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白騎士と古代迷宮の冒険者  作者: ハニワ
第9章 内戦
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第14話 アクウ空間の戦い(2)

#アクウ空間の戦い(2)


 両手で握った村雨を下段に構えたフェルディナンド。

 その距離、約6メートル。

 ステラが一歩、前に出る。


「ステラが相手なのです!」


「ステラを盾に半包囲陣!」


 盾役が私から彼女に変わっただけで、ブルードラゴン戦と戦法は同じ。ステラがフェルディナンドの攻撃を(しの)いだら、他のメンバーが散開して両サイドから攻める算段だ。


(まずは≪セイントシュート≫で先制……)


 ――キィン!


 ところが、私が弓を構え直すよりも早く、剣を振り抜いたフェルディナンドがいきなりステラの目の前に現われた。


(えっ、もう攻撃されたの⁉)


 ステラに怪我は無い。あの速攻を盾で防いでいる。

 彼女のカイトシールドはラウンドシールドより大きそうに見えて面積は大差無く、障壁を出したりもできない。彼女の盾捌きの成せる技だ。


(……ちっ、もういない)


 半包囲に移ろうにも、フェルディナンドはこの一瞬の間に先ほど立っていた位置まで戻っている。


「どういうこと? 瞬間移動したように見えたけど」


「皆さま、あれが≪縮地≫。間合いを瞬時に詰める『剣豪』のスキルでございます!」


 私の呟きにメーベルが答えてくれた。

 剣豪というクラスはオリビエからもらったクラスの本にも載っていなかった。かなりレアなクラスだと思われる。


「メーベル、他にもなにかある?」


「≪燕返し≫。剣を振り切ったあとに剣を返してもう一度斬りつけて参りますよ!」


 最初、フェルディナンドは下段に構えていた。ところが、ステラが受けた時には剣が上に弾かれていた。

 つまり、あの一瞬の間に間合いを詰め、一度剣を上に振ってから斬りつけたのだと思われる。


「さっきのがそうなの?」


「わかりません。剣筋が速すぎて私には見えませんでした」


 仮にそうではないとして。

 ステラが初撃を盾で止めていなければ、逆方向、つまり振り下ろしからの斬り返しを食らっていたのかもしれない。


「避けれたと思っても安心できないわね」


 どうやら剣豪というのはスピード重視でかなり攻撃的なクラスのようだ。


「ミーナちゃん、≪燕返し≫は『剣士』や『双剣士』も使えるから知ってるよ。ステラちゃんにも教えたことあるから大丈夫だって」


「そっか。じゃあ、エリスも使えるようになるんだ」


「≪縮地≫ってのは無理かもだけど。ちょっとやそっとの修行じゃ、あれは身につかないよ」


      ◇      ◇


 フェルディナンドはゴツゴツと荒れた地面に(つまず)くこともなく、()り足で間合いを維持している。

 奴がまた唐突に盾を構えたステラに斬りかかる。


(今だ!)


 ステラがフェルディナンドの剣を防ぐと同時に、エリスと私が左右に躍り出る。


≪トリプルアタック!≫≪二段突き!≫


 2人同時に剣を繰り出したはずなのだが、フェルディナンドは順番に私たちの剣を払いのける。


「剣1本で、そんな!」


 まるで奴が瞬間移動したかのような錯覚に陥る。


「そのような決まりきった動作のスキルなんぞで我に当てられようとは思うな!」


 初手だったにもかかわらず、見切られているということだろう。

 攻撃には予備動作が必ず必要で、足運び次第で見抜かれる場合もある。それは対人戦だけでなく、ゴブリンやあのドラゴンだって同じ。

 だが、私には奴の動きが読めない。


(あの摺り足に≪縮地≫の秘密がありそう。地面を滑るように動くから、距離感を掴めないんだわ)


 それに、下段の構えが絶妙で攻めるに攻めきれない。

 かといって、炎天下の荒野でこのままというわけにもいかない。


(相手は独りなんだから、数で押せばなんてことないはずなのに……)


 双方一定の間合いを保ちながら、地面を踏みにじるようにジリジリと動く。

 そして、フェルディナンドが放つ電光石火の剣の応酬にステラの盾から火花があがる。

 次第に目が慣れてきた。豪胆でありながらも美しい剣技に魅了されそうになる。


(もう一度!)


 だがやはり、私たちの打ち込みはすべて打ち払われるか避けられてしまう。


 ――ヒュン!


 フェルディナンドがステラではなく私に剣を向けてきた。上半身を捻ってそれを避ける。


(しまった! 思わず避けて……)


 向こうに振り切られたはずの剣の刃先がこちらに向きを変えて私を襲う。


 ――ズバァッ!


 盾を構える(いとま)もなく胴を斬りつけられ、青白い火花が斜めに走る。


「こ、これがっ!」


 ≪燕返し≫は常識では考えられない動きだった。振り抜きの勢いそのまま、鏡で反射した光の如く刃が襲ってくる。

 胸に手を当てる。鎧に傷が付いただけで体は無事だったが、鎧が凍結して動かなくされてしまった。


(あの剣の能力ってこと? ステラの盾には何も起こらなかったけど)


 ステラの武具は特殊だ。効いていなかっただけなのかもしれない。


「ミーナ、下がって!」


 ――ギィン!、ギンギィン!


 ステラがカバーに入ってフェルディナンドの追撃を受け止める。

 フェルディナンドは見た目こそオークの姿をしてるが、魔獣ではない。ステラが声や身振りで挑発しても、誰もがターゲットになる可能性がある。


(ならば!)


 ≪バックステップ≫で飛び退き、≪ステップ≫を踏みながら奴の後ろに回り込んでセイントソードを地面に刺す。

 セイントボウを引くためだ。


(また地面から妙な振動が……あとで調べたほうがいいわね)


 矢を召喚して一気に三連射。


≪セイントシュート!≫

≪セイントシュート!≫

≪セイントシュート!≫


 放った矢はフェルディナンドにすべて叩き落されてしまう。


(でもそれでいい。ステラ、今よ!)


 声は発せずともステラには意図が伝わっていた。彼女がフェルディナンドにバスタードソードを鋭く突き付ける。


「やあっ!」


 ――ガガッ!


 こちらからはステラの剣先がフェルディナンドの胴を捉えたように見えた。


「……惜しかったな」


 フェルディナンドがそう言い放ってステラの剣を押し戻す。

 奴は腰の鞘から別のカタナを途中まで抜き、その刀身で受け止めていたのだ。


      ◇      ◇


(二刀流!)


 同じ二刀流でも、エリスが同じ長さの剣を使うのに対し、いま奴が抜いた剣は短めで長さが違う。


(それに、構えが変わった……!)


 下段から銅鑼(どら)や太鼓を叩くような派手な中段の構えに。

 フェルディナンドが間合いを詰め、ステラに怒涛のラッシュを続ける。


「くっ……」


 無数の手数に押されてステラは盾で受けきれなくなり、腕や体にも攻撃を受け始めた。

 幸いだったのは、ここで奴が蹴りなどを浴びせていれば勝負が決まっていたはずだが、そのような(から)()はしてこなかったことだ。


(それでもステラの鎧に傷が……)


 今まで傷ひとつ付かなかったステラの鎧が私のと同様に傷つき凍結し始めている。

 フェルディナンドの剣戟は更に加速する。


「ゆくぞ!」


 フェルディナンドの全身からオーラが(ほとばし)り、左右のカタナから氷の吹雪が巻き起こる。


≪必殺剣! 夢・想・風・花(むそうふうか)!≫


「夢おぼろ……」


「想い出に浮かぶ山桜(さんおう)の……」


「風に散り咲く……」


 フェルディナンドが一句(うた)う毎に1回転しては剣を3度繰り出すと、氷の花びらが舞い、地面に降り積もっていく。


「花の園へと……」


 最後に一回転して納刀し、動きを止めた。

 辺り一面に白い花園が広がっている。


「美しい舞だったわ。でも……」


 あの必殺技はどちらかというと演武(えんぶ)に近く、武芸としての美を追求したもののように感じた。


「威力だけなら先ほどエリスが閃いた技のほうが高そう。ステラも健在だし」


 ステラは鎧に傷を受けただけで済んでいる。今は≪パイルバンカー≫のために盾を操作しているようだ。


「私もあなたに教えを乞いたくなったわ。でも、つけなきゃならない。決着を」


 地面からセイントソードを抜き、氷の花を踏みしめながらフェルディナンドに近づく。


 ――ピシッ


 ――ピシピシッ


 ――ビキビキビキッ


「しまった、この花園は!」


 奴に近づくにつれ、氷のツルが私の足元に這ってきて巻き付き、瞬く間に凍らせていく。


「みんな、近づかないで……!」


 だが、硬直しているフェルディナンドを狙って、すでに全員が氷の花園に足を踏み入れてしまっていた。同じように身動きが取れなくなっている。


「……遅かったか」


 剣を地面に刺して右手をあけ、グレーターヒールポーションを取り出して飲み干す。

 凍結しかけていた下半身が治癒され、這い上がってくる氷の進行も止まった。

 みんなもポーションケースに手を伸ばしている。なんとか間に合いそうだ。


「まさか敵を拘束する必殺技だったとはね……」


 上半身は動かせるものの、足鎧は完全に氷に覆われたまま。


(氷が溶けるまでしばらく動けそうにないわ)


 運の悪いことに、今は奴に対して右半身になっており、弓を向けることすらできない。


(魔法さえ使えれば、どうにかできたかもしれないのに……)


      ◇      ◇


 杖を突くように剣を握り、体を支える。


(やっぱりおかしいわ、この地面)


 グリグリと地面を抉ってみると、敵に剣を突き刺したときと同じような手応えを感じる。


「……えいっ!」


 思い切って剣に体重を乗せて地面深くに押し込む。


「ギャアァァァァッ!」


 崖の上のマーフが苦しみだした。


「もしかして感覚が繋がってる?」


「……やめておけ。地面が崩れる」


 硬直の解けたフェルディナンドが口を開いた。


「崩れたらどうなるの?」


「ここから脱出しようと、やってみたことがある。我らとて、このような場所に閉じ込められてただ手をこまねいていたわけではない。ぐっ……」


 フェルディナンドが苦し気に話す。自刃した腹部の鎧の隙間から流れ出た血が足まで伝っている。


「……地面の下は漆黒の闇だ。飲まれれば一巻の終わりだぞ」


「その怪我、大丈夫なの?」


「敵よりも自分の心配をしたらどうだ。このままでは我に殺されるのだぞ」


 フェルディナンドがステラの傍を離れ、私のほうへ歩いてくる。


「おまえの相手はステラなのです!」


 背を向けたフェルディナンドにステラが突進して体当たりした。≪ディヴァインオーラ≫で氷のツルの呪縛から逃れたようだ。


≪パイルバンカー!≫


 ステラが全身を覆う障壁を解除すると同時に必殺の一撃を放った。


「うぐおぉっ!」


 フェルディナンドの背中に風穴があき、血しぶきがあがる。


「最後の最後に抜かったわ。その若さで聖騎士とは…… 村雨を頼んだぞ……」


 フェルディナンドが膝を突き、うつ伏せに倒れた。

 すると、辺り一面の氷が溶け、あっという間に元の荒れ地に戻った。


「不本意だけど、勝ちは勝ちよ」


 屈伸して調子を確かめ、フェルディナンドの傍に落ちていた村雨を取り上げる。


「鞘なのです」


 ステラが差し出した鞘を受け取り、納刀する。


「誰かこれ使える?」


 全員が揃って首を横に振る。

 癖のある曲刀で、しかも刀身が細い。


「でも持っていくしかないか。約束しちゃったし」


 父親の遺品としてエミリーに手渡すまで、持っておくしかない。


      ◇      ◇


 ――キヒッ、キヒッ、キヒッ……


 ふたたび、マーフの不気味な声が響く。


「良くヤッテくれタ。ソイツらはナカナカしぶとくテナ」


 フェルディナンドたちの遺体が宙に浮き上がる。


「コレで次ノ段階に進めル」


 赤い光の魔法陣が地面に描かれ、遺体が吸い込まれていった。

 続いて、ひときわ大きな青い光の魔法陣が地面に描かれる。


 ――ズズズズズ……


 魔法陣を突き破るように伸びてきたのは十本の巨人の腕。


「……ヘカトンケイル」


 伝説で伝わる、複数の腕を持つ身の丈20メートルほどの巨人だ。

 銀白色の肌に同色の鎧を身に着け、それぞれの手に武器を握っている。

 グレートソード、ブロードソード、ロングソード、アークメイジスタッフなど、ありとあらゆる武器。

 今から料理を始めようとするコックのように、それらの武器をシャンシャンと擦り合わせる。

 その腕の一本が特殊な曲刀を握っている。


「カタナ……!」


 ヘカトンケイルがマーフの声色で話しだす。


「気がツイたヨウじゃナ。コレはヤツらノ成れノ果て。ワシがツクったキメラじゃ」


 村雨はこの手にある。大きさも違うし、その肉体を含めて元の彼らのものではない。


「とんだ悪趣味な男ね。自分も取り込んだの?」


「もはやダレにも任せテおけヌ。ワシ(みずか)らインドウを渡しテやろウ。そしてオマエたちもワシの(かて)とナルのダ」


      ◇      ◇


 ――ゴゴゴゴゴ……


 地響きをあげて地面が大きく揺れ、深い亀裂が走る。


「地面が崩れるわ!」


 景色が暗転し、私たちは亀裂に飲み込まれて落ちていく。


「うわぁぁぁぁっ」


 またしても放り出された先は、天を突くほど高い変わった建物が建ち並ぶ都市の只中だ。

 硬い石床に尻もちをつく。

 頭上には星の瞬く夜空が広がっている。周囲の建物や街灯の明かりのおかげで視界は悪くない。


「みんな、無事?」


「はいなのです」


 ステラ以外のみんなも一応は無事のようだ。立ち上がって怪我や武具の破損具合を確かめている。

 セイントソードで石床を突いてみる。先ほどいた荒れ地とは違って鉄のように硬く、剣先が刺さらない。


「王都に匹敵するくらいの大都市みたいだけど、不自然なくらい誰もいないわ」


 私と同様に、エリスたちもキョロキョロと辺りを見回す。


「明かりは点いてるのにね」


 ――ズズン、ズズン……


 石床を震わせて、高い建物の列の影からヘカトンケイルが姿を見せた。


「キヒッ、キヒッ、キヒッ。ソレではクライマックスと行こウかのウ」


 体を回転させながら、ヘカトンケイルの十本の腕が次々に私たちを襲う。

 大きさはオウガ=トロールと大差ないが、スピードは段違いだ。


 ――ダダーン、ダダーン!


 ≪ステップ≫で跳ね避けながら、≪フォースフィールド≫を展開する。


(ドラゴンの鱗とどっちが硬いんだろう)


 マーフのとっておきだ。あのヘカトンケイルのほうが頑丈に違いない。となれば苦戦は必至。


「ソレ、ソレッ」


 マーフの剣技はフェルディナンドには及ばないものの、なにしろあの大きさとスピードだ。


「今は耐えるしかない。悪いけど、みんなは私に合わせて隊列を維持して!」


 波状攻撃を障壁で抑えながら、じりじりと後退を続ける。


(私にドラゴンの首を刎ねたカインのような力が出せるかしら……)


 すると、周囲が不意に明るくなった。光源となっているのはステラのバスタードソードだ。必殺技を出すときのような白いオーラではなく、透明度のある、神々しく神秘的な輝きだ。


「ステラ?」


「来る…… 来るのです……」


 ステラがブツブツと呟く。


「ステラ、何が来るの?」


 私が声をかけ直した瞬間、ステラの足元から光が噴き出る。


「グホォッ!」


 ヘカトンケイルの口からマーフの呻き声があがった。

 ステラを中心に私たちを包みながら広がった光が障壁となり、ヘカトンケイルの巨体を彼方へと弾き飛ばしたのだ


「降臨せよ、我が巨人!」


 ステラの叫び声に私たちは思わず距離をとる。

 すると、彼女の背後に白い巨人がおぼろげに浮き上がってくる。その姿は蜃気楼のように揺らめいていたが、急速に実体化していく。


「ステラの巨人……」


 フローネガルデの巨人ではない。ステラの鎧と盾だ。白く縁取られた青色のカイトシールドにはユニコーンの紋章が描かれている。

 右腕で持つ武器はバスタードソードではなかった。ランスだ。手元を青に染めた白いランスを抱えている。


「……違う、ただの巨人じゃないわ。あれは人馬(じんば)? まるでケンタウロスみたい」


 正面を向いていたので最初わからなかったが、あの巨人は四本足だった。馬の胴体にステラの人型がくっついている。そして、フルフェイスヘルメットの額には一角獣の角が生えていた。


「ステラが召喚したの?」


 ステラが頷いて答える。彼女は宙に浮き上がって光となり、巨人の胴体に吸い込まれていく。


 ――ブゥゥン


 目元を覆う黒ガラスの奥に光が宿った。


「ステラ!」


「ミーナ……」


 私の呼びかけに巨人が私たちを見下ろし、ステラの声色で答える。


「……ステラ、おっきくなったのです!」


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