第三話 グズグズしない!!
骸骨の大群に突っ込んでいく女性二人。
本来であれば、可憐な二人がこんな怪異の中に突っ込んでいくのは無謀の様に思える。
しかし、結果は予想とは異なるものだった。
飛鳥と紗月が骸骨と接触する───そう思われた瞬間、骸骨の大群その前方が一気に吹き飛ばされたのである。
紗月はすでに鞘から刀身を抜いており、例え対象が刀・薙刀であろうとも───それが骸骨自身の骨であっても、彼女はまるで豆腐でも斬るかの如く簡単に対象を斬り、殲滅していく。
飛鳥の方は薙刀にまるで風が纏っているかの様で、彼女がそれを振るえばそれに呼応してその周りに強力な風が生み出され、多数の骸骨が粉々に吹き飛ばされる。
本来であれば、籠城戦は数がものを言わすもの。
この場合だと、圧倒的数を揃えた骸骨の方に分がある───筈だ。
しかし、彼女達は一騎当千。獅子奮迅の活躍で骸骨共を屠っていく。ある骸骨は頭部を斬り裂かれ、ある骸骨は胴体を粉々に吹き飛ばされ───骸骨達が一つ、また一つと倒されていく。
二人の動きは見事なものだった。飛鳥はまるで棒術でも習っていたかの様に流麗であり、骸骨と戦っているのに、その動きに魅せられてしまう。
紗月の方も剣を習っていたのだろう。無駄の無い動きで骸骨達を葬っていく。しかし、こちらは飛鳥と違って魅せる動きでは無く、どこまでも無駄を省いた───言わば戦う為の剣だ。
しかも、紗月の奇妙な所はそれだけで無く、彼女の場合、まるで後ろにも目が付いているとでも言わんばかりに後方への警戒も高く、この集団対一の戦いにおいて効率的なのである。これは経験からの動きなのか、はたまた別のものなのか、それは分からない。
二人が突き進み、骸骨集団の中央付近に踏み込んでもそれは変わらなかった。
骸骨によって後ろを囲まれても、彼女達の優位性は変わらず、それどころか減量を増していっている。
こうなっても状況が変わらないとなると、もう骸骨達の全滅は確定だろう。開戦してから数分は経ったが、彼女達が息切れする様子も見られない。
骸骨達が全滅するまで、彼女達の蹂躙は続いた。
□□□
「うへぇ……やっと片付いた……」
飛鳥が心底うんざりした様に、床に突き刺した薙刀にもたれかかる。
紗月は扱っていた日本刀を左右に振り鞘に戻す、と。
「ほら、気を抜かいの。いつまた新しい敵が襲ってくるか分からないんだから」
「うぅ………もう出ようよ〜紗月ちゃ〜ん」
「ダぁメ。ここで逃げたら協会に目を付けられる事は飛鳥も分かってるでしょ?」
「でも〜……」
「いいから行くよ」
「う〜……」
協会とは、魔法少女達を総括する組織の事である。
名を『魔女協会』。魔法少女の中でも特に突出した力を持つ六人が代表となり、どの魔法少女がどの魔獣を倒すかを指示している。
何故、魔法少女達が協会に従うかというと───それはお金の為と、恐れているからだ。
まず金だが、協会に指示された通りに魔獣を狩ると、その魔獣の強さに応じて報酬を用意してくれる。その報酬は桁がズレていて、低レベルな魔獣でも数十万は支給される───正に破格なのだ。
だから、大体の魔法少女は協会に不満を言う事無く従うのである。
そして、恐れているというのは───協会は魔法少女を統括すると共に、断罪もまた行っているのだ。
多少のおいたは目を瞑るものの、大量殺人などと行き過ぎた犯罪を行う様な魔法少女がいれば即排除しに掛かる。
協会に所属する魔法少女は───強い。正に選りすぐりと言っても過言では無い。
断罪などされたくない───だからこそ、全魔法少女は協会に従うのだ。
飛鳥と紗月は廊下を進んでいき、階段がある場所へと辿り着いた。
「どっちに進もっか?」
紗月が飛鳥に尋ねる。階段は上階へ進む物と下階へ進む物の二つがあった。
「ん〜………ここって『お城』だよね?」
「そうだね、それは間違い無いと思う」
「だったらさ……大体 殿様とか偉い人は上にいるよね?」
「あ〜、確かに」
「という事はさ」
「上、だね」
二人は上へ繋がっている階段を登っていく。
「う〜……何でどんどん暗くなってるのぉ?」
二階層へ近付いていくにつれ、灯り代わりに置いてあった蝋燭が少なくなってきており、薄暗くなってきていた。
「文句言わない。そんな事言ったら、完全に真っ暗だった洞窟もあったでしょ」
「そうだけどさぁ〜……」
「ほらっキビキビ歩く!」
「うぅ〜……」
二階層へ到着。一階層と違い、床や壁の板はボロボロ・障子にもかなりの穴が空けられている事で、薄暗さと相まって異常な雰囲気が漂わせている。
しかし、二階層はこの廊下だけで、突き当たりすぐには上の階段が見えた。
「うぅ〜!」
「はい、気味悪いのは分かるけど進もうねぇ〜」
「紗月ちゃぁ〜〜〜ん!!」
紗月が飛鳥の背中を押す。
飛鳥が涙目で紗月に何かを訴えているが、残念ながら その思いは彼女には届いていない。………あるいは、分かっていて無視しているのかも。
だが───
バキッ
突如、そんな二人の前方の板───その下から、骸骨の腕が露出してきた。
「ひやぁっ!?」
「………来たわね」
飛鳥は飛びのき、紗月は敵が現れた事で気を引き締める。
バキッ バキバキッ バキッ
最初の骸骨に続く様に他の骸骨達がどんどんと板の下から這い出てくる。それに呼応してどんどんと床の板が無くなっていき。
「う、うわぁ……またいっぱい……」
「ふふ、上等じゃない。また蹴散らしてあげるわ」
「えぇ……また戦うの……」
紗月の言葉に嫌そうな顔をして前を向く飛鳥。
「うぅ、嫌だなぁ………ん? ちょっと待って」
「何?」
「………え? これ、普通に無理じゃない? 紗月ちゃん」
「え?」
飛鳥にそう言われて、紗月も前をしっかり注視する。
床の板はこれでもかという程 剥がされ、歩ける場所など最早無くなっていた。
もう、どうして骸骨達が残った板の上に乗れているのか分からないレベルである。
「………」
「さ、紗月ちゃん……」
「飛鳥」
「な、何?」
「跳ぶよ」
「………え?」
紗月は一気に駆け出したかと思うと、床を蹴って思いっきり跳び上がった。そのまま骸骨達の頭部を足場に、廊下の奥へと進んでいく。幸い、二階層も天井が高い為、紗月が頭をぶつける事は無い。
「え? え……えぇ!?」
「ほら! 飛鳥もグズグズしない!!」
「えっ、え!? えっと………う〜〜〜、わ、分かったよぉ」
飛鳥も嫌々と言いながら駆け出し、一気に飛び上がる。そして、紗月と同じ様に骸骨の頭部を足場に進んでいった。
足場として踏まれた骸骨は、次の骸骨に跳び乗る為に蹴られ、そのまま残った床共々下へと落ちていく。二人が廊下の向こう側に到着する頃には、すでに現れた骸骨の半数がいなくなっていた。
それでも、まだ結構な数の骸骨が床の上に乗っている。
「飛鳥!」
「う、うん!」
飛鳥は持っていていた薙刀を振り被る。その薙刀は音からして風が纏われていて。
飛鳥が一気に薙刀を振った瞬間、強烈な風が骸骨と───床に襲い掛かり、残っていた板の残骸をほぼ残さず剥がし切り、全ての骸骨を下へと突き落とした。
「よし、これで追われる心配無く上へ行けるわね。飛鳥ナイス!」
「が、骸骨の頭、パキッて………もう嫌ぁ!」
紗月は「よくやった」って親指を立てるが、飛鳥はそれどころでは無い様で、骸骨の頭を踏んだ感触が妙に生々しくて心に傷を負ったみたいだ。
倒すのは良くて、踏んで頭蓋骨を割るのはダメらしい。
「ほら、飛鳥、上へ行きましょう」
「………」
若干瞳に光が灯っていない飛鳥を連れて、紗月は上の階段へと登っていった。
三階層に到着。三階層も二階層と同じ作りで、廊下が一本長く伸びていて、突き当たり部分のすぐ側に上への階層がある。
ただ違うのは、二階層の様にボロボロでも無ければ、蝋燭が少なくて薄暗い───という事も無い。
床の板もきちんとしていて、蝋燭も壁に均等に取り付けられ、光を灯していた。
そして、廊下の中央には───正座をして、静かに佇んでいる骸骨が一つ、存在していた。




