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白騎士と古代迷宮の冒険者  作者: ハニワ
第1章 2人の冒険者
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第07話 ゴブリンの討伐

#ゴブリンの討伐


 次の日、いつものように採集依頼を受けて、西門を出発する。森に入ると、まず速やかに採集を終える。


 いよいよゴブリンの生息地に向かう。もう庭のような森となり、迷うことはありえない。地図に示されているゴブリンの生息地を目指して、一直線に進む。


 野獣や魔獣に遭遇することもなく、やがて予定した目的地付近にたどり着いた。


「そろそろ生息地近辺に入るよ。武器の確認をしましょ」


「はいなのです」


 私は右手に錆鉄のメイス、左手にステラ用の鉄のジャベリンを握っている。帯剣ベルトには鉄のナイフと拾った錆鉄のダガーを提げている。リュックの左側にはショートボウ、右側には銅の矢が入った矢筒。


 ステラは右手に錆鉄のロングソードを握っている。左腕に鋼鉄のカイトシールドをくくりつけている。帯剣ベルトには私と同じ鉄のナイフと拾った錆鉄のダガーを提げている。


 錆鉄の武器はそこそこ森に落ちている。何本か程度が良いものを拾って持ち帰り、砥石で錆を研いでできるだけ綺麗にしてある。


 私がステラのジャベリンを持っているのはステラの両手が剣と盾で塞がっているから。普段は私が持ち、使うときに手渡すことにしている。


 武器を検め終えたので、慎重に前へ進みはじめる。


      ◇      ◇


 そして、200メートルほど進んだ頃。


「ギギィィィィ」


 不気味な鳴き声がかすかに聞こえてくる。しばらくじっと待っていると、30メートルほど前方の木陰に魔獣が現れる。


「見つけた! ゴブリン!」


 小声で叫び、ステラとうなづき合う。


 皮膚は緑色で、犬と人間を合わせたような醜い顔立ち。体はやせ細っていて頭だけがやけに大きい。胸を小さなブレストプレートで守っているほかは、ボロ布のような鎧。


 ゴブリンは曲がった膝を動かして、のっそのっそと歩いている。


 周囲を見渡して、他にもいないか確認する。辺りは大きな常緑樹の間に低木や茂みのある、やや歩きにくい場所。視界は遮られていない。蛇やトカゲがいるかもしれないけど……


「よし、1体だけみたい。あれを狙いましょ」


 ステラはロングソードを木の鞘に納め、私からジャベリンを受け取る。


 私はメイスを腰のホルダーに掛けて両手を自由にすると、背中のショートボウを手にする。そして、矢筒から矢を1本抜き出して番える。弦を引き絞りながら、ステラとタイミングを合わせる。


「行くよ、せーの……」


 ビュン! シュッ!


 ジャベリンと矢がゴブリンに向かって放物線を描きながら飛んでいく。矢筒にさっと手を伸ばして、次の矢をつがえる。


 ――――――ザザッ! トン! 「ギャン!」


(やった! 刺さった!)


 でも、ステラのジャベリンは外れた。


 ゴブリンはまだ生きている。初心者用の弓なので、威力は高くない。鹿に当たっても倒せなかったりする。そのときはたいてい逃げられて終わり。連射しても逃げる鹿に当てるのはかなり難しい。


 ゴブリンは周囲を見渡している。まだ気づかれていない。鹿と違って逃げださず、私たちを探している。


 ステラはもう抜刀して私を見ている。彼女を制止してふたたび弦を引く。先ほどと同じように、狙いを定めてゆっくり引き絞って……放つ!


 シュン!


 ――――――ザッ!


 わずかに逸れ、ゴブリンの足元の地面に矢が刺さる。


(惜しい…… あせって変な力が入っちゃった)


 それでゴブリンが私たちに気づいた。ドタドタと足音をたてて近づいてくる。


 ステラにゴーサインを出す。静かにステラが中腰でゴブリンに向かう。私も右手でメイスを取り、彼女のあとについていく。


 ずっと森で狩りをしながら、一連の動きを何度も訓練している。ここまでは訓練どおり。


 先行していたステラがゴブリンと戦闘に入る。動きの遅いゴブリンにロングソードで切りつける。躊躇ちゅうちょしているのか、訓練より振りが遅い。


 でも、難なく頭に命中させ、首にトドメを突き刺し、あっけなく倒した。


「やったわ!」


 ステラに駆け寄って声をかけたけど、彼女は苦虫を噛み潰したような顔をしている。


「うぇぇ、気持ちわるいのですぅ~」


 確かに緑色で醜悪な見た目で、傷口から赤い血が流れ出している。これからその死骸を触って、もっと気持ちわるいことをしなければならない。討伐部位と呼ばれる、体の一部を切り取らないといけない。


 ゴブリンの討伐部位は牙が2本で1セット。依頼の達成には5セット必要になる。依頼を受けなくても、冒険者ギルドに提出すれば安いけど買い取ってくれる。ポイントもつく。


「うぇ、うぇぇ……」


 ステラがうめきながらゴブリンの口に手を突っ込んでいる。死骸の口をこじあけ、ダガーで左右の歯茎をえぐり、牙を抜く。かなり大変そう。


 私はゴブリンの鎧を外して胸を裂く。そして、体内から小指の先ほどの小さな魔石を取り出す。初めての解体で、魔石のある場所がいまいちわからず、よく探さないと見つけられなかった。


 ナイフを持った手がひどく汚れている。鎧のボロ布で血をぬぐい、魔石は腰ベルトにつけたポーチに入れる。血まみれになった鎧はこのまま捨てていくことにする。


 ゴブリンの武具の買い取りは、棍棒が銀貨1枚、錆鉄のブレストプレートが大銅貨4枚。錆の武具は鉄より錆びていて重く、タダ同然の価値しかない。だから、持ちきれなくなると最後は捨てていかれる。


 棍棒が高く売れてうれしい。頑丈でよく乾燥しているから、使いみちが多いみたい。棍棒だけリュックに入れる。ちょっとカバーから飛び出るけど支障はない。


「さ、ノルマは5体だから、早く次を探そ!」


「はいなのです!」


 ジャベリンと矢を回収して、獲物を求めて歩きだした。


      ◇      ◇


 あまり時間をおかずに、今度は3体のゴブリンを見つけられた。先ほどと同じく、ゆっくり森を歩いている。20メートル手前まで静かに接近する。


 ステラにジャベリンを渡しながら、手ぶりで目標を決める。彼女が中央で、私が右。周りを確認しながら弓を取り出して……


 ビュン! シュッ!


 ――――ダン! トン! 「「ギャン!」」


 今度はどっちも命中した。ジャベリンが突き刺さった中央のゴブリンが倒れる。残りの2体が向かってくる。


 どうやら、この弓では魔獣を倒せそうにない。何本か連射すればわからないけど敵は待ってくれない。


(これじゃダメか。慣れてきたら、もっと大きくて弦の硬い弓に変えよう)


 ステラが駆け出して左のゴブリンに切りかかった。難なくゴブリンの頭部を叩き切る。


「ギャァァ!」


 私もメイスを握ってそこに駆けつけ、矢が刺さったままの右のゴブリンにメイスを振り上げる。


 ゴン!


「ギィ……」


「もういっちょ!」


 ゴンッ!


「ギュゥゥ……」


 どっちのゴブリンも倒れる。最初のゴブリンは倒れたまま。でも、きっちりトドメを刺しておく。訓練では、完全に殺すまで安心しないようにと何度も指導を受けた。


 そして、手分けして牙・魔石・棍棒を回収する。刺さった矢は折れていた。もう使えない。引き抜いた矢から矢じりだけ取ってしまっておく。矢じりだけでも買い取ってくれる。ジャベリンはまだ大丈夫だけど、そのうち折れてしまうだろう。


 そして、また次を探す。続けてうまく倒せたことに気を良くした私たちは意気揚々と進む。討伐数が10体になる。達成基準は5体だから、もう条件をクリアしている。


 最初の頃に比べてゴブリンの解体もちょっと慣れてきた。嫌そうにしていたステラも不快感を抑えられるようになった。


 お互いのリュックには山盛りの棍棒。


「すごい儲かりそうだね!」


 私もステラも昼食を忘れてどんどん森の奥に入っていくのだった。


      ◇      ◇


 昼をかなり過ぎた頃にはゴブリンの討伐数が14体になっていた。おなかの虫が鳴ったことで、ようやく昼食をとっていないことに気づく。


「そろそろ戻ろっか。いつもの物見櫓でお弁当を食べよ!」


「はいなのです!」


 ここは森の北西部で、かなり奥まで来てしまっている。城門までは遠いけど、物見櫓ならそれほど遠くなさそう。


「南に行けば、小道に出るはずだから、まずはそこを目指しましょ」


 もちろん、この辺りから物見櫓に行くのは初めて。でも、小道が城門から西にずっと続いている。行き過ぎる恐れはない。


 ステラと南へ走りだす。


「ちょっと狩りすぎちゃったね」


「でも棍棒がいっぱいだから、お金もいっぱいもらえるのです」


 私もステラもご機嫌で足取りも軽い。そのため、初めて来たエリアだというのに注意を怠ってしまい、木々が途切れていることに気がつかない。森から抜け出て周りが明るくなる。


 そこは岩場だった。辺りに灰色の岩盤が広がり、大きな岩があちこちに転がっている。


 岩山のような斜面には洞穴のような横穴が口をあけていて、ゴブリンが何体かウロウロしている。


「「あっ!」」


 思わず声が出てしまった。ゴブリンが私たちに気がついて向かってくる。


「ゴブリン6体! 落ちついてやれば大丈夫、きっと」


「はいなのです!」


 こんな数を相手にするのは初めて。でも、それまでの戦闘で自信をつけていた私たちは、勇気を振り絞って戦う決心をした。


 ステラが剣を抜いて走りはじめたので、左手のジャベリンを地面に置いて彼女のあとを追う。


《チャージアタック!》


 ステラがロングソードを振りかぶって跳び上がり、スキル攻撃を放つ。振り下ろした剣が中央のゴブリンの頭に当たり、向こうへ吹き飛ばす。そして、彼女は兎のように柔軟に膝を曲げて着地する。


《バッシュ!》


 続いてステラが跳ね上がるように体を伸ばして、左手側のゴブリンにカイトシールドを勢いよく叩きつける。


 バァンと特徴的な盾の打撃音が響き、後続を巻き込んで3体のゴブリンが転倒する。


 私もスキルを使ってみる。


《アタック!》


 メイスを大きく振り上げ、右端のゴブリンに殴りかかる。ゴンッと大きく鈍い音がして、骨を砕いた衝撃が手首に伝わってくる。ゴブリンは跪いて倒れる。


 ステラは、転倒させた3体にトドメを刺して回っている。


 私は、次のゴブリンに狙いを定めてメイスを叩きつける。


《アタック!》


 でも頭を狙ったのに外れてしまい、左腕に擦るように命中する。反撃に備えて身構えたけど、ゴブリンは棍棒を手に握ったまま動かせないでいる。


 気を取りなおして、ふたたびメイスを振り上げ、上から叩きつける。今度はちゃんと頭に当たる。そして、メイスを上に振り返して突き出ている顎に叩きつける。


 すると、ゴブリンがのけ反って仰向けに倒れる。左に回って、もういちど上から叩いてトドメを刺した。


      ◇      ◇


「なんとか倒せた!」


 そう安堵した瞬間。岩場の斜面にあいた横穴から、別のゴブリンがのそりと出てくる。今までのよりも大きい。


 ギルドでの講習を思い出す。魔獣は大きさで強さが変わる。ゴブリンやオークの種類と強さはおおよそ憶えている。少なくとも、今までのより手ごわいのはあきらか。


(どうする?)


 戦うか、逃げるか。


 ゴブリンを全滅させたステラが戦利品の回収を中断して、静かに歩み寄ってくる。


「おっきいゴブリンなのです。ミーナちゃん、どうしよう」


 ゴブリンは出口から出たばかりで、まだ何も気づいていない。とにかくふたりで傍の大きめの岩に隠れる。


「あれ1体だけなら、ふたりでどうにかできると思うけど……」


「でも、あれ。あの横穴はゴブリンの巣窟かもしれないのです」


 遭遇するゴブリンの数も増えてきている。ステラの言うとおり巣窟の可能性が高い。もし、あの中にもっとゴブリンがいたら……


「ゆっくり森の中まで下がりましょ。気づかれたら物見櫓まで逃げるの」


 あそこまで行けば衛兵のおじさんもいるし、きっとなんとかなるはず。


 ゴブリンから目を離さず、慎重に森へ後退しはじめる。


 じりじりと下がる。


(なんとか気づかないで!)


 でも、中から同じくらいの大きさのゴブリンがもう2体現れて、私たちに気づいてしまう。


「「ギギィギッギギッギギッ!」」


「ギィヤァァァァァ! ギギッ! ギギッ!」


 ゴブリンが大声で騒ぎだした。仲間が殺されていることもわかったみたいで、怒りを露わにしてやってくる。


 今までのゴブリンより大きくて足が速い。それでもまだ、私たちのほうが足が速い。


「ステラ! さあ、行きましょ!」


 倒したゴブリンをそのままにして、私たちは南に向けて全力で走りだした。


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