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この作品には 〔ガールズラブ要素〕〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

一途な愛と歪んだ愛

作者: 碧眼の黒猫

軽い気持ちで始めたら1週間もかかってしまった……。もうすぐなろう小説を書き始めて一年なので、記念にこの小説を書きました。

色々と自分の趣味を入れた為におかしくなっていますが、楽しんで頂けたら嬉しいです。

 今日はよく晴れていて、町はいつも通り穏やかで異常は見当たらない。

 パトカーに乗って町を見回っていると、レストランの店主がテーブルに料理を出しているのが店の窓から見えた。

 私はいつも通りにレストランの駐車場へ車を止め、車から降りてレストランへと入っていく。

 扉の鈴が客の入店を知らせると、レストランの店主が笑顔で私を迎えてくれた。


「やぁ、マリー。おはよう」


「おはよう、ジェイク。いつも悪いわね」


「構わんさ、いつも店に来てくれるお礼だよ」


 このレストランの店主、ジェイクは私の大好きな料理であるルーベン・サンドイッチを作ってくれるおじさんだ。

 この町で保安官として働き始めた時からこの店には足を運び、料理を振る舞って貰っているが、やっぱり朝に食べるサンドイッチが一番美味しい。

 テーブルに置かれた皿の上に乗せられているサンドイッチを食べる為、私は椅子に座ってサンドイッチを手で掴み、口へと運ぶ。


「コーヒーを持ってくるよ」


 ジェイクはカウンターの中へと入っていくとコーヒーの豆が入った袋を取り出そうとしていた。

 これもいつものこと、少し待てば挽きたての熱いコーヒーが出てくる。

 コーヒーが出てくるまでの間はサンドイッチを少しずつ食べながら窓の外を見て、町の様子を見ている。


 私のように町のことを想っている保安官は多くいるが、皆食事の時や祭りの時は気が緩みがちだ。

 私のようにいつでも町を見渡しているような人は恐らく居ない、だから私一人でも町の安全を守る為にいつもこうしている。


「……平和ね」


 町の安全を守る為と毎日毎日こうしているが、事件や事故は少なく、治安が悪いわけでもない為、いつもこの町は平和だ。

 夫にお前は真面目すぎるとよく言われるが、こんなことをしている自分は昔よりも不真面目なつもりだ。

 不真面目に生きている夫の影響で自分も彼に似てきていると自分では思っているが、彼から言わせるとまるで俺が水中にいるみたいな感覚にさせてくれるほど私は真面目なんだそうだ。

 そんなに真面目な私を好きになってくれた不真面目な彼を私も好きになるとは思いもしなかったけど。


「はいコーヒー、またニックのことを考えてるのかい?」


「ありがとう、そうよ。彼が今何をしているのか考えていたの」


「きっと、バーに行っているんだろうな」


「ええ、早ければもうすぐ出てくるはず」


 私がこのレストランに朝早くから足を運んでいるのは料理を食べる為以外にもあった。

 道を挟んで向かい側にある店の扉が開くと革ジャケットにジーンズ姿の男が店からふらついて出てきた。

 この光景も毎日見ているけれど、毎回ため息を吐いてしまう。


「今日はいつもより早い、連れてくるわ」


「ああ、ニックのも用意しておくよ」


 私は椅子から立ち上がって店の扉を開けて外へと出ていき、車が走ってこないことを確認してから道路を渡り、数歩歩いて道に倒れた彼に近寄り、彼の近くで屈んだ。


「ニック、ニック起きて、起きなさい」


 彼の体を手で揺さぶり、声をかけると彼は目をゆっくりと開けて私を見た。


「あぁ、ジェニー……今晩俺の家に来ないかぁ……?」


「何言ってるの、もう朝よ。それと家に女性を誘わないでくれる?子供も居るのよ?」


「あぁ……?……子供……子供?……あぁ、そうだった。俺にはローズとの子供がぁ………居たんだった……。ジェニー……あぁさっきの話……忘れて…くれ……」


 私のことをバーの女性と間違えたまま、彼は気を失うように目を閉じた。

 きっと、彼のことだから私と同じ金髪の女性と夜遅くまで飲んでいたのだろう。

 私は彼を背負って、レストランに向かい、レストランの扉の扉を開けて今日3回目の鈴の音を聞きながらレストランへと入っていった。


「ハハハ、こりゃまた随分と飲んだらしい」


「そうみたいね、ソファに寝かせて貰うわ」


 彼を店のソファに寝かせ、私は皿とコーヒーを彼の寝ているソファの近くにあるテーブルへ移動させて椅子に座り、彼の様子を見ながらサンドイッチを食べ始める。


「まったく、世話の焼ける男ね」


 私はそう呟きながら苦笑している自分にあの時とは変わったと思える。

 時々、彼を見ていると思い出す。

 彼と出会った時のことを。


 1973年、私はベトナム戦争に非公式に参加していた。

 目的は捕虜となった1人の米兵の救出、および収容所を制圧することだった。

 兵士は重要人物だと伝えられたが、アメリカ軍がパリ和平協定調印を行い、アメリカ軍が全面撤退をした今、たかが1人の為にこの作戦を行うことはない、それにイギリスが手を出すようなことではないと上官に抗議したが、上官は頑なに任務を遂行しろと命じてきた。

 上官が私と目を合わせずに命令してきたことから、私は上官が上の連中に圧力をかけられて仕方なく命令をしていることを悟り、私は上層部が何を考えているのかわからなかったが、その命令を受けた。


 本当に意味の無い任務だった。

 捕虜になっていた米兵を解放した後、現地の武器で私は収容所にいたベトナム人を皆殺しにし、収容所を制圧した。

 任務を達成した私は無線機で回収を要請すると、回収は却下され、名前も国籍も出身地などの個人情報を全て抹消したことを明かされ、最後には「惨めだな」などと言われた。

 そして、全てを失った私が得たものはどうしようもないほど頼りないたった一人の米軍兵士だった。


 失ったものが大きかった私はショックから彼を殺そうとしたが、彼は何を思ったのか私を抱き締めた。

 私はいつでも銃口を突き付けて引き金を引けたというのに、その時私は彼の無責任な言葉に心を鷲掴みにされてしまい、銃を手放してしまった。


「君の全てを受け止めたい……、もう一度そう言ってくれないのかしらね……。ニック」


 寝ている彼に言うが返事は返ってこない、返ってきたとしても私が期待するような言葉では無いだろう。


 確か、彼に銃を向けていた時に私は涙を流しながら溜まった怒りを彼にぶつけていた気がするのだが、彼の言葉に気が行ってしまうせいで何を言っていたか思い出せなかった。

 思い出せないなら重要なことじゃ無いと彼に言われ、私は気にしないことにしていた。

 彼と共に近くの町へ行き、ベトナム語を話せない彼に変わって私が現地の人達と話し、アメリカに帰る方法を探している時、偶然にもアメリカに帰るところだというおじさんがいた。

 それが今ここでレストランを経営しているジェイクだった。


 ニックとジェイクの家族と共にアメリカへ渡った私は、ジェイクの紹介で保安官補になり、この町を守る守護者となった。

 以来、私は9年間この町を守りながら彼と共に穏やかな日々を送り、彼との間に子供を2人授かった私達はこの平和な町で幸せな日々を送っていた。


「ジェイク、ここ最近おかしなことはない?」


「うん?……あぁ、そうだそうだ。こんなものが来ていたんだったな、こんなのが来るのは初めてだよ」


 ジェイクはカウンターの下から手紙のようなものを取り出すと私のところへ持ってきてくれた。

 ジェイクから受け取った手紙を開封し、中身を見てみると何処かのマフィアが近くに拠点を作ったらしく、店にマフィアの関係者が来た場合は優遇しろとのことだった。


 私がジェイクにおかしなことがないかを聞いたのは、マフィアがこの近くに来ると噂になっていて、職場が慌ただしくなっていたからだ。


「なるほど、こんなものを送り付けてくるなんて、この町には法が無いとでも思っているのかしらね」


「近い内、荒れそうだ」


「大丈夫、私達が町を守る。安心して」


 私はそう言ってジェイクに手紙を返し、コーヒーを飲むと店の扉が開いて黒いスーツ姿の2人組の男達が店に入ってきた。

 店の扉にある札はまだ開店にはなっていないはず、ジェイクの計らいで朝早くは私と彼以外の客が店に入ってこないようにしてくれているのだから。


「ああ、お客さん。まだ開店してないんだ。すまないが出直してくれないか?」


「お前が店主か?その手紙を持っているってことはわかっているんだろう?痛い目を見たくなかったらコーヒーの一杯でも出せ」


「聞き捨てならないわね。私が着ている服に付いてるバッチが見えないの?」


 私は席から立ち上がり、自分よりも背が高い男達に詰め寄り、男とにらみ合いになった。

 彼らは保安官の制服を着ている私を見ても全く動じずに私と目を合わせた。


「これはこれは、どうも保安官。金ならやるぞ、いくらがいい?」


「賄賂は受け取らない、牢屋に入りたくなかったらさっさと店を出て行って」


 男が財布を取り出そうとしたのか、ポケットに右手を入れたまま舌打ちをするとため息を吐いた。

 ポケットの膨らみから財布が入っていることがわかるが、男は何か隠し持っている物があるようだ。

 男はポケットに手を入れたまま体を横に向けると左手で後ろに隠し持っていた銃を取り出して私に向けてきた。


「調子に乗るなよ?たかが保安官が、俺達を脅したらどうなるか教えてやろうか?」


「そう、だけど先に私を脅したらどうなるか教えてあげるわ」


 両手を上げるふりをして両手で男が持っている銃を奪い取り、男の右手首を左手で掴んで引っ張り、奪った銃の銃底で男の顎を下から殴った後、右足を男の右足の後ろに出し、男の足を抑えながら右手で男の右肩を押すと男は木製の床に叩き付けられた。

 私は転ばせた男の左腕を曲げて背中に付けさせ、男の背中の上へ乗りながら銃をもう1人の男に向けた。


「銃を置いて店から出ていきなさい」


 私が威圧するように言うと、男は取り出そうとしていた銃を取り出してゆっくりと床に置くと、両手を上げて店から出ていった。

 銃を床に置いて手錠を取り出し、男の両手を腰へ持ってきて手錠をかけ、銃を拾ってセーフティをかけてから男のスーツの襟を掴んで立ち上がらせた。


「後悔するぞ。こんなことしてただで済むと思うな……!」


「後悔するのは貴方よ。私に銃を向けたことを牢屋で反省しなさい。ジェイク、悪いけど彼のことをお願い」


「ああ、わかった。任せてくれ」


 男を連れて店の外へ出ていき、パトカーの後ろに男を乗せて運転席に乗り込み、私は署まで車を走らせた。


「今すぐ、俺を解放すれば後悔しなくて済むぞ。牢屋に俺を入れたらお前は終わりだ」


「こちらローズマリー、銃の不法所持で男を1名逮捕した」


『了解だマリー、牢屋はピカピカにしてあるぞ』


 無線機で男を逮捕したことを報告すると、中年の男性の声が返ってくる。

 この男性の名前はホーキンス、この町をずっと守ってきた保安官だ。

 ベトナム帰りは嫌われている為、この町に来るまでに散々ニックは罵倒されていて、この町に来た時に彼に追い出されるのではないかと思っていたのだが、予想とは裏腹に彼は歓迎してくれた優しい人だ。


「了解、ホーキンス。それで?なんて言ったのかしら?」


「……後悔するぞ。お前の友人や家族をファミリーが皆殺しにするからな」


「言っておくけど、そんな脅しで逃げようなんて考えないことね。貴方がマフィアの一員でも、この町のルールは守ってもらう」


 男と会話をしている内に署の前に着き、車から降りてドアを閉めてから後ろのドアを開けて男のスーツの襟を掴んで車から降ろした。

 男を連れて署の入り口前の階段を登り、署の扉を開けて中へ入っていくとホーキンスが受付のカウンターから出てきて男の肩を掴むと牢屋へ連れていった。


「やぁ、マリー。随分変な奴を連れてきたな。あいつマフィアだったりしないか?」


 カウンター越しに椅子に座ってそう言ってきたのはロベルト、しっかり者のように見えるがお調子者の問題児で、私の後輩だ。


「ええ、こっちにバナナでも作りに来たのかしらね。それで、貴方は今何してるの?いつも通り遅い朝食かしら?」


「あぁ、今食べ終わったところさ。それで、昼食までに今度は何を食べるか考えてるんだけど、何処か良い店を知らない?」


「ならナタリアのドーナツ屋にでも行ってきなさい、あそこのドーナツは美味しいから」


「おいロベルト、勤務中の飲食は最低限にしておけといつも言っているだろう?マリー、ちょっといいか?」


 ホーキンスに手招きで呼ばれた私はホーキンスの元へ行き、彼の個室へ入った。

 彼はハットを取ると机に置き、椅子に座ってため息をついた。


「はぁ……マリー、マズイことになった。奴はフィロッツェファミリーの一員らしい」


「有名なの?」


 私は部屋にあった椅子に腰を下ろしてホーキンスに訊いた。


「あぁ、ここよりももっと大きい街を仕切ってる奴らだ。そんな奴らがこの町に来るなんて思ってもいなかったがな。それでマリー、よく聞いてくれ。奴らは気に入らない奴の家族は勿論、その友人まで殺すような奴らだ。休暇をやるから今すぐに家に帰って、夫と子供達と一緒に家に居るんだ。わかったな?」


「わかったわ」


「飲み込みが早くて助かる。奴らは容赦ないと聞く、気をつけるんだぞ」


「えぇ、ホーキンスもね。それじゃ、家に向かうわ。何かあったら連絡して」


 私は椅子から立ち上がり、個室の扉を開けて部屋から出て行き、早歩きで出入口へ向かった。


「マリー、そのドーナツ屋ってどこに……」


「ごめんなさいロベルト、また今度教えるわ」


「えぇ?ちょっと!マリー!」


 ロベルトに構わずに扉を開けて外へと出てパトカーに乗り込み、パトカーを署の駐車場へ停めて車から降りて自分の車に乗り換え、駐車場から出て車をレストランまで走らせた。

 レストランまで来た私は駐車場に車を停めてレストランの扉を開けて店内へ入った。


「やぁ、マリー。どうしたんだい、そんなに慌てて」


「ちょっと大変なことになりそうだから、しばらく家に居ることになったの」


 ソファで寝ているニックの近くに行き、ズボンのポケットから財布を取り出してサンドイッチとコーヒー代を2人分のお金を机に置いた。

 彼を背負って店から出る準備ができた私は忘れ物が無いかを確認した。


「それじゃ、近い内にまた来るわ」


「ああ、気を付けて」


 別れの挨拶をして店から出ていき、彼を後ろに乗せて運転席に乗り込み、今度は家に車を走らせた。



 ~二週間後~



 あれから二週間経った。

 ホーキンスから連絡があるまでは家で待機しているつもりだったけど、一向に連絡は無く、一週間前から近所の態度が変わった。

 私が挨拶をしてもいつも通り笑顔で挨拶が返ってくることはなく、私を無視して避け始めた。

 きっとマフィアが脅したから皆が私を避けているのだろう。

 そう思った私はなるべく家から出ずに近所を見える範囲で監視し始めた。


 そして今日、隣のマッケンジー家の家にスーツ姿の男が訪れると、夫婦に何か紙を渡して何かを話しているのが見えた。

 内容が気になった私は自分と隣の境界線となっている柵を乗り越えて隣の敷地に忍び込み、話が聞こえるところまで近くに行った。


「マリーがそんな人だったなんて……」


「私も驚きました。まさか、この町で保安官をやっているとは思いませんでしたよ。国を裏切った元SASの工作員がこんなところに居るなんて、誰も思いません」


 SASとは、私が所属していたイギリス陸軍の特殊部隊だ。

 私が元SASであることは誰も知らないはず、そもそも記録を抹消されているのだから、そんな情報を持っているのは私と同じくSASに所属し、私に関わっていた人間だけのはずだ。


「先程もお話しましたが、彼女はとても冷酷非道で任務に忠実な人間だった。そして彼女はベトナム戦争に関わっていた。アメリカが負けたあの戦いに彼女も参加していたんです。任務を忠実にこなす彼女はあらゆる方法でベトナムの兵士達を殺し、自分の姿を見た者、つまり民間人まで口封じに殺しました」


 そんなことはした覚えがない、民間人との接触は任務中はしていないし、ベトナム戦争に参加したと言ってもあの任務だけだ。

 あの任務が私のベトナムで最初で最後の任務だった。


「彼女は尋問技術にも長けていました。ベトナム兵を尋問し、情報を得ると彼女は証拠隠滅のためにベトナム兵にガソリンをかけ、火をつけて殺害しました」


 これも嘘だ。

 それをやったのはアメリカの兵士のはず、私が狂っていた米兵と同じだとでも言いたいのだろうか。

 ニックから聞いた話では、処刑として火炎放射器で数人のベトナム兵を焼き殺した兵士もいるらしく、その事実は情報操作で無いことになっていた。


「彼女みたいな人間を町に置くのは危険です。町の人達と協力し、彼女を町から追い出しましょう」


「貴方の話はわかりました。でも、少し考える時間をください。彼女は優しくて、子供達の面倒を見てくれたこともあるんです」


「ふむ、信じがたいのも無理は無いでしょう。ですが、彼女にはもう一つ秘密があります。これを聞けば、きっと彼女を追い出そうと思うはずです」


 男はこれから深刻な話でもするかのように言うと、一度息を吸ってから話し始めた。


「実は、ケネディ大統領を暗殺したのは……他でもない、彼女なのです」


 何を話すのかと思えばとんでもないことを男は言い出した。

 大統領を暗殺した犯人はリー・ハーヴェイ・オズワルトという名の男のはずだ。

 そのオズワルトは二日後に殺され、大統領暗殺はオズワルト単独で行われたものとして片がついているが、真相は闇に包まれたままで、数々の憶測がされて陰謀論まで出てきていた。


「彼女はとある組織に頼まれて大統領暗殺の手助けをしていたことがわかったのです。これは本来、極秘の情報なので詳しくは言えないのですが、イギリスの諜報機関が入手した情報です。これだけでは不十分かも知れませんが、彼女は信用してはいけない人物だとわかって頂きたい」


 そんな極秘の情報なら何故一般人に公開するのかわからない、それに私が何処の組織に頼まれて暗殺を手助けしたのかが曖昧な上に、私が手助けなどしたらイギリスの政府は顔面蒼白することだろう。


 確かに、私は狙撃に自信はある。

 SAS内で一番の狙撃手と言われていた私は観測手なしで2km先で動く標的の頭を撃ち抜いた実績がある。

 今となってはその記録はないだろうけど、やろうと思えば確かにできる。

 だが、私にそんなことをしてなんのメリットがあるのか、大統領の暗殺は私にとってデメリットしかない。


「そんな……」


「本当に彼女が?」


 2人が驚いているのが声でわかる。

 だが、どう考えても嘘なのは明確だ。

 2人に気付いて貰いたいが、2人に私のことを話したことは記憶にはない。


「……わかりました。彼女の家族には関わりません、貴方達に協力しましょう」


「感謝します。ですが、彼女の家族には罪はありません。彼女の秘密を知らない彼らにもこれを伝えようと思っています」


 私はどんな理由で避けられているのか知ることができたが、まさか大統領を暗殺したなどという嘘をばらまかれているとは思いもしなかった。

 私は話を聞くことを止めて柵を越え、裏口から家の中へ戻り、私はダイニングにある椅子に座った。


 ニックは私のことを全て知っている。

 彼には私の全てを教えた。

 私を受け止めてくれた彼を、そして彼との子供をこんなことに巻き込みたくはない。

 知らない内に私は重罪を犯した犯罪者にされ、ホーキンスから連絡がないのは嘘の情報を伝えられたからだろう。

 彼は大統領の死に酷く悲しんでいた人だから。


「……ニック、遅いわね」


 朝に買い出しに出た彼が帰ってこないことに私は1人呟いた。

 昼近くになるというのに帰ってこないのはきっと何かあったに違いない、私は行きつけの店へ行ってみることにし、外出用の服に着替えて外に出ようと扉に向かうと外からスキール音が聞こえた瞬間、銃声が聞こえ、嫌な予感がした私は家から飛び出すとニックが家の前の道でうつ伏せに倒れていた。

 急加速をして逃げていった車を目で追いかけたが、そんなことよりも撃たれた彼の近く駆け寄り、背中が穴だらけになっている彼の体を仰向けにさせて上半身を起こした。


「ニック!……ニック、しっかりして!ニック!」


 口から血が出ている彼に呼びかけると、彼は震える手で私の頬に左手を触れると目を閉じて左手が頬からゆっくりと離れ、私は離れていく彼の手を掴んだ。


「ニック?そんな……嫌よ……。ニック……、目を開けて………お願いニック………ねぇ、ニック………ニック……!」


 いくら呼びかけても彼から返事は返ってこなかった。

 一番私を理解している人であり、私の大切な夫は騒ぐこともなく静かにこの世を去った。

 私の大切な夫の命は、マフィアに奪われてしまった。


 昼過ぎに彼の葬儀を私と子供達だけで行った。

 私は彼を庭に埋め、木で作った十字架を立てた。

 私は、彼を庭に埋めながらマフィアをこの手で壊滅させ、彼の仇を取ることを誓った。

 保安官補ローズマリーからSAS時代のエラに戻り、冷酷非道の私に戻る。


 奴らに私を怒らせたことを地獄で後悔させてやる。


 私は2人の子供を夜遅くに車に乗せてレストランへ向かった。

 私達をここに連れてきてくれたあのジェイクなら信用できる。

 おじさんにお願いして子供達と一緒にイギリスに行ってもらい、私の親友の元に子供達を送ってもらおうと私は考え、親友の元へまだ産まれたばかりの赤ちゃんと6歳の子供を私の代わりに育てて欲しいという内容の手紙を旧名で送った。


「駄目な母親でごめんなさい、エマ」


「お母さん?」


「ギルをお願い、貴女達の面倒を見てくれる人達は貴女達を必ず守ってくれるけど、もしもの時はお姉ちゃんの貴女が守るのよ」


「うん」


 レストランに着いた私は車を駐車場に停め、レストランの裏側へ行き、家の入り口にあるベルを鳴らした。

 少しして扉が開くとおじさんが笑顔で出てきた。


「ああマリー、久しぶりだね。どうしたんだい?子供を連れて」


「ジェイク、頼みがあるの」


 ジェイクに事情を説明し、子供達を送ってもらうことを約束した私は、子供達と別れて1人で車に乗り込み、家へ戻った。

 家に戻ってきた私は自室に行き、机の上に置いていたP220をジーンズとベルトの間に挟み、服で銃を見えないようにし、ニックのジャケットを着て、車で奴らの拠点へ向かった。


 この二週間、私は近所の人達の情報から奴らが拠点にしている場所を絞っていた。

 正確な場所まではわからないが大体の位置はわかっている。

 そいつらのところに行ってボスの居場所を尋問して聞き出そう。


 車で隣町へ行き、奴らが拠点にしているだろう住宅街へやってきた。

 歩道で話をしながら煙草を吸っている奴や瓶に入った酒を飲んでいる奴らが所々に居た。

 日付が変わった時間に車を走らせていることもあって外にいる黒スーツの奴らは私を睨むように見てきた。

 私は車を道に停めてエンジンを止め、車の外へ出るとスーツ姿の男達の中に見覚えのある男が1人私に近づいて来た。


「これはこれは、どうも保安官。こんな夜遅くに、しかも隣町からここに来るなんて、金に困って体を売りに来たのか?」


 男がそう言うと笑い、それに同調して私の周りに集まってきた男達も男と同じように汚い笑いをした。


「……貴方に用はない、貴方達のボスの居場所を教えなさい」


 私は男に詰め寄り、少し見上げて男の目を睨み付けると男はまた笑い始めた。


「クックック、フハハハハ!あんた、今の状況がわかってるのか?あの時とは状況が違うんだぜ?見たところあんたは丸腰のようだしな」


「そうね、確かに丸腰よ。でも、ここには貴方達を殺せるだけの銃が揃ってる」


 私は持っている銃のことは隠して表情を変えずに勝手に勝利を確信している男に言うと、男は私が何を言っているのかわからないとでも言うような顔をした。

 私は男の顎を右手で下から殴り、ベルトに挟んでいた銃を左手で奪い取って男を盾にしつつ、私を撃てるだろう左側の男2人の頭を撃ち抜き、男の後ろに回りながら右側にいた2人の頭を撃ち抜いて、私の後ろにいた奴らに男を盾にしながら向き合うと男達は銃を構えてはいたが撃とうとはしなかった。


 男が持っていた銃はベレッタM9、この銃は装弾数が多い、多少は無駄撃ちをしても大丈夫だ。


 男の尻を蹴ると男は前に姿勢を崩しそうになりながら走っていくと走った先にいた男とぶつかった。

 男が走っている間に素早く銃を構え、私は4人の頭を撃ち抜いて尻を蹴った男の足を撃ち抜いた。

 外の異変に気付いた奴らなのか、私のすぐ近くの家の扉が開いて家から出てきた男3人が銃を取り出そうとしているのが見え、私は銃を右手に持ち替えて近くにあったゴミ箱に走って向かいながら男1人の頭を撃ち抜いてゴミ箱に身を隠した。


 ゴミ箱に隠れながら応戦して男2人を殺すと弾が無くなり、撃てなくなった銃を捨てて死体に駆け寄って死体の近くに落ちていたガバメントを拾うと他の家から男達が出てきた。

 男3人が出てきた家の右の家から出てきた男達は5人、私が隠れているゴミ箱の向こう側にある家から7人の男が出てくると遠くの男達は持っていた銃を撃ち、近くの男達はナイフを持って走ってきていた。

 ガバメントで遠くの5人の頭を撃ち抜いて殺し、ゴミ箱から離れてナイフを持って向かってきた男の足を撃ち抜いて転ばせ、横を向いて転がってきた男の頭を撃ち抜くと銃の弾が切れた。


 次の銃を取りに行くために走り、死体の近くに落ちていたリボルバーのM29を拾ってすぐ後ろに来ていた男の攻撃から逃れる為に横に転がって男の攻撃を避けて、仰向けに寝た状態から少し上半身を起こして男の頭を撃ち抜いた。

 次々と来る男達の先頭にいた奴の足を撃ち抜くと足を撃ち抜かれた男は転び、避けられずに後ろから走ってきた男が転んだ男につまずいて転んだ。


 立ち上がると2人を避けて向かってきた男3人の内1人の頭を撃ち抜いたが、残りの2人が同時に迫ってきた。

 同時に迫ってきていた左側の男がナイフを振り下ろすように振ろうとしているところに詰め寄り、男の右手首を左手を開いたまま抑えて左脇で男の腕を掴み、首に銃を斜めにして押し付け、もう1人の男に弾が飛んで行くように調整して引き金を引いた。


 目を見開いたまま片手で首を押さえて崩れ落ちる男の腕を離すと後ろにいた男は額に穴が空き、ゆっくりと後ろに倒れた。

 転んだ2人を残った2発の弾を使って頭を撃ち抜き、銃を捨てて周りを見ると動く奴はさっきの男と押し倒されて下敷きになっていた男だけだった。

 死体を避けながら落ちていたガバメントを拾い上げて男に近付いて行くと、男を退けて立ち上がった男が銃を向けようとしてきた為、胴体に2発撃ち込んでから頭を撃ち抜いて殺し、男に銃を向けると男は顔を青くして震えていた。


「や、やめてくれ……悪かった……。ボスの居場所を知りたいんだろ?教えるから、殺さないでくれ……」


「そう、なら早く教えなさい」


 私は男からボスの居場所を聞き出し、その他にボスの行きつけ店とボスの周りにどれくらい人が居るかを聞いた。

 ここよりも大きな街にいるボスの回りには数百人は居るそうだが、今の私にとってどれだけ人が居ても復讐を止めるつもりはない。


「お、俺が知ってることは……もうない……頼む、助けてくれ……」


「惨めね。貴方なんか殺す価値もない」


 私は男の横を通り過ぎて車に戻ろうとすると男が立ち上がる音が後ろから聞こえてきた。


「調子に…乗るなぁぁぁぁ!!」


 男の叫び声が辺りに響き渡る中、私は銃のサイトを使わずに腰だめで持ち、振り向きざまに男の体に3発撃ち込んだ。

 男の叫び声は銃声にかき消され、男は下敷きになっていた男の銃を持って私に向けていたが、口から血を吐き出して後ろに倒れると持っていた銃を手離した。

 男に近付いて頭に狙いをつけると男は何かを言おうと必死に口から血を吐き出していた。


「私に銃を向けたことを地獄で反省しなさい」


 言い終わった後に引き金を引いて男の頭を撃ち抜き、弾切れになってスライドストップした銃を捨てて、私は車に乗り込んで男の言っていたボスの居場所へと向かった。


 途中で車の燃料を補充しながら大きな街へ来た私はマフィアのボスがよく使っているらしいクラブへとやってきた。

 あの町では見ることはなかった為、こんなに騒いで踊っている男女がいる店に来るのは始めてだった。

 この店はそのボスの管轄らしく、特等席が用意されているそうだ。

 二階のような場所からクラブ内を見渡している男が見え、私は階段を上ってその男のいる場所に行こうとすると階段を上りきった先の扉の前に男が2人立っていた。


「あんた、ここには入れないぞ。下に下りろ」


「ボスに会いたい、通して」


「駄目だ。下に行け」


 私はため息を吐いた後に男に近寄ると男が私を止めようと手を出してきた瞬間に素早く後ろに回り込んで首に腕を回して骨を折った。

 首の骨を折られて動かなくなった男を解放すると、もう1人の男がナイフを取り出して私に切りかかってきた。


 男のナイフを避けてナイフを持っている右手首を左手で抑え、右手で顎を下から殴ると男が一瞬だけ力を弱め、両手で男の手からナイフを奪って男の首に突き刺した。


 男は首に刺されたナイフを握りながら床に倒れると、首から血を溢れさせながら、のたうちまわっていた。

 男がベルトに引っかけていた銃を取り、扉を開けて部屋に入ると部屋に居た男達が銃を取り出そうとしたが、男が銃を取り出す前に男達を撃ち殺した。


 銃口を豪華な椅子に座って葉巻を吸っている中年の男に向けると首を動かして私と顔を合わせた。


「貴方がボスね?」


「ああ、そうだが……引き金を引く前に俺の話を聞いた方がいいぞ。エラ・クリーブランド」


「どうして私の前の名を?」


 私の旧名を何故か知っている男に銃口を向けたまま聞くと、男は葉巻を吸い、口から少し葉巻を離すと煙を口から吐き出した。


「お前を恨んでいる奴から情報提供してもらったからな、そいつはお前をよく知っている奴だ」


「誰?クレイグ中佐?」


「そいつじゃない、お前と親しい、そうお前の親友だと言えば、わかるか?」


「……嘘、まさか……」


「私よ。エラ」


 後頭部に銃を突き付けられ、銃を構えたまま首を動かして後ろを見ると、私が手紙を送った相手であり、SAS時代にまだ入隊したばかりの時に所属していた隊の隊長であり、一番信用できる親友のレベッカ・シェフィールドだった。


「久しぶり、エラ。手紙を読ませてもらったわ」


「あ、貴女……貴女がどうしてマフィアなんかに……」


「そんなの、貴女を苦しめた後に殺すためだから……私のプライドを傷付けた貴女を……ね?」


 彼女のプライドを傷付けたと言われた私は確かに彼女のプライドを傷付けた覚えがあった。

 彼女はSASに私より10年ほど先にSASに入隊し、努力を重ねて一部隊の隊長になっていた努力家だった。

 彼女は積み重ねた経験、知識、技術でSAS内で一番と言われるほどの実力者になっていたが、私が新兵として入ってから半年後に行われた作戦で、私も隊員として所属していた彼女が率いる隊が敵の罠に誘い込まれ、彼女は足の骨や肋骨を折る重症を負い、副隊長が戦死した。


 負傷した彼女の代りとして彼女は私を指名して、新兵の私が彼女の隊を率いて敵の包囲網を強行突破した。

 部隊を率いて味方の基地までたどり着けた私は、運が良かったこともあって隊の負傷者は少なく、戦死者が副隊長以外にいなかったことから私の指揮能力や勇敢な行動が上層部に認められ、ヴィクトリア十字章を授かり、ミリタリー・クロス等の勲章も授かった。


「貴女なら努力していれば必ずあの勲章を貰えるはずなのに……」


「うるさい!……あの時、勲章を受け取っていた貴女を見ていた私の気持ちがわかる?わからないわよね!?私は国の為に10年もあの国の為に戦ってきた。それなのに!!……たった半年で貴女は私が憧れていたヴィクトリア十字章を貰った。……ふざけないでよ、何が努力していれば必ずあの勲章を貰えるですって!?結局、才能なのよ。無能は所詮無能、努力しても無駄なのよ」


「違う、そんなこと……」


「何も違わない、違わないわエラ。貴女と一緒に訓練していて私はそう思ったの。才能の無い奴は、どう頑張ったって才能のある奴には負けるのよ」


 彼女との久しぶりの再会が、こんな形になるなんて思いもしなかった。

 彼女の努力は私も知っているからこそ、彼女自身が自分の努力を否定するような言葉は聞きたくなかったが、事実、私は周りや上官から彼女よりも優秀と言われ、彼女は二番目に隊で優秀だと言われていた。

 自分で言うのはおかしいが、あの時の私は優秀過ぎた。


「さて、今頃ジェイクが貴女の子供達をスラムに捨てた頃かしらね」


 部屋にある時計を見ると彼女は信じられない言葉を言った。


「……今、なんて……」


「ん?……あら、貴女そんなに鈍感だったかしら?恋をした人間は本当に周りのことが見えなくなるようね。じゃあ、教えてあげる。貴女の個人情報を消すように仕向けたのは私。そしてジェイクは貴女と、貴女の大切な夫をアメリカに渡らせて監視させる為に私が用意した監視員。本当は貴女の死体を回収させるのが目的だったけど、優秀な貴女にはベトナムの奴らじゃ相手にならなかったみたいだから、用意していたプランBを実行したの」


 彼女は私に銃を向けたまま、前へと移動してくると私が持っている銃を奪い、マガジンを抜き取った。


「そ、そんな………」


 まさか、自分が子供を預けた信用している人間が私を憎み、恨んでいる奴と繋がっていたなんて気が付かなかった。

 それに、あの時のクレイグ中佐の態度がおかしかったのは上層部から圧力をかけられていたのではなく、私を恨んでいる彼女になにか弱みを握られて脅されていたのだろう。

 そして、偶然だと思っていたジェイクとの出会いは仕組まれていた。


 仕組まれていることだと気が付くには、あまりにも遅すぎた。


「フフ、本当……惨めよね貴女って。本当に惨めで見ていられないわ。夫は殺され、子供はどこかのスラムに捨てられて……そして、ここで貴女は死ぬのよ。何も守れずにね」


「すまないが、俺はもう関係ないんじゃないか?長話を聞いているほど俺も暇じゃない、報酬を渡せ」


 今まで何も話さなかった男が煙を吐き出しながら言うと、突き付けられていた銃口が離れ、私から離れた彼女は男に近付いていった。


「そうね。じゃあ、報酬をあげる。情報をね」


「ん?なんの情報だ?」


「私は貴方達を利用した。私の恨みを晴らす為にね」


「なに?」


 レベッカはそう言うと男に私から奪った銃を向け、引き金を引いた。

 男の額に穴が空いた男は椅子に座ったまま天井を見上げ、そのまま動かなくなると、手に持っていた葉巻が離れ、床へと落ちた。


「利用されていたこともわからないなんて、貴方のファミリーには本当に馬鹿しかいないわね」


 彼女は弾切れになった銃を捨てて、私の方に顔を向けた。


「……子供達は生きている」


「なに?」


 私は彼女の言葉と私が知っている彼女の性格から、彼女は子供を殺すようなことはしないことを私は知っている。


「そういえば、貴女は子供が大好きだった。そんな貴女が子供を殺すようなこと、できるわけない。つまり、子供達は生きている」


「わからないわよ?私がスラムに放り込んだわけじゃないんだから」


「やっぱり、貴女は子供には優しい。貴女なら死ぬようなことを思わせる言葉を使うはず、それを言わないということは……」


 私が喋っていると後の扉が開き、私は振り向きながらジーンズとベルトの間に挟んでいた銃を取り出し、入ってきた男の身体に2発撃ち込み、頭に1発撃ち込んだ。


「………子供には罪は無いのよ。あの子達はまだ幼い」


「あんなことがあっても、やっぱり子供のことが好きなのは、相変わらずなのね」


 銃を持ったまま振り返り、彼女と向き合った私は彼女にそう言った。


 私が彼女の代わりに隊を率いたあの日、副隊長が戦死し、彼女が重症を負ったのは、まだ十代前半の少年の自爆に巻き込まれたからだった。

 彼女は子供だからと油断するような人ではないが、物乞いをしている少年を見て、彼女は持っていた食べ物を渡してあげようとした。

 しかし、その少年が突然抱き付こうとしてきた為、副隊長が少年の前に出て少年を止めると、少年が突然爆発し、副隊長は即死、爆風で吹き飛ばされた隊長は足の骨や肋骨を折る怪我をした。


「あの時、子供を簡単に殺していた貴女だけど。母親になった今なら、わかるんじゃないかしら?子供の大切さが」


「ええ、勿論」


「そう、貴女……変わったのね。さて、お喋りはここまでにしましょう。貴女が送ってきた手紙通り、私が子供達を育てる。貴女を殺した後に」


 彼女と戦う決心をした私は、彼女に1つだけお願いをすることにした。


 彼女なら、この約束を守ってくれると信じているから。


「……もし、貴女が私に勝ったら……子供達をお願い」


「……任せて」


 彼女の言葉を聞いた私は、自然と笑みがこぼれたが、すぐに表情を変えて、彼女と睨み合い、攻撃の隙をうかがう。

 彼女の銃はガバメント、あの銃の装弾数は7発、対して私の持っているP220の残りの装弾数も7発。

 お互いにチャンスを探っていると、先に動いたのはレベッカの方だった。


 彼女が腕を上げると同時に私も銃を持っている腕を上げ、サイトで頭を狙う。

 頭に狙いを定めて引き金を引き、そして私は引き金を引いた後に横へ体を動かして逃げると顔の横を弾が通っていくのが音でわかった。


 彼女も私と同じ行動をとり、私が放った銃弾を避けると私に向かって走ってきた。

 それを見た私は腕を伸ばさずに体を右に向け、腕を曲げた状態で身体に付けた状態にし、両手で銃を持って引き金を引くと彼女は体を横にして弾を避け、そのまま側転をして左足が地面に着くと、右足のかかとを落とすようにして攻撃をしてきた。


 少し右へ避けて銃を構えるが、彼女は曲げた状態の左足を軸にして回転すると右足で私の左脇腹を蹴ってきた。

 蹴られた反動で照準がぶれた状態で引き金を引いた為、弾は既に死体になっている男の頭を貫いた。


「ぐぅっ!!」


 彼女に蹴られて後ろへと下がると彼女が左膝を地面に着いた状態で銃を構えていた。

 私は後ろへと倒れるようにして彼女が放った銃弾を避け、背中が地面に着く前に彼女を狙って銃の引き金を引いたが、横へ倒れるようにして避けられた。


 背中に強い衝撃を感じた後、すぐに横に転がると倒れた場所に銃弾が床に当たった。

 転がりながら立ち上がり、彼女に銃を向けて引き金を引いたが、銃から弾が出ることはなく、銃を見るとエジェクションポートから薬莢が排出されずにスライドに挟まれ、ジャムを起こしていた。


「あら、ジャム?運がないわね」


 彼女はそう言うと一気に詰め寄ってきた。

 詰め寄られる前にと、挟まった薬莢を何とか排出し、銃を向けようとした時には彼女との距離は手が届く距離になっていた。


 彼女は銃を私の目の前で額を狙うように構え、私は頭を動かして発射された銃弾を避け、左手で銃を、銃を持っている右手で彼女の手首を両手で同時に叩き、銃を叩き落とした。

 彼女は銃を落とされてすぐに右手で私の右手を掴むと私が持っている銃からマガジンを抜き、スライドを左手で引いて銃から弾を抜きつつ、左手で腕を掴み、右手で手首の上から押すと私の後ろへ移動し、私の腕を背中に付けさせた。


 銃を離して左肘で彼女の顔に肘打ちをすると腕から手が離れ、振り向きざまに彼女に殴りかかるが、右手の攻撃は避けられて左手で手首を掴まれ、右腕で腕を持ち上げられるようにされると、彼女は私に背中を向けて私の腕を前へと強く引っ張った。

 私は彼女の投げ技で地面に叩き付けられ、背中に痛みが広がっていくのを感じつつ、左足を曲げて掴まれている腕を引いて右足で彼女の足をすくった。

 彼女は掴んでいた手を離し、私の体の上に倒れてきた。

 倒れてきた彼女の首に左腕を回し、首を絞め上げながら彼女の頭を自分の目の前に持ってきて、両足を彼女の足に絡ませる。


「ぐぅっ……ぐ……あ……あた……」


 彼女の抵抗が弱い内に絞め落とそうと力を入れ、彼女が気絶するまで首を絞め続けた。

 首を絞め続けていると彼女の手が私の腕から離れ、床に落ちた。

 それを見た私は彼女の首から腕を離して体から力を抜き、天井を見た。


「はぁ………全然、衰えてないわね……」


 気絶した彼女を横へ退かして立ち上がり、落ちていた自分の銃をマガジンと一緒に拾って、マガジンを銃に入れてスライドを引いた。

 銃を持って彼女を見ようと振り向いた瞬間に素早く、音も出さず静かに迫ってくる影が見え、私は影に驚いて一歩後へ下がった。

 影に突撃されて銃を手離してしまい、私は腕を押さえ付けられ、影に馬乗りにされた。


「ハァ……ハァ……油断なんて、らしくないわね……」


 顔を赤くしながらレベッカは言った。

 私は彼女の拘束から逃れようと足を動かしたり、体を動かそうとするが、彼女の力が強く、彼女から逃れることができない。


「くっ……まさか、気絶したふりだったなんて……、油断した……」


「ふふふ、戦いで方法を選ぶのは半人前がやることよ。……それよりも、気になることがあるの……」


「何?どうして油断したのかを聞きたいの?」


 そう聞き返すと彼女は頭を横に振って否定した。


「貴女、胸が前より大きくなったでしょ」


「…………」


 彼女はなにを言っているのだろう。

 この状況で言うことではないし、そもそも何故そんなことを聞くのか。

 心理戦だろうか、そんなことを聞いて相手の心を揺さぶろうという魂胆なのだろうか。


「だって、前の貴女の胸って無いも同然だったじゃない」


「その手には乗らない」


「貴女に首を絞められてる時に背中に感じた貴女の胸、とっても柔らかかった……」


「知らない」


「そう。それと私、もう我慢できそうにないんだけど」


「……へ?………えっ?……な、何が?」


 顔を近付けて来る彼女に私は段々と顔が赤くなっていくのがわかり、体に力が入らなくなり、抵抗することもできなくなってしまった。

 彼女は真面目で努力家でこういうこととか全く興味がないはず、こんな大人のビデオで言うような言葉を言うわけがない、そして私は何故、抵抗せずに受け入れようとしているのか。


「やっぱり、貴女って攻められるの弱いのね……」


「ま、待って……私は……」


「大丈夫……優しくしてあげるから……」


 彼女に耳元で囁かれ、顔から火が出そうなほど熱くなり、抵抗しようすると体が強張った。

 あれ、私、ここに何しに来たの。

 確か、夫の仇を取るためにここに来て、だけどボスが彼女に殺されて、それで私は私を恨む彼女と戦うことになって……。

 状況を整理しようと頭を回転させるが、何故こうなっているのかよくわからない、何故だろう。


 私は彼女に首を舐められたことで現実へと戻され、全身が震え上がった。


「ひゃ!……な、何?」


「フフ、可愛い……。もう我慢できないわ……」


「か、かかか、可愛い!?……あああ、あな、貴女何を!?」


 上手く舌が回らず、困惑する私をよそに彼女は自分の着ている服に手をかけた。

 しかし、彼女は服に手をかけたまま動きを止めると、表情が変わり、突然横へ転がって銃を手に取った。


「し、しまった。やっぱり……」


 思った通りだと慌てて立ち上がろうとすると、彼女は上手く立ち上がれない私の体に手を回して死体が座っている影に私を伏せさせた。

 彼女に引かれて椅子の影に隠れると同時に扉が何者かに蹴り破られる音が聞こえた。


「はぁ……人が愛を育もうとしてる時に。タイミングが悪いわね」


 そう呟いた彼女は立ち上がると扉の方へと走っていき、私は椅子の影から周りを見て、落ちていた彼女の銃を拾おうと這いずって銃に向かった。

 銃声と男の叫び声が聞こえる中で銃にたどり着いた私は銃を手に取って彼女の方を見た。


 彼女は次々と来る男達を男達が持っている銃を奪いながら殺していた。

 銃を手に取った私は心を落ち着かせてゆっくりと立ち上がり、深呼吸を繰り返した。

 段々と落ち着いてきた私は彼女の元へと向かい、彼女に加勢することにした。

 彼女を撃とうとしていた男の足を撃ち抜き、片膝を着いた瞬間に頭を撃ち抜いた。


「エラ!」


 彼女は頭を撃ち抜かれた男が持っていたM9を私に投げ、それを受け取った私はガバメントを後でジーパンと下着の間に挟み、次々と来る黒スーツの男達に彼女と共に応戦した。

 階段を上ってくる男の足を撃ち抜いて転ばせ、後に続いて来ている男達が立ち止まった時を狙って、男達の頭を撃ち抜いていった。


 騒がしかった店内にはスーツを着た男達しかおらず、一般の人達は何処かへと消えていた。

 何人も走って入り口から入ってくるのが見え、その中にトミーガンやMP5を持っている男がいた。


 階段を下りながら落ちている銃からマガジンを抜き取り、ポケットへしまう。

 後ろを見ると彼女は銃に新しいマガジンを入れているところだった。


「SASのモットー、憶えてる?エラ」


「挑む者に勝利あり」


「その通り、行くわよ。エラ」


「ええ」


 彼女と共に階段を下りていき、銃を撃ってくる男達に向かっていきながら引き金を引き、姿勢を低くしながら近くにあったソファに身を隠した。

 ソファの影から出ていき、台を盾にしている男達の頭を撃ち抜いて台へ隠れ、ゆっくりと出入り口を目指す。


「ねぇ、エラ。貴女、同性愛は嫌いじゃないって前言ってたわよね?」


 台に隠れながら男達の動きを見ていると彼女がそう聞いてきた。


「急に何?確かにそう言ったけど、貴女もしかして……」


「……初めてよ。自分が同性愛者なんて告白するのは」


「本当に?……じゃあ、なんで男の溜まり場みたいな軍に入ったのよ」


「……強くて美しい女性に会えないかと思って入ったのよ」


「そんな目的で10年も?」


 銃を撃ちながら近付いてくる男を仰向けになって台の左側から体を出して足を撃ち抜いて跪かせ、頭を撃ち抜いた。

 後ろから一緒に来ていた男は胴体に2発撃ち込み、頭に1発撃ち込んだ。

 体を起こして台の影へ戻ると、反対側から来ていた男達を彼女が膝立ちの姿勢で銃で迎え撃ち、男達を倒していた。


「ええ、そしてエラ。貴女が私の前に現れたの。10年も居て初めてのことだった。私の隊に女性が入ってくるなんてね」


「それで私と必要以上に仲良くしようとしてきてたの?」


「ええ、私……貴女に一目惚れだったの……」


「なるほど、どうしてお風呂にいつも一緒に入ってくるのかわかった」


 台から少し顔を出そうとすると彼女に押し倒され、台の影から2人とも体が出てしまった。

 私の上に馬乗りになった彼女は横から来ている4人の男の体を撃ち抜き、私は少し体を起こして彼女の後ろから来ていた男2人の足を撃って転ばせ、倒れた男達が銃を向ける隙も与えずに頭を撃ち抜いた。


 彼女に体の上に覆い被さるようにされ、そのまま横へと2人で転がり、死体の近くに来ると私が上になり、彼女が下になった状態で止まった。


「私、貴女と山ほど話したいことがあるんだけど……。貴女を殺そうとした私と話なんて……したくもないわよ…ね?」


 申し訳ないという表情で言ってくる彼女の上から退き、落ちていた銃で迫ってくる男の頭を撃ち抜いた。


「話もしたくない相手に子供を任せようなんて思うわけないでしょ?」


「それじゃ……」


 彼女が何かを言おうとしている時にトミーガンを持った男が私を狙って撃ってきた。

 私は横へ転がって彼女と一緒に台に隠れると、右脇腹に違和感を感じた。


「あぁ……しまった……」


 違和感を感じる場所を見ると着ていたジャケットに血が広がっていた。


「エラ?……撃たれたの?」


「えぇ、でも血があまり出てないから……死にはしないと思う…うっ……」


 傷口を押さえた痛みで思わず声が出てしまい、それを聞いた彼女の表情が怒っている表情に変わった。


「甘くみないで、エラ。軽い傷でも放っておけば死んでしまうわ。急いでここから脱出しましょう」


「大丈夫よ……。慎重に行かないと、この数相手には……」


「危険を冒す者が勝つのよ、エラ」


「貴女……、好きね。その言葉」


 彼女は私に顔を近付け、唇を重ねてきた。

 長いように感じる口づけが終わると彼女は笑顔になっていた。


「後で続きをしましょう」


「へ?……え、ええ……?」


「楽しみにしててね」


「……あれ、私もしかして……誘いを……受けた?」


 彼女が反対側に消えていくのを見送り、私は彼女にされたことのせいで頭が真っ白になり、彼女の誘いを受けてしまった。


「嘘……私……どうしよう……」


 約束は守る主義の私だが、今のことは忘れてしまいたい。

 再び顔が燃え上がるのではないかと思うほど熱くなり、私は傷口を押さえたまま固まった。

 トミーガンの銃声が響き渡り、男達の悲鳴が聞こえてくると近くに足音が聞こえ、音が聞こえた方に銃を向けて迫ってきていた男3人の頭を撃ち抜いた。


 しかし、もう一人反対側から来ていることに気がつき、咄嗟に銃を撃つと反対側から来ていた男の銃に当たり、同時に男が撃った弾が右肩を貫いて私は銃を落とした。


「クソッ、化け物め!」


 男は私の上に跨がると両手で首を強く絞めてきた。

 私は動く左手で男の顔を鷲掴みにするが、男は構わずに私の首を更に強く絞めてきた。


「死ねぇっ!」


 段々と手に力が入らなくなり、視界もぼやけて男の顔すらわからなくなっていった。

 死ぬと思った私は彼と一緒に過ごした日々を思い出した。


 彼と過ごした毎日、朝は彼を迎えに行き、昼には必ず彼と一緒に私が作った料理を食べ、夜には働きに出かける彼を見送った。

 それは子供達が産まれてからも変わらなかった。

 毎日のようにバーから出てくる彼をレストランに連れていって、目を覚ました彼を家に連れて帰り、昼まで仕事をして一旦家に帰って子供と彼と一緒に食卓を囲み、彼の言い訳を聞いて私が彼を叱り、落ち込む彼を見て子供が笑い、それに釣られるように私も彼も笑った。


 午後はまた仕事に出かけて帰ってくると彼が私にバーに行くと行ってから家を出ていき、私はいつも通り「遅くならないでね」と言って彼の背中を見送り、子供達の世話をする。

 彼はバーで雑用として働かせてもらっていることを利用して色々な女性に声をかけては酒を飲んでいるみたいだったけど、バーのマスターが言うには一線は絶対に越えていないらしく、理由は女性に性的な言葉などは言うものの、女性の体に触れることが無いからだそうだ。


 私としては性的な言葉を言っている時点で駄目だと思うけど、男性と話す時も女性と話す時でも必ず妻である私の自慢をする話から始まると聞いた時、やっぱり彼は私のことを好きでいてくれていると感じた。


 貴方にもう一度会いたい、こんな私を好きになってくれた貴方に。


 手の感覚もなくなり、首を絞められている痛みもなくなり、暗くなっていく視界に私は目を閉じた。


 人はいつしか死ぬ、しかし必ず寿命ではない。


 事故や病気などで突然死ぬこともあれば、働きすぎや飢えで死ぬこともある。


 自ら命を絶つことさえある。


 では、死んでしまった人に会うにはどうすればいいのか。


 きっと死ねば会えるなどと思うだろう、しかし、一度死んだ人間に会うことは一生無いのだ。

 人間、一度死ねばその人に会うことは一生叶わない、その人に似たような人は居るだろうが、それは全くの別人だ。


 しかし、何故人は死んでしまった人には死ねば会えるなどと考えてしまうのだろう。


 その人への執着心故か、神の教えか、希望的観測か。


 私にもわからないが、ただ1つ言えることは。


 愛しているからだろう。


「ローズ?」


「ニック?」


「ローズ、君にはまだやるべきことがある。だから、戻るんだ」


「ニック?どこにいるの?」


「俺は君を見守っている。さあ、戻るんだ」


 暗く何も見えない空間が突然明るくなっていくと、私は何処かの部屋のベットに寝かせられていた。

 ゆっくりと頭を上げて体を見ると、下着だけの自分の体に包帯が巻かれ、隣で下着姿になって寝ているレベッカに抱き付かれていた。


「……ええっと、これは……一体?」


 状況を整理しようと一旦、頭を枕の上に落とし、私は目を閉じた。

 確かに私はあの店で男に首を絞められて、死を悟った私は彼との思い出を思い出していたはずだ。


 けど、私は生きているようだ。

 彼女の胸に挟まれている腕から感触や温もりを感じるし、彼女が寝息も聞え、窓の外からはサイレンの音も聞こえる。


「………ん、エラ?」


 目を閉じていると彼女が起きたのか、私の名前を呼んだ。

 無視しよう、それが一番良いと判断した私は目を閉じたまま寝たふりをしていると彼女が下着の隙間に手を入れようとしてきた為、慌てて飛び起きた。


「な、何を……!あっ……」


「危ない!」


 足がもつれてベットの上から落ちそうになった私を彼女は腕を引いてベットの上に戻して私の上に跨がった。


「動いちゃ駄目よ。傷口が開くわ」


「貴女が手を入れようとするからでしょう?……全く、寝ていたんじゃないの?」


「大切な人が生死の境を彷徨っているのに寝られると思う?」


「……いいや、寝られないと思う……」


 もし彼が意識を失っていたらと考えると確かに彼女の言いたいことはわかるが、今私のことを大切な人と言ったことに私は顔が熱くなった。


「顔が熱いの、風邪をひいたかもしれないから近くに居ないで欲しい」


「残念だけど、ベットはこれだけよ。それに……それは風邪じゃないわよ」


「耳元で囁かないで」


「興奮するから?」


「違うわよ!!」


「しー、騒いじゃ駄目よ。ここ壁が薄いから」


「はぁ……もう……考えるのは止める……」


 私はもうこうなったことを考えるのは止めて、目を閉じた。

 考えれば考えるほどわからなくなる。


「そう………じゃあ、続きをしましょう?」


「続き?………あっ、いやあれは……」


「声を上げないようにね?」


「ま、待って……違うの……私、そんなつもりじゃ……レベッカ?……レベッカ!」


 彼女は私に顔を近付けてくるとあの時の続きをし始めた。

 私の制止する言葉も空しく、私は彼女に勝手に夜の営みを始められ、彼女に主導権を握られたまま、好き放題にされた。

 彼女のお楽しみが終わったのは、夜が明けて窓から日が差し込んできた時だった。


「………ごめんなさい、エラ。貴女の夫を殺してしまうような結果になって……」


 お楽しみ中に彼女から色々な話を聞かせてもらった。

 私が勲章を貰ったことに嫉妬していたのは本当のことだったが、彼女にとっては勲章を貰った後に私に会う機会が減ってしまい、色々な状況や人に邪魔をされて会えなかったことが彼女がこんな行動をするきっかけだったそうだ。

 愛は憎しみに変わり、彼女はいつしか私を独り占めしたいがゆえに殺そうと考え始め、私の体を目当てに死体を回収させようとしたり、私の個人情報を消したり、監視員をつけたりした。


 しかし、私に夫ができたことを知った彼女は、私の子供欲しさに手を出さずに私が子供を作ろうとしなくなるまで待つ予定だったそうだ。

 だが、マフィアが近くに来たことで私の子供達が危ないと感じた彼女は急遽、マフィアと協力をするフリをして、私から夫と子供達を遠ざけようとした。


 しかし、マフィアの馬鹿な連中が勝手にニックを殺してしまい、次は子供達を拐おうとしていた為、ジェイクから子供達をどうするか連絡を受けた彼女はマフィアが手を出せない場所へジェイクを使って避難させようとした。


 マーカスという名前の男に子供達を預けたと報告がジェイクからあったが、マーカスの元へ確認に行ったところ、渡されたのは赤ん坊一人だけだと言われ、嫌な予感がした彼女はジェイクに電話をかけたが、繋がらなかったそうだ。


「本当にごめんなさい………、私……貴女に恋い焦がれるあまり……こんな酷いことを……」


「……貴女が私のことを愛してくれているのはわかった。けど、私は貴女のことを許さない。私の大切な人を奪った上に子供達まで巻き込んだから」


「許して欲しいと言うつもりはないわ」


「……だけど、私一人じゃ子供を見付けられないだろうから、貴女にも手伝ってもらうわよ」


「……勿論よ。貴女の為ならなんだってするわ」


「それじゃ、まずはギルを迎えに行かないとね」


 私はベットから立ち上がり、下着をして畳んであった服を手に取り、服を着た。

 しかし、私は少し変わった自分の服装に眉をひそめた。


「……ちょっと、私のジーンズは?なんでホットパンツなの?」


 ジャケットや下に着ていたシャツはそのままだったが、履いていたジーンズがジーンズを極端に短くしたようなホットパンツに変わっていた。


「10年位前はそれが流行ってたのよ。とても似合ってるし、素敵よ」


「そういう問題じゃない、私はこんな痴女みたいな格好は嫌よ」


「だって、貴女のジーンズ男に脱がされてたから……」


「あぁ……もしかして私……」


 嫌な予感がして彼女に聞くと、彼女は笑顔を見せた。


「大丈夫、貴女のパンツがちゃんと貴女を守ってくれたわ。その男は蜂の巣にしてやったし、きっとあの世で後悔してるわよ」


「あぁ……そう、ありがとう……。あんな状況でよくそんなことをしようと思ったわね。その男……」


「過ぎたことは考えないのが一番よ。それより子供を迎えに行くんでしょう?」


「それもそうね」


 私は彼女と一緒に部屋から出ていき、エレベーターがあったことからホテルと気が付き、私が運ばれた部屋は彼女の部屋だというのをエレベーターの中で知った。

 ホテルから出た私達は停めてあった私の車に乗り込み、彼女の案内でスラムへ向かった。


 私のやるべきこと、それはきっと子供達を迎えに行くことだろう。

 彼はいなくなってしまったけど、残された子供達と一緒に過ごしていこうと思う。

 それが彼の望みだと思うから。


 だけど、彼女とも一緒に過ごすことになるのかと運転している彼女と顔を合わせて苦笑いをしながら、不安に思う私だった。

読んで頂き、ありがとうございました。物語がよくわからなくて困惑した読者の方は、ゆっくりとお休みください。何せ、書きたいという衝動に任せて書いた作品ですからね。自分の作品に興味が湧いてきた方は、自分の別の作品も見て頂けたら嬉しいです。


お疲れ様でした。

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[良い点] 面白かったです!小説家になろうには少ないクールな作風で、楽しく読ませてもらいました!動機もしっかりしてて、よくあるアクション『だけ』書きたいではなく、起承転結があってよかったです! [気に…
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