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第四話 他とはレベルの違う化け物、って所かしら

 他の骸骨とは明らかに違う。

 まず突出すべき点は装備───頭に兜こそ付けていないが、それ以外の所には昔の武士が着ていた様な橙色の甲冑を着込んでいる。元々侍だったのか、腰には鞘に収まった太刀も見受けられた。

 もう一つ突出すべき点があるとすれば───髪、だろう。何故だがこの骸骨には、頭蓋骨から長い髪の毛が大量に生えていたのだ。その長い髪を紗月と同様にポニーテールにしている、前髪はオールバックにしているが。


 階段を上っている最中に正気に戻っていた飛鳥が、紗月に問い掛ける。


「な、何? あいつ」


「さぁね。でも、ここで一人佇んでいるって事は……他とはレベルの違う化け物、って所かしら」


 紗月はそう言いながら───舌舐めずりをした。


「飛鳥、手は出さないでね。あいつはあたしが相手する」


「え? 紗月ちゃん?」


「ふふふっ」


 紗月はどこか薄気味悪い笑みを浮かべながら飛鳥の前を歩いていく。


 骸骨がゆっくりと顔を上げ、カチャ、カチャという音を立てながら立ち上がった。

 腰に帯刀している太刀を抜く。


「いいわね、やる気満々て感じじゃない。そっちの方が───あたしもやり甲斐があるわ」


 紗月も同じ様に鞘から刀身を出した。


 両者、正眼の構え───刀を持った両手を腹辺りに持ってきて腕を伸ばし脇をしめる構えで相手の出方を伺う。


 ほんの数瞬───だが、二人の体感時間では短くない時が流れる。


 実力が高い者同士だからこその静寂。


 だが、そこからは手汗握る攻防が始まった。


 先手は紗月。正眼から脇構え───両手を腰の横へと移動させ、刀の矛先を下へと向ける。

 瞬時に骸骨も構えを変更。中段から下段───矛先だけを下に向ける構えへ。


 まばたき一瞬───その隙に距離を詰めた紗月が刀を斬り上げた。


「───っ!」


 だが、骸骨は後ろに半歩下がって紙一重で回避。


 紗月が目を見開く。しかし、驚いている暇など無い。

 攻撃を回避した骸骨───の者はすでに切り替え、その者の刃先はすでに紗月の足首へと迫ってきていた。

 紗月は斬り上げ後な為 刀で防御するのは不可能───だから、体を無理やり捻り右に回転して後ろにさがる事で回避した。


 両者の刃がそこからさらに激しくせめぎ合う。


 紗月が横薙ぎ・左方に逆胴・右方に袈裟斬りとどんどんと技を繰り返し。

 骸骨はその全てを攻撃を僅かな動作でかわしていく。しかも、三・四回に一度は反撃も入れて。


 攻め手が多い以上、紗月の方がどんどんと体を前に詰めている───素人目には彼女優勢に見えるだろう。

 だが、その実、攻撃が当たらなくて焦っているのは紗月の方だった。頬に汗がにじみ、瞳の鋭さも増していく。


 さらに攻撃は続く。だが、その攻撃と攻撃の間───その一瞬を縫って、骸骨が一度紗月の体に横薙ぎを入れようとした。

 だが、紗月も紗月で無理やり上半身を逸らす事でそれを回避。牽制の為、さらにもう一度 正面に斬り上げを入れて。


 骸骨は深追いせず、半歩後退。

 その隙に紗月は体制を建て直し、一度 八相の構え───野球でバットを構える様に体を横に向け、刀を立てる構えを取り、再び袈裟斬りに入る。

 それも骸骨は避けるも、そこからさらに紗月は刀を斬り返して頭部へ斬り上げ───それも骸骨に避けられるも、その勢いのまま自分の頭の横まで刀身を引き戻し、彼女から突きが放たれる。


 だが、それすらも、骸骨は上半身を僅かに捻る事で回避した───どころか、すぐに体勢を立て直した骸骨が、突き出された紗月の腕狙って刃を振り下ろそうとしていた。


 紗月の腕が斬り落とされる───そう思われたが、どうやら紗月の突きは完全に繰り出された訳では無かった。避けられる事を勘づいたのか、中途半端な所で突きを止めていたのだ。そのお陰で斬り下ろしが来る半瞬前に腕を引く事が出来た。

 が、回避は出来たものの、これには堪らず紗月は距離を取る。


 両者再び正眼の構えを取った。


「紗月ちゃん……」


 飛鳥は心配そうに紗月の様子を見守っている。


 飛鳥と紗月は長い付き合いだ。

 紗月が推している様に見えたあの攻防───でも、彼女だけはきちんとわかっている。推されていたのは骸骨ではなく、紗月の方だと。


 先の刀での攻防─── 一進一退に見えて、その差は歴然だった。

 紗月の攻撃は完全に見切られ、完璧なタイミングで適切な攻撃を入れられる。避けられたのは、彼女が持つ天性の身体センスと動物的勘が働いたお陰に過ぎない。

 つまりは、剣技において、紗月の技は圧倒的に骸骨のより劣っている。それは今の攻防で紗月自身も分かった事だろう。


「………ふふっ」


 にも関わらず、紗月は笑って見せた。瞳にはより狂気が滲み、ただ目の前の相手しか視界に入っていない。


 紗月は軽度の()()()だった。

 強い相手を求め、その相手としのぎを削る。彼女にとって、これ以上の幸福は()()()()無い。


 そう、あくまで「そうそう」なのだ。彼女には、それ以上の幸福があり、又、それを幸福だと感じられる感性がある。だから、まだ症状は軽度と言えよう。


 しかし、今はそんな事など関係無い。


 紗月は完全にスイッチが入った。


 あの骸骨は、自ら虎の尾を踏んだのである。


 もし、紗月を殺るつもりだったのなら、先の攻防できちんとトドメを刺すべきだった。

 飛鳥に邪魔をされず、紗月がまだ完全にスイッチの入っていない状態。絶好の機会を骸骨は逃したのだ。


 それが出来なかった時点で、あの骸骨の敗北は決定した。

 後は、事を見守るのみ。


 紗月は上体を下げ、重心低くしたまま骸骨へと迫っていく。そこに構え等あったものでは無い。


 骸骨との距離が詰まってきた所で紗月が滅茶苦茶に剣を振り回し始めた。

 骸骨は、紗月のあまりの変わり様に面食らったのか、完全に後手を踏む事になる。紗月の攻撃を避けるだけで手一杯の様だ。


「ふふふ……あはははぁ!!」


 そこでさらに紗月の振りが激しくなる。彼女は嬉々として刀を振るい、口を綻ばせ、瞳を輝かせていた。

 骸骨もなんとか対応するも、見るからにギリギリだった。


 そして、乱暴な振りから、勢いのまま一回転して重心を上げ、紗月が無作法な袈裟斬りを繰り出した。

 ようやくそこで、骸骨は初めて()()()()()()()()を選択した。そうしなければ避けられないと感じたからだ。


 だが、それこそが、この勝負を決定付ける───最低最悪な悪手となった。


 骸骨の刀身が、音を立てる事すら許されず、紗月の刀に斬られたのである。


 まるで豆腐でも切る様な感覚。骸骨は、無い目を見開かせる事になった。






 紗月の魔法少女としての力───それは、変身時に丈夫な刀を生み出す事・そして、魔法によって、その刀を如何なるものをも斬る断絶剣へと変える事だった。

 原理は不明だが、魔力を込めれば込める程 刀の斬れ味を高める力───それが、魔法少女としての紗月の真髄である。






 自慢の獲物を斬られて呆然とする骸骨。

 それでも、武士の矜恃か・戦士としての意地なのか、尚 柄を放さず・構えを解かず、骸骨は紗月の刀を避ける事に専念する。

 だが、結果は火を見るよりも明らかだろう。


 もう決着はついた。






 ───魔法少女の二人が、そう思った時だった。






 骸骨が紗月の刀を避ける過程で後退すると、


 ガコッ


 突如としてその場の床が沈んだ。

 まるで、何かのトラップが作動する前兆の様だ。


 紗月が骸骨に向かって斬り下ろしを行使する───が、骸骨はそれを右に跳ぶ事で回避。


 そして、彼女の視界に───奥の壁の一部が、不自然に開いている光景が入ってくる。

 その中央にあるのは、吹き矢に用いる筒の様な物。


 ヒュッ


 風の音が聞こえる。


 気付けば、小さな小さな針が、紗月の右目すぐ傍まで迫ってきていた。






 パキン!!


 その針が届くよりも、紗月の反応の方が速かった。

 紗月は、その針を刀身で弾く。


 跳び退いた事で体制をくずした骸骨。床に尻もちを着いたまま転がる。


 紗月がその隙を逃す筈が無い。


 彼女の刀が、ゆっくりと振り上げられた。


 骸骨は両手を床に付けたまま、それを眺める事しか出来ていない。

 もう悟ったのだ───逃げられないと。


 紗月の刀が、振り下ろされた。

 それによって、真っ二つにされる骸骨。

 その後、骸骨は死んだ事を証明する様に粉々となって消えていった。


 紗月がゆっくりと刀を仕舞い、飛鳥の方を向く。


「………よしっ。終わったよ飛鳥。さぁ、さっさと上に行くよぉ」


「………紗月ちゃん、切り換え早すぎだよ」



   □□□



 二人は階段を登っていく。


「それにしても……さっきの骸骨、ホントに強かったねぇ」


「そうだね、あれがボスと言われても不思議じゃないぐらい」


「でも、空間は終わらず、階段も新たなのがあり…………あれよりも強いのがいるって事? 勘弁してよぉ〜」


 骸骨の見た目だけでも精神的に苦しいのに、能力も高いという事で、飛鳥は完全に参っている様子だった。


 この空間は、言わずもがな特殊な空間である。

 時折現れる・現世と全く異なる異空間。存在するのは見た事も無い魑魅魍魎達。

 最早、異世界と繋がったと聞いた方がしっくりくるぐらいだ。


 しかし、この空間だが、一体のモンスターの為に存在しているといったも過言では無い。

 大体こういう空間を形成するのは一体の強力な魔獣だと言われている。他の魔獣はそうやって創られた空間に勝手に住み着いただけ。

 領域を生み出す魔獣はとてつもなく強く、倒す条件も厳しかったりする。だが、逆にそいつ倒せば、この空間も終わらせる事が出来る、という訳だ。


「もぉ……グズグズ言わない! 最後までしっかり頼むわよ? ボス戦はいつも通りあたしがボスと一対一・飛鳥は周りの殲滅ね」


「うぅ………」


 二人が階段を登りきる。やけに長い階段だった事もあり、大分最上階に近付いてきた。ここが最上階という事も有り得る。


 この階層はどうやら二つに分けられている様だ。階段を登りきった二人の反対側はふすまによって閉じられ見る事が出来ない。


 二人がいる側には蝋燭が一つも取り付いておらず、襖から漏れる光だけでとても暗い。


「何でこんな暗いのぉ?」


「さぁね。ほら、行くよ」


「うぅ……何も出ませんように何も出ませんように何も出ませんように何も出ま───」


 二人はそのまま進んでいく。

 襖までは特に何事も無く到着。

 紗月が奥の襖を開けた。


 その部屋は蝋燭で照らされ気味は悪いが、今までの中では一番煌びやかな部屋だった。

 奥の壁には装飾の様に飾られた何本もの刀・壁際に立てられている・同じ記号が描かれた幾つもの旗・どんな所よりも綺麗な壁と床───ここが最後の部屋だと、雰囲気が物語っている。




 そして───




「………」


 その場にいたのは、中央にある小型の椅子に座った、全身武装している骸骨───と、先程戦った骸骨と同じ容姿をした奴らが()()、まるで主への道を作る様に三体三体という比で左右に分かれて佇んでいる。


 中央にいるのはいかにも『殿』という様な骸骨で、今まで誰もしてなかった豪華な兜をしており、背中に二本の刀を帯刀していた。


 他六体の様子は先の奴とほとんど遜色無い。だが、紗月があれ程 倒すのに苦労した敵が()()()いる───その事実に、飛鳥は顔を青ざめさせていた。


「に、逃げよう紗月ちゃん! これは無理だって!!」


「何言ってんの? いけるって。飛鳥の()()はあの骸骨達との相性バッチリじゃん。六体ぐらい、遠ざけるのは訳無いって」


「───!? 何言ってるの!? いつもの思慮深い紗月ちゃんはどこいっちゃったの!? お願いだから帰ってきてぇぇぇ!!!!」


「もう、今日はとことん五月蝿いわね飛鳥。いつもだったらあたしと一緒になって積極的にモンスターを倒しに行く癖に」


「が、骸骨は無理! ホントに無理!!」


「いい加減 腹括はらくくりなよ〜。それに………」


 飛鳥と話している最中に、紗月は部屋の方に視線を向ける。


「多分こいつら、あたし達を逃がしてはくれないでしょ」


 中央に佇んでいた殿様風の骸骨が腰を上げる。

 そして、後ろにその両手を回し、二本の刀を鞘から抜き取った。


「………っ」


「いくよ、飛鳥。ここからはあたし達どっちかがヘマしても終わり。そういう局面なの。いつも通り、飛鳥は雑魚避け・あたしはボス戦。今日は全身全霊を掛けないと死んじゃうと思うから、そのつもりで!」


 紗月のその声を皮切りに、二人は自分の武器を構え始めた。


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