十二歳の賢者ともふもふの従者
「十二歳で五大賢者の仲間入りだとっ?」
「”木”の賢者を代々務めてきたリヴェット家も終わりだな」
私の養父は、魔術師協会の中でも最高位にあたる“賢者”の内の一人だった。
孤児だった私を養子にした時にはもうおじいちゃんだったけれど、子どものいなかった養父は、私を本当の娘のように愛してくれた。
そんな養父が亡くなったのは、約一ヶ月前。
「……エヴァ、リヴェット家の者達を頼む」
私のせいで周りから毛嫌いされながらも、愛情を注いでくれた養父。その彼の最初で最後のお願いがそれだった。だからこそ私は、今荊の道を歩いている。
「ジジ、今日の予定は?」
「午前中は国王陛下への謁見と就任のご挨拶。その後、火の賢者様と会食。午後からは魔術師協会の会議が入っております」
「うえぇ、夜までびっちり。サボりたい……」
「ダメです。賢者となったからには、もっとしっかりしていただかないと」
「わかってるわよ。ジジのケチ」
ジジは、獣人族の女性で私の使い魔だ。三年前、売られそうになっているところを私が助けた。それ以来私の執事をしている。
私の態度にジジはため息をつく。そんな姿が面白くなくて、私はゆらゆら動く彼女の大きな尻尾に抱きついた。
「エ、エヴァ様っ?」
「ジジの尻尾、気持ち良くて好き」
もふもふしてて、温かくて、触るととっても気持ちが良い。もし空に浮かぶ雲が掴めたら、きっとこんな手触りなんだろうなと思う。
「あ、あのっ……もうそろそろっ」
「ジジだけはどこへも行かないで。ずっと私のそばにいてね」
養父がいなくなった今、私にはジジしかいない。そんな不安な気持ちが彼女にも伝わったらしい。ジジは振り返ると、私を優しく抱きしめてくれた。養父が亡くなった時、泣きじゃくる私を慰めてくれた時と同じように。
「私はどこへも行きません。ずっとエヴァ様のおそばにいます。あなた様に拾っていただいたあの時から、私のすべてはあなた様に捧げておりますから」
そう言って、ジジは優しく微笑んでくれた。それを見て私の胸に愛しさが溢れてくる。
そうだ、私はジジのために、リヴェット家に仕えてくれる人達のために賢者になると決めた。きっとジジがそばにいてくれれば、私はそれを見誤ることはないだろう。
「ねえ、もう一度尻尾触らせて」
「もう、仕方ありませんね」
ジジの頭の上で三角形の獣耳が嬉しそうにピクピク動く。それを見て微笑みながら、私はもふもふのジジの尻尾にもう一度抱きついた。