表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白騎士と古代迷宮の冒険者  作者: ハニワ
第1章 2人の冒険者
10/133

第09話 帰還

#帰還


「――――ゃん」


 遠くで声が聞こえる。


「――ナちゃ…ううん」


「ミ――」


「ミーナ!」


 誰かに呼ばれたような気がして、ふと目を覚ます。


 目の前にステラの顔が見える。櫓の柱にもたれかかって座り、私を抱きかかえている。彼女のカイトシールドと左腕が枕代わりになっている。


 彼女と辺りの櫓がてらてらと照らされ、影がゆらゆらと揺れている。薄暗くも闇夜には頼もしい、ランタンのともしび。梯子のついた柱が上に伸びていて、その先の見張り台や外の景色は闇に溶けてまったく見えない。


 右手を動かそうとすると、重く柔らかいものに覆われているのがわかる。厚手の毛布をかけてくれている。ここに備えてあったのだろうか。


「ステラ……」


 彼女の目からあふれた涙が頬を伝い、私の顔に落ちる。


「ごめんね、『守る』って約束したのに、ごめんね、ごめんねなのです……」


 ステラの腕にくくりつけられた盾を見る。


 あの時、私はあまり本気で言ったわけじゃなかった。


『この盾で私を守ってね!』


 私が何気なく放ったそのひと言を、ステラはずっと大切にしてきたのだろう。


 その時から、ステラは私の『騎士』になって守り続けると誓って、毎日そばにいてくれたのだ。


 そう気づいたら、私の目にも涙があふれてくる。


「ありがとう。ステラ、ありがとう……」


 そうして、ふたりは抱き合ってわんわんと泣きだす。


 感情がたかぶってはいたけど、まだ私も体がだるくて動けないし、ステラもかなり疲れているみたい。


「重いから下に寝かせてくれてよかったのに」


「でも地べたは冷たかったのです。それで……」


 ここにベッドがあるはずない。しかも、もう2月。地面は冷たい。この毛布も本来は見張り台で寒さをしのぐためのものかもしれない。


「もう大丈夫だから。ふたりでくるまって寝ましょ。そっちのほうがあったかいし」


「はいなのです」


 地面に毛布を敷いて一緒にくるまると、お互いの体温を感じ、やっと緊張が解けてくる。生き残ったのを実感して安堵した私たちは、どちらからともなく深い眠りに落ちていった。


      ◇      ◇


「おい! 大丈夫か! しっかりしろ!」


「う、うう~ん……」


 また誰かに声をかけられて目をあけると、外はもうすっかり明るくなっている。


「おじさん……」


 いつも物見櫓に立っている衛兵のおじさんだ。


「良かった! 怪我はないか? ゴブリンに襲われたのか?」


「……あっ! ゴブリンは?」


 いったん目が覚めたときには外が見えず、死骸の確認をしていなかった。ステラに聞く余裕もなかった。あれからどうなったのだろうか。


「ああ、外で死んでるぞ。全部で6体。ふたりがやったのか?」


「うん。戦ったのはステラだけど……」


 衛兵のおじさんに一部始終を話す。


 依頼書を見てゴブリンの討伐をしていたこと。

 ゴブリンの巣窟を見つけたこと。

 そこから逃げて、物見櫓に立て籠もったこと。

 ステラとふたりで倒したこと。


 そのうちステラが目を覚まして、私の横に並んで説明に加わる。


「……そこでステラがヒット・アンド・アウェイで倒したのです!」


 えへん、と誇らしげに平らな胸を張って説明している。


「ステラの口調だとあのときの緊張感が伝わらないね」


 そう言って笑う。


「そういうわけで、ここに避難したのですが、勝手に扉の鍵を壊して入ってしまいました。すみません。私たちは罰せられるのでしょうか?」


 おじさんは大きく首を振る。


「ここは森で襲われた者を助けるのも役目のひとつさ。罰せられるわけがないよ。それにもともと、魔獣の襲来を監視して防衛するために、この物見櫓が建てられたんだ」


 ゴブリンの死骸を指さす。


「この先はゴブリンの生息地で、過剰に繁殖しては大型化し、町を襲うんだ。だから、本来ここは常に見張らなければならない。夕方に帰ってるのは俺たちの都合だ。助けてやれなくてすまなかったな」


 ステラと私の体調はほぼ回復していて問題なさそうだけど、ステータスを表示する。


      ◇      ◇


┌────────────────┐

│名 前:ミーナ         │

│種 族:ヒューマン       │

│年 齢:12          │

│職 業:冒険者         │

│クラス:神官          │

│レベル:2           │

│状 態:良好          │

├────────────────┤

│筋 力: 89 物理攻:113 │

│耐久力:104 物理防:135 │

│敏捷性: 84 回 避:174 │

│器用度: 65 命 中:137 │

│知 力: 69 魔法攻:151 │

│精神力: 96 魔法防:130 │

├────────────────┤

│所 属:冒険者ギルド      │

│称 号:Fランク冒険者     │

├────────────────┤

│状態:良好           │

│右:              │

│左:              │

│鎧:布の鎧           │

│飾:              │

│護:              │

├────────────────┤

│パーティ:ミーナ        │

└────────────────┘

┌────────────────┐

│名 前:ステラ         │

│種 族:ヒューマン       │

│年 齢:12          │

│職 業:冒険者         │

│クラス:騎士          │

│レベル:2           │

│状 態:良好          │

├────────────────┤

│筋 力:113 物理攻:181 │

│耐久力:126 物理防:259 │

│敏捷性: 87 回 避:158 │

│器用度: 63 命 中:142 │

│知 力: 55 魔法攻:123 │

│精神力: 82 魔法防:109 │

├────────────────┤

│所 属:冒険者ギルド      │

│称 号:Fランク冒険者     │

├────────────────┤

│状態:小破           │

│右:錆鉄のロングソード     │

│左:鋼鉄のカイトシールド    │

│鎧:布の鎧           │

│飾:              │

│護:              │

├────────────────┤

│パーティ:ミーナ        │

└────────────────┘


      ◇      ◇


 レベルが2になっている。初めてのレベルアップだ。


「あっ、ステラ、私たちレベル2になってるよ!」


「やったぁ、なのです~!」


「おめでとう! 賢そうだし勇気もある。お嬢ちゃんたちなら、いい冒険者になりそうだな!」


 毛布から出て立ち上がると、私のメイスがないことに気づく。


「メイスがなくなってる。そういえば、あの時どこかに飛んでいってしまったんだ」


「錆びたメイスか? それなら外に落ちてたな。お嬢ちゃんのだったのか」


 ステラも立ち上がる。よく見ると、ギルドからもらった布の鎧があちこち斬られて、中の木片が見えてしまっている。


「ステラの鎧がボロボロになってしまったから、それも町に帰ったらどうにかしないとね」


「ステラ、お裁縫は苦手なのです……」


「武器屋のおじさんに聞いてみましょ。直してくれるかもしれないわ」


「はいなのです」


      ◇      ◇


 さて、まだやることが残っている。戦利品と魔石を取り出して、死骸の始末をしないといけない。放っておいたら邪魔だし、いずれ腐ってしまうのでおじさんに迷惑がかかる。


「おじさん。ゴブリンの死骸をそのままにはしておけないわ。片づけないと。どこに運んだらいい?」


「ありゃあ大きすぎて、お嬢ちゃんたちでは無理だ。荷車を貸してやるよ」


 おじさんも一緒に手伝ってくれることになり、櫓から出て3人で死骸の始末を始める。


 幸い、ステラも私も【ヒール】で治せないような怪我はしなかったみたい。すっかり体力が回復し、問題なく動けている。


 牙を抜いて装備を剥がし、魔石を取り出す。残った死骸は荷車に載せる。ゴブリンは重くて持ち上げるのが大変だった。


 荷車は2台あったけど、どちらも満杯になった。


「あっ! 私のメイス発見!」


 櫓から離れたこんな所まで飛んでいた。少し欠けているけど、鈍器だから特に問題ない。腰のホルダーに掛ける。


「よし、すべて載せたな。ここから西に堀があるから、そこへ捨てにいこう」


 片方の荷車をおじさんが、もう片方を私たちふたりでゴロゴロと引く。


「最近はあちこちでゴブリンが増えすぎて、結構まずい状況になりつつあったんだ」


「だから期間限定で討伐依頼が出ていたのね」


「ああ。これはゴブリン=ウォーリアーで、大きさも3メートル近くある。だけどあいつらは、もっと大型化して武器の扱いを覚えて、重戦士や弓兵、魔術師になって組織化する。そのうちに『キング』が出る。そうなるともう城塞級魔獣だよ。騎士団をあげての戦争になる」


 荷車を引きながら、エルンが危機に瀕したという、ゴブリン=キングとの戦いの昔話をしてくれた。


「このウォーリアーが6体も揃ったら、ちょっとした戦力さ。たった12歳の子どもふたりが襲われて生き延びるなんてな。まして、すべて倒してしちまったんだもんな。凄いことだよ」


 やがて道が途切れ、堀にたどり着いた。崖のようになっていて、底までは相当な深さがある。


 自分たちが落ちないように気をつけながら、荷車を傾けて死骸を堀の底に落とす。ゴロンゴロンと転がりながら、死骸が落ちていく。


 ここは昔に魔獣の大群と戦った場所の跡なんだそうだ。


 帰りはステラと私で、カラになった荷車を1台ずつ引いて櫓に戻る。


      ◇      ◇


 櫓に着くと、おじさんから声がかかる。


「体はもう大丈夫のようだな。このまま荷車を貸してやるから、戦利品を載せていきな。町に持ち帰って売れば、かなりの額になるんじゃないか? 道中の魔獣が心配だったら、昼までには伝令が来る。一緒に帰るといい」


 ありがたく荷車を貸してもらい、ゴブリン=ウォーリアーの装備と櫓の中に置いていたリュックを載せる。何度もおじさんにお礼を言って、町に向けて出発する。


「ミーナ、荷車を借りられてよかったのです。戦利品がいっぱいなのです!」


「この大きいブレストプレートは錆びていないから、きっと高く売れるよね。荷車じゃなかったら重すぎて運べなかったよ」


 帰りは何事も起こらず、無事に城門にたどり着いた。門をくぐって町に入り、やがて、冒険者ギルドに到着した。


 扉をあけてギルドホールに入る。


「やっと帰ってきたぁ」


「ふぅ、なのです~」


 ギルドホールには、パーティで歓談するための丸いテーブル席がいくつかあり、受付のお姉さんが立っている。そして、見知った顔ぶれが座っている。


「ミーナさん! ステラさん!」


「「ミーナ!」」


「「ステラ!」」


 お父さんとお母さん。それにステラの両親。椅子を蹴り出して立ち上がり、血相を変えてこちらに駆け寄ってくる。


「ふたりとも大丈夫だった? 帰ってこないから心配してたのよ!」「まったくいつもいつも心配ばかりかけて……」「まあ大丈夫だと信じてたよ。血は争えんな……」「遭難したのか? 激しい戦闘をしてきたみたいだが……」「服がボロボロじゃない! よく見せて? 怪我は?」


 同時に話しかけられてもよく聞き取れない。


(そうか、昨日は家に帰れなかったから、心配してギルドに捜しにきてくれたんだ)


「心配かけてごめんなさい。昨日はゴブリンと夜まで戦ってて帰れなかったの。でも、ふたりですべて倒したわ」


 ステラと私は、昨日のゴブリンの討伐から順を追って報告しはじめる。


「そうだったのね。櫓に立てこもったのは良い判断よ。弓で削って、剣で一撃離脱戦法で戦ったのも優秀な戦いかただと思う」


「ヒット・アンド・アウェイなのです!」


「でも、周囲の確認を怠ってゴブリンの巣に出てしまったのは不注意かな。森ではちょっとした増長や欲が致命的なことにすぐ繋がるの。今後の戒めにするのよ?」


「はい……」「なのです……」


 一部始終をようやく話し終わったあと、表に停めてあった荷車から戦利品を運び込んで、ゴブリン討伐依頼を完了してもらう。


「はい、これが採集完了と討伐完了の依頼書ね。ステータスカードを返すわ。それと、達成報酬が銀貨3枚ずつよ」


 お姉さんからそれぞれステータスカードと達成報酬を受け取る。


「それから買取だけど…… 戦利品が金貨1枚、大銅貨1枚、銅貨6枚。討伐部位が銀貨2枚、魔石が銀貨1枚、大銅貨8枚……」


「合計で金貨1枚、銀貨3枚、大銅貨9枚、銅貨6枚になるわ」


 初めての金貨だ!


「やった! ミーナ、金貨なのです~!」


 大・勝・利! のポーズ!


「苦労した甲斐があったね! お父さん、お母さん、心配かけたけど、これが冒険者の仕事なんだ。次はもっと気をつけるから、これからも応援してね」


「パパ、ママ。ステラは大丈夫なのです。もっと強くなれるように、がんばるのです!」


「人見知りで、気の弱い子だと思っていたステラが…… こんなに、まあ……」


 お父さんたちは12歳の娘が冒険に出るのを、心配せずにはいられないみたい。でも、たくましく育った私たちを見て、顔を合わせてよろこんでくれている。


 無事がわかって安心したのか、お父さんたちはテーブル席に戻り、4人で歓談しはじめる。


「それじゃあ、私たちも昼食を食べよっか。それから武器屋さんに行って、鎧を修理するかどうか考えましょ!」


「はいなのです!」


 私たちもテーブル席に行き、記念にみんなに昼食をごちそうした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ