第十話 世界を救う
改稿にかなりの時間が掛かり、更新にこんなにも遅くなり申し訳ありません。これからはボチボチと更新を進めていこうと思います。
※登場人物に変わりはありませんが、内容がかなり変わっている部分があります。ですので、お手数ではありますが、ここから読み始める前に、1度1話目から読んでもらえると有難いです。
「いいか? 魔術ってのはな」
少年が説明を始める。
「魔力を消費して様々な技や事象を引き起こすものの総称。突風や落雷に留まらず、嵐を引き起こすものさえも魔術に分類される。じゃあ魔法は? という話になるんだが、こちらは魔術とは別格のものと思ってくれればいい。魔力を消費して世界の法則さえも塗り替える───神の御業に最も近い力。例を上げるなら………大陸全土の地盤沈下・生物変異だな」
「「………」」
「そもそもお前らのやっている事とは規模が違うんだよ。お前らがやっているのは魔術───それもかなり下位に分類されるものだ。魔術が扱えるって時点でそれなりに人としては上位に区分されるのかもしれないが、それでも所詮 凡人の域を出ない。力があると驕るには鍛錬が足りん」
その言葉を聴いて、紗月と飛鳥はお互いに顔を見合わせ困惑を露わにした。
「………あの」
「あ?」
「何でそこまで知ってるの?」
視線を少年の方に戻し、飛鳥は少年に恐る恐る問いを投げ掛る。
「知っているも何も、俺は『ラナー』だって言って───あぁそっか。こっちの世界では『異界を駆ける者』の称号は周知されてなかったんだったか? はぁ、めんどくせぇな」
少年は頭を掻き溜め息をつくも、また説明を行う。
「お前ら、勇者とかは知ってるか?」
「え? そりゃあまぁ。物語とかに登場する・魔王を倒す人の事でしょ?」
「そうだ、その認識で合ってる。『ラナー』もそれに近しいものだと思ってくれればいい。世間では伝説やら架空やらとされている称号。ほとんどの者が獲得に匙を投げ・獲得しようと最後まで諦めなくても、その修練だけで生涯を閉ざす者もいる───いや、大体がそれで終わるな。それ程までに稀有な称号───それが『異界を駆ける者』だ」
「………そもそも、称号って何なの?」
「数多ある世界を創り出した創造主───彼らが、その世界の中でも特に異質であると認めた者にのみ与える『証』みたいなもんだ。異質であると認め、この先もそうであれと称号と共に特異な力を授ける───この工程が『称号を得る』という事になる」
「「……」」
また紗月と飛鳥の二人が困惑気味に顔を見合わせる。
「何でそんな困惑するんだ? 俺の説明に何かおかしい所があったか?」
「いや、おかしい所と言うか………」
「おかしい事だらけと言いますか……」
「あぁ? てか、この世界じゃあ称号って言わなくても、それに似た現象が起きてる奴はいるだろ。これは世界どうこうじゃねぇ。どの世界でも等しく与えられるものなんだからさぁ」
「………飛鳥、知ってる?」
「ううん……全然」
「……………そこまで違うのか」
少年は再び溜め息をつく。
「まぁいいや。とりあえず『ラナー』の事についてさらに詳しく説明するぞ。これを知っててもらわないといつまだ経っても本題に移れねぇ」
「本題?」
「あぁ。俺がお前らを助けた理由でもあるな」
「………」
それを聴いて紗月がほんの少し身構える。
だが、少年はそれを気にする事も無く。
「『ラナー』───『異界を駆ける者』の称号は、その名の通り異世界へ渡りたいという者に贈られる称号だ。とある条件を満たす事で、その称号を得ている者は別世界へと渡る機会を得る」
「その条件って───」
「世界を救う」
少年から出た大それた言葉に、
「「……………」」
紗月と飛鳥の二人はその驚愕を露わにしていた。
「………えっと」
紗月が言葉を挟む。
あまりにも壮大でアバウトな少年の話に突っ込みを入れたかったのだろう。しかし、地球人からしたらあまりにも馬鹿げた内容に、何から突っ込めばいいのか分からない、といった感じだ。
少年はそんな紗月の言葉に耳を貸す事無く話を続ける。
「だが、これが如何せん難しくてな。いやまぁ、世界を渡る条件がそんな簡単な筈も無いんだが。倒すべき相手が俺より格下だとしても、どこにいるのか・何を倒すべきなのか・そもそもそれで合っているのか、などなどいろんな問題が湧き上がる。我武者羅に動いても世界は救えない。だから、世界を渡ったらまずは情報収集する事を徹底してんだよ」
「いや、あの……」
「けど、今の所、進展はゼロ。各地を回ってお前らの様な奴らを助けてきては尋ねてみたけど、答えとなる言葉は未だ帰ってこず。まっ、助けた奴らが全員十代前半のチビッ子達だったから、まだ俗世には疎いだけかと思っていたけど………まさか根本から常識が違うとは。そりゃ話も通じねぇ訳だわ。今まで何百と世界を旅してきたが、ここまで違う世界は初めてだな。何でこんな世界を懐かしいだなんて思ったんだろ?」
「「………」」
勝手に一人で自己完結して「やれやれ」と首を振っている少年。
紗月と飛鳥はやはり話についてきておらず、それどころか若干少年の事をいたい人だと思い始めてきたのだろう───少年に向ける目が変わってきている。
しかし、それではいつまで経っても自分の聴きたい答えが聴けないという事で、紗月が口を開いた。
「んまぁ百歩譲ってあんたが異世界から来た人だとしよう。じゃあ何で日本語話せてる訳?」
「は? 日本語? 何だそりゃ?」
「いやっ今あんたが喋っているその言語よ!」
「………あぁ、言語伝達の『スキル』もねぇのか この世界。不便にも程があんだろ」
また少年が不機嫌そうに頭を抱える。
「今俺はその日本語? とやらは喋ってない。人は音を耳で聴き、そこから信号を飛ばして脳に伝える。この『スキル』はそこを逆手に取ったものだ」
「……どういう事?」
「この『スキル』があるからこそ、俺は言葉に意思を込めれる。そうして飛ばし・相手に言葉が届いた瞬間、『スキル』の作用により、意思の形に乗っ取って信号が変化するんだ。つまり、この『スキル』を持つ者の言葉は、相手がどこの誰であろうと、きちんと伝えたい意思を伝えられるものとなるんだよ」
「「………」」
また二人が黙ってしまう。言っている意味が分からなくて困惑しているというより、もう最早呆れに近い。
「………まぁ別に理解は求めてねぇし、それはいいわ。他に訊きたい事は?」
「え? そりゃ山ほど………あ、いや、いいです。本題どうぞ」
紗月は「まだ他にも訊きたい事は山ほどある」と言おうとしたのだろう。しかし、それがあまりにも多すぎるのと、今の会話の感じからして納得のいく答えが帰ってくるとも思わなかったのか、話の主導権を少年に渡す。
「んじゃあ遠慮無く。単刀直入に訊くぞ───この世界は今どんな危機に陥ってんだ?」
「「……………危機?」」
そうして少年の口から放たれた本題は、また突拍子も無いものだった。
「そうだ。俺が召喚されたって事は、この世界も何かしら滅亡の危機に瀕している筈だ。世界を救うのが条件なんだ───救う必要の無い世界にわざわざ転移させる必要が無い。俺も『ラナー』の称号を持っている以上、蔑ろには出来ねぇ」
「「………」」
また紗月と飛鳥の二人は顔を見合わせる。
「えっと……それは何年後の話? まさか五十万年後とかそういう話じゃないとは思うけど……」
飛鳥が恐る恐る少年に尋ねて。
「当然だろ。てか、何で五十万年に世界が滅びるなんて分かんだよ」
「え? そりゃあ………天文学的に地球は太陽に徐々に近付いていっているって話だし……」
「あ? 太陽に近付いてくって何の話……………まさか」
そこまで言って少年は驚愕を露わにする。
「お前ら、世界を外側から見たのか!?」
「………? 世界って星の事? 流石にそれは実際にこの目で見た訳じゃ無いけど、写真とか動画とかで───」
「自力で世界の外側に出る技術があるのか! なるほど、道理で………魔術も無しにここまで発展してきた訳だ。文明が滅びなかったのも納得だな」
少年は何かに納得した様に何度も頷き、興奮している様だった。
それを見て、紗月と飛鳥はまた首を傾げる。
「それで? どうして太陽に近付くと滅びるんだ?」
「えっと、星が太陽に近付き過ぎたせいで地球の温度が上がって、全部干からびちゃうからとか───」
「なるほどな。世界は太陽と適切な距離を保っているからこそ『暖かさ』という恩恵を手に入れられているのか。でも、逆に近付き過ぎると身を滅ぼす結果になる、と」
少年が興味深そうに何度も頷く。
「流石に俺もそんな後の事までは面倒見れんな。しかもそれは危機というより世界の寿命とも言える。それよりも───もっと直近に迫ってる危機とかは無いのかよ。可能性とかでもいい」
「ん〜……それ以外って言われると地球温暖化ぐらいしか思い付かないけど……それも間近に迫ってるって訳じゃ無いし………」
「身近な危機って言われても、無いでしょ、そんなの」
二人の回答に、少年は頭を悩ませる結果となった。
(世界が危機に瀕してない……? そんな馬鹿な。でも、世界を外側から観測出来る程 発展した世界だぞ。身近に危機が迫っていて観測出来ないなんて事があるのか? 本当に気付いていないだけなのか? ───いや、それともあるいは)
少年はこの会話で得た情報を元に自分なりの仮説を立てていく。現時点では圧倒的に情報が足りないが、それでも何度も世界を救ってきて経験を踏まえ、ある程度の可能性を導き出し。
「………よし、分かった、もういい。俺から訊きたいのは以上だ。こっちも聴きたい事は聴けたし、これで貸し借りは無しという事で」
「え?」
「もうあんな無謀な事はすんなよ───と言っても、命令されてるんだったら仕方無い部分もあるが」
「あの、ちょっと」
紗月はこれでまさか話が終わるとは思っていなかったのだろう。命を助けられたのだ───よりもっと紗月達の内情に触れる内容を訊かれるかもと思っていたのかもしれない。実際、紗月はそれを想定していたのか身構えてもいた。
けれど、まさかのこれで終了。流石の紗月も驚き慌てている。飛鳥に至ってはあまりにも少年の切り替えが早過ぎて呆けているし。
「じゃあな。命、大事にしろよ」
紗月の静止も他所に、少年は席を立って手を振りながら去っていく。
「………」
あまりにもあっさりと「対価を支払った」と言われた事で紗月は戸惑い、思考が上手く纏まらず、少年の後を追う事は出来なかった。立ち上がり掛けた腰が脱力して椅子に落ちる。
「……あの、紗月ちゃん」
そこで、ほんの少し我に帰った飛鳥が紗月に話し掛けた。
「………何?」
「いや、その………これ、結局何なんだろう?」
「……………あ」
タオルに包み、周りには見えない様にして運んできた赤い水晶───それの正体を少年に訊く事、それを忘れていた事に───飛鳥に指摘された事で紗月も気付き、声を上げた。