第10話 ブルードラゴン
#ブルードラゴン
街道の北側では歩兵隊が横二列でスピアとタワーシールドを並べ、防盾陣を形成しようとしている。
その両側で騎馬隊が斜線陣を組み、ランスの先端を天に向ける。
バリスタ隊は街道の北側から南側に移動し、現場指揮官が望遠鏡で測距しつつ射程を合わせようと後退を続けている。
俯瞰してみれば、ソフィアたちの乗る王族馬車を中心に、馬の蹄鉄のような方円陣になる。
一旦は恐慌に陥った赤獅子騎士団だが、流石にエリート中のエリートの集まりだ。迅速に陣形を整えつつある。
◇ ◇
私たちがタワーシールドの防壁から抜け出すと、迫りくるブルードラゴンと、そこへまっしぐらに走るカインの背中が見えた。
(もしあれがゴブリンやオークの軍勢なら、この防盾陣で押し留められるかもしれないけど、相手が悪すぎるわ。なにしろあのデカさだし)
その相手とは言うまでもなくあのブルードラゴンだ。森の木々ほどの高さがあり、1キロ近く離れたこの場所からでもはっきりと見える。
二足歩行で、全長は尻尾の先まで含めると30から40メートルに及ぶだろう。
――ダァン、ダァン……
彼方からドラゴンの足音が響く。太い両足が地面を蹴り、長い尻尾が地面を叩き、ジグザグに跳ねながらこちらへ猛進してくる。
私の身の丈ほどもあるタワーシールドの防壁も、あれでは簡単に乗り越えられてしまうだろう。
一緒に行こうと私たちを誘ったカインはもうかなり先行していて、足を止める素振りを見せない。
「単独であれに挑むつもりだわ!」
みすみす死にゆくつもりではないはずだが、あまりにも無謀だ。
(ソフィアのいる本隊に近寄らせるわけにはいかないという判断なんだろうけど……)
カインには私たちを待つ暇がなかったのだ。
ドラゴンがブレスを吐くのは誰もが知っているが、その種類や威力、射程には個体差があり、誰も予測できない。
彼は最悪を想定して、できるだけ離れて戦うつもりなのだろう。
◇ ◇
荒れた地面に足を取られないように走りながら、カインを助ける方策を考える。
2本のハルバードを抱えたエリスがカインを追うものの、彼からは100メートルほど離されている。
私たちはそのエリスからさらに300メートルほど遅れている状況だ。
このままでは誰もカインに追いつけそうにない。
「仕方ない、ここから!」
左足を踏ん張って急停止し、背中の弓袋からセイントボウを抜き出す。
「みんなはこのままカインのサポートに向かって!」
ステラたちに号令を発し、私はセイントボウを構える。
≪マジカルセイントアロー!≫
召喚した半透明で白く光る矢を番えると、身を切るような烈風が矢じりから後方へ吹き荒れはじめる。
私は左腕を真っすぐ伸ばしながらブルードラゴンの白い胸元に照準を定め、ギリギリと弦を引く。
長命のエルフが使う、常人では引くことのできないほど硬い弦だ。
それを渾身の力で引ききると、込めていたオーラが臨界に達した。
≪マジカルシュート!≫
――バシュゥゥゥゥゥッ!
周囲の空気が爆ぜ、土埃が舞う。
まるで光線が伸びるように、光輝く矢がステラたちの脇を抜け、エリスを、そしてカインをも一瞬で追い越す。
ブルードラゴンは避けようとしたが、矢の軌道が修正され、狙い通り胸のど真ん中に命中した。
「グロォォォォン!」
胸の鱗を貫かれたブルードラゴンが呻き声をあげ、足を止めた。
(貫通! でも浅い。時間稼ぎにはなったけど……)
やはり、ワイバーンやコカトリスのように一撃必殺とはいかなかった。
私の落胆をよそに、後方では歓声があがっている。
私は必殺技の硬直状態に陥っており、前方の視界を眺めることしかできない。
◇ ◇
カインはブルードラゴンまであと数十メートルといった辺りまで来ていた。両手で握ったハルバードを振り回して、辺りにうろつくオークやゴブリンを打ち倒しながら進んでいる。
ブルードラゴンが天を仰ぐかの如く背を伸ばす。すると、閉じた顎の牙の隙間から青白い光が溢れだした。
(やっぱり来たわ、ブレス!)
ブルードラゴンの首がグイッと前に突き出され、開いた顎の奥から吹雪のような青みがかった白いブレスが吐き出された。
カインに追いついたエリスが≪フォースフィールド≫でそれを防ぎ、周囲に雪が積もっていく。
(炎よりは危険性が低そうだけど……)
人は火に弱い。ヒュドラのブレスすら直撃すれば即死級だった。もしあれがレッドドラゴンの炎のブレスであったなら、もっと甚大な被害をもたらしたはずだ。
息を切らしたブルードラゴンが姿勢を戻し、今度は威嚇するように蝙蝠のような翼を広げながら顎を開く。
「グオォォォォォッ!」
ブルードラゴンが咆哮をあげる。またあの恐慌をもたらす遠吠えだ。鎧を着けていてもビリビリと振動を感じるほどだったが、やはり私には効かない。
――ダァンッ
ドラゴンの太い両足と長い尻尾が地面を蹴った。
「ガァァァッ」
いきなり数十メートルの大ジャンプによる体当たりをかまされ、カインとエリスが≪バックステップ≫で退避する。
――ズズゥゥン……
彼らのいた場所に物凄い地響きをあげてブルードラゴンが着地し、うっすらと雪の積もった荒れ土をまき散らす。
土埃が収まる頃、ステラたちもようやくカインに追いついて、私の硬直も解けた。
「よし、まだ間に合う!」
セイントボウを弓袋に戻して駆けだす。
左腕のヴァルキリーシールドが邪魔になるので、走りながら弓を射ることはできない。どのみちドラゴンの鱗はかなり硬そうだし、セイントソードでないと無理だろう。
「うぉぉぉっ」
カインたちがそれぞれの武器を手に戦っている。
ハルバードを肩に担いだカインがブルードラゴンに突進する。
辺りは雪が積もったままで、彼の足は踝まで埋もれていた。そして、ブルードラゴンの周囲は耕した畑のようになっている。
(足場が悪そうね。それにこの寒さ……)
私が近づくほどに吸い込む息がどんどん冷たさを増してきている。おそらくあの吹雪のようなブレスによる冷気のせいだろう。
何度もブレスを受ければ、たとえ盾で防いでも寒さで体力を奪われそうだ。
その時、鎧にポタポタと水しずくが落ち始めた。
(雨だわ……最初から全力で行かないと)
まだ本降りではない。だが、このままでは戦場のコンディションが悪化する一方だ。早めにケリをつけねばならない。
◇ ◇
「ギュアォォォッ」
ブルードラゴンがグルっと一回転して尻尾を薙ぎ払い、接近するカインの横っ腹に叩きつける。
カインは≪チャージ≫でそれを飛び越えようとしたが、完全には避けきれない。なにしろ一番細い尻尾の先ですら人の背丈ほどの太さがあるのだ。丸太の鞭のような尻尾を足に当てられ、空中姿勢が乱される。
「むうっ」
カインが唸り声をあげた。私には尻尾がかすっただけに見えたのだが、相当なダメージを食らったようだ。それでも彼は着地と同時にその付け根へ走る。
カインがハルバードを大きく振りかぶった。
≪クラッシュ!≫
彼が打ち付けたのは斧刃ではなく先の尖ったピックだ。
だが、ドラゴンの全身は隙間なくびっしりと竜鱗で覆われており、カインの渾身の一撃でも傷ひとつ付かない。逆にピックのほうが変形し、ひしゃげてしまっている。
「くそっ、やはり1本だけでは足りなかったな。おいエリス! 予備は地面に刺しておけ!」
エリスも荷物運びのためだけに来たのではないはずだ。2本のハルバードの柄頭を地面に突き刺し、代わりに腰の鞘から魔法剣を抜いていた。デュラハン=ロードが持っていたファイアーソードとアイスソードだ。
「やあっ」
バスタードソードを小脇に構えたステラが≪チャージランス≫で跳躍し、ブルードラゴンの横っ腹めがけて体当たりしようとする。
それに対し、ブルードラゴンが身を屈めて右腕でステラを払いのけ、彼女は≪チャージランス≫をキャンセルしてカイトシールドでそれを受けた。
ドラゴンの腕はゴツイ足や尻尾に比べればずっと短い。それでも彼女の何倍ものリーチがある。拳ですら彼女を握りつぶせるほどの大きさだ。
遠くに弾き飛ばされはしたものの、ステラは姿勢を整えて無事着地する。
「グワアッ」
ブルードラゴンが尻尾を振り回して周囲を薙ぎ払う。
ステラとエリスは範囲外に退避したが、カインは逆に尻尾の根本付近に留まり、動きを抑えようとする。
だが、素早く急転回したブルードラゴンが口をガバッとあけ、カインを食いちぎろうと迫る。
カインの回避が間に合わない。
あれほどデカい図体のブルードラゴンがこれほど俊敏で小回りが利くとは、私も予想していなかった。
「あぶない!」
思わず叫んでしまった。
間一髪、カインはハルバードを立て、ドラゴンの口に咬ませて難を逃れる。
巨大な牙を持つ顎が迫るのを抑えながら彼が叫ぶ。
「皆、もっと離れろ!」
みんなが距離をとると、カインが一瞬だけドラゴンを押し返してハルバードを手放し、その隙に腰からファイアーブレードを抜いて舌に突き刺した。
【エクスプロージョン!】
ファイアーブレードの柄頭に嵌っている魔石が赤く輝き、ブレードから炎が吹き上がる。そして、魔石の輝きはみるみる光度を増してゆく。
カインがガバッと飛び退く。
その瞬間。
――ズガァァァァァン!
魔石が大爆発を起こし、彼は地面を転がりながら爆風から逃れた。
「ゴフゥッ、ゴフゥッ」
ブルードラゴンはハルバードを咥えたまま咳き込み、首を持ち上げて後ずさる。
メーベルがここが好機とばかりに本家本元の爆発魔法を唱える。
【エクスプロージョン!】
間合いは数十メートル離れている。命中するかどうかは賭けに近かった。
だが、彼女の生み出した火球はブルードラゴンの口内に飛び込み、喉奥で爆発を起こす。
「グワァァァッ」
口から炎を吹いてブルードラゴンがのたうち回る。
カインが予備のハルバードを手にふたたびブルードラゴンに突撃し、≪チャージ≫でジャンプする。ひねりを加えていたようで、彼の体が空中で一回転する。
≪ジャイアントスイング!≫
大きく振り回したハルバードをブルードラゴンの下腹部に叩きつける。普通は腰を据えて発動するスキルであり、それを空中で放てるのはカインの高い技量が成せる技だ。
――ポツ、ポツポツポツ……
地面の染みが広がり、雨が本降りになってきた。雪の積もった場所がなめらかな光沢を放っている。凍結しはじめたのかもしれない。
◇ ◇
「やっと追いついたわ。まずは負傷の確認と治療ね……」
パーティメンバーの状態はおおむね把握済みだが、カインだけはパーティ外のため確認できないでいた。
カインを《鑑定》すると、足を怪我しているのがわかった。尻尾に当たったときか、爆風による転倒でやられたようだ。
(その足でよくあれだけ動けたものだわ)
セイントソードを抜いて回復魔法を唱える。
【グレーターヒール!】
カインの足の怪我はたちどころに完治した。
(ステラも胸を打撲してるけど、軽傷だから自力で治せるわね。彼女が負傷するなんていつぶりかしら)
次はブルードラゴンの傷の状態だ。波状攻撃で押し返しはしたものの、与えた傷はどれも大したものではないようだ。
私が胸に与えた矢傷。矢は消滅している。
ハルバードがつっかえ棒になって閉じれなくなった両顎。
カインの剣が刺さった舌。
最後の攻撃で傷つけた下腹部。
(どうやったら奴の動きを止めて、近づけるのかしら)
理想論としてはまず足を止めるべきなのだろうが、足への攻撃はまだ成功していない。
ドラゴンの足さばきが速く、迂闊に近づくと踏みつぶされてしまう。
後ろを取ったつもりでも油断できない。尻尾を振り回して素早く転回し、噛みついてもくる。
(ウォール系は逆に退路を失くしそうだし、ストーム系はまだ詠唱が必要。【ライトニングボルト】でカウンターを狙うか……)
だが、カウンターのタイミングはシビアだ。蹴りやパンチ、尻尾攻撃の勢いは風が唸るほどで、しかも頭上からの噛み付きも警戒せねばならない。どれもまともに喰らえば即死級だ。
(やはり、私の盾次第ね。これで受け止められれば活路が見いだせるわ)
ブレスはエリスが防げたのだから大丈夫だ。問題はあの体当たりや尻尾攻撃だ。
◇ ◇
ブルードラゴンが口内に刺さっていた剣とハルバードを吐き出し、息を深く吸いだした。
≪フォースフィールド≫を展開し、半径7メートルほどの半球ドーム状の障壁を形成する。
「ブレスが来るわ! みんな集まって!」
みんなが一目散に私の後ろへ隠れる。
ブルードラゴンが白いブレスを吹きつけてくる。私の障壁がそれを阻み、衝撃の大半を接地した地面へと逃がす。
それでもゴツゴツという音と振動だけは伝わってくる。遠目には吹雪のように見えたが、どうやら実際は氷混じりの氷雪だったようだ。
自分の吐く息の白さで気温がますます下がっていくのがわかる。鎧の隙間に入り込んだ雨水が凍り、パキパキと音を立てている。
すると、後ろから暖かい風が流れてきた。
「あったか~い。誰?」
「メーベルでございます」
「サモンウィンドブレスレットね!」
「左様でございます。気休めではございますが」
熱風が発せられているわけではない。氷点下となり、あまりにも寒いせいで暖かく感じるだけだ。それでも随分と気分が楽になるものだ。
◇ ◇
「ガァァァッ」
ブルードラゴンがブレスを吐ききり、今度は翼を広げて飛び上がった。
地上を縦横無尽に走っていた姿とは打って変わって上昇速度は遅い。以前に戦ったワイバーンのほうがかなり素早かった。
「それほど高く飛べそうにないわ」
「大きな翼だが、それ以上に図体がデカい。あれで飛ぶには小さすぎるようだ」
私のつぶやきに、後ろのカインが返した。
「問題はあの尻尾ね」
「ああ。俺では飛び越えられなかった。かといって受け止めていれば全身の骨が砕けていたに違いない」
ドラゴンの尻尾が空中でだらりとぶら下がっている。
あの太く長い鞭のような尻尾それ自体がドラゴンの武器であり、身を守る盾でもある。また、爆発的なダッシュやジャンプの原動力になっている。
足元に取り付くのは不可能に近く、今まで戦ってきた巨大魔獣と同じようにはいかない。
「カイン、私のパーティに入ってもらっていい?」
急襲の対応でどうしようもなかったとはいえ、先ほどカインはパーティに加わらないまま行ってしまった。
メンバーの状態を把握しておきたいヒーラーにはパーティ魔法が欠かせない。だが、戦士系クラスの人はあまりステータスを開くことがないせいか、どうもその辺が疎かになる。
「すまぬ。俺もパーティリーダーなのだ」
「そっか、なら仕方ないわね」
パーティリーダーが抜けるとパーティが解散になってしまう。他所でも小競り合いが起きているようだし、無理強いはできない。
「レックス=ヒュドラを倒したのだろう? 俺もミーナに従うので心配するな」
「このドラゴンに比べれば、あんなのドンガメもいいところよ。ブレスはあっちのほうが危険だったけど」
ブルードラゴンが羽ばたきながらゆっくりと私たちに接近してくる。どうやらあの巨体で押し潰すつもりらしい。
尻尾がブラブラと動いている。あれで空中バランスをとっているようだ。
(地上での動きといい、尻尾が重要な役割を果たしているみたい)
私はじりじりと後退しながら指示を出す。
「あのドラゴンは長く飛べないわ。すぐに降下してくる。着地後は私を中心に半包囲陣形! ステラはあの尻尾を飛び越えられるわね?」
「はいなのです!」
「ステラは接近して陽動。尻尾の攻撃を私が受け止めるから、そしたらみんなは尻尾に集中攻撃で……」
もう少しで指示を出し終わるところだったのだが、ついにブルードラゴンが動いた。翼を羽ばたかせながら両足を突き出して急降下してくる。
「来たわ! 戦う前にしっかり監察して、尻尾のリーチを把握してね!」
右手を盾裏に添えてヴァルキリーシールドを全身で支える。
――バリバリバリッ!
ブルードラゴンの大きな足裏が≪フォースフィールド≫に接触し、地面に据え不動の盾となった障壁がそれを面で受け止めて衝撃波から私たちを守る。
そして、≪プロテクションバリア≫が弾いて押し返す。
私たちの身代わりとなって、障壁が破砕音を発してはじけ飛んだ。
(どっちの障壁も前より強度が上がっているはずなのに、一発で……)
――ズズゥン……
ブルードラゴンが少し離れた地面に着地する。
バリアがあっさりと破られたのには驚かされたが、物理盾と違って再発動で元通りになる。
(フォースフィールドだけで受け止められたら、カウンターできるんだけど……)
バリアは相手を弾いてしまう。だから、その瞬間に合わせられなければ剣が届かない。
だが、少なくともブレスや体当たりを防ぐ算段は立てられた。
◇ ◇
「散開!」
みんなが左右に分かれて障壁から飛び出す。
「私が盾役になるから、みんなは絶対に受けちゃダメよ!」
目の前のドラゴンはかなりの強敵だ。
バリアの再展開にはまだ若干時間がかかるが≪フォースフィールド≫は再生している。
接近しながら《鑑定》を試みる。
――真 名:ブルードラゴン――
――名 称:ブルードラゴン――
――年 齢:0――
――種 族:アースドラゴン――
――クラス:コモンコールドドラゴン――
――レベル:34――
頭の中でステータスの表示が続く。筋力だけでも5000以上あるバケモノだった。
そして、気になるステータスがある。
――状 態:従属――
「従属?」
――従属――
――従魔師によって使役される状態――
「どうやらヒュドラと同じようにこのドラゴンも誰かに操られてるみたい。どこかに従魔師がいるはず……」
だが、このだだっ広い緩衝地帯の向こうにはもっと深い森が広がっており、ここから探し出すのは困難だ。
周囲にはドラゴンに追い立てられ気の昂った野獣や魔獣がおり、そこらじゅうが敵意に満ちている。【ディテクトエネミー】での特定もできない。
「捜すにしても、まずはこいつを倒すしかないわね」
私を庇い、≪挑発≫しながら近づくステラに、ブルードラゴンが顎を立てて鳥が餌をついばむかの如く頭上から襲いかかる。
ステラはそれを躱して鼻先にバスタードソードを突き刺す。だが、ガキッと硬質の音が響いて剣が弾かれる。
今度は尻尾がステラを狙う。横殴りで迫る尻尾をステラがジャンプして避ける。
「高い跳躍! いける!」
ステラは空中で一回転し、すれ違いざまに剣で尻尾に斬りつけた。尻尾の鱗が数枚弾け飛ぶ。
「よしっ、今だ!」
ステラが避けたあと、私が前進して孤を描いて迫りくる尻尾を盾で受け止める。
――バキィィィン!
障壁が割れ、太い尻尾の先がしなって私の右腕から背中を打ちつけた。
「ぐっ!」
呻き声が漏れそうになったが、ぐっと歯を食いしばって堪える。そして≪フォースフィールド≫を再生しながら号令をかける。
「攻撃! 攻撃!」
カインとエリスが動きを止めた尻尾に斬りつけ、メーベルが【ストーンボール】をブルードラゴンの顔面に向けて放つ。
(くそっ、やられた…… まさか盾を回りこんでくるなんて。腕が……)
右腕がへしゃげてしまっている。背中は見えないが、焼けるように熱い。
助かったのはマリエルさんの鎧とフラウの強化魔法のおかげだ。
セイントボウは無事だろうか。また壊してしまったかもしれない。
「ミーナ!」
「ダメ!」
ステラが駆け寄ってくるのを制する。
「来てはダメ! ステラは奴に集中して!」
「っ! わかったのです!」
ステラが反転して戻っていく。
彼女しか囮は務まらない。それに、私の怪我を見たら≪レイハンド≫を使おうとするだろう。再使用できないスキルは彼女自身のために温存しておいてもらわねばならない。
まだ戦いは終わっていないのだ。
【グレーターヒール】
痛みが引いていく。右腕は再生せず、動かせない。
(そうだろうなとは思ってたけど、まあ、ショックだよね……)
「ミーナさま……」
メーベルからも声がかかった。
「私は大丈夫。メーベルも戦いに集中して」
「かしこまりました」
落としたセイントソードが地面に横たわっている。腰を落として左手で拾い上げ、状態を確認する。見た感じではどこも傷んでいないようだ。
(剣が使えなくてもまだ盾がある。なんとかなるわ)
心の中で自分に言い聞かせながら立ち上がった。
長くなったのでドラゴン戦の決着は次話に持ち越しです。
※強化魔法の記述を入れました。
前話にて、フラウがメンバーに鎧を強化する魔法などをかけ始めています。
(展開は変わりません)