序章
※内容はほぼそのままで、表現を大幅に変更・加筆しました。
既読の方も一度ご覧ください。
#魔獣と人間
まだ、書物も残されていないような太古の時代、険しい山々が随所に連なり、大半が森林に覆い尽くされた大陸には、多くの野生の獣が住み、生命を育んでいた。人間もまた、その大自然の内にあった。
世界の支配者は、獣が変異し、魔力を持った『魔獣』。ゴブリンやオーク、コボルドといった、人間と同じく武器を使い集団で戦う獣だ。最下級の魔獣ですらその膂力は絶大で、人間は魔獣に襲撃され、蹂躙され、壊滅させられるだけの存在だった。
人間は隔てられた地域でおよそ4種族に分かれ、それぞれの特長を生かして暮らしながら、魔獣に対していた。
森と川の切れ目のわずかな平地で暮らすヒューマン。
森林の結界内でひっそりと暮らすエルフ。
山岳地帯で地下の魔獣と戦い続けるドワーフ。
そして、口伝で語り継がれる伝説上の存在で、転生により永遠の命を持つとされるハイエルフ。
その中でも、ヒューマンは最も弱く寿命が短い。だが、それが高い繁殖力につながった。魔獣の少ない地域の平地に柵をめぐらせて集落を作り、周辺の森を開拓しては生活圏を拡大していた。
おもな食糧は、森を切り開いて作った畑でできる農作物と森に住む野獣。
定住できるのは柵の中だけで、外を護衛なしで出歩くことは死にに行くようなものだった。
彼らの中には、点在する生息地を交易して渡る勇敢な者もいた。危険地帯を避け、比較的安全な場所を通るうちに、長い年月をかけて街道が成立した。安全といっても、街道の大半は見通しの利かない森林に囲まれていて、常に魔獣の襲撃におびえながら通らねばならなかった。
そのような過酷な環境下で、ごくまれに特殊な能力を持つ者が現れた。
戦士・神官・魔術師の3種類ある『クラス』を得た者は常人を越える力を発揮し、特殊な《スキル》や【魔法】が使えるようになったのだ。蹂躙され続けた人間が、ようやく魔獣と戦える力を得た。とはいえ、それはほんのひと握りであり、依然として魔獣は脅威の存在だった。
そのうち、クラスの力を頼りに戦う者が互いに集まり、協力しはじめた。
そして、城を築き、石を積み上げ、堅牢な城壁に囲まれた『城塞都市』をつくりあげた。いくつかの城塞都市は互いに結びつき、やがて国家となった。
こうして、ヒューマンの生活圏は、現在も拡大を続けている。依然として山岳や森林地帯は魔獣の天下であり、城塞都市という一部の地域が支配下にあるにすぎない。そのため、国の領土といっても明確な国境があるわけではない。
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#冒険者の誕生
クラスを得たことで人々は魔獣と戦える力を得た。
その力の源は彼らだけが知ることのできる『レベル』と『ステータス』にあるようだ。魔獣を討伐すると、それらが向上し、強くなれたからだ。
彼らは安全な町から出て、危険な森や洞窟を積極的に探検しはじめた。いつしか、一攫千金を夢みる彼らを冒険者と呼ぶようになった。彼らの中には、力と財を成すことで傲慢で粗暴になる者もいた。それでも、城塞都市が拡大を続けて豊かになる恩恵も受けており、市民は甘んじて受け入れざるを得なかった。
だが、人間は基本的には善良な生き物である。勇者的な善行を成すうちに、より強い力を持つ上位のクラスになる者が現れた。
そのようにして、特に強い超戦士となった者の中から7人の『神人』が生まれた。彼らは異境の地に旅立ち、『神水晶柱』を手に入れて帰還した。
神水晶柱は神がかり的で絶大な力を持っていたものの、それが人々に与えた恩恵の本質ではなかった。人が子を産むように、神水晶柱は多くの『大水晶柱』を、大水晶柱はより多くの『大水晶』を複製できた。末端の大水晶ともなると力が限定されるのだが、それさえも、人々からは想像もできない力を秘めていた。
『七神人』と呼ばれるようになった彼らは、それを各地の城塞都市に分け与え、広めていった。やがて人々は、国や王ではなく、七神人が与えてくれる大水晶の恩恵を頼りにするようになった。
こうして地域・権力・人種の垣根を越え世界規模で活動する組合、3つの『ギルド』が成立した。
『顕現』の神水晶柱から創造神ギルドが生まれ、力を望む者に『クラス』を授けた。
『天秤』の神水晶柱から商業ギルドが生まれ、富を望む者に『通貨』を授けた。
『探求』の神水晶柱から冒険者ギルドが生まれ、名誉を望む者に『ランク』を授けた。
こうして、今までは選ばれた民のものであったクラスが、多くの人に授けられるようになった。
世界共通通貨の流通によって、物々交換から貨幣経済の時代に変わり、商業が栄えた。
しばしばアウトローやならず者と呼ばれることもあった冒険者に、ランクという公正な評価が与えられた。市民からの依頼に応えることで、彼らの地位も向上した。
そして、職業『冒険者』が生まれた。
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#ゲラールの迷宮
ドーントレッド大陸の南東部にフレイン王国という大国がある。南の沿岸部に王都があり、千年続く現フレイン王国の前身である古代王国の起源ともなると、記録すら残っていない。
王都から北方へ遠く離れた森林地帯。そこには小規模の城塞都市が点在しており、それぞれ子爵や男爵といった下級貴族が治めている。
その北端にゲラールという町がある。子爵のリトアールの所領はたったこれだけだが、石造りの外城壁と内城壁の二重の城壁に守られ、広大な農地がある。街道の交わる要所で、温泉も湧き出ている。そのため宿場町として知られ、大いに栄えている。
1か月ほど前。
城に物見の塔を建築するため庭を掘り返していると、石畳の下に古い螺旋階段が発見された。記録は残っていなかったが、その特徴から王国建国期につくられた遺跡だとわかった。
建国の騎士王、女王フローネガルデが最深部で聖杯を得たとされる迷宮ではないかと識者の注目が集まった。迷宮は、人工的に作り出された魔獣と戦う、古代の訓練施設だ。その技術はすでに失われており、各地に現存する僅かな迷宮を利用するにとどまっている。
リトアールがゲラール騎士団と冒険者の調査隊を送り、螺旋階段の底に幅5メートル高さ3メートルほどの地下通路が見つかった。石組みの人工の迷路で、魔獣どころか鼠一匹いなかった。
調査隊は順調に調査を進め、城門のような巨大な鉄扉のある大広間に行きついた。不確定ながら高さ20メートル以上、幅百メートル以上の直方体の長大な玄室。正面の鉄扉は封印魔法で固く閉ざされていたが、それ自体はレベルがそれほど高くない魔術師のリトアールでも解除できるものだった。
奥を調べるか判断に迷い、王都より派遣されていた官吏に相談したところ、封印を解くよう指示を受けた。
魔獣に対する備えはしてあり、すぐに人が集められた。発見された他の迷宮では、いつも強力な魔獣が門番のように入口を守っていたからだ。
冒険者20名とゲラール騎士30名。
冒険者の内訳はBランク冒険者5名・Cランク冒険者8名・Dランク冒険者7名。
冒険者は能力別にランク分けされており、殿堂入りのSランクを除くと評価の高い順から『A-B-C-D-E-F』となっている。Bランク冒険者5名のパーティは、かなり有能であったと推察される。
ただし、ゲラール騎士団は城門や街道に現れる魔獣を追っ払える程度の装備と能力しかなく、地上で待機することとなった。
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#迷宮の怪物
地下の大広間で、リトアールの立ち合いのもと、鉄扉の封印を解除した。
ところが、扉をあけると、奥から見たこともない巨大な魔獣が現れたのだ。
災害級のオウガ=トロールが1体と城塞級のオーク=ジェネラルが5体。
魔獣の中には、近隣の町や国に救援が必要なほど強力なものがおり、その脅威度の判断基準となるランク付けが行なわれている。
町の一画が破壊される地区級。
町が壊滅する城塞級。
いくつかの城塞都市が滅ぶ災害級。
国が滅亡しかねない天災級。
勇者の物語に出てくるような世界の危機となる伝説級。
ゲラールは周囲の森に加え、火山性の山脈が近くを通っていて、魔獣の根城となっている洞窟がいくつかある。そのいずれも下級のゴブリンかオークで、稀にオーク=チャンピオンが現れる。かなり強い魔獣だが、それすら地区級にもならない。未開の山脈があるとしても、これほど最上級ランクの魔獣が出るのは異常だった。
すぐに再封印を試みたが、鉄扉が枠から外れて床に倒れ、閉じられなくなり、断念した。
唯一の救いは、オウガ=トロールが大きすぎて通路に入れなかったことだ。オーク=ジェネラルも身を屈ませなければ通れず、動きが制限された。
リトアールはすぐに救援を呼ぼうと地上に出て、待機させていた騎士団を向かわせるが、オーク=ジェネラルにまったく歯が立たなかった。
頼りとなったのは、やはり冒険者たちだった。一番の精鋭であるBランク冒険者の5名が他の者を守って踏みとどまり、オウガ=トロールに重傷を負わされた体で勇敢に奮闘した。そのあと、広間の手前の一本道の封印に成功し、増援を入れ替えながら、すべてのオーク=ジェネラルの討伐に成功した。
こうして、魔獣の流出だけはどうにか避けられたものの、30人もいた騎士団は全滅し、冒険者にも多くの死傷者が出てしまった。
もう、一地方都市ではとうてい対処できそうにない。
地下通路を封鎖して魔獣の流出を防ぎ、王都に救援を要請したものの、それからもう1か月が経とうとしている。秋の収穫は疾うに終わり、やがて新年を迎えようとする時期である。
その間、封鎖が何度も破られて魔獣が現れている。幸い、現れるのは下級のオークやゴブリンで、冒険者によって撃退され、封鎖は維持されている。ただし、日々負傷者が増え続けていて、このままでは打つ手なしの状況になるのも時間の問題だ。
そのような折である。念願の救援が到着したのは。
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#黒鳳騎士団の入城
古い石畳で整地された南ゲラール街道に、黒い騎馬の軍団が現れた。
50人の板金鎧の騎士で、馬鎧を着けた軍馬に騎乗している。黒色の王宮騎士団制式鎧に金色の鳳凰が意匠された青色のサーコートを纏い、膝まで覆うほど長い青色のマントが翻っている。先頭の騎士が濃紺の王国旗を掲げ、2列縦隊でゲラールの南外城門に進んでいく。
外城門前で入市記録をする列に並ぶ旅人たちは、口をあけて呆然としており、入市税を払おうとしていた商人は、訝しむように彼らを見上げている。珍しいのだ。揃いの板金鎧と馬鎧に身を包んだ騎士の姿が。
地方で一般的な戦士の鎧といえばハードレザーアーマーだ。もしくは、胸部用の板金を追加したことにちなんでそう呼ばれることになったブレストプレートになる。生活に余裕のある者は、より防御力の高い鉄の鎖を編み込んだチェインメイルで身を守っている。
現れた騎士の鎧は、全身を板金で覆うフルプレートアーマーであり、そのような軽鎧とは一線を画す防御力を誇っている。
絵画で描かれる勇者や騎士への憧れから、彼らのような鎧を着けようと試みる者もいるだろう。
だが、オーダーメイドのため非常に高価で、メンテナンスの手間と維持費もかかる。鎧の中では格段に重い板金鎧は、生半可な戦士では扱い切れない。そのため、地方では騎士団員ですら装備する者は少ない。フレイン王国内で制式採用しているのは、王都の王宮騎士団のみだ。
そう。彼らは黒鳳騎士団。王都に4つある王宮騎士団のうちのひとつで、他国との戦争や国内に現れた災害級魔獣と戦うのが主任務となる。
絵画でしかお目にかかれないような騎士鎧の騎馬の軍団が、一糸乱れぬ隊列で行軍し、外城門を通り抜け、その先の内城門へと進んでいく。
隊列の中ほどに馬車が並んでいる。その中の1台は特別な馬車のようで、濃紺色の客車にフレイン王家の紋章が描かれている。
その馬車の横に、騎士のひとりが馬を寄せる。
すると、ガラス窓が開き、中から美しい少女が顔を出す。髪は明るい金色のストレートロングで青い瞳。濃紺色の絹の生地に金の刺繍が入った、高級な神官服を着用している。彼女が馬上の騎士に話しかける。
「魔獣はまだ防がれていますか?」
騎士はヘルメットのバイザーを叩き上げ、少女に顔を向ける。特徴的な黒髪と赤い瞳。バイザーを上げた状態でも、目元口元の他は鎧に覆われたままだ。だが、特別豪華な儀礼装備や剣の鞘で、騎士団の中でも特別な地位にいる者であることがわかるだろう。
「先触れの報告によれば、現状は冒険者が内部を抑え、周辺を騎士団が防壁で囲みつつあるようだ」
騎士が返答すると、少女は安堵の表情を見せ、胸中から金色のペンダントを取り出す。太い金の鎖に繋がれた金無垢のペンダントには絢爛華麗な意匠が施されており、中央の窪みに大きな緑色の魔石、その周囲を取り囲むように、いくつかの透き通った魔石が填め込まれている。
これは王族だけが携行を許される特殊な魔法が付与された魔道具で、魔獣が持つ魔石の魔力を探知し、魔獣が近づくと緑色から黄色、赤色と色を変えていくのだ。
前方の内城門に視線を送ると、チェインメイルを着けた数人の騎士が列を成し、その先頭には、上等な貴族服を着た身なりの良い紳士が立っている。細身の長身で茶色がかった金髪。長い髪を後ろで束ねている。
「ソフィア、間もなくゲラール城に到着する。歓迎会が催されるようだが、程々にして作戦会議に移るぞ」
ソフィアと呼ばれた少女が頷き、窓を閉める。騎士は最前列へと駆け出し、内城門の手前で馬を降りると、随分と待っていたであろうその紳士に近づく。
「黒鳳騎士団、団長、百人長のカインである。王命により救援のため参上した」
「ゲラール領主、子爵のリトアールにございます。このたびは過分なご助力に感謝いたします」
恭しく挨拶をするゲラール子爵リトアールに迎えられ、黒鳳騎士団はゲラール城に入城した。
ゲラール城は城というよりは3階建ての屋敷のようであり、広くめぐらされた内城壁の規模を考えると、それほど大きな建物ではない。敷地はかなり広いので、昔は立派な城が建っていたのかもしれないが、今は畑や草地が大半を占めている。
その草木や花が咲き誇る外庭の一画が、人だかりとなっている。おそらく、そこが問題の地下通路への入口になるのだろう。通用口が作られ、周囲を石壁で囲み込む工事をしているところだ。
城内の1階ホールで歓迎会が始まり、それぞれが挨拶をする。
「われわれが到着したからには、もう安心だぞ! ここにいる50名は王都でも精鋭中の精鋭。オウガ=トロールすら倒せない相手ではない。今回はソフィア第3王女殿下も随伴されておる。この地を守らんとする陛下の決意の現れと心得よ」
「恐悦至極にございます」
リトアール子爵が感謝を伝え、彼ら一同が深く頭を下げる。
主賓としての体裁が整ったことで、カインとソフィアは宴も早々に5人の小隊長を引き連れて退出した。
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#地下通路の攻防
ゲラール城の外庭。
その片隅の花畑の中にぽっかりと穴があき、地下に向けて石で組まれた螺旋階段が敷設されている。
漆黒の闇の中、左に回り込み、先の見えない螺旋階段をぐるぐると回りながら下りていく。明かりは何もない。そのうち、これが永久に続くかのように感じてくる。もはや、どの方角を向いているのか、どのくらい深いのかもわからない。
やがて唐突に段差がなくなり、問題の地下通路に行きつく。螺旋階段と同じような石組みの壁と天井で覆われた、幅5メートルほどの石畳の通路がずうっと奥に続いている。
行けどもいけども延々と同じ石壁で、所どころに分かれ道があり、迷路になっている。なんの考えもなく奥に進めば、誰の助けも借りずに帰ってくることはできないだろう。
そのような地下通路の最奥、過去の激戦を示すような乾いた血で汚れた石畳の一画だけが、ぼおっと明るくなっている。
【魔法】による照明効果だ。
白い光球の【魔法の明かり】がいくつも浮かび、周囲を照らしている。
ガン! ガン! バァン!
その周辺には、耳が痛くなるほどの大きな金属音が響いている。武器を打ち合う音だ。人間の戦士たちがあり得ないほどの力で武器を打ちつけ、魔獣と戦っている。
《スキル》による強化攻撃だ。筋力を増幅する《アタック》を発動させ、魔獣の体に頑丈な鉄の刃を渾身の力で叩きつける。
彼らは勇敢で戦いにも慣れているようだが、それぞれ装備も戦い方もまったく違う。統一された色やデザインの武器と防具を身につけ、指揮官に率いられて集団で戦う城の騎士や衛兵ではない。
自費で整えた自分好みの装備と実戦の中で鍛え上げた自身の力を頼りに戦う。
それが彼ら『冒険者』なのだ。
◇ ◇
魔獣はゴブリン2体とオーク2体。皮膚が緑色の人型の魔獣で、人よりも少し大きい程度だ。ゴブリン、オークといっても、大きさによって強さに差がある。ここにいるのは最小で最弱の部類にあたる。
ゴブリンは痩せていて頭だけでかい。棍棒を握っている。
オークは筋肉質のがっしりした体で猪のような頭だ。錆びた斧を握っている。
胸に板金の胸鎧があるだけで、それ以外はボロ布のような鎧を着けている。
対する冒険者は総勢6人。左壁沿いにふたり、右壁沿いに4人の2パーティに分かれて応戦している。
右壁沿いにいる4人の冒険者のうち、立っているのはふたりだけだ。残りは地に伏せている。隊列の中央に突入したゴブリンが、後衛の神官の女性に襲いかかっている。前衛の鎖帷子の鎧を着けた巨漢の戦士が、それを引き剥がして彼女を救おうとしている。
その一方、左壁沿いにいるふたりの冒険者は、助け合いながら懸命に戦っている。
ひとりは赤っぽいオレンジ色のポニーテールの少女。 後方でゴブリンと戦いながら、魔法を唱えようとしている。
胸は鈍く光るブレストプレートで覆われ、他の部分は硬化革の鎧で身を守っている。右手で戦鉾を握り、左腕に小さな円形の盾をくくりつけている。
典型的な『神官戦士』の出で立ちである。
もうひとりは白い板金鎧で全身の守りを固めた戦士。 正面のオークに騎士紋章の盾をぶつけて引きつけながら、右側のオークに細身の直剣を振るっている。
背面が鎖帷子になった実用性重視の板金鎧で、顔には跳ね上げ式の面頬が下りている。そのため、性別どころか視線すらうかがい知れない。
白く塗装されていた盾と鎧は、血で赤く染められている。
典型的な『騎士』の出で立ちである。
だが、騎士と呼ぶにはあまりにも小柄だ。右で戦っている戦士と比べると親子ほどの差がある。
◇ ◇
神官の少女は詠唱を妨げられ、ゴブリンと取っ組みあいのような戦いをしていたが、ようやく押し返して魔法を唱えはじめる。両手でメイスを握り、胸元の金属面に沿って手を合わせるように祈ると、メイスが僅かに光を帯びてくる。
【ヒール!】
神官の回復魔法だ。
手からあふれ出た白光が、聖木の柄を伝って先端の金属の鉾から放射される。優しい光が、前方で彼女を守るように戦っている小柄な戦士の背中に吸い込まれていく。
戦いで受けた傷と疲れを癒してふたたび戦えるようにする奇跡、回復魔法。
ただ、その効果のほどは定かではない。戦士の体が鎧で覆われていて、素肌の露出している部分がなかったからだ。
あきらかになりつつあるのは、いくら回復魔法をかけても血塗れの鎧は端々から新たな血を滴らせており、それはどうやら敵のオークのものではないということだった。
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※以降 参考設定(読み飛ばしてもらって構いません)
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※年月日、時刻、時計台、鐘つきについて
30日で1か月、12か月で1年。年間360日。
60分で1時間または半時、2時間は一時。
午前午後12時間ずつで1日。
時報の鐘が鳴り、鐘つきは商業ギルドが担当する。
商業ギルドの上に時計塔が建っていて、12文字盤の大時計と時報の鐘つき堂が設置されている。それが見える場所では時刻が正確にわかる。時計塔がない町もあるが、鐘つき堂は必ずある。
鐘つき堂では、朝7時から1時間おきに鐘をつく。1番目の鐘は1回、2番目の鐘は2回。人の手で行なうのでズレがある。
迷宮の地下や町の外など、時計塔が見えず、鐘も聞こえない場所では時刻がわからない。
時刻と鐘の対応は次のとおり。
┌──────────────────┐
│◆時刻と鐘◆ │
│ 6時:予鈴 │
│ 7時:朝1番目 │
│ 8時:朝2番目 │
│ 9時:朝3番目 │
│10時:朝4番目 │
│11時:朝5番目 │
│12時:朝6番目 │
│ 1時:昼1番目 │
│ 2時:昼2番目 │
│ 3時:昼3番目 │
│ 4時:昼4番目 │
│ 5時:昼5番目 │
│ 6時:昼6番目 │
│ 7時:終鈴 │
│ 8時以降は休止 │
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#共通通貨
『天秤』の大水晶は商品を吸収する代わりに5種類の通貨を生み出す。両替や預金も可能。吸収された商品の一部は規定のレートで購入することもできる。こうして全世界で通用する共通通貨が誕生した。
最も価値の低いのが銅貨。
大銅貨は銅貨10枚。子どもの菓子ひとつ。
銀貨は大銅貨10枚。1日分の食費。
金貨は銀貨100枚。平民家族1か月分の生活費。
白金貨は金貨100枚。
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※魔石価格表(売却の場合)
┌──────────────────┐
│魔石(Sランク):金貨 450枚│
│魔石(Aランク):金貨 180枚│
│魔石(Bランク):金貨20枚~45枚│
│魔石(中) :銀貨 4枚~10枚│
│魔石(小) :大銅貨 9枚│
│魔石(極小) :銅貨 9枚│
└──────────────────┘
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※依頼の流れ
┌──────────────────┐
│◆依頼の流れ◆ │
│【ギルド】 │
│1.依頼書の作成と報酬金の預かり │
│2.掲示板への貼り出し(毎朝9時頃)│
│【冒険者】 │
│3.依頼の受注 │
│ (誰かのステータスカードの提示)│
│4 受注の成立 │
│ (依頼書を折半し双方で預かる) │
│5.依頼の遂行 │
│6.依頼の達成または失敗 │
│7.依頼の報告(成功・失敗・経過) │
│ (全員のステータスカードの提示)│
│8.戦利品の買取・ポイント加算 │
│9.依頼の完了・報酬の受け取り │
│ (以降ギルド内で残処理) │
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┌──────────────────┐
│◆獲得ギルドポイント(一例)◆ │
│【臨時・限定・指名依頼】 │
│ギルド講習講師(上級): 300P│
│ギルド講習講師(中級): 100P│
│ギルド講習講師(初級): 30P│
│森特定対象捜索 : 30P│
│野獣討伐(追加報酬) : 10P│
│野獣狩猟(追加報酬) : 5P│
│薬草採取(追加報酬) : 3P│
│ │
│【常時依頼】 │
│Aランク討伐部位 : 50P│
│Bランク討伐部位 : 10P│
│Cランク討伐部位 : 5P│
│Dランク討伐部位 : 3P│
│Eランク討伐部位 : 1P│
│野獣討伐(常時) : 10P│
│野獣狩猟(常時) : 5P│
│薬草採取(常時) : 3P│
│遺品持ち帰り : 50P│
│ │
│※依頼報酬は原則1P=大銅貨1枚 │
└──────────────────┘
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※冒険者ランクと必要ギルドポイント、カード色
┌──────────────────┐
│ A:500,000 金色 │
│ B:100,000 白銀色 │
│ C: 20,000 赤褐色 │
│ D: 6,000 青色 │
│ E: 1,000 緑色 │
│ F: 0 若葉色 │
└──────────────────┘
世界観と物語導入部分です。
カインは重要人物ですが本編の主人公ではありません。
主人公は次話の冒険者の少女、ミーナになります。
物語の進行に応じて他の冒険者や仲間の視点に変わります。
無限収納と瞬間移動は存在しない世界観です。
重い荷物を運ぶために大きなバックパックを背負い、荷車を引いたり馬車で移動したりします。
(後半ではそのような常識を覆す勢力が登場するかもしれません)
敵となる存在はありますが、極力敵が暗躍するような視点での展開は避けています。
著者は素人です。誤字脱字誤用があるかと思います。