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白騎士と古代迷宮の冒険者  作者: ハニワ
第2章 黒鳳騎士団の戦い
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第09話 ゴブリン=キング

#ゴブリン=キング


 オウガ=トロールが倒れた後も、ゴブリンと対峙した第4小隊の戦いはまだ続いていた。


 ――時間は最初に広間に突入した時点に遡る。


 クリス隊長が率いる第2小隊の後に広間に入った俺たち第4小隊は、オウガ=トロール以外にも多数の魔獣が存在するのが分かった。

 

 そこで、アクセル隊長の指示で小隊は2手に分かれることになり、彼は3名の戦士騎士を連れてオークの集団に向かった。


 俺はレベル18の騎士で、他に2名の騎士と3名の戦士騎士が残り、総勢6人でゴブリンの集団へと向かった。


 ゴブリンは10体ほどいたが、大型と中型が1体ずついる以外は全て普通の大きさのゴブリンだった。大したことはない。


 それよりも問題なのは隊長が向かったオークの集団の方だ。オーク=ロードとオーク=ジェネラルが率いていた。


 隊長はともかく、連れていった3名の戦士騎士は騎士にクラスチェンジできておらず、まだまだ未熟だ。隊長への負担がきつくなるだろう。


 だから当初はさっさとゴブリンを殲滅して隊長たちの援護に向かうつもりだったのだ。


 まずは俺たち騎士の3人組でゴブリンの正面に突入する。残りの戦士騎士は後ろで待機だ。


「「「やぁぁっ!」」」


《《《バッシュアタック!》》》


 一糸乱れぬ連携で攻撃し、数体のゴブリンが吹っ飛んだ。


 王宮騎士団の中でも我々は精鋭だ。ゴブリンなどバッシュの一撃で倒せる力がある。

 

 続いてブロードソードを振り上げて追撃をかけようと進む。


 ところが、目の前の地面から突然炎が立ち上った。ファイアーウォールだ。少し遅れてブリーズアローが2本飛んでくる。


「うわっととと」


 咄嗟に盾で防御した。あの大きい奴がゴブリン=キングで、隣にいた中型の奴がゴブリン=ウィザードだろう。普通のゴブリンは魔法を使わないはずだ。


 目の前にあるファイアーウォールに気を取られていると、右の炎の壁が切れた所から数体のゴブリンが現れ、俺たちから距離を置き迂回するようにして出てきた。


 だが、ゴブリンが後方の魔術師を狙うという話を聞いていたので、これは想定済みだった。後ろに控えていた戦士騎士が立ちはだかり、《カウンター》を仕掛けた。

 

「「「てぇいっ!」」」


「「「「ギャァァァァァァァ」」」」


 たかがゴブリン、我々なら瞬殺である。結果を見るまでもない。正面を再び見据える。


「こ、こいつ!」


 だが、後ろで驚いたような声が聞こえた。


      ◇      ◇


 気になってもう一度後方を確認すると、何とゴブリンは立ち上がり、再び彼らに襲い掛かろうとしていたのだ。


「こいつら、『普通と違う』ゴブリンか⁉」


 普通のゴブリンであれば、彼らの剣がかすっただけでも倒せているはずだ。


「大人しく寝てろ!」


《《バッシュアタック!》》


 彼らはカイトシールドをゴブリンに向けて振り払った。


 それに対してゴブリンは彼らの盾を棍棒で打ち払うと、左手のスモールシールドで反撃してきた。


 バァン!


「ぐぁっ!な、なんだと!バッシュだと⁉」


 ゴブリンたちは右半身で突っ込んできたので気がつかなかったが、腕に木製のスモールシールドをくくり付けていた。


 知能の低いゴブリンが盾を打ち払って回避するだけでもありえないのに、このゴブリンはバッシュしてきた。


「そいつらは『普通と違う』ゴブリンだ!気をつけろ!」


 周りの騎士に伝えようと声をあげた。


 だが、普通ではなかったのはそのゴブリンだけではなかった。


 俺たちから分断された別の戦士騎士が2体のゴブリンに挟撃されていた。右手をやられたのか、持った剣がだらりと下がっている。


 そして、ファイアーウォールの両翼からも続々とゴブリンが出てくる。


 気がつけば周囲はゴブリンだらけだ。


 目の前には再びファイアーウォールが立ち上り、今度はファイアーボールとブリーズボールが並んで飛んできた。


 気がつくと我々は多数のゴブリンに包囲されようとしており、防戦一方に追い込まれた。


 幸い武器は棍棒だ。落ち着きを取り戻して現状を把握する。攻撃は何とかカイトシールドで防げている。


「落ちつけ!こいつらは『ゴブリン=ナイト』だ。だが武器は棍棒だ。対人戦だと思えば問題ない!」


 ゴブリン=ナイト。ゴブリン=ウォーリアーが更に進化し、盾を使うようになったゴブリンだ。本来は3メートルから4メートルの巨体で鉄のロングソードと鉄のラウンドシールド、鉄のチェインメイルを着けている。レベル12の戦士程度の能力を持っている。


 だがこのゴブリンは体が小さく武器も棍棒だ。鎧も無いようなものだ。


「少しだけ持ち堪えてくれ!」


 俺は前を2名の騎士に託し、一番近くにいる1体を背後からブロードソードで突き刺して倒した。


「盾で押し込んで姿勢を崩すんだ!貧弱な装備だ。攻勢に回れば怖くはない!」


 ファイアウォールの前で両脇からゴブリンの攻撃も受けながら、後方の戦士騎士たちに指示を出す。


 後方の彼らは盾を前に構えて体当たりするようにして《バッシュアタック》で盾を打ちつけ、よろけさせたゴブリンにブロードソードを払った。


「「ギャァァァァァッ!」」


 2体のゴブリンが逃走し、ファイアーウォールの向こうに消えた。すぐさま右手を負傷している戦士騎士の所へ救護に行く。


「大丈夫か⁉治療に下がれ!」


「すまない……」


 彼は後方へ下がっていった。近くにはまだ2体のゴブリンが出てきていた。1体は盾を持っていない。ナイトより少し下のゴブリン=チャンピオンかもしれない。


「どれも見た目が同じで訳が分からなくなるぜ……」


 それでも落ち着いて全員で反撃に転じると、何とかファイアーウォールの所まで押し返すことに成功した。


 ズズズオォォォォ!


 しばらくすると、突然後方で何かが滑り落ちたような低く大きな音が響いた。


 後ろを振り返ると、広間の入口に陣取っていた第5小隊に巨大なオークが襲い掛かろうとしていた。オーク=ロードだ。


「隊長たちが突破されたのか⁉」


 元より彼らはたったの4名だったので、抑えるのは難しいと思っていた。隊長たちは無事だろうか。


 後方が壊滅すれば挟み撃ちにされて我々は終わりだ。そこに治療に下がっていた騎士が戻ってきた。


「ソフィア様は如何なされている?」


「大丈夫だ、冒険者の娘たちが守っているようだ。隊長たちもまだ堪えている」


「今から我らが行っても間に合わない。他の護衛の騎士もいる。俺たちはゴブリンに集中しよう」


 俺たちは不安を押し殺し、前に進むことにした。


      ◇      ◇


 それから回り込もうとするゴブリンにも気を配りながら、しばらくの間、ファイアーウォールと睨み合いが続いていた。


 時おり横からゴブリンが出てきて棍棒を振り下ろしてくる。その度に盾で受け流しているが、ゴブリンのものとは思えないほどの衝撃と音が盾から伝わってくる。


 だがこの程度ならまだ大丈夫だ。出てくるのを1体ずつ確実に倒せばいい。


 またファイアーウォールが立ち上った。今度はファイアーボールが続けて飛んできた。


 おかしい。キャスターは2体のはずだ。こんな間隔で魔法を連続で放つことはできないはずだ。まだ何かいるのか?


 ズバッ!


 そして意表を突いて炎の中から何かが飛んできた!盾で防御する。足元に何かが落ちた。


 これは矢だ!ゴブリン=アーチャーもいる!


 守っていては埒があかない。ファイアーウォールを迂回して飛び込もうとすると、待ち構えていたかのように、棍棒が振り下ろされてきた。


「うおっ!」


《サイドステップ!》


 咄嗟に元の位置に戻る。


 再びファイアーウォールと、見えなくなった視界からファイアーボールが連続で飛んでくる。


 ゴブリンの大きさが同じなので、どれがどのタイプか分からない。チラッとショートボウは見えたが、他は棍棒なので、どれが魔法を唱えているのか見分けることができなかった。


 このまま膠着状態が続くと只の消耗戦になってしまう。時間を引き延ばし、我々を引きつけておくのが向こうの作戦だろうか?


 この炎の壁を突き抜けても死にはしないだろうが、もちろん無傷では済まない。心理的に飛び込むのはやはり抵抗があった。


      ◇      ◇


 オーク=ロードが倒された頃、俺は部下の3名と共に残りのオークを始末して、ゴブリンに手こずっている仲間の所に急行していた。


「アクセル、第4小隊全員でゴブリンを倒せ!気をつけろ、あれらは全部、只のゴブリンではなさそうだ!」


「了解!」


「負傷者は後方に下げさせろ!ここで治療する!」


 俺が到着して彼らを見渡すと、多かれ少なかれ何かしらの怪我を負っているようだった。


「おい!大丈夫か?」


 そこに炎の壁からファイアーボールが飛んでくる。


「ちっ!」


 それを何とか躱して、ブロードソードを左後ろに回すと右肩を前に突き出し、《ダッシュ》で炎の壁の中に突っ込んだ。


《薙ぎ払い!》

 

 左から右へとブロードソードを大きく払い、ゴブリンの胴を斬り裂いた!


 思ったより簡単に数体が薙ぎ倒された。既に弱っていたのかもしれない。


 だがこれは痛み分けだった。再び炎の壁を突破して戻ったが、火傷を負ってしまった。急いでバイザーを上げてヒールポーションを飲んだ。


 怪我の酷い戦士騎士たちは下げた方が良さそうだ。


「お前たちは下がれ。後方で治療を受けるんだ!」


「すみません!」


 彼らはゆっくりと後退していった。


 やがてファイアーウォールが掻き消えると、残りのゴブリンの姿が見えてきた。


 ゴブリン=キングと中型のゴブリン、そして普通のゴブリンが1体ずつだけだ。


 あのゴブリンも『普通』ではない。その証拠に全てのゴブリンが攻撃魔法を放ってくる。そしてまたファイアーウォールだ。


 こちらに到達するのに時間差があるので、炎の壁が立ち上った後、風の矢や火球が同時に飛び出してくるように見える。


「お前たち、一番大きいのがゴブリン=キングで、他のあいつらは『違う』ゴブリンだな?」


「ああ、どちらもゴブリン=ウィザードだろう」


「ゴブリン=ナイトやゴブリン=アーチャーもいましたが、既に倒れたようです」


 先ほどは纏まった数がいたので多くのゴブリンを倒せたが、残りは3体だ。先ほどのように当てずっぽうで薙ぎ払ってもまず当たらないだろう。


 もうあまりスキルを使う余裕は無い。既に1回必殺技を使っている。使いすぎると最後の必殺技が出せなくなる。


 策はある。だが、失敗すると少なからぬ犠牲が出るかもしれない。タイミングを見計らわなければならない。


 何度か敵のルーティンを確認する。ファイアーウォールを出して視界を遮った後に攻撃魔法を撃ってくる。その繰り返しだ。


 時間稼ぎが役割なのだろうが、オウガ=トロールが倒れるのは時間の問題だ。ならばこちらも時間稼ぎとさせてもらおうではないか。


 ルーティンの攻撃を繰り返し受けながら、タイミングを計る。このまま時間稼ぎをしても勝利は確実だが、応援が来るまでに我々で倒すなら、チャンスは一度きりだ。


 ゴゴゴゴ……ドーン、ドドーン…………


 足元の振動と共に低く大きな衝撃音が響いた。オウガ=トロールが倒れたようだ。


 そろそろ決断の時だ。


 またファイアーウォールが立ち上がった。


「お前たち!『アレ』をやるぞ!」


「「「おう!」」」


 3名の騎士が『いよいよやるのか!』といった感じで士気が高まった。そしてカイトシールドを外して投げ捨てて整列し、ブロードソードを構えた。


 覚悟を決めて、最後の必殺技を放つことに決めた。タイミングはもう分かっている。敵が魔法を撃ち出す瞬間を狙う!


 腰を低く落とすと、ブロードソードを右後ろ斜めに構え、気合を入れる。ブブブブ……とブレードが振動し輝き始め、白いオーラがブレードを包み込む。


 ファイアーウォールの向こうからファイアーボールが飛び出してきた!それに合わせて水平に構えたブレードの向きを微調整する。


 今だ!必殺技を発動する!


「うおおお!《高速剣、翔破飛燕斬!》」


 アクセルが右から左へズバッと剣を薙ぎ払うと、残像のように巨大な三日月状の翼を広げた白い燕が生まれ出でた。


 そして轟音を上げながら燕が滑空するように前方に向かうと、ファイアーボールとファイアーウォールを水平に切り裂いた!


 白い燕の勢いは止まらず、奥にいるゴブリンたちにも襲い掛かった。


 一番手前のゴブリンの胴が真っ二つに千切れ飛んだ!


「ギェェェェェェェェッッ!」


 断末魔の叫びを上げてゴブリンが絶命する。


 尚も残りのゴブリンとゴブリン=キングに襲い掛かる。ゴブリンは棍棒で防御したが、棍棒は根本から両断された。


「「ギュィィィィ!」」


 最後はゴブリンとゴブリン=キングの胴体に喰い込んで白い燕は霧散した。


 薙ぎ払われたファイアーウォールの切れ目を騎士たちが横並びで飛び越えて、奥に突撃していく。


 ブロードソードの鍔を脇のペサギューに当てて構えながら、左手でリカッソをしっかりと握っている。


《《《チャージランス!》》》


 ゴブリンとゴブリン=キングに激しく体当たりすると、ブロードソードが深々と突き刺さった。

 

《《《バックステップ!》》》


 取って返して後ろに大ジャンプする。


 今の攻撃でゴブリンは絶命して崩れ落ちるように膝を突いた。


《《《チャージランス!》》》


 再び騎士たちが突撃する。3本のブロードソードがゴブリン=キングに突き刺さった。


 だがまだ倒れない。ブロードソードを引き抜いて再び攻撃する。


《《《チャージアタック!》》》


 騎士たちがが飛び上がり、ブロードソードを上段から振り下ろす。

 

 ゴブリン=キングの体が川の字に切り裂かれた!

 

「ギェェェェェェッッッッ…………」


 ゴブリン=キングの呻き声が小さくなっていく。


「「「やったか!」」」


 だが、まだゴブリン=キングは生きていた。杖に炎が灯り出す。アクセルと3人の騎士はすべての精神力を使い果たし、動けなくなっていた。


「とぉうっ!《必殺剣、竜巻旋風斬!》」


 そこへ両手でハルバードを水平に持ったクリスが、左奥からコマのように豪快に大回転しながら突っ込んできた。

 

 ダダンダンダダンダン!


 ハルバードはゴブリン=キングの右腕を何回も切りつけながら、巨大なメイジスタッフと腕を叩き切った。それでも回転は止まらず、最後は右脇腹に突き刺さって止まった。


 ゴブリン=キングは左膝を突き、緩く傾いて絶命した。


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