て超嬉しかった〜』
『車調子どう?』
『もち最高!毎日朝晩仕事の行き帰り走ってるよ〜!』
『ところで、8月XX日……』
「誰?」
「……」
「誰っ!?」
「……」
「一体誰誘ったんよっ!?」
「……ハラタツ」
「はぁ?」
「もう!面倒臭かったのよ!」
「おいっ!誰でもええんか〜?あの子、男の子の前でちゃんと喋れるんか?ってか原辰っちゃんLINEじゃ人格全然違い過ぎやろ?」
「知らないわよっ!あなたこそ何か変わり過ぎ!目の色変わってるし!」
はっ!?として我に返った。けどおかしい?もう何か頭の中がぐるんぐるんしてる。
「ほら、炭酸水飲みなさい」
「う〜少し酔ったかな?なんか気分悪っ……」
「まぁ二人で2本空けちゃったからね?もう歯磨いて寝ましょ」
菜々緒はベッド、私はお布団敷いて。段違いで枕並べて電気を消した。
「……なぁ」
「ん?」
「もイッコ気になってたんやけど」
「なに?」
「あのほら?ドイツ人、ポルシェの。何てったっけ?」
「あ〜マックス?マキシミリアン」
「そ〜!そうそう!それ!……どうなったん?」
「聞きたい?」
「まぁ……うん。あん時も殆どあんた目当てやったんやろ?」
「そうね?」
「……したん?」
「……した」
「……」
「……」
「外人さんって、その……やっぱり凄い、ん?」
「まぁ、それなりに」
「なんか歯切れ悪いな?」
「聞きたい?」
「まぁ……うん」
「アイツ、妻帯者だったのよ」
「げ〜最低っ!」
「ね〜?」
「……」
「……」
「で、そのバンビ君とは?」
「内緒!って言ったでしょ?この前」
「けち腐れっ!」
「そう言うあなたはどうなのよ?」
「私?あ〜なんもないよ?見事なもんさ」
「もしかして、まだ?」
「もしかせんでもまだ」
「希少種ね?」
「……」
「いいじゃない?折角ここ迄おいてあるんなら、大切な人現れる迄大事にとっときなさい」
「そんなもんか?」
「そんなものよ」
「……」
「……」
「……誰かに抱かれて眠るてどんな感じ?やっぱええもん?」
「終わった後ね、暫くはね?余韻。でも眠る時くっついてて寝返り打たれたり動かれたら鬱陶しいでしょ?だから向こう向いて眠るわ。腕枕?なんて幻想よ」
「そんなもんか?」
「そんなものよ」
「……」
「……」
「……菜々Pはええな?」
「なにが?」
「ドイツとか横浜とかなんか広い世界生きててさ、出会いも沢山あってさ」
「あなたも生きてるでしょ?」
「生きとるわ!」
「私に言わせれば、あなたこそしっかり地に足ついてるって言うか?羨ましいわ……」
「そんなエエもん違うけど、そんなもんか?」
「そんなものよ。高校のあの時だって結局皆んな引っぱり込んであんなドキドキ出来たのも全部あなたが真ん中居たから。あなた自分で気が付いてないだけ、そう言うもの持っ」
「うっ!?」
「な、何っ?」
私は飛び起きると夜中にも関わらずドアをバン!っと開け、廊下をダッシュ!トイレに傾れ込んだ!
ぅらぁあぁぁ……
其処からの記憶はない。正確に言えば断片的にしかない。私はまだ見ぬ誰かを抱きしめる幻見ながら一晩中、便器を抱きしめた……




