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白騎士と古代迷宮の冒険者  作者: ハニワ
第2章 黒鳳騎士団の戦い
13/133

第01話 黒鳳騎士団

#黒鳳騎士団


「カイン卿、こちらでございます」


 ゲラール子爵リトアールに案内され、俺とソフィア、5名の小隊長は2階の執務室に入る。


 全員でリトアールのデスクを囲む。地下通路の地図が広げられ、ゲラール騎士団と冒険者に被害の出た事件の顛末書を見ながら作戦会議に入る。


 黒鳳騎士団こくほうきしだんは王都に4つある王宮騎士団のうちのひとつで、他国との戦争や国内に現れた災害級魔獣と戦うのが主任務となる。1小隊につき騎士が10名。今回率いてきたのは5個小隊。


 一緒にいる5名の騎士が各隊の小隊長で、十人長に任ぜられている。全員が騎士にクラスチェンジしており、部下も高位の戦士だ。


 鎧は王宮騎士団制式鎧で統一されている。高精度の鋼鉄の板金鎧だ。さすがに冒険者の装備とは質が違う。


 加えて、決まって出征を渋る司祭と魔導師が、今回は随伴してくれている。これは、説得してくれたソフィアに感謝せねばならない。


 王都を出立する前に編成は済ませてあり、いくつかの作戦を立案し、各隊には周知させている。ただ、何事も実際の現場を見ないことには判断がつきにくいこともあるのだ。


 窓の外に外庭が見える。冒険者だろうか、数人の戦士が中から出てきたところだ。ゲラール騎士が戦利品を検めようとしている。


「リトアール卿、入口はあそこだな?」


「はい、カイン卿。」


(狭いな……)


 従士を置いてきたのは正解だった。あれでは全員で入るのは無理だ。常時戦えるのは精々5人から10人といったところだろう。おそらくあそこでは個々の力がものをいう。精鋭の騎士で臨むほうがいい。


 不安要素があるとしたら、黒鳳騎士団が得意とするのは開けた平地での集団戦で、今回のような閉鎖空間での戦いはあまり経験していないということだ。軍馬やバリスタは役に立たない。


 それでも、オーク=ジェネラルが倒されているのなら、どうにかできるだろう。事件以降に確認されたのは、どこにでもいるオークやゴブリンばかりだ。


      ◇      ◇


「最終的には迷宮を探索せねばならぬが、まずはオウガ=トロールの討伐だな。予定どおりならクリスとアクセルの隊が先陣になるが、皆はどうだ?」


 俺が意見を求めると、小隊長の5名が順に意見を述べる。


「私の第1小隊には爵位のある諸侯の嫡子を集めてあります。彼らももちろん頼りになりますが、ここは温存しておきましょう」


 第1小隊のサークだ。茶髪の壮年の男性。副団長で、年齢は一番高い。


「それが賢明ですねぇ。あの隊に戦死者が出ると、帰ってから大変ですよぉ」


 第2小隊のクリスだ。金髪ロングの青年。騎士団一の美男子。


「俺も行かせてくださいよ。そんな理由で控えだなんて。父の制止を振りきってきたのに、いい笑いものになります」


 第3小隊のエドガーだ。同じく金髪ロングの青年。実直でまじめな男だ。


「思ったよりも通路が狭そうだ。まずは一番の精鋭から入れたほうがいいな。まずはクリス、それから俺、次がエドガーの隊だな」


 第4小隊のアクセルだ。銀髪のショートヘアーの青年。気さくな性格で、平民騎士からの信任が厚い。


 これに、クリスもうなずく。


「私は王宮魔導師団の護衛ですから、彼ら次第ですかね?」


 第5小隊のマイケルだ。彼はまだ十人長になったばかりだ。


 やはり、クリスとアクセルか。団でもこのふたりがずば抜けて強い。


「では、クリスとアクセルに任せよう。総員、儀礼装備を解除。クリスの第2小隊とアクセルの第4小隊は戦闘準備に入れ。サーク、エドガー、マイケルの隊はホールにて待機せよ」


「「「「「了解しました!」」」」」


「リトアール卿には迷宮案内にふたりほど手配をお願いする」


「かしこまりました」


 ソフィアがリトアールの前に進み出る。


「私のクラスは司祭です。【グレーターヒール】で部位欠損を含む怪我の治療ができます。【キュアウーンズ】が使える司祭もいます。もし今回の件で重篤の方がいらっしゃれば治療の助けができるかもしれません」


「ソフィア王女殿下、ありがとうございます。さっそく冒険者ギルドに確認してみましょう」


      ◇      ◇


 全員そろって執務室を退出して1階に下りる。そこからホールに向かう途中で、外から来たゲラール騎士と鉢合わせとなる。


「あっ、すみません!」


 滅多にない大きな魔石を抱えている。


(ん? なんだそれは?)


 騎士が謝りながら横を通り過ぎようとするが、魔石が気になって呼び止める。


「おい、ちょっと待て。その魔石はなんだ」


「先ほど現れた魔獣の魔石です。このところ沈静化していたのですが。非常に強力で、全部で4体いたようです」


「なんだと⁉ 今はどうなっている?」


「幸い警備していた冒険者によってすべて討伐されました。今は大丈夫です。買い取りで支払う金が足りなくなり、白金貨を預かりに来たのです」


 魔石をのぞき込んで品定めをする。めずらしい魔石だが、城塞級や災害級と戦う我らだ。見たことがないわけではない。


「これは、城塞級の魔獣が持つAランクの魔石だぞ!」


 腰に提げている『ファイアーブレード』も魔石を付与した魔法剣だ。その魔石よりも、かなり大きい。


「それが2個あります。あとは少し小さいBランクの魔石が1個です」


「Bランクでも地区級の魔獣相当だ。そうそういるものではない」


 なるほど、Aランクの魔石は白金貨2枚もする高価なものだ。城塞級魔獣を倒さねば手に入れることのできない非常に希少なものでもある。


「カイン、これはまずいな」


 アクセルが話しかけてくる。


「ああ、そうだな……」


 ふむ、上級魔獣が災害級のオウガ=トロールだけであれば、すぐにでも討伐に入ろうと思っていたが……


「リトアール卿、先ほどの案内の件だが、この魔獣を倒した冒険者に頼めるだろうか。詳しい話を聞いてみたい。どうも作戦を練り直す必要があるかもしれん」


「買い取りが終わっておりませんので、まだ外におります。ご案内しましょうか?」


「そうだな。俺のほうから会いに行くほうが早い。白金貨を取ってきたら案内してくれ」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

#バーサーカーの魔石


「ねえ、まだなの?」


 私はカウンター越しに立っているゲラール騎士に督促する。地下通路の警備を終え、報告と戦利品の精算が終わったのに、帰ることができない。


 城内へ白金貨を取りに向かった騎士が戻ってこなくて、お金を受け取れないのだ。


「そうですねぇ。いつもはこんなにかからないんですが。白金貨だから時間がかかっているのかもしれません」


「それとも、私がそうだったみたいに、言っても信じてもらえないのかなあ」


「魔石も持っていますから、大丈夫だと思いますが……」


 そういう彼も最初は疑っていた。城内でも同じようなやりとりになっているのかもしれない。


「ステラの怪我を見てもらわないといけないから、早く帰りたいのよね……」


 気を紛らわせるために彼ととりとめのない会話をしていると、魔石を持っていった騎士がやっと戻ってきて、私に革の小袋を差し出す。


「遅くなりました。これが白金貨になります。では改めて、合計で白金貨4枚、金貨5枚、銀貨2枚、銅貨2枚の支払いになります。お確かめください」


「ありがとう」


 平静を装って受け取る。


(これが白金貨か! しかも4枚!)


 まじまじと見てしまう。落とさないように、腰のポーチではなくバックパックの中に入れる。


 さあ帰ろうとした、そのとき。


「あの、すみません」


 まだ話は終わっていなかったらしく、お金をくれた騎士が話を続けてくる。


「誠に申しあげにくいのですが、もういちど地下に入っていただけませんか? 王都から救援の騎士団が到着し、今から討伐するとのことなのです。それで案内役の冒険者を探しているようでして」


「えっ今から? やっとの思いで生き残ったのに……」


 断ったらCランクの話もなかったことになるかもしれないが……


 私たちが欲しいのはランクじゃない。


 たとえこの依頼が失敗したとしても、ステラとふたりで冒険を続けられればそれでいい。


「私たちは戻ったばかりで血まみれだし、宿に帰って体を洗いたいわ。命に別条がないとはいえ、相方のステラが重傷を負ってるの。治療院にも連れていきたい。もし明日で良ければ案内するわ」


 ここで怪我をしたまま戻って体に障害が残れば元も子もない。だから、万全の体調と装備を整えたい。


「そうですか……」


「それに、交代で地下に入ってる冒険者パーティがいるわよね? どうしても案内が欲しいのなら、彼らが同行できるんじゃないの?」


「それが、白金貨を受け取る際に、リトアール様と王都の騎士団の方に会いまして…… 並外れて大きいこの魔石のことを話すと、そのような魔獣を討伐した者であれば連れていきたい、とおっしゃるのです」


 確かにあの魔獣は強かった。だが、私たちが倒せたのはたまたま装備が貧弱だったおかげであって、実際に城塞級を倒せるかというと、そこまでの実力はないと思う。


(こんな状態であの地下に戻れだなんて……)


 そんなことはないと思いつつも、【ディテクトエネミー】を使う。敵意や悪意を感じ取るレア魔法だ。何も反応がない。領主から言われて伝えているだけで、他意はないのだろう。


      ◇      ◇


 すると、城内から頑丈そうな黒色の鎧を着けた騎士の一団が出てきて、こちらに歩いてくる。ひとりだけ神官服を着た若い女性がいる。


 彼らはまっすぐこちらに向かってきて、程なくして私の目の前で立ち止まった。


「魔獣を倒したのはその者たちか?」


「はっ、こちらとあちらにいる女性のふたり組でございます。城塞級魔獣4体のうち、3体はこのパーティが仕留めました」


「若いな。だが実力はありそうだ」


 ジロリ、と私を一瞥したあと、向こうにいる血まみれのステラに視線を移しながら話を続ける。


「どうだろう。戻ってきたばかりではあるが、我々の案内役として同行してもらえぬだろうか?」


 身震いがする。これは只者ではない。漂わせている雰囲気もそうだが、腰に提げている剣は鞘の装飾からして相当な業物だ。他の者が提げているものとまったく違う。


「あ、あの、あなたは……」


「王都の黒鳳騎士団の団長、百人長カインだ。こちらにおわすはソフィア王女殿下であらせられる」


「フレイン王国第3王女のソフィアです。迷宮を護っていただいてありがとうございます」


 私は頭が真っ白になっていた。


(王都の騎士団長様と王女様⁉)


 今までに会った偉い人で最も高い地位の人は、創造神の神殿で会った大神官様くらい。それも主役は『騎士』を得たステラのほうで、私はただのつき添い。


(それでも断らなきゃ)


 ステラをこのままにして、地下に戻るわけにはいかない。


「カイン様。そちらの騎士の方にはお伝えしたのですが、今日は帰ろうと思います。あのとおり、相方のステラが重傷を負っておりますので、治療を受けさせたいのです」


 カイン団長は花畑のそばで座り込んでいるステラのほうを見る。私の話はわかってもらえたようだが、それでもはっきりと告げる。


「では同行しなくともよい。それと、そのように畏まらなくてもよい。普通に話せ」


「ええ、ありがとう」


「あの者があれほどの怪我をするほどの魔獣だったのだな?」


「そうよ。装備は貧弱だったけど、ただのゴブリンとオークじゃないわ。私たち、オーク=センチュリオンの軍団だって倒したことあるんだから。」


「俺たち今からオウガ=トロールの討伐に向かうつもりだったのだが、別の城塞級魔獣が出てきたとなれば話は別だ。作戦を見直さねばならぬかもしれんのだ」


「まあそうでしょうね……」


 彼の騎士団がどれくらい強いか見当もつかない。だが、私たちは強い。それほど変わらないと思う。だから、彼らもあの魔獣が出てきたら苦労するはずだ。


「もうしばらくここに残り、今日の魔獣について教えてくれぬか? 怪我を負っている彼女にはすまぬが、頼む」


 食い下がってはみたものの、こうなれば是非もない。


 『頼む』と言っているが、そのとおりの意味と受け取るのは危険だ。偉い人の『頼む』を繰り返し断ると、あとで面倒なことになりかねない。


「わかりました。お~いステラ! こっち来て! 王都の騎士様が聞きたいことがあるって」


 向こうで座っているステラを呼ぶ。


「は~い、なのです……」


 もじもじとこちらに向かってゆっくりと歩いてくる。


      ◇      ◇


 ようやくステラが目の前までやってきた。これはかなりの重傷だ。顔色も良くない。ステラは私を気遣って離れていたのだろう。


「もうステラ、こんなに我慢して…… もういちど【ヒール】するね。このあとすぐ治療院に行こ」


 私が【ヒール】を唱えようとすると、ソフィア王女が制してステラに声をかける。


「ステラさん、少しの間、そのまま動かないでください。私が治療します」


【グレーターヒール!】


 突然、ソフィア王女が魔法を唱える。彼女とステラの全身が眩しく輝く。


 すごい、私のとは比べものにならない! 数秒で光は収まる。


「……あれ? はわぁ! すっかり良くなったのです。神官さま、ありがとうなのです!」


「ソフィア王女殿下、ステラを治療していただきありがとうございました。ステラ、この方は神官さまではなくて王都からいらっしゃったソフィア王女殿下よ」


「お、お姫さま⁉ はわわ、す、すみません~」


 なのですをつけ忘れるほど慌てるステラ。


「王女殿下は恥ずかしいので、やめてくださいね。私にも普段どおりに話してもらえませんか? ソフィアと呼んでいいのですよ」


 ソフィア王女はステラに微笑みかけると、一瞬驚いたような表情をする。そしてステラの頭をそっと撫で、カイン団長に向き直る。


「カイン、ステラさんは王都の騎士と比較しても遜色のないレベルの『騎士』です」


「そなた、その若さで『騎士』なのか?」


 彼が驚いてステラに声をかける。


「はいなのです。12歳の時に神殿で『騎士』のクラスを授かったのです」


「であれば城塞級の魔獣を倒せてもおかしくはないか」


「ミーナが【ヒール】をかけ続けてくれたからなのです。じゃないと耐えきれなかったのです……」


 ソフィア王女が私のほうへ顔を向ける。こちらを見る瞳が僅かに輝いたように見える。


「ミーナさんも高位の神官のようです。ふたりともその年齢でここまでとは。よほど鍛錬したのですね」


「団員の皆さんは一騎当千の猛者揃いですから、過分の心配なのかもしれませんが、このふたりの状況を考えると、十分な備えをしてから挑むべきでしょう」


「うむ、そうだな」


 カイン団長はどうするか思案しているようだ。


 初対面なのに、ソフィア王女は正確にこちらの能力を把握している。私は大神官様に頂いた本の中にそのようなスキルがあるのを思い出した。


「もしかしてソフィア様は《鑑定》ができるの?」


「はい。《鑑定》のスキルが使えます」


 《鑑定》は対象物の組成や能力を鑑定したり、合成のレシピなども詳しく読み取れるレアスキル。


 人に対して使った場合、ステータスカードで表示される内容、いや、それ以上の本人すら知りえないこともわかるそうだ。


 たとえば、自分のステータスカードを表示すれば『おおまかな体調』や『装備のアイテム名』くらいはわかる。ステラの状態は『重傷』で、装備の状態は『小破』だった。


 ただ、何がどう重傷なのか、装備はどのように破損しているのか、武器や鎧の性能はどうか、どれもはっきりわからない。ステータスの変動具合でなんとなく判断できるだけだ。


 《鑑定》を使えば、それらがすべて確認できる。


「ステラさんは右腕と左肩を骨折していました。かなりの重傷です。でも完全に治癒されましたからもう大丈夫です。そのような事もわかるのですよ。便利でしょ?」


 ふふっとソフィア王女が笑顔で教えてくれる。お姫さまにはちがいないが、先ほどの【グレーターヒール】といい《鑑定》といい、お飾りでここに来たわけではなさそうだ。


 さて、ステラを治療してもらったのだから、礼は返さなければならない。思案中のカイン団長に話しかける。


「カイン様。私たちを襲った魔獣は見た目は普通のオーク2体とゴブリン2体だったわ」


「見まちがえではなく、本当に最下級のオークどもだったのか? 先ほど見た魔石はそんなレベルではない。オーク=ジェネラルやゴブリン=キングのものだ」


「死骸は持ち帰れなかったけど、装備品はここにあるわ」


 テーブルに置いてある錆びた鎧や斧を指さす。


「最下級の魔獣サイズの鎧よ。上級魔獣であればこの3倍近くの大きさのはず」


「なるほど。確かにこれは最下級の魔獣の装備だな」


「カイン様。装備は最下級のものですが、魔石を鑑定したところ、『バーサーカーの魔石』と出ました。これは私も見たことがありません」


「Aランクの魔石であっても、正確には種類が違うというのだな?」


「はい、そのとおりです」


 普通とは違うあの魔獣は、魔石も普通ではないらしい。


「もし、この魔獣が魔石に相応しい大きさで相応の武器を持っていたら、とうてい持ちこたえられなかったと思う。その意味では幸運だったわ」


「ミーナ。あのオークだけど…… 斧の攻撃がものすごくて、盾で防いでも体が衝撃に耐えられなかったのです。最初に右腕に怪我を負って剣に力を入れられなくなったのも辛かったのです」


「そうね。大きさは普通だったけど、別物だったわ。力も強いし、皮膚が岩のように硬かった」


「岩のような皮膚か。城塞級の魔獣だとそうなるな。とにかく硬い」


 ソフィア王女は魔石を見ながら考え込んでいたが、ひとつの答えを導き出す。


「……作為的にオークやゴブリンの肉体に城塞級魔獣の魔石を組み込んだ、特殊な魔獣なのかもしれません」


「自然に生まれたものではなく、ここの魔獣を生み出しているのはおそらく迷宮だ。ありえぬことではないが、なぜそんなことをする必要がある?」


「最初に現れたオーク=ジェネラルは、その大きさゆえに通路で自由に動けず、倒されました。だとすれば、普通サイズの魔獣になれば自由に動けると考えたのかもしれません」


「動きも普通じゃなかったわ。前衛は3人もいたのにゴブリンが突破してきて、後衛にいた魔術師と私に攻撃してきたの」


「ゴブリンなど目の前の敵に単純に殴りかかるしかしないものだぞ。それは妙だな」


「オークも2体がかりでステラだけを狙って襲ってきたわ。うまく表現できないけど、どれも立ち回りがうまくて、思いどおりに動かせてもらえなかったわね。」


「魔獣のランクが高くなれば知能や技能は上がっていきます。間近で鑑定できればもう少し詳しいことがわかるかもしれませんが、話を聞くかぎり私が近づくのは無謀ですね……」


「ほかになにか気づいたことはあるか? どうやって倒した?」


「あ、そういえば、途中で気がついたんだけど…… 妙に【マジックミサイル】が効いたわ。あきらかに動きがにぶくなったの。それで勝てたようなものね」


「【マジックミサイル】ですか?」


「うん。スクロールのやつだけど」


 ソフィア王女はカイン団長に話しはじめる。


「カイン様。魔獣は野獣の変異種のため、基本的に火が弱点です。そのため攻撃魔法をかけるときはまず【ファイアーボール】を使います。弱点を突かれた相手は一瞬動きを止めてしまうからです。【マジックミサイル】は地水火風どの属性にも属さず、普通は弱点にもなりません。威力も低く、本格的な攻撃にはまず使いません」


 確かに【マジックミサイル】は、魔術師になったら最初に覚えるような魔法。彼らはもっと強い魔法を覚えていく。だから、あれは命中率のいい便利な魔法として扱われている。顔を狙ったり、遠い目標に当てたり、走りながら撃ったり。


「初戦の報告書には現れた魔獣には魔法が効きにくかったと記されてあった。だが、もしかすると火属性に耐性があり、無属性が弱点だったのかもしれぬな」


 カイン団長は沈黙し、また思案しているようだ。


「……よし。そのような立ち回りをしてくるのであれば、今回は対人戦のつもりで挑もう。特に、魔法使いキャスターには相応の護衛をつける必要がある」


「では、討伐は延期されますか?」


「そうだ。本日は取りやめて作戦を立て直す。ソフィア様には魔導師と司祭を集め、騎士との連携や攻撃魔法の再確認をしていただきたい。そのうえで晩餐後にまた軍議を行なう」


「かしこまりました」


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