第11話 ドラゴンスレイヤー
#ドラゴンスレイヤー
ブルードラゴンが接近するステラを執拗に狙う。
「はぁっ! やあっ!」
彼女は身長の倍ほどの太さの尻尾をギリギリのところでうまくかいくぐり、≪カウンター≫で斬りつける。
あれを避けられるのはステラしかいない。
最近こそ大人数のパーティで行動しているが、もともとは私と2人きり。本来彼女の得意とする戦法は、あのように単独で敵と渡り合う戦い方なのだ。
狭い迷宮では彼女の持ち味がイマイチ活かせられなかったが、このような広いフィールドでは存分に戦うことができる。
「あっ、こらっ、ちょっとぉ!」
エリスがズダンズダンと跳ねる尻尾を追いかけている。
彼女の素早さをもってしても、あの動きにはついていけない。
いざという時に退避しなければならないので、エリスとカインが攻撃できるのは尻尾の先に限られる。
メーベルは攻撃魔法をより初速の速い【ウィンドアロー】に切り替えている。
だが、尻尾は先に行くほど鞭のようにしなり、スピードを増す。
攻撃を当てるのは困難で、たとえ当たったとしても先っぽに与えたダメージがどれほど有効なのか疑わしかった。
「やっぱり誰かが抑えないと……」
カインが2本目のハルバードをお釈迦にして3本目を手に取ろうとしている。
「カイン! こっちに来て!」
カインがハルバードを手にして戻ってくる。
「……大丈夫か?」
「私はまだ生きてるし、盾も使える。問題ないわ。それより、そのハルバードでは力不足ね。これを使って」
カインにセイントソードを差し出す。
「いいのか?」
「貸すだけ。ちゃんと返してよ? エルフの知人が言うには、これは竜殺しの剣なんだって」
盾で防御しつつ、この剣でカウンターを決められればと目論んでいたが、もう叶わない。
思い起こせば、それに拘りすぎるあまり、防御が疎かになっていた。【プロテクション】などの防御魔法も併用すべきだったのに、カウンターの邪魔になると頭から除外してしまっていたのだ。
「わかった。借りるぞ」
カインはセイントソードを受け取り、握り位置を確かめる。そして、軽く左右に交差させて振り回す。
「私にはちょっと大きい剣だけど、カインが持つとさまになるわね」
「変わった剣なのだな。切れ味は良さそうだ」
セイントソードはパルチザンの穂先を長くして柄を半分ほど切り詰めたような外見をしている。
どちらかというと構造は槍に近く、自由度が高い反面、握り直すたびに切っ先までのリーチが変わってしまうという欠点がある。
「剣というより、槍だと思って扱うといいわ」
「そうしよう」
カインが私から離れて戦列に戻る。
◇ ◇
こうしている間もブルードラゴンは辺りを縦横無尽に飛び跳ねている。
蛇がのたうつように尻尾がうねってステラを狙う。
だが、彼女の曲芸のような動きに翻弄され、むなしく地面を叩く音が響くのみ。
私はその尻尾を追いながら、タイミングを見計らって盾をぶつける。
【プロテクション!】
盾のバリアに加え、尻尾の軌道に合わせて頭上や側面にも追加のバリアを生み出す。これで回り込まれるリスクが減るはずだ。
ただし、この魔法は設置型なので位置が限られるし、移動するたびに貼り直さねばならない。
――バシィッ、バシバシッ!
設置したバリアが尻尾を弾き返して壊れていく。盾のバリアは無事だ。
「よし、いける。これでもう醜態を晒さずに済むわ」
ほんの僅か数秒の間だけではあるものの、尻尾が動きを止めた。
みんなが一斉に襲いかかって一撃を食らわせる。
「ガアァァッ」
ブルードラゴンは尻尾を畳み、身を乗り出して障壁に襲いかかる。
【プロテクション!】
新たなバリアを設置して鋭い竜の爪を防ぐ。
すると今度は大きな両顎を開いて≪フォースフィールド≫に食らいついてくる。
「こなくそぉっ!」
一心にヴァルキリーシールドへ精神力を注ぎ込み、食い破られそうな障壁を再生し、一進一退を繰り返す。
そして、ついに巨大な竜の噛みつきに耐えきった。
半透明の≪フォースフィールド≫の向こうに、無防備に開いた竜の咥内が見える。
「チャンス! 食らえ、【マジックミサイル!】」
盾を構えている都合上、右方向に放った光の矢はグイッと急旋回して竜の顎の付け根に命中した。
(本当は喉の奥を狙ったんだけど、明後日の方向に撃ったし、さすがにそれが限界か)
それでも注意を反らす程度の効果はあった。
ステップを踏んで立ち位置を変える。
「ととっ、足元注意」
そこら中にある砂利や凍結した地面に足を滑らせた。
感覚を失った右腕がブラブラと動き、バランスを崩してしまう。
。
本当は体にくくりつけるなどして動かないようにすべきだが、そのような余裕はない。
「実際にそうなって初めてわかったけど、右腕が使えないってのはかなりのハンデね……」
もしこの右腕が治らなければ、左腕で戦う方法も考えねばならない。
(聖木で盾を作れば盾から魔法が撃てそうだけど、強度が持ちそうにないか)
聖木の盾は守りながら戦うには便利そうだが、早々に壊れて窮地を招きそうだ。
(で、肝心のダメージは……)
威力自体は【ファイアーボール】などの四属性攻撃魔法の方が高い。
特殊な魔獣には無属性魔法が効く場合もあったので試してみたのだが。
(……全然効いてない。仕方ない、初級の攻撃魔法だし。無理にでも【ライトニングボルト】にしたほうが良かったか)
盾の構えを解いて腕を向ければ放てないでもなかった。
だがその代わり、今度は左腕を食い千切られていたかもしれない。
(中途半端が通じる相手じゃないわ。今は守りに徹しよう)
◇ ◇
ブルードラゴンは尻尾が一番有効な攻撃だと悟ったのだろう。それ以後は尻尾攻撃に戻り、噛みついてくることはなくなった。
こうして攻防を繰り返しているうちに、整然と並んでいた尻尾の竜鱗が剥がれて、赤黒い地肌が目立つようになってきた。
「……やった、尻尾が!」
「うぉぉぉっ、≪一文字突き!≫」
カインが意を決して尻尾の中ほどに飛び込み、その肌が露わとなった部分に両手でセイントソードを突き刺す。
彼は剣を深々と押し込むと、間髪を入れずに左手を柄頭の辺りから柄の中ほどへ持ち替える。
同じ両手持ちでも、順手から逆手になった形だ。
「……むぅんっ!」
自然に体が屈んで柄の下に潜り込む姿勢になったカインは、自身が跳び上がるほどの勢いでグイッと剣を押し上げ、上方へ振り抜いた!
――ズバァン!
ついにブルードラゴンの尻尾が裂けた。ブレードが三日月のような孤を描き、赤い血しぶきが飛ぶ。
「グワァァァ、グワァァァッ」
ブルードラゴンは尻尾を引き寄せ、ブレスを吐こうとする。
「退避、退避!」
私が冷たい氷雪のブレスに立ち向かうように進むと、みんなはブレスから追われるように下がってくる。
みんなが後ろに隠れてから、私は≪フォースフィールド≫を全開にして周辺に障壁を巡らせた。
「……」
戻ってきたみんなが心配そうに私を見ているのがわかる。
(意識して明るく振舞わないと……)
「いい感じね。この調子でいきましょ!」
ブレスが止んで、カインが身を乗り出す。
「奴が動きを止めたな」
あのブルードラゴンはブレスを吐いている間は動かないようだが、今回は吐き切ったあともその場に留まっている。
「よし、この隙に【リジェネレーション!】」
回復の魔法陣を設置して、みんなの体力を回復させる。
「あ、ほらこれ。あったかいわ。体力や傷を治す以外の効果もあるのね」
傷が治っても、やはり私の腕は治らない。
(まあ当然か。【グレーターヒール】でも無理なんだから)
ステラが堪えきれなくなり、私に声をかける。
「ミーナ…… ≪レイハンド≫ならきっと治せるのです……」
「ステラ、それはまだステラ自身のために取っておいて。大丈夫よ。これに勝てば、きっとソフィアが治してくれるから」
「はいなのです……」
「地面が凍結してきてるわ。足元に気をつけて!」
◇ ◇
ブルードラゴンはまだ次の手を打ってこない。咆哮をあげるでもなく、飛び立つわけでもない。
「さっきのようにジャンプしてこないわね。尻尾を傷つけたから?」
「まちがいない。やはり、あの尻尾が瞬発力を生んでいたのだな」
私の予想にカインが賛同した。
だが見たところ、尻尾が痛くて庇っているだけだ。動かせないほどではない。
(さらに雪が積もっていく……これ以上はステラが足を取られてしまうわ)
延々と戦いを長引かせるわけにはいかない。
(尻尾さえ無力化すれば……)
「もっと近づいて勝負をかける。ステラ、パイルバンカーの準備。フラウもね」
2人が盾のスイッチを操作して盾の向きを変える。
その様子をカインが興味深そうに眺める。
「俺は初めて見るのだが、不思議なものだな。盾が槍になるとは」
「次に私が尻尾を止めたら、ステラ、フラウの順であの切れたところをパイルバンカーで集中攻撃して」
「はいなのです」
「わかりました」
「そのあと、カインが切断までできればいいけど」
「やってみよう」
ステラとフラウが私の左右に、カインがその後ろに控える。
「ねえねえ、お姉さんは?」
エリスが不満そうに詰め寄る。
「エリスの出番は本体の攻撃に移ってからかな。それまでは今の調子でがんばって」
「仕方ないなぁ」
「それにしてもとんでもない硬さね、ドラゴンって。ジークリンデは剣をドラゴンに突き刺してぇ~と簡単に言ってたけど」
◇ ◇
「グオォォォォォーン!」
――ドスッ、ドスッ……
スノードラゴンが何度目かの咆哮をあげ、突進を始めた。
先ほどよりも勢いが落ちている。
「来たわ! じゃあ手筈どおりに」
ブルードラゴンの巨体が地響きを立てて迫ってくる。
私は前面に【プロテクション】を重ね掛けし、それを待ち構える。
ところが。
――ダアァァァン!
ブルードラゴンが目の前で跳ねた。
ひときわ高い跳躍で、私たちの頭上を飛び越える。
そして、勢いをあげて街道に向かって突進していく。
「本隊を狙うつもりだわ!」
慌ててブルードラゴンを追うも、スピードが速く追いつけない。
「足を取られてうまく走れないよ!」
エリスが悔しそうに叫んでいる。
彼女だけではない。地面は降りしきる雨でぬかるみ、私たちの追走を困難にさせていた。
(たとえ追いついたとしても、全力で走りながらの攻撃は無理)
「カイン! 私を向こう側へ運べる?」
カインはすぐに私の意図を察したようだ。
「飛翔剣でか⁉ わかった!」
彼が私の背中のセイントボウを弓袋ごと取り上げてメーベルに渡す。
そして、左腕一本で私の体を抱きかかえる。
「ミーナさん」
フラウから声がかかる。
「私にもちょっと考えがありますので」
「任せるわ!」
フラウがステラに話しかけ、2人は盾を操作し始めた。
「行くぞ!」
「ええ!」
カインが右手に持つセイントソードからオーラがほとばしる!
≪飛翔剣、ハヤブサ斬り!≫
私を抱えたカインが飛ぶ。
暴れまわるドラゴンの尾をすり抜け、トゲトゲの縦ビレがずらりと並ぶブルードラゴンの背中に達する。
直撃すれば即死しそうなそれらの障害物を足で蹴って軌道修正し、前へ、前へと飛んでいく。
(しめた! 私たちを感知できていないようだわ!)
そしてカインが剣を下に突き立て、ブルードラゴンの長い首を縦に斬り裂く!
「グワァァァァッ!」
ブルードラゴンの絶叫を背に受けながら、私たちは向こう側に着地した。
「間に合って!」
カインに抱きかかえられたまま、彼の背中越しに盾を構えて2つの障壁を展開する。
――ダァァァン! バリバリバリッ!
≪フォースフィールド≫がブルードラゴンの右足の激突を受け止め、迫る下腹部を≪プロテクションバリア≫が弾き返した。
「グオォッ」
頭上から竜の頭が降りてくる。
【プロテクション!】
バリアの設置と接触はほぼ同時だった。
虹色の障壁が壊れながらも竜の顎を弾いた。
「なんとか止めたわ!」
カインからの返事はない。まだ硬直中なのだ。
ブルードラゴンは足を痛めたようで、胴を地に着け、姿勢が傾いている。
だが、脅威が去ったわけではない。
執拗に鋭い爪でひっかいてくる。
その時、十数発の火球が飛来し、うち何発かがブルードラゴンの頭に命中して爆発した。
――ドォォォン、ドォォォン
「街道の方から?」
振り返ると、防盾陣の前にソフィアや王宮魔導師が杖を構えて並び、攻撃魔法を放っているのがわかった。
副騎士団長のトーラス卿たちが慌てた様子でソフィアを引き止めようとするのを、逆に彼女が叱りつけている。
(この隙に!)
ブルードラゴンの突進は防いだものの、また私たちを無視して通り過ぎられてはたまらない。
【挑発】でブルードラゴンの注意がソフィアたちに向くのを防ぎ、続いて前面に【プロテクション】を並べていく。
◇ ◇
「ミーナ、やったな」
カインの硬直が解けたようだ。ゆっくりと私を降ろし、剣を両手で構える。
「ふりだしに戻っただけよ。でもうまくいって良かったわ」
だが、ブルードラゴンはまだ力を隠し持っていた。その全身から白いオーラが立ちのぼる。
「ちょっ、嘘でしょ⁉」
何をしてくるかはわからないものの、私は直感で≪ハイパーダッシュ≫のような突進技だと確信した。
(城塞級でできるくらいだから、伝説級もあるわよね……)
盾を構えてはいるものの、おそらくこれで耐えるのは難しいだろう。
【ディヴァインプロテクション!】
障壁の設置魔法を唱えた。これで1発だけなら耐えられる。
「グオォォォォォッ!」
ブルードラゴンが吠え、オーラが弾ける。
その巨体がグワッと迫ろうとした瞬間、ブルードラゴンはまるで何かに躓いたかのように膝を突いて転倒した。
――ズゴゴゴゴゴ………
横倒しになったブルードラゴンの頭が≪フォースフィールド≫にぶつかって止まる。
「ん? なにかわからないけどチャンスだわ!」
「おう!」
カインが障壁を迂回して飛び出し、ブルードラゴンの頭に乗り移って目を突き刺す。
≪一文字突き!≫
「グワァッ! グワァッ!」
片目を潰されたブルードラゴンが苦悶の声をあげながら首を左右に振り、カインを振り落とそうとする。
彼は竜の太い首の真下に降り立ち、再びオーラをほとばしらせた。
「でやぁぁぁぁぁぁぁ!」
≪飛翔剣、豪破昇龍斬!≫
カインが垂直に跳び上がり、なんと2メートル以上もある太いブルードラゴンの首を跳ね飛ばした!
「やった!」
彼が孤を描いて宙返りするのを見ながら、着地予想地点へと守りに走る。
ブルードラゴンから力が抜け、切断された頭と同時に首と胴が地面に落ちる。
――ズズゥゥゥゥン……
カインが振り抜いた剣を天にかざす格好で着地する。
倒れたドラゴンを背景に立つ彼の姿は、まるで絵本の勇者のようだった。
◇ ◇
「……やったわ! やったわ!」
もうそれしか言葉が出ない。ひたすら連呼してはしゃいでいると、ソフィアが血相を変えて駆け寄ってきた。
「ミーナさん! 腕が!」
ソフィアが【グレーターヒール】を唱える。
ひしゃげた肩と腕の鎧が外れ、右腕が再生されていく。
「お、おおお…… こんな感じなんだ」
感覚で言うと、ゆで卵の殻がツルっと剥けたような、心地よい感触だ。
癒しの光が収まり、腕が動くようになる。
「ありがとう、ソフィア。助かったわ」
「もう! 無茶させたのは私たちですが、それでもこんな怪我をしちゃダメですよ!」
ソフィアが私のヘルメットをコツンと叩く。
「戦士が命をかけて戦ったのだ。讃えてやってくれ」
硬直の解けたカインが私の肩に手を乗せる。
「もう大丈夫そうだな、剣を返そう」
カインからセイントソードを受け取り、鞘に納める。
「素晴らしい剣だ。逆鱗を狙ったとはいえ、その剣でなければああも見事に切り裂けなかっただろう」
「逆鱗?」
「竜の喉元にある、逆さまに付いている鱗だ。伝説どおり弱点で良かった」
だが、弱点だ知っていたとしても、位置的にはドラゴンの下顎の奥だ。普通は槍も届かないほどの高所にあり、加えてあの恐ろしいブレスや噛みつきをくぐり抜けて狙わねばならない。
カインはブルードラゴンが本当に死んでいるのか確かめに向かった。
「でも、どうして急にこけたのかしら」
それはステラたちに合流しようと尻尾に回ってみてわかった。
「これは……」
ステラとフラウが≪パイルバンカー≫を放ち、地面に尻尾を押さえつけている。
よく見ると、ステラの持っている剣が短いのに気がついた。
「それはショートソード? 盾に納めていたはずの」
2人が盾を引き抜くと、普段は外から見えないはずのブレードの剣先が、盾の先端から飛び出している。
「剣を入れ替えたのです!」
ステラが盾を操作すると、剣先が途中まで引っ込んでガシィンと音を立てた。
柄の位置は定位置に戻ったようだが、それでもブレードが納まりきらない。2つの剣の長さが違うからだ。
ステラが盾から剣を引き抜いてショートソードを刺しなおすと、今度は剣先が飛び出ることはなかった。
「なるほど、その伸びた剣先で地面に杭を刺したのね」
「実際にはこれと≪ディヴァインオーラ≫の併用ですけどね」
フラウが解説する。
2人が≪パイルバンカー≫で尻尾を押さえつけ、同時に≪ディヴァインオーラ≫を使うことで不動の杭となったそうだ。
「こいつが必殺技に失敗して転倒したのは、それのおかげだったのね。助かったわ」
◇ ◇
ブルードラゴンの腹の下を探っていたカインが戻ってきた。
「完全に死んでいる。もう安全……スペル? なんだと⁉」
突然カインが声を荒げ、ステータスを表示する。
「レベルが上がったようだ」
「スペルが降りてきたの? それって……」
騎士が覚えられる魔法はない。戦士と騎士が使えるのは【挑発】だけだ。
「どうやら【ヒール】のスペルのようだ。それからクラスが聖騎士になっている」
私がカインのステータスを覗き込むと、レベルが24、クラスが聖騎士、そして称号に『ドラゴンスレイヤー』が追加されていた。
「レベル24でもなれるんだ……」
「王宮騎士団ではおよそ一世紀ぶりの聖騎士になるな」
「ステラもレベルが上がったのです! 【ヒールオール】を覚えたのです!」
それを聞いて私も確認する。
「本当だわ。私もレベルが26になってる。新しい魔法は覚えなかったみたいね」
エリスとメーベルもレベルアップしている。
メーベルは【サンドストーム】【サモンブリーズ】【サモンファイア】を覚えたそうだ。
「称号を得たのはカインだけ?」
「ステラにもなかったのです……」
ステラは残念そうだ。
私にも称号は付いていない。
「結構がんばったんだけどなあ」
そこにソフィアがトーラス卿を振り払いながらやってくる。
「姫さま、お待ちを! お戻りください!」
「これはもう死んでいます!」
ソフィアがカインの手を取り、肩に顔を寄せる。
「カイン、ありがとう。守ってくれて……」
「あ、ああ」
(王女と騎士、そういうロマンスって実際はアリなのかな)
ふと乙女チックな身分違いの恋話を思い浮かべた。
「団長、ソフィアといい感じになってるぅ!」
エリスが茶化すと2人が慌てて離れる。
「ちょっとエリス、わきまえなさいよ」
「たはは。でも、どこから来たのかな、このドラゴン」
エリスが不思議そうに首を傾ける。
「そうだ! みんな、このドラゴンは従属されてたの。従魔師が近くにいるはずだわ」
「本当か⁉」
カインが警戒を強める。
「ごめん、戦いの最中で伝えられなかったけど、≪鑑定≫でわかったの」
「よし、すぐに捜させよう」
「待って。あとは赤獅子騎士団にやらせます。カインは先陣に戻ってください。あちらでも戦闘が始まっています」
「そうだったな。クリスがいるから大丈夫だと思うが」
ソフィアが赤獅子騎士に声をかける。
「あなたと、あなた。カインを護衛して先陣まで送り届けて」
「「了解しました!」」
カインは戦いの疲れを癒す暇もなく街道へ戻っていった。
◇ ◇
「さて、この死骸はどうする?」
ドラゴンの鱗は頑丈な鎧の材料になり、ヒレや牙は武器にもなる。その肉はワイバーンと同じく不老長寿をもたらすと言われている。
「青狼騎士団に命じて解体し、王都へ運ばせましょう」
「それがいいわね。きっといい武具になるわ」
私がソフィアに相槌を打つと、彼女が私の右腕の鎧を見る。
「ミーナさんの鎧がまた壊れてしまいましたね。今度はこれで作らせますね」
「う~ん、いいわ。きっとまだ直せるから」
「そうなのですか?」
ソフィアは半信半疑の様子だ。
腕鎧は変形してボロボロだ。きっと背中の鎧も傷んでいる。普通に考えれば修復は不可能だろう。
「ミーナさま、セイントボウも折れてしまっております」
メーベルが弓袋の中を見せる。
セイントボウのリムがバキバキに割れ、破片が底に溜まっている。
「……とにかく一旦もどりましょ。もうドラゴンが来なきゃいいけど」
「斥候から報告があったのは1体だけのようですので、大丈夫だとは思いますが……」
私たちが戻りかけると、トーラス卿が私たちに頭を下げる。
「ありがとう、そして、侮辱したことを詫びさせてほしい」
周りの赤獅子騎士も副団長の彼に倣い、騎士の敬礼をして頭を下げる。
「えっ、いいって! ただの田舎者の平民なのは自覚してるから」
私が手を振って頭を上げるように頼んでいると、フラウから優しい声がかかる。
「認められたようで、良かったですね」
彼らに見送られ、私たちは自分たちの荷馬車に戻った。