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白騎士と古代迷宮の冒険者  作者: ハニワ
第2章 黒鳳騎士団の戦い
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第03話 埃にまみれた鎧

#埃にまみれた鎧


「さてと、これで最低限はそろったけど……」


 バックパックを横に置いた私は、ステラに装備の相談を持ち掛ける。


「ステラ。明日はオウガ=トロール戦になる。もちろん黒鳳騎士団が戦うんだけど、私たちも道案内だけってわけにはいかない。だからポーションもたくさん買い込んだし、スクロールも補給した。でも、それだけではまだ足りない気がする」


「ステラもそう感じたのです。それに見ているだけのつもりもないのです」


「本当は鎧の修理もしたいけど、板金が間に合わないわ。だから、盾だけでも買い替えようよ」


 ステラの盾はパーティを組んで初めて購入した防具だ。錆つき鉄のロングソードに鋼鉄のカイトシールド、そして布の鎧。それが、冒険者になったステラの最初の出で立ちだった。


「はいなのです。あの盾にも随分と助けられたけど、今日のは危なかったのです」


 今日の白金貨があれば、かなり良いものが買えそうだ。


「じゃ、武器屋に行こっか!」


「はいなのです!」


 武器屋は冒険者ギルドの向かい側にある。だが、今の盾と見比べながら、より良い盾を探さねばならない。いったん宿に鋼鉄のカイトシールドを取りに戻ってから、武器屋に向かった。


      ◇      ◇


 『バルトテック武器店』


 そのように看板がかかっている武器屋の扉をくぐると、冒険者ギルドの正面という好条件の立地もあってか、冒険者の客でそれなりに賑わっている。


 入口から見て店内の右半分が武器、左半分が防具のコーナーに分かれている。その一画に盾も陳列されている。


「う~ん、色々あるけど、鋼鉄以上の盾は少ないね」


 並べられているのは大半が鉄製だ。中央のカウンターにいる店主のおじさんに聞いてみる。


「ねぇ、盾はあそこにあるのですべて?」


「嬢ちゃんたち、盾を探してるのか?」


「うん、この子の盾ではちょっと無理になってきちゃって……」


 ステラが両手で抱えている盾を見せる。


「鋼鉄の盾じゃねえか。これで不満なのか?」


「城の地下通路の話は知ってる? 迷宮があるんじゃないかって噂されてる…… 私たち、そこで戦ってるの」


「そりゃすげえな。挑んでるパーティはBランクかCランクって聞いたぞ」


(まあ、私たちはまだEランクだけどね……)


 だが、この依頼を成功させれば、晴れてCランクだ。


「幼く見えるけど、このステラは優秀な騎士なのよ! だから盾は重要なの」


 すると、店主がステラから受け取り、盾を検分しはじめる。


「ふむ…… 普通に受けるだけじゃ、こんな同じような傷にはならねえぞ…… 受け流す柔らかさや角度が適切なんだな…… しかもどこも壊れてねえ。研磨した感じもしねえ」


 店主がステラに盾を返しながら聞く。


「普通なら、もうとっくに修理が必要なはずだ。修理したことはねえのか?」


「大事に使ってるので、修理したことはないのです」


「そうか、若いのに凄い技量だな。この状態を見ればわかるってもんだ。実はな……」


 店主は周りの客に気を使ってか、声量を落として話しだす。


「その地下通路が見つかってからだ。特に上のランクの冒険者がこぞって武具を買いにやってきてな。高性能な武具が飛ぶように売れたんだ。特に鋼鉄の武器や盾、チェインメイルだな。ミスリルの武器まで売り切れだ。てなわけで今は色々と入荷待ちなのさ」


「そりゃ景気のいい話ね。盾はともかく、チェインメイルって結構高いでしょ?」


「そうさ。冒険者にとっちゃ最高クラスの防具だからな。最初は、迷宮に挑もうとして買い揃えてんのかと思ってたんだけどな。そんなのが次から次へと来やがる。実は強い魔獣にみんなやられちまったんだと。それで武具を壊されたから買いに来たんだってよ」


(まあ、私たちもそれでここに盾を買いに来たようなものだしね……)


 他の冒険者も、装備を買い直したり強化しようとしたのはわかる。


「武器屋にとっては儲かる話じゃない? 新しく仕入れないの?」


「いや、毎日のように入ってきてるんだ。ただ、すぐに売れちまうんだよ。まあ、儲かってるっちゃあ儲かってんだがな。俺は武器屋だからな、武具は好きだ。それを壊されるってえのはいい気がしねえ。それに、売り切れたら即入荷ってなわけにはいかねえ代物もあんのさ」


      ◇      ◇


 店主は、ガラスカウンターの中に陳列されている、とびきり高そうな大剣を指さす。


「こいつは鋼鉄のグレートソードで、うちの店でも最高の品だ。これを注文して入荷するまで何日かかったと思う?」


「2週間くらい?」


 ステラのプレートアーマーが1か月くらいかかった。これは関節部分とかもないし、それくらいだろう。


 すると店主は小さくため息をつきながら、話を続ける。


「……3か月さ。職人が何人も何日もかけて、槌で鍛造して強度を上げてるんだ。鋳造の量産品とはわけが違う。その中でも出来栄えってのがある」


 剣の前に広げられた表を説明する。


「装備の名前に『+』プラスがついてるのが出来栄えさ。鍛冶職人が、自分の自信作を商業ギルドに持ち込むと、出来栄えの評価をしてもらえる。ここに『+9』って彫ってあるだろ? 実際には、魔法で『印字』されてるそうだ。このおかげで武器に『魔法属性』がつく」


「魔法の魔獣に攻撃できるようになるのね?」


「そうだ。それが理由で求める奴も多い。区別するために『プラス武器』って呼んでる。出来栄えは+1から+9までで、最高がこの『+9』だ。無印の倍ほど切れ味が違うんだぜ。これほどのものは数か月に1本しか手に入らねえ。たとえ武器屋でもな」


「ステラのロングソードは『+2』ね。これを買ったときも同じような話を聞いたわ」


「そうか。+2だってなかなかのもんだ。そうそう入荷するもんじゃねえんだからな。で、そういうのを含めて俺たち武器屋は工房に武具を注文するんだがよ。工房も生産量が決まってるから、急に注文を増やしてもダメなんだ。回ってくる数が決まってる。特にこのプラス武器がな」


「それで商品が足りなくなってるのね」


「そうさ。だからな、いちど売り切れちまうと、元の品ぞろえに戻るまでが大変なのさ。嬢ちゃんの鋼鉄のカイトシールド以上のものとなると、金でどうこうできるもんじゃねえな」


「欲しかったら店でなんでも買える、なんて考えたのは都合が良すぎたわ。店は店で、苦労して品ぞろえしているのね」


「だがまあ、この嬢ちゃんなら武具も大事にするだろう。ちょっと案内してやるか。実は、本当に特別で高級な武器は、こうして展示だけにするか、奥の倉庫にしまってあるんだ。あと売れ残ったが、処分するには惜しい防具とかな。俺が趣味で集めてるコレクションってとこだ。盾も複数あるぞ。倉庫に行ってみるか?」


「ぜひお願い。どうしても装備を強化したいの」


「おじちゃん、連れてってほしいのです!」


「わかった。じゃあこっちだ。ついてきな」


      ◇      ◇


 店の裏口から外の中庭に出る。大きな倉庫がある。扉の鍵をあけてもらって中に入る。


 鉄の骨組みの棚がずらりと並び、消耗品やインゴットが積まれている。壁際には店内にもあるような引き出しのある棚が並べられている。


 壁には小剣、長剣、大剣、斧、両手斧、槍といった武器が掛けられている。あれは装飾品のようだ。おそらく、その下の棚に納められている武具を表しているのだろう。


 実際に見たことがあるわけではないが、騎士団の武器庫といった感じだ。


 倉庫の中を歩いて、壁にラウンドシールドが掛けられているところに案内される。


「ここら辺りが盾をしまってある場所だ。ちゃんと手入れをしたうえで、棚に納めてあるぞ」


「ちょっと見せてもらうわ。ほら、ステラも気に入ったのがあれば言うのよ」


「はいなのです!」


「じゃ、店員をつけておくからよ。何か聞きてえことがあったら、こいつに聞くなり、俺を呼ぶなりしてくれよ」


 そして店主は店に戻っていった。


 それから手分けして、ひとつずつ棚の引き出しを引いて物色しているが、小さすぎたり大きすぎたりで、今の盾より良さそうなものはなかなか見つからない。


「いいのが見つからないということは、今の鋼鉄のカイトシールドがどれだけの逸品だったか、ってことでもあるわね。最初にこれが買えたのは幸運だったんだわ」


(仕方ない、帰ろうかな……)


 すると、ステラが倉庫の奥のほうを指さしながら声をかけてくる。


「ミーナ、あれ……」


 その方向を追っていくと、奥の壁に何かが立っているのが見える。


 埃まみれの鎧だ。鎧掛けの台座になんらかの全身鎧が飾ってある。


「店員さん、あれは何?」


「ああ、あれね。子ども用の鎧さ。かなり昔からあるそうで、どこかいいとこの子息が使っていたみたいだよ。この倉庫を物色しにくる客はチラホラいるんだけどね、誰も見向きもしなかったよ」


 もうこの辺にめぼしいものはない。


「まあ、見にいってみよっか」


 鎧に向かって歩きだす。ステラは吸い寄せられるように先に駆けていき、埃を払いながら黙々と鎧を確認している。


      ◇      ◇


 この倉庫内は、清掃が行き届いていて床も綺麗だ。武具は整然と棚に納められ、放りっぱなしのものなどひとつもない。


 だというのに、この鎧の周辺だけが、まるで廃墟のように放置され、分厚い埃にまみれている。


「あ、これ、盾もあるのです……」


 ステラがつぶやく。よく見ると床に剣と盾が転がっている。剣・盾・鎧の一式がそろっているのだろう。


 剣に積もりに積もった厚い埃を払う。それは鞘に納められた、長さ1メートル前後の長剣。片手剣のようだが、それにしては柄が長い。


「バスタードソードだわ、これ」


 バスタードソードは斬るというよりも突く剣だ。長い柄が特徴で、片手でも両手でも扱える。


 剣を抜いてみる。ブレードはかなり肉厚の両刃で、頑丈そうだ。それにリカッソがしっかり取られている。構えによっては左手でここを握ることがある。また、鞘を短くできるので剣を抜きやすくなる利点もある。


「ちょっと長いけど、鞘は短いし、ステラに良さそうね」


 剣を鞘に納め、壁に立てかける。


 盾は床の泥のような埃に埋もれている。鎧にしろ、この剣と盾にしろ、随分と長いあいだ、まったく顧みられなかったのがわかる。


 長さ80センチほどの縦長のカイトシールド。上部は幅広で、下部の先端部分にいくにつれて緩やかな曲線を描いて先細りになっている。


 カイトシールドとタワーシールドの中間のような形だ。


「これもステラが持つには良さそうな盾だわ」


 盾の縁をつかんで床から持ち上げる。そして、盾の裏側が見えるようになると、その異常な光景に目を見張った。


 盾の裏側が、まるで盾を2枚重ねているかのように金属製のカバーで覆われている。そして、その中に剣が突き刺さるように潜り込んでいる。


 盾の下に穴が開いていて、のぞくと剣先が見える。中に鞘が仕込まれているようだ。外から見えるのは剣の柄だけで、鍔もブレードもカバーの中に埋まっていてよく見えない。


「まあ、盾に予備の剣をつける人もいるけどね。でもあれ? 剣が抜けないわ」


 カバーのやや上部に直径20センチほどのターレットが設置されており、3つの親指大のボタンと、大きなミトンガントレットが固定されている。盾の向きに合わせて腕を下ろすように下側を向いている。


 ボタンはガントレットに沿って上から上三角《▲》・丸《●》・下三角《▼》とそれぞれが違う形になっている。


「あっ、そうか。それでこのボタンがついてるんだわ。」


 上三角《▲》のボタンを押し込む。


 思ったとおり、カチンと音がして少し剣が浮き上がる。もういちど柄を握ると、すうっと剣を抜き出せた。


 バスタードソードと同じデザインで、全体的に長さが短いショートソードだ。


「やっぱり予備の剣なのかしら」


 ショートソードを鞘に戻す。柄を押し込むと、カチンと音がしてとまる。


「盾を反対にしても落ちてこないわ。これはいい感じね」


 次に丸《●》のボタンを押し込むと、ターレットが回って盾先がズルッとずり下がる。ボタンを押している間は、ガントレットの向きを前に200度、後ろに60度ほど変えられる。


 いや、違う。そうではない。


「あ、これが盾の持ち手か。その鎧のガントレットをここに差し込んで、腕に盾を固定するんだわ」


 ガントレットを持ったまま盾先を地面につけて動かすと、ちょうど良さそうな角度に調節できる。


「角度の調節がしやすいのはいいわね。だけど……」


 最後に下三角《▼》のボタンを押し込んでみる。だが、何も起こらない。壊れているのかもしれない。


 あらかた見たところで、ステラに感想を伝える。


「剣は悪くないけど、盾は微妙だわ。持ち手が特殊だからこの鎧じゃないと着けられない」


「うん……」


「でも、どれも大きさの割に少し軽い。オモチャなのかな?」


 すると、ステラが私の耳元に顔を近づけて小声で話しかけてくる。


「これ…… 全部ミスリルでできてるのです」


「え~っ!」


 ミスリルの実物など見たことがなかった。とても高価で、頑丈な魔法の金属だと噂で聞いたことがある程度だ。


 慌てた私は盾を落としてしまう。


「ああっ」


 ガシャーン!


 慌てて拾い上げる。幸いなことに、傷ひとつついていない。ホッと胸を撫でおろす。


 言われてみると、なんとなく削りたての鉄や銀より色が薄い気がする。だが、見た目ではちょっとわからない。


「これがミスリル…… もしかして、この鎧も? 店員さん。店主のおじさんを呼んできてくれない?」


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