第八話 相手と自分の実力の差すら分かんねぇのかよ
魔法少女しか入れないとされる・魔獣が住み着く特殊な空間───領域、そこに突如として現れた一人の男。白く短い髪が特徴的で、瞳は右が赤で左が紫のオッドアイ。七分袖の白シャツを着て、水色のチノパンを履いている。完全にここにいる事が場違いな格好の少年だ。
男は紗月の横を通り過ぎると、先程投げられた大剣を拾い片手で回して肩に担ぐ。そして、首だけを後ろに向けて口を開いた。
「はぁ……無謀にも程があり過ぎ。相手と自分の実力の差すら分かんねぇのかよ。てか、何でこんな危険地帯に二人な訳? 大した実力も持ってねぇ癖に……無謀を通り越して愚かだな。よぇ〜奴は後先考えないですぐに死にたがる。もっと視野を広げて周りを気にしろってんだ。ここにいられても邪魔。とっとと消えろ」
冷ややかな態度で接する少年。
しかし、魔法少女以外の───それも男が領域内へと入り、そして間一髪の所を助けられた───そのあまりにも異常な状況に、紗月と飛鳥は戸惑うしか無く、口を開いても思ってる事が声にならない様子だ。
そんな少年の隙を化け物が見逃す筈が無い。巨大な骨の怪物が一気に少年へ迫り、四本ある内の一本・先端が鋭利な刃となった自身の腕を振り上げ、そして───
「───!」
「あっ!」
少年の頭目掛けて振り下ろした。
化け物が腕を振り下ろした事により結構な衝撃が辺りを襲い、大量の砂煙が少年のいた辺りを一帯を覆う。
紗月と飛鳥が化け物の突進に気付き声を上げたが、少年がそれに反応出来た素振りは無く───諸に直撃。
魔法少女となり常人よりも身体能力が強化された紗月の斬り下ろしを軽々と受け止め、それどころか弾き飛ばしてしまって化け物の強靭な一撃を諸に食らってしまったのだ。紗月と飛鳥は、まず間違い無く少年の死を確信した事だろう。
突如として現れ、そしてすぐに殺されてしまった───そのあまりにも早い場面展開、二人は呆気に取られるしか無かった。
煙が晴れていく。
「───!」
「嘘……?」
そうして現れたのは少年の死体───などでは無く、化け物の一撃を大剣一本で軽々と受け止めている少年の姿だった。化け物の鋭利な腕と少年の持つ大剣がギチギチと互いを受け止め合っている。
少年がその均衡を崩す為に剣を振るった。化け物は弾かれ少し後退する。
しかし、化け物はすぐに体勢を整え突進を再会。また少年に近付いた所で、今度はその長い蛇骨の体をしなる様に少年へとぶつけていった。
少年は大剣の刀身に左手を添え、地面と垂直に立て盾にする事で化け物の攻撃を受け止める。化け物の体側面に付いている小さな骨ナイフがまるでチェーンソーの様に少年の大剣へと当たり、激しく火花を散らしていく。
そんな攻撃でも弾かれない少年。
化け物は体を当て終わる前に左手上部の腕を振り上げ、体を当て終わると共にその腕を振り下ろした。
それすらも瞬時に剣の向きを変えて受け止める少年。しかし、その瞬間、あまりにも化け物の膂力が高すぎて一気に砂煙が巻い、少年の姿が確認出来なくなる。
化け物はそうなってからも少年がいた所に向かって無茶苦茶に四本の腕を振るっていった。その一回一回がとてつもなく重い事は、伝わってくる振動と音で理解出来る。
舞い上がったそばからまた新しく砂煙が舞う為、一向に少年の姿は確認出来ない。しかし、他とは比べ物にならない程の力を持つ化け物からここまで攻撃を加えられれば、流石に───。
ある程度攻撃を加えた所で、化け物が腕を振り回すのをやめて後退する。化け物も、もう終わったと思ったと感じたのだろう。砂煙が晴れるのをじっくりと観察している。
紗月と飛鳥も息を飲んで見守る中、次第に煙が晴れていき。そこには───
「「───!!」」
全く無傷で、尚且つ余裕そうに大剣を肩に担いでいる少年の姿があった。
あまりに非常識な光景に二人は目を剥く。
化け物はそんな少年を見て恨めしそうに奇っ怪な唸り声を上げて。
少年は化け物に対して鼻で笑って見せた。
化け物が四本ある腕を右・左それぞれの腕二本を重ね、そこに紫の炎の様なものを纏い・形を安定させる事で二本の巨大な腕刀が出来上がる。
化け物が突進を再会。紫に燃え上がる二本となった巨大な腕を保ちながら少年へと近付き、その内 左の方を振り上げた。
少年に向かって振り下ろされる化け物の強化された腕。しかし、少年は避ける素振りを見せない。
それどころか、さっきと同じ様に、強化されている筈の化け物の腕刀も、その手に持つ大剣で少年は弾いてしまった。
化け物が左右の腕刀を上手く扱い交互に少年を斬りに掛かる。
あまりにも激しい強乱撃。卓越した技術を持つ者でも受けきるのは不可能だろう。
しかし、少年は大剣をまるで片手剣でも振り回すかの様に軽々と振り、その速攻・強撃を全て丁寧に弾き返していた。
さらには化け物の連撃の間に隙を見出し、そこで化け物の体を斬ろうと体に狙いを定めて大剣を振り下ろす。
それにギリギリ反応が間に合った化け物は、体の前に刃を下にしてバツを作り大剣を受ける───が、少年の方が力が強いらしく、刃が地面に突き刺さっているにも関わらず結構な距離を後退させられていた。
そのせいでさらに苛立たせげに体を震わせる化け物。バツに交差させていた腕を一度解き、そしてもう一度今度は体を支える様に腕を地面に刺す。
重心を前に倒し、首も前に突き出して、さらには口も開き───紫の光を放つ奇妙な球がその前に出来始め、徐々に大きくなっていく。俗に言うエネルギー弾。
そのあまりの波動に紗月と飛鳥は目を見開き、
「や、やばい……! 飛鳥!」
「う、うん! ───っ、でも、あの子」
「───っ! ちょ、何やってんの!? 早くアンタも!」
当たればただでは済まないと直管で感じ取った二人が逃げようと準備し、今の状況を見ても逃げようとしない少年にも逃げる様 呼び掛ける。
だが、この状況において少年は笑って見せ。
「ふっ……もう戦士の名残りも何もあったもんじゃねぇなぁおい」
少年は大剣を地面に突き刺し、空いている左手を前に突き出した。
その瞬間、化け物が溜めに溜めたエネルギーを解き放つ。それは柱の様に少年へと突き進む強烈な砲撃。通った地面を削り、紫の光があらゆるものをかき消そうと少年へと迫る。
それが放たれたとほぼ同時に、少年は複雑な文字紋様が描かれた・直径が自身と同じぐらいの光る魔法陣を三つ、自身の前に並べる様 展開した。
まず一つ目の魔法陣が化け物のエネルギー砲とぶつかる。呆気無くそれは押され、次に二つ目の魔法陣。それもまた簡単に押され───最後の魔法陣とぶつかった───瞬間、今まで押されていた魔法陣が二つの魔法陣が最後の魔法陣と結合して───それは微動だにせず砲撃を受け止める盾となり完成を果たした。
強烈に迫るエネルギーが盾に阻まれ行き場を無くし、飛沫となって四方に散らばる。
これ程の強力な一撃を受けているというのに少年は余裕そうだ。
だが、そこで少年の表情が変わる。
笑みを浮かべているのに変わりは無いが、血管が浮かび かなり力んでいるのが伺える。
徐々に開いていた掌も閉じ始めて───。
手が完全に握られた瞬間、硝子が割られた様な音と共に盾も崩壊して強烈な光が辺り一帯を覆い───。
光が収まったその場には───あの砲撃もまた消え去っていた。
エネルギーの名残りか、幾つかの紫の光がゆっくりと重力に身を任せて落ちていっている。
盾として展開していた魔法陣の力をわざと暴発させる事でエネルギー砲の勢いを相殺───うち消した。
その事が、化け物を含め、少年を除く全員の動きを止める程の衝撃を産む。
少年が大剣を地面から抜き、柄を両手で持ち、振り上げた。俗に言う上段の構え。雰囲気からして、この一撃で終わらそうとしているのが伝わってくる。
だが、上段の構えは、素人からしたら隙だらけに見える構え。
今まで完全に圧されていた化け物からすれば、面倒な相手がやっと見せた初めての隙。
化け物は、その誘いに乗る以外の選択肢を持ち合わせていなかった。
化け物が疾走───しかし、少年の周りには蛍の様な小さな光が幾つも浮かび上がり、剣に集まっていく。
光が集まり、刀身もまた光り始める───と、そこから可視化された強烈なエネルギーが吹き出し、これから放たれる一撃を重さを表現していた。
誰から見ても、この一撃は食らってはならない攻撃だ。素人からしても分かる程 強力なエネルギーが溢れ出ている。
だが、化け物は止まれない。避けるという選択肢をすでに排除した以上、その一撃が放たれるよりも先に少年を倒すしか生き延びる道が無いからだ。
しかし、上段の構えは剣がすでに振り上げてある体勢。他の構えよりも早く一撃を繰り出す事が出来る。腕を伸ばし、武器を上に放棄した・一見無防備にも見える構えが、その実、凶悪な構えとして化け物の前に顕在していたのだ。
少年が剣を振り下ろす。それと共に、強大なエネルギーが、まるで一枚の画を破り裂くかの如く、化け物の体を簡単に巻き込んでいった。




