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白騎士と古代迷宮の冒険者  作者: ハニワ
第1章 2人の冒険者
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第11話 特別な依頼

#特別な依頼


 ――そのあと。


 それから、ステラと私は毎日のように森を駆け回って、鹿や猪の狩り、狼や熊などの野獣討伐、ゴブリンやオークなどの魔獣討伐、街道を行きかう隊商の護衛、採集依頼などをこなして過ごした。


 まだ幼い私たちをみんなが心配してくれたけど、ステラがどんな武器でも使いこなすし、私も早い段階で【ディテクトエネミー】を覚えたので、安全に森で狩りができた。


 特に【ディテクトエネミー】はレア魔法らしい。


 これを使うと、あいまいながら、私たちを襲ってくる野獣や魔獣、だまし討ちしようと近づく野盗の敵意がわかってしまう。


 だから、まだ経験が浅い私たちでもうまく立ち回れた。森で使えば魔獣のいる方向も探知できるので、一気に狩りや討伐の効率が上がった。


 あっちのゴブリン、こっちのオーク、今日はトロールにしましょうねと森で討伐しまくっているうちに、他の冒険者よりも早く、どんどんレベルが上がった。1年後にはレベル6、この数か月でついにレベル10になった。


 でも冒険者ランクはまだE。1ランク上がっただけだ。レベルは上げられても、ランクはなかなかそうはいかない。


 実は、Eランクで受けられる依頼の多くは採集や護衛などの『お使いクエスト』で、ときおり掲示される畑を襲う魔獣の緊急討伐など以外はあまり面白そうなのがなかった。


 でも、私たちが受けたい面白そうな危険な難度の討伐はランクC以上などの制限がある。ランクの低い私たちは門前払いだ。


 でも私たちは気がついた。


 冒険者になったのは、ランクが欲しかったからではない。


 『山や森を走り回って狩り放題で食べ放題!』そして『悪いドラゴンを退治して英雄になる!』のが目的だったのだから。


 だから、お使いはみんなが困らない程度にとどめて、森に行っては強そうな野獣や魔獣を『勝手に討伐』して過ごすことにした。


 狩りの途中で大きなサイクロプスに出会った事もあったけど、ステラがジャベリンを投げると目ん玉に突き刺さっちゃって倒しちゃった! みたいなこともあったけど別の話。


 こうして私たちはエルンの冒険者から『ふたりの殲滅者』エクスターミネーターズと呼ばれるようになった。


      ◇      ◇


 ある日、久しぶりに冒険者ギルドに立ち寄ると、受付のお姉さんが私たちに声をかけてくる。


「あらミーナさん、ステラさん、ちょうど良かったわ」


 いつも愛想の良い彼女が、いつにも増して眩しい愛想笑いを振りまいている。


「ちょっとこっちに来て。良い話があるの」


 彼女がそう言うときは、必ずといっていいほど厄介事の依頼だ。


「なによ、縁談ならまだ早いわ」


「もう、ここは結婚相談所じゃないんですから。でもミーナさんはもうすぐ15歳で成人ですし、ご両親は縁談話で大変かもですね。神官の女性は引く手あまたですから」


「ステラのほうが人気あるんじゃないの? なんたって上位クラスの騎士なんだから。しかもこんなに可愛いんだし」


「冒険者としては良いかもしれませんが、お嫁さんとしたらどうでしょうか……」


「ステラはダメですか……?」


 バイザーで顔は見えないが、俯いてシュンとしているのがわかる。


「そんなことないわ! だって、この国の初代女王も伝説の勇者で建国の英雄騎士だったんだから」


「でもステラがあの絵本のようになるには、もう少しあちこちおっきくならないとなのです……」


 ステラと出会ってから、あと少しで3年になる。もうすぐ15歳だ。


 私はけっこう背が伸びた。成人を迎えるレディに相応しいスタイルくらいにはなったと思う。


 ステラは出会った時のまま身長が伸びていない。それでもクラスの恩恵のせいか、私よりずっと力強くなっている。


「ステラももう少ししたらおっきくなるわよ」


 ヘルメット越しに頭を撫でながら励ます。


「はいなのです!」


「えっとそれで、なんだっけ?」


「そうそう。ゲラールの町は知ってる? あそこの冒険者ギルドから回ってきた依頼なんだけど」


「ゲラールなら知ってる。一度だけ隊商の護衛で行ったことがあるわ。町のことは詳しくないけど、移動するのは問題ないわ」


 私がそう答えると、彼女が依頼書をカウンターの上に差し出す。


「特別な依頼よ。一般には開示してないの」


      ◇      ◇


┌──────────────────┐

│★常時依頼★            │

│依 頼 者  :ゲラール騎士団   │

│依 頼 形 式:指定        │

│対 象 ランク:特別推薦      │

│依 頼 内 容:警備        │

│達 成 基 準:警備解除まで    │

│成 功 報 酬:金貨20枚     │

│ギルドポイント:20000P    │

│戦利品の処遇 :ゲラール騎士団買取 │

│備    考 :          │

│・ゲラールの迷宮 地下通路の警備  │

│ ※災害級魔獣出現実績あり     │

│・警備時間帯は当方にて指定(当番制)│

└──────────────────┘


      ◇      ◇


「実はゲラールのお城に迷宮が見つかってね。すごく手強い魔獣が出たそうなの。向こうの冒険者が迷宮を封印して警備しているらしいんだけど、人手不足なんだって」


 迷宮は古代王国時代の遺跡で、人工的に魔獣が作り出されている。最初に出てくるのは弱い魔獣で、地下に下りていくほど強くなる。そこで魔獣を倒せば、自然の魔獣のときと同じようにレベルアップできる仕組みだ。


 フレイン王国内にもいくつかあり、私たちも遠出して行ってみたことがある。


 私たちが入った迷宮は、階層ごとに違う魔獣が現れるようになっていて、地下1階はゴブリン、地下2階はゴブリン=ウォーリアー、地下3階はオーク、といった感じで見事に分かれて生息していた。


 人工的に作った魔獣のせいなのかは知らないが、あきらかに自然の魔獣よりも弱かった。あまりの歯ごたえのなさに、地下5階くらいで引きあげたくらいだ。


「ここに災害級魔獣が出たって書いてるけど?」


「その一番強い魔獣は、大きすぎて通路に出てこられないんだって。通路の魔獣はすべて倒して封鎖したので、今は比較的安全みたいよ」


「じゃあ残ってるのはその一番強い奴だけってことね」


「いくつか弱い魔獣が残っているみたい。なにぶん調査が中断しているので、はっきりしたことはわからないの」


「手強い魔獣ねぇ……」


 それは私たちにとって魅力的な依頼のように思える。


 最近はこの辺りの森もすっかり魔獣がいなくなって、よそよりも安全になっている。巣窟を掃討して回った効果が出てきたのかもしれないが、私たちが倒す魔獣がいなくなって、もの足りない毎日を過ごしていた。


 今日ギルドに寄ったのは、そろそろ何かおもしろそうな依頼や、強い魔獣が出ていないか聞くことにしたからであり、渡りに船とはこのことだった。


「おもしろそうではあるわね。倒してもいいの?」


「昔、ここを襲ったというゴブリン=キングですら城塞級なのよ? その時は近隣の騎士団も動員して大きな空堀を掘って町を守ったそうよ。いくらあなたたちでも災害級は無茶よ!」


「まあ城の地下ってことは町の中なんだし、被害が出るような無茶はしないわ。金貨20枚と2万ポイントってそれぞれ貰えるの?」


「そう。2万ポイントはCランクへの昇格条件でもあるの。つまり達成すれば必ずCランク冒険者にランクアップできるのよ」


「はいはい! やるわ!」


「あなたたちは、もうレベル10でしょ? それなのにまだEランクだなんて、さすがにないわ~って思ってたのよね」


 確かにたいていの冒険者は1年でEランクに上がる。Dランクも同じくらいだ。それでレベルは5前後くらい。私たちはもう3年近くやってレベル10になっているにもかかわらず、まだDランクに上がれないでいる。


「でも『まだEランク』は納得いかないわ。強い魔獣の討伐はB以上とかC以上の制限があるじゃない。だから依頼を受注できない私たちは『勝手に討伐』するしかなくてランクが上がらない。魔獣討伐に関してだけは、この町の誰にも負けてないつもりよ」


「町に貢献してくれてるのは十分にわかってるわ。だから真っ先に案内したの。ただ、しっかり用心はしてね。なんたって災害級だから」


「そりゃもう、災害級がいるっていうならね。武器の買い替えも考えておくわ。でも、そんなすぐにCランクに上げられるのなら、うちのギルドマスターもやってくれれば良かったのに」


「普通は単独でこんな無茶はできないの。おそらくゲラールの領主か王都の冒険者ギルド地域本部の特別要請ね」


「やっぱり、そんなうまい話はそうそうないか。なにか他に注意することはある?」


「それが、私たちにも情報がおりてきてないの。あそこにいる、あなたがたを推薦したギルドマスターなら知ってるんだろうけど……わけありの依頼でしょうね」


 お姉さんが奥にいる初老の男性をちらりと見る。


「わかった、あとは現地で聞くことにするわ」


 私たちは依頼を受けると、ただちに準備を始めた。


      ◇      ◇


 その日の昼過ぎには駅馬車に乗って町を出立し、ゲラール領に向かっていた。


「ゲラールの迷宮ってどんな所だろうね? 強い魔獣が出てくるみたいだし、やっぱり本に出てくるように、一番下にはドラゴンが住んでるのかな」


「ステラはドラゴンさんに会ったらお願いをして、身長を伸ばして欲しいのです」


 願いを叶えるドラゴン。そういう本もあった。だが、実際のドラゴンが叶えてくれるのは『死』のみだろう。


「身長が伸びちゃったら、鎧を買い替えなきゃね!」


「ふぇぇ、これは高かったので、ステラの背が高くなるのはそのうち、でもいいのです……」


 私がからかうと、ステラはそう呟く。


 足元に置かれたふたつのバックパックには、それぞれ鎧が掛けられている。


 ひとつは、ハードレザーアーマーに鋼鉄の胸当てがついた『鋼鉄のブレストプレート』。ステラが愛用し、今は私が使っている。


 もうひとつは、チェインメイルを白い板金が覆う『鋼鉄のプレートアーマー』。


 ステラがクラスを授かった日に夢見ていた白い騎士の姿は、現実のものとなっていた。


 ――第1章 完


次話より第2章になります。

序章の時間軸に戻り、黒鳳騎士団と地下通路の魔獣の討伐に入ります。

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