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白騎士と古代迷宮の冒険者  作者: ハニワ
第2章 黒鳳騎士団の戦い
17/133

第05話 黒鳳騎士団の出陣

#黒鳳騎士団の出陣


 翌朝。朝1番目の鐘が鳴る頃にはステラも私も装備を整えていた。


「装備の調子はどう? 慣れた?」


「大丈夫なのです。起きてから庭で素振りしてたのです」


 自室を出て1階におりる。ゆっくり食べる時間はあったが、もう冒険者ギルドに向かうことにする。朝食のパンを受け取り、かじりながら宿を出る。


 ステラの新しい鎧はなかなか良さそうだ。盾の持ち手を握らなくて済むようになったので、両手で剣を握ることもできるし、ポーションも取り出しやすい。今も器用に両手にそれぞれカットしたバタールを握りしめて頬張っている。


「スープがいらないぶん、パンを増やしてくれてよかったわね」


「|いっぱい貰ったのです~(ひっはいほらっはほへふぅ)」


 冒険者ギルドに着き、扉をあけてギルドホールに入る。


 来ている冒険者はまだ少ない。新規依頼が貼り出される時間帯はもっとあとだから、静かなものだ。受付カウンターの向こうにいるお姉さんに声をかける。


「おはよう。城から依頼は届いてる?」


「来ていますよ。傭兵の依頼です。警備の依頼もまだ途中ですから、同時進行になりますね」


 依頼書を受け取り、内容を確認する。


      ◇      ◇


┌──────────────────┐

│★期間限定依頼★          │

│依 頼 者  :黒鳳騎士団     │

│依 頼 形 式:指名        │

│対 象 ランク:ミーナ、ステラ   │

│依 頼 内 容:傭兵        │

│達 成 基 準:なし        │

│成 功 報 酬:金貨2枚      │

│ギルドポイント:2000P     │

│戦利品の処遇 :黒鳳騎士団買取   │

│        (等分分配)    │

│備    考 :          │

│・ゲラール城地下通路の魔獣討伐と  │

│ 迷宮の探索のための傭兵      │

│・使用した消耗品は現地で再支給   │

│・戦果により追加報酬あり      │

│ (金貨10枚まで)        │

│・生存時の治療無償         │

│・そのほか黒鳳騎士団傭兵要綱に準じる│

│依 頼 期 限:当日限り      │

└──────────────────┘


      ◇      ◇


「戦利品は等分分配か……」


 等分分配は最も一般的な戦利品の分配方法だ。


 誰が活躍して誰が拾ったかに関係なく、すべての戦利品を集めて売却したあと、参加人数で割った金額が全員に分配される。


「戦わなくても分け前がもらえるから、とりっぱぐれはないけど」


「騎士団では後方で支援にあたる人たちもいますからね」


 冒険者は臨時パーティを組むことがある。依頼の事情や、森で見つけた魔獣と共同で戦う場合だ。その場合も、特に取り決めがないかぎりは等分分配になる。


 ステラと私のようなメンバーが固定されているパーティでは、リーダーがパーティ資金として預かるプール制もある。その場合はメンバーの食費や治療費、宿代、装備や消耗品の費用はそこから捻出される。


 昨日は交代制の警備だったので、倒した魔獣の戦利品を売ったお金は私たちだけのものだった。今回はそうはいかない。


「まあ敵を前にして隠れているつもりは毛頭ないけど。災害級って倒したらどれくらいになるのかしら」


「オーク=ジェネラルでもミスリルのバトルアックスでした。オウガ=トロールは巨大なポールハンマーとプレートアーマーの装備です。それもミスリル製だと思われますので、相当な額になるのではないでしょうか」


「また儲かっちゃうのです!」


「ステラ、まだ倒してないんだからね。それに、これは『傭兵の依頼』だから、注意しないとね。いい人たちだったから、心配はいらないと思うけど」


 傭兵の依頼の場合、受注者は現場指揮官の命令に従う義務が発生する。最悪の場合、どのような絶望な戦いでも、非道な行ないでも、『行け』と言われれば逃げることはできない。


 もちろんこれは依頼であり、本当の傭兵契約ではない。依頼主は勝手に依頼を破棄できないが、冒険者側は理由さえ明確であれば、いつでも破棄できる。


 サインをしてお姉さんに返す。


「ほかにも、Cランク以上の冒険者を対象に、ほぼ同じ内容の依頼が出されています。ですが、依頼を受けた冒険者はまだいません。がんばってくださいね。どうか気をつけて」


 割り印を押して半分を返される。依頼主の評価が必要な依頼の場合は、依頼書に押印をもらわないと依頼の達成にならない。大事な書類だ。依頼書をバックパックに入れて、冒険者ギルドをあとにする。


 城に向かって歩く。依頼書には書いていなかったが、集合時間は朝8時だ。朝2番目の鐘は、まだ鳴っていない。


 城への入場門である内城門は、この南通りから見えるほど近い。それほど時間をかけることなく到着する。門扉は閉められていて、数人のゲラール騎士が衛兵として立っている。


 衛兵にステータスカードと依頼書を見せ、チェックを受けてから中に通してもらう。


 門をくぐると、すぐに外庭が見えてくる。テントが張られ、その下に大勢の黒色鎧の集団がいる。


 およそ10人ずつ6組に分かれてテーブル席に着席している。彼らが黒鳳騎士団の団員なのだろう。中には鎧を着けていないローブを纏った魔導師や、神官服を着た司祭もいる。


「「おはようございます」」「なのです」


 カイン様の姿を見つけ、挨拶をする。


「おはよう。よく来たな。感謝する。もうすぐ作戦を説明するところだ。一緒に聞いて欲しい」


 ステラと私は空いているテーブル席に座る。


 ガラーン…… ガラーン……


 朝2番目の鐘が鳴る。カイン団長が立ち上がり、話しはじめる。


「みなの者、ご苦労である。これから地下通路に入る第一次メンバーを発表する。


 クリスの第2小隊、アクセルの第4小隊、ソフィアの第5小隊、俺の総勢31名だ。他の者はこの場にて待機。だがいずれ、増援として来てもらうことになるだろう。


 地上の指揮はサークに任せる。10分ごとに伝令を寄こしてくれ。順路がわかるように、ライトマーカーを引いておく。迷わないはずだ。


 今回は冒険者にも参加してもらう。紹介しておこう。


 ミーナとステラの2名だ。若いからと侮るな。昨日、城塞級相当の魔獣を倒した強者だ」


 ステラと立ち上がって会釈する。


「ミーナです」


「ステラなのです」


「君たちは俺と共に広間の手前まで皆を先導したあと、そこからはソフィアの第5小隊についてくれ」


「わかりました」


「はいなのです」


 席に座ると、彼が話を続ける。


「地下通路では今も冒険者のパーティが通路の安全を守ってくれている。我々はその先の広間に入り、オウガ=トロールを討伐する。


 オウガ=トロールだが、魔法抵抗が高いことがわかっている。また、オウガ=トロールに気を取られている隙に、通常サイズの魔獣が飛び出し、味方の魔術師を攻撃してくるようだ。


 実際に昨日もそのような魔獣が現れている。しかも、見た目がただのゴブリンやオークであるにもかかわらず、地区級や城塞級の力を持っている。決して油断せぬように。


 緊急時には、配布した【マジックミサイル】のスクロールを使用しろ。一時的に動きがにぶるかもしれぬ。だが、過度の期待はするな。


 第5小隊は騎士1、戦士4、司祭2、魔導師3の編成である。それぞれペアとなった護衛対象に専念するように。たとえ隣の魔導師が狙われても、持ち場を離れてはならない。必ず自分の護衛対象を守り抜くように」


 すでに組み合わせは済んでいるのだろう、お互いにアイコンタクトで確認している。


「では出発する。小隊順に整列せよ」


 騎士の半数ほどが立ち上がり、準備を始める。すでに剣、盾、鎧は身につけており、剣を抜刀して最終確認をしながら整列していく。大型のバックパックを背負いながら、複数の武器を手に持って後方に並ぶ騎士もいる。


      ◇      ◇


◆黒鳳騎士団 オウガ=トロール討伐隊編成◆


 司令官:百人長カイン 騎士レベル22


 第2小隊:十人長クリス 騎士レベル20

  騎士レベル19 レベル18 レベル16

  戦士レベル14 レベル14 レベル14

  戦士レベル14 レベル14 レベル14


 第4小隊:十人長アクセル 騎士レベル20

  騎士レベル18 レベル16 レベル15

  戦士レベル14 レベル14 レベル13

  戦士レベル13 レベル13 レベル13


 第5小隊:副司令官ソフィア 司祭レベル14

  十人長マイケル 騎士レベル19

  司祭レベル20  戦士レベル12

  魔導師レベル20 戦士レベル12

  魔導師レベル18 戦士レベル12

  魔導師レベル16 戦士レベル12


 ゲスト:ミーナ 神官レベル10

 ゲスト:ステラ 騎士レベル10


 控え:副騎士団長 十人長サーク 騎士レベル21

  第1小隊 9名

  第3小隊 十人長エドガー以下10名

  近衛給仕隊 マリエル以下12名


 総勢65名


┌────────────────┐

│名 前:カイン         │

│種 族:ヒューマン       │

│年 齢:32          │

│職 業:騎士          │

│クラス:騎士          │

│レベル:22          │

│状 態:良好          │

├────────────────┤

│筋 力:410 物理攻:1072│

│耐久力:446 物理防:1604│

│敏捷性:264 回 避: 588│

│器用度:221 命 中: 505│

│知 力:190 魔法攻: 394│

│精神力:218 魔法防: 313│

├────────────────┤

│所 属:黒鳳騎士団       │

│称 号:黒鳳騎士団 団長    │

├────────────────┤

│状態:良好           │

│右:聖銀のファイアーブレード+5│

│左:聖銀のカイトシールド  +5│

│鎧:聖銀のフルプレートアーマ+5│

│飾:              │

│護:              │

├────────────────┤

│パーティ:カイン        │

└────────────────┘

┌────────────────┐

│名 前:ソフィア        │

│種 族:ヒューマン       │

│年 齢:17          │

│職 業:司祭          │

│クラス:司祭          │

│レベル:14          │

│状 態:良好          │

├────────────────┤

│筋 力:166 物理攻:302 │

│耐久力:240 物理防:303 │

│敏捷性:183 回 避:385 │

│器用度:142 命 中:292 │

│知 力:292 魔法攻:891 │

│精神力:344 魔法防:490 │

├────────────────┤

│所 属:フレイン王国 王家   │

│称 号:フレイン王国 王女   │

├────────────────┤

│状態:良好           │

│右:メイジスタッフ     +9│

│左:              │

│鎧:絹の神官服       +9│

│飾:ドラゴンレーダー      │

│護:身代わり(1)       │

├────────────────┤

│パーティ:ソフィア       │

└────────────────┘


      ◇      ◇


「では先導を頼む」


「はい」「はいなのです」


 ステラと私が立ち上がり、先導して螺旋階段に入る。


 私は【マジックライト】を唱える。騎士団の魔導師がかけたのだろう、後続の騎士の頭上にも明かりが点きはじめ、周囲が明るくなる。


 ぐるぐると左回りの螺旋階段を下りていき、やがて地下通路に入る。庭にいる時は感じなかったが、33人もいると、結構窮屈に感じる。


 広間の手前の封印までは敵はいない。自分の記憶と地図、壁に刻んである目印を確認しながら、前へ進んでいく。


 後ろを振り返ると、白い光の線がずうっと後方に伸びている。魔術師の中級魔法、【ライトマーカー】の魔法だ。明るく光る線が周辺を照らし出す。


 【マジックライト】よりもやや暗いが、その場を離れても明かりがとどまり、長時間にわたって光を放ち続ける。詠唱を続けながら移動することで、光の線となって残る。


 例の大広間の手前までは、結構な距離を歩かねばならない。半時まではいかないものの、数十分ほどの時間がかかった。


 きのう警備していた場所に着くと、交代で見張りをしている冒険者パーティが出迎える。


 通路の向こうが白濁した不透明な膜に覆われ、ゆらゆらと波立っている。封印魔法の結界はすべてを遮断し、こちら側からも向こう側からも、反対側の様子をうかがい知ることができなくなる。


「ご苦労様です。封印に異常はありません」


「ご苦労だった。君たちはこのまま、ここで待機していてくれ。我々は先に進む。伝令が来たときは、そのまま通してくれればいい」


 冒険者パーティが少し壁際に寄って、黒備えの騎士たちを通す。


「今から封印を解く。クリス隊、アクセル隊の順で3列縦隊で並べ。


 回復は各自でポーションを使用せよ。重傷者は横に置いていけ。後方にいる第5小隊が治療する。


 いま並んでいる横隣り3人でパーティを組め。孤立しないよう、必ずパーティ単位でまとまって同一の敵にあたるのだ。


 クリス隊は必ずオウガ=トロールを押さえるように。


 他の魔獣が現れたら、アクセル隊が迎撃に向かえ。


 いずれの場合もパーティ単位だ。治療や補給のとき以外は離ればなれになってはならない。


 敵とは常に3対1であたるように。仲間が倒れ、ひとりになったときはどこかに合流するか、いったん下がって指示を待て。


 第5小隊の魔導師はオウガ=トロールが最優先目標である。広間の入口に陣取り、長距離魔法で攻撃せよ。


 通常のトロールと違って、【ファイアーボール】が効かない可能性がある。様子をみて耐性があるようであれば、無属性魔法を試すように」


 カイン団長が少し声量を落とし、私たちに指示を出す。


「君たちはソフィアの護衛を頼む。特別扱いを嫌がるので平等にひとりだけつけているが、魔獣の動きが心配だ。もし万が一のことがあれば大事となる」


「わかったわ、カイン様。でも私も神官だから。後衛で戦えなくても、回復で役にたってみせるわ」


「絶対守るのです。『ボディーガード』なのです」


「頼む。それと、俺のことはカインでいい。他の者にも呼び捨てにさせている。話しかけるときに敬称など考えていると、命取りになるぞ」


 カインが号令する。


「では、今から封印を解く。その直後に【フラッシュ】を仕掛ける。手で目を覆え」


 魔導師が封印解除の魔法を唱える。


【アンシール!】


 隣の魔導師が別の魔法を放つ。


【フラッシュ!】


 封印が解けると同時に通路の奥でマジックライトの上級魔法、【フラッシュ】が発動する。閃光がきらめき、辺りが一瞬真っ白に染まって、光が収まる。


 漆黒の通路の奥に明かりが届きはじめ、魔獣の姿があらわになってくる。


 ゴブリンだ。数は少なそうに見える。


「「「「ギュアアアアア! ギィイイイイ!」」」」


 ゴブリンが一斉に悲鳴をあげる。目がくらんで闇雲に棍棒を振り回している。


 魔法の明かりは、それほど遠くまで光が届かない。明るいのはせいぜい5メートルほどだ。そこから先は効果が薄れていく。


 しかも、今は封印を解いた直後で、ここからの光が届きにくくなっている。目の前にゴブリンがいるのはわかるが、その奥にどれだけの数がいるか、はっきりしない。


「クリス隊突撃! 先陣頼んだぞ!」


「「「了解しました!」」」


 黒色の鎧に身を固めた一団が、タワーシールドを前に揃えて掲げながら、暗闇の通路の奥を目指して突進する。


 彼らが持つタワーシールドはおよそ1.5メートルほどの高さを持つ長方形の盾だ。中央部分にへこみがあり、3人で盾を合わせて横に並べば、そこ以外はほぼ鉄の壁となる。そうして壁のようになった盾を相手に押しつけて視界を防ぎ、隙間から剣や槍を突き出して敵を倒すのだ。


 封印の向こうにいるのはゴブリンだけのようだ。クリス隊は何にぶち当たろうと構わず盾で押し切り、3メートルほど突進後、剣を突き立てた。


「「「せやぁぁぁ!」」」


 ロングソードの鋭い一撃が繰り出される。


「「ギィイィィギィ!」」

「「「ギェィエィイェィィ!」」」


 向こう側からゴブリンの鳴き声が聞こえる。


 徐々に【マジックライト】の効果が完全に発揮されはじめる。通路の壁が照らされ、周囲の様子がわかってくる。動いているゴブリンが5体ほど。初撃で倒したのか、何体か足元に転がっているようだ。


 騎士たちは足元を一瞥もせず、ひたすら前を向き、剣を繰り出し続ける。


「「「はぁっはぁっ!」」」


 統率の取れた動き。普段から鍛錬を重ねているのだろう。


「「「「「ギャァァギャァァ!」」」」


 断末魔の声をあげて、さらに数体のゴブリンが倒れる。ゴブリンの一団が倒されたあとの通路には、もう他の魔獣は残っていなかった。


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