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機械人形の裏

作者: ぱぁる

 ここはあることが有名な町である。毎日観光客が絶えず、メインストリートは1年中大賑わいをみせている。

そこへ1人の観光客が到着した。

ジーパンに白いTシャツ、水色の羽織り物、大きめのリュックサックを背負ったラフな恰好の20代前半の男性だ。

 男性は1泊2日で息抜きに来たらしい。

 パッと見ただけでは何が有名なのか分からない普通の町だが、観光客達は満面の笑みである。

 ここにはテーマパークやプール、ゲームセンター、そして町のシンボルの大きなビルが建っている。

 町の入り口には大きな看板が立ててあり、そこには「ようこそ、全自動の町へ」と書かれている。

 この町はすべての職業を機械人形がしてくれるのである。

 プールの監視員、警察官、テーマパークの従業員など、どこを見ても機械人形が働いている。

 そしてこの機械人形には音声認識もありカタコトだが喋るらしい。

 あまりの人気にこの町に住み始める人が出始め、今でも人口が増えている町である。

 男性は左腕を確認した時、時計の針が12時30分を指していた。

 朝早く出発した彼は空腹だったものでランチにしようと店を探していた。

 しかし、どこの店も満席状態である。

 店を探すため街中をさ迷っていると、ある機械の前で立ち止まっている人を何人も見かけていた。

 その機械は歩道の側、20mおきに長細い円柱が埋められていて、高さは約100cmぐらい。モニターが付いており、その横には赤いボタンがある。

 男性は興味が湧き、その赤いボタンを押すと円柱が喋り出したのである。

 「ゴヨウケン ハ ナンデショウ」

 何か困ったことがあれば答えてくれるらしい。

 男性は便利な町だと感心しながら、ランチを食べれる店、あと満席じゃないところね、と人間に話しかけるように頼んだ。

 数秒待つとモニターのマップに店の位置と一番近い道のりが表示された。

 今いるメインストリートとは少し離れた場所だが美味しいナポリタンを提供してくれるという。

 ナポリタンという気分ではなかったがランチを食べれるならどこでもよかった。

 機械なのは分かっているが円柱に少し頭を下げ店へと歩き出す。

 今いる場所から町の中心部へ少し歩くと人混みは無くなった。

 メインストリートとは違い、店が立ち並ぶという感じはあまりなくビルが多く建っていた。

 そこはさっきいた場所とは違う物静かな町の姿があった。

 違う雰囲気を楽しみながら歩いていると1軒ポツンと店があり、店前の看板のメニューにはナポリタンと書かれていた。

 店の扉を開けると数人の客と従業員がいた。

 「イラッシャイマセ ナンニンデノ ゴリヨウデショウカ」

 やはりこの店も従業員は機械人形だ。

 男性は1人と答えると席に案内された。

 席に座るとお冷とメニューを持ってきてくれた。

 内装は発展しているこの町とは違いレトロで一昔前の喫茶店に近い感じであった。

 呼び出しのボタンを押し、従業員にナポリタン1つと頼む。

 ビルがそびえ立つ外を見ながら数分待っていると、お待たせしましたと機械の声でナポリタンが運ばれてきた。

 見た目はいたって普通のナポリタンであり、機械だからといって雑な調理ではなくむしろ丁寧な調理だと感じとれた。

 そうでなきゃ観光地としてはどうだろう、と思いながらナポリタンを1口。

 調理は機械、味付けも機械、なのにとても家庭的な味がした。不思議だった。

 実家で食べるようなナポリタンの味にびっくりした。

 空腹は最高の調味料、ものの数分で食べ終わってしまった。

 食べ終わったと同時ぐらいに1台の従業員が白い紙を渡してきた。

 汚れた口を拭けということだろう。

 まるで誰かが見ていないと気付かないような些細なことまで気づいてくる。

 今の機械はすごいと感心しつつ満足げに席を立った。

 会計を済ませ、店を出るとき厨房を覗いてみたがやはり人間ではなく機械人形が作っていた。

 「アリガトウゴザイマシタ」

 店を後にし、もう少しこの町を探索してみたい気持ちはあるがひとまず今夜泊まるホテルへと向かうことにした。

 マップを見るとホテルはこの近くらしい。

 メインストリート近くのホテルでも良かったのだが人気がすごく、予約は難しい、なにより値段が高い。

 この町のホテルはどこも評判がいいと聞いているので正直どこでもよかった。

 ホテルに着き、機械人形たちが出迎えてくれた。

 「イラッシャイマセ ヨウコソ オコシクダサイマシタ」

 男性はフロントで自分の名前を名乗る。

 「オマチシテオリマシタ」

 施設の説明をされ部屋の鍵が渡された。

 1階には浴場、朝食と夕食会場、娯楽スペースなどがある。

 渡された鍵には504と書かれていた。

 部屋の扉を開けるとシンプルな内装であった。

 ベット、浴室、トイレ、テレビ、机には緑茶のパックとお菓子、そして窓から見える景色はビルだった。

 景色はなんとなく予想していたが少し悲しくなった。

 その他に部屋の隅に小型で長方形の機械が置いてある。

 先ほど説明を受けてびっくりしたのだがこの機械に何か困ったことを質問すると答えてくれるという。

 そして全部屋に1台ずつ置かれているらしい。

 感じ方は人それぞれであり便利だと感じる人もいれば、機械とはいえずっと見られている気がして怖いと感じる人もいると言っていた。

 確かにこの町には自分の時間を作れる場所が少ないと感じる。

 全て機械がやってくれるのであるが裏を返せばどこにでも機械の1台や2台はいると考えていい。

 メリットととしては犯罪は少ないと考えられる、あくまで予想だが。

 しかしあまり考えすぎるのも良くないと思ったので、持ってきた荷物を取り出しつつどこに行くか考えた結果、テーマパークを1人でうろつくことにした。

 夕食までには帰ってこよう。

 テーマパークに近づくにつれ子供たちの楽しそうな笑い声が聞こえてくる。

 入園は無料でアトラクションに乗るのには料金がかかるというものである。

 パーク内には大きな観覧車、ジェットコースター、ゲームセンター、お土産ショップ、その他にもたくさんのアトラクションや建物があった。

 友人と、あるいは家族とならパーク内だけで1日過ごせそうな気もするが今は1人。1人でアトラクションに乗るというのはなぜか気が引ける。

 時間がもったいない気もするがベンチに座ってのんびりとでもしようか。

 ふと思ったのだがこの町から電気というものが無くなったらどうなってしまうのか。

 そしてこの町の人々は普段どうしているのか。働いていないのだろうか。

 そもそも機械人形たちは何をエネルギーとして動いているのか、電気なのか、それともガソリンなどのオイルなのか。

 不思議な町だからなのか機械人形やこの町への疑問が増えていく。

 結局パークに来たものの疑問が増えただけであった。

 特にやることもないのでのんびりと歩いてホテルへ戻ることにした。

 ホテルに戻り、ベットに寝転がり少し休憩した。

 この町に来てから特別なことはしていないが息抜きにはなっただろうとか考えていると夕食の時間が近づいてきた。会場でのバイキング形式の夕食だ。

 1階へ行き夕食会場へ行くとチェックイン時にはあまり見かけなかったがたくさんの人の姿があった。

 メインストリートから少し離れたホテルでも宿泊客はたくさんいるのだと知りなぜか安心した。

 会場ではガラスの奥でステーキを焼き、パスタを茹で、大きな鍋でスープを煮込む機械人形たちが見えた。もちろん配膳も機械人形たちがやってくれる。

 彼は白米、大きなステーキ、新鮮なサラダ、コンソメスープを食べ終わり、さらにパスタやデザートを平らげた。

 夕食に満足し夜の街並みを見てみたかったので散歩に出かけた。

 時刻は20時だがメインストリートは昼間と同じくらいの活気がまだ溢れている。

 この町は機械人形が店員ということもあり夜遅くまで店を開けているという。この町ならではのサービス的なものであろう。

 昼間とは違い冷たい空気が流れ、下手したら風邪を引いてしまう寒さだ。

 せっかくの息抜きで遊びたいのは分かるが酒の飲みすぎなどで気分が悪くなったり、風邪を引いてしまったら元も子もないと思った男性はメインストリートを少し散歩しホテルへと戻った。

 冷え切った体に温泉の湯が染み渡る。

 体も心も温まった彼は部屋に戻り、寝ることにした。


 まだ太陽が昇ってきていない朝早く、彼は目を覚ました。

 まだ眠かったが朝風呂にも入りたかったので重い上半身を起こす。

 温泉に浸かり部屋に戻る前にフロントに寄ると従業員は1台しか動いていない。

 いくら機械とはいえエネルギーを無駄に消費するのはもったいないということなのか、または朝早い時間帯は宿泊客も少ないので1台で足りるということなのか。

 朝食の時間がやってきた。

 会場へ向かうと昨晩の夕食の従業員の数とは違い数台しか動いていない。最小限の台数で宿泊客を案内している。

 素早く朝食を済ませ部屋に戻り、なんとなく外を覗いてみるとたくさんの人の姿があった。

 ビルが立ち並ぶ物静かな通りをある方向に向かって歩いている。

 みな服装はスーツではなく私服であった。年齢は下は20代、上は50代といったさまざまな男性、女性がいる。

 とても気になった彼は急いで身支度を済ませた。

 みながどこに歩いていくのか、向かう方向はしっかりと覚えていた。

 町の中心部、町のシンボルの大きなビルに向かっていた。

 ビルの近くに着いた彼はビルに入っていく人々を眺めていた。

 入口には警備員が2人。

 警備員にここで何が行われているんですかと尋ねてみたが答えてはくれない。そんな簡単には通してくれないそうだ。

 この町の噂をインターネットで調べてみたところ内容は分かっていないがほとんどの人間が働いているらしい。

 機械たちの整備や電気関係の仕事だろうか。

 さらに疑問が増えていくばかりである。

 ホームページを覗いてみると市長の名前が書かれていた。どうにか仕事の内容を聞き出したいのだが答えてはくれないだろう。

 しかし今日でこの町を出ることにしている。ならば答えは1つであろう。

 市長の家の住所を調べそこへ向かうことにした。

 運よく市長に会い、都合よく答えてくれたらラッキーとでも思っていたのだろう。

 家の近くに到着し周辺をさ迷っていると何しているの?とかわいらしい声が聞こえた。

 少しびっくりしたが年齢は12歳ぐらいの女の子であった。

 市長さんに会いたくてと伝えるとおじいちゃんに会いに来たの?と言う。

 市長の孫であった。 

 現在市長さんは家にいるかと聞いてみると今はいないらしい。

 それじゃあ仕方ないと諦めその子にダメ元で聞いてみた。

 この町の大人たちはどんな仕事をしているの?、と。

 「えーと、詳しくは知らないんだけどなんか機械になるって」

 曖昧な答えと同時にびっくりするような内容であった。

 他に質問してみるがこれぐらいのことしか分からないらしい。

 ありがとね、と伝えホテルに戻り、帰りの支度をし、この町を後にすることにした。

 後々調べているうちに不確かな情報を手にすることができた。

 あのビルでは1人1台、機械人形を操る装置を動かしているという。

 さらにゴーグルなような物とマイクを身につければ機械人形として目線を変えたり、喋ったりできるらしい、真実かどうかは分からないが。

 いくら機械とはいえ裏で操っているのは人間だった場合、毎日のように夜遅くまで働くことになったり、1日中働くのは無理がある。だからこの町に引っ越してくる移住者がまだまだ必要なのであろう。

 観光客を集めるという作戦であるなら大成功な町である。

 しかし彼は言う。

 「成功している物事には良い意味、または悪い意味の裏がある」と。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

上手くいっている物事には努力や運などのいい意味での裏、またはなにか悪い意味での裏があるということを伝えたかっただけです。

この物語は別に悪い意味での裏ということではないと思うのですが。

次作はいつになるか分かりませんがまだ飽きというものがきていないのでもう少し書いてみようと思います。

では、また次作でお会いしましょう

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