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紫陽花

作者: 芥屋 葵


6月の花嫁は昔から憧れていたし、憧れのまま叶った夢は幸せの象徴だと信じていた。


何不自由なく生活できたつもり。


専業主婦で家庭を守り、愛する夫を支える。


ママ友の会だってそつなく熟す


不満はなかった、私は。


羨ましがられる生活にいつしか酔いしれていた私は夫の変化には気づきもしなかった。


出張

会議

接待

それは突然で、帰宅も遅かったし、帰らない日も多くなった。


そんな夫を支える素晴らしい妻というステータスを欲しいままにできていたと勘違いしていた私は馬鹿者だった。


お花の教室で紫陽花のアレンジを勉強したので、自宅の花瓶にも紫陽花を添えた

花なんて知らないし、知識もないうえに枯れたら捨てるだけ、習っているといえば「すごい」といわれるし、夫だって鼻が高いはず。


「ただいま」

「おかえりなさい、今日も遅かったね」

「明日までにしなきゃいけない案件でね。ご飯はいいや、食べたから」

「そう、わかった。」

「花変えた?」


花瓶の中の花の変化に気づく夫、些細な変化に気づく完璧な夫


「そう、お花の教室で紫陽花を使ったアレンジを習ったから」

「綺麗だね」

「花が多い分枯れるのも早そうだけどね」

「えー枯らさないでくれよ?折角綺麗に咲いているんだから」


他愛の無い会話にふと思い出したように切り込んできた夫


「明日、出張になったから」

「急なのね」

「そうなんだよ、よろしくね」

「明後日は大丈夫?」

「明後日?」

「結婚記念日でしょ?」

「あぁ…大丈夫だよ…」


この時の夫の不思議な間にも気付かなかった。


出張に出かけた夫を見送り、家事の一切を済ませる

結婚記念日はどこに連れて行ってもれえるのだろう、と期待をしながら高かった化粧品を薄めに伸ばす


結婚記念日

“取引先で問題が起きた、遅くなるか帰れない”

一通のメッセージに落胆した私。全く!何の日かわかってるの!?

時間の経過と共に怒りに変わった私はテーブルの上の枯れかけの紫陽花を捨てた。


結局帰ってきたのは翌日で、その時に初めて気が付いた。

不自然なスーツの皺

中のシャツはカラーシャツから白に変わっている

伸びていない髭


こんな日今までもあった。忘れていた女の勘が働いた。

この人、、そうだったんだ。


「結婚記念日だったのにごめんね、これプレゼントと、紫陽花気に入ってたよね最近。」

そういってアレンジされた紫陽花の花を渡された。


その日から夫の行動を振り返った。

全て辻褄が合う

決まった曜日に居ないのも

決まったタイミングで出張になるのも

シャツの枚数が増えていること

考え出したらきりがなく、夜もまともに眠れなかった


平静を装い朝食の準備をして夫を見送る

「それじゃあ、いってきます」


不意に不安が押し寄せてきた


枯れかけの紫陽花を捨てた自分を思い出した…捨てられた花は私だった


枯らさないでといった夫の発言は最後の警告だったのかもしれない


些細な変化に気づいたのは、バレないように逆にアンテナを張っていただけ


貰った紫陽花の花は赤と紫の二色に咲いていた。


紫陽花の花ことばは


                移  り  気

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