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ファンタジー戦争  作者: 青木誠一
4/5

その三


 仕事を引き受けたあとで、沖は思案した。

 ライトノベル仕様でのファンタジー世界はどう造型したらよいのだろう。


 わからない。

 これまで彼の作中世界は、まがりなりにもリアリズムを基調とする手法により表現されてきた。

 しかし依頼を受けたのは、沖栄一作品ではなく、良野部軽らのべ・けいの代筆作だ。

 リアリズムなど入り込んではいけないのである。

 優先すべきものは。

 願望。

 とにかく読み手の願望を充足させる。

 苦労知らずなわけではなかろうに、あまえることに逃げ、本の中での苦労までは御免こうむるという十代読者のだ。

 教訓などたれようものなら嫌われる。訴えたいことは人物の行動というかたちで見せねばならない。

 いや、書き手の主張なんぞはじめからいらないのだ。良野部らのべの小説にかぎっては。

 求められるのは、楽しさや華やかさ、萌えやときめき、スリルと興奮、勝利と栄誉の疑似体験。

 テーマ?

 せいぜい友情とか愛の尊さを称えあげれば十分。かくして感動大作の一丁あがりだ。


 あるいは。

 沖は若い頃にやった洋菓子工場でのバイトの作業を思い合わせた。

 クリームのたっぷり塗られた異世界というケーキ台に、勇者や姫君、魔王や人外といった定番の飾りを見てくれよく配置する。

 その上から魔法や超能力、萌えにやおいといった香料を振りかけて魅力を引き立てる。

 ラノベ書きとはこれではないのか。

 まるで、デコレーションケーキをしつらえていく仕事だ。


 けれども、ここが肝心だが。

 どうわかった気でいても、書かせられるのは沖なのだ。

 彼の立場は、ラノベの読者でもなければ洋菓子ラインの作業員とも違う。

 なによりも彼は、ケーキのような物語をつくり出すのを願望していなかった。

 沖はのっけから筆が進まなくなり、机の前での停滞(On desk delay)に見舞われた。

 中身のないものを書くのがこれほど至難なことだとは。

 良野部らのべの流儀にあわせての創作は自分には越えがたいほどの壁だ。


 沖はしまいには、夢想さえ始めた。

 ああ、いっそ本物のファンタジー世界があってくれたらいい。

 異国の辺境を訪れる気分で実地に足を運び、かの地の風景や人々を前にして取材できたらどんなに楽だろうかと。

 その世界では一から十まですべてのことが、邪魔立てされずに都合よく運ぶに違いない。ラノベの愛読者が望んでいるとおりに。

 そうした場面を模写するだけなら世話がない。

 なにしろ好むと好まざるとに関わらず、目の前の現実だ。

 認めるほかにない。

 そうあってくれたほうが、気が楽というものだ。


 彼なりの願望に浸りながら沖はいつしか、机の上で眠りほうけていた。

 異世界は向こうから、やって来た。



(続く)

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