1話から5話
※1 ヤンキー姫ちゃんの天井裏には、忍者がいる。
あたしの家の屋根裏に、忍者が住みついた。正確には、私の部屋の真上だ。
「おい、蘭丸」
「およびですか、姫」
ほんの一瞬で天井が外れ、「しゅたっ!」と蘭丸が降りてくる。春先なので、普通にラフなTシャツにチノパンを履いている。でも顔が無駄にイケメン。金髪。
「菓子パン食いてぇ。ジャムとマーガリンの奴な。コンビ二で買ってこい」
「御意」
蘭丸はそのまま、垂直に数メートル飛びあがり、懸垂の要領で颯爽と天井裏に消えた。
「はぁ。ジャニタレかっつーんだよぉ、おめーはよぉ」
ワイヤーアクション無しで、垂直五メートル以上の跳躍ができます。欧米の王族とのハーフで超絶イケメンです。そんな奴が、私の部屋の真上に住んでいる。そんな事実に慣れてきた。
慣れてきたのがムカツク。
※2 床の上に画鋲が!
あたしの家の屋根裏に、忍者が住み着いた。呼べば降りてくるので、まきびしよろしく、画鋲を撒いてみた。バラバラとな。
「おい、蘭丸」
「……」
「呼んでるんだよ、速く降りてこいっつってんだよ、オラァ」
あたしはベッドに腰かけ、ニヤニヤと天井を眺めた。ラリってるわけではない。
「御意」
蘭丸が降りてくる。華麗に着地して、床に落ちていた画鋲が甲高い音を立てる。
「テメェ! なぁに鉄下駄履いてやがんだァ! フローリングの床に傷がつくだろぉ!?」
指差してやると、無駄に超絶イケメンな忍者は、下駄底を見せてきた。
「とある軍で開発された、耐衝撃吸収用ゴムグリップを張り付けておきました。床に対してダメージは一切ございません。して、ご用件は?」
「もういいよ帰れよ。おまえマジ生意気なんだよ。次顔見せたら締め上げんぞガチ」
「御意」
垂直五メートル超のジャンプ。そして懸垂の要領で、ひらり。
マジムカツク。蘭丸死すべし。
※3 サービスカット。ただしこれは短編小説であり描写はない。
今年の春から、あたしの家の屋根裏に、忍者が住み着いた。
『――ハルちゃん。おかーさん、おとーさんのお仕事についてくね。でも女の子を一人残しておくのは、おかーさんも心配だから。優秀なシノビを雇っておいたわ。仲良くね』
頭がくるくるお花畑なパラッパラッパァーのしでかしそうなことだった。そこはおまえ、メイドだろ。ロングスカートのな。もちろん私は反抗して「ふざけんなぼけ、一人でもぜんぜんさみしくなんかねーんだからなっ! はやく行っちまえよ!」と怒鳴った。
そんで今日も風呂入る。風呂は好きだ。あたしお風呂大好き。
服を脱いで、脱衣カゴに入れる。まずはざっとお湯をかけて汚れを落とし、そろりと足を
「つめてええええええええええええええええええええええええええええ!!??」
水風呂だった。なんだこれ、なんだこれ。なんひゃこれ。
「ふ、ふちゃけてんら、ねーひっ! くしゅっ!」
春先に唇を紫色にしてガタガタ震えながら、お風呂のスイッチで追い炊きする。でも、いくら待っても温かくならない。水しかでない。
「りゃんまるううーッ!」
「お呼びですか、姫」
一秒入れずに、磨りガラスの向こうにシルエットが浮かんだ。こんな時でもごていねいに、片膝を立てるポージングをしてやがる。クソ真面目か。
「おゆがでらい! なんで!? さむい! なんなん!?」
「其れは一大事。給水機かガス関連の故障かと。見てきます。少々お待ちを」
蘭丸が言った三分後。
「姫、とりあえず応急処置をして参りました。湯は出ますか?」
「…………あっ、あたかく、なってきた」
「では拙者はこれで」
「蘭丸」
「はい」
「あ……ありがとな」
「重畳の至り」
言って、うちの屋根裏忍者は「しゅたっ!」と気配を消した。
※4 まるでハーレムラノベだ……。
蘭丸は普段、私の屋根裏部屋に潜んで指令を待っているシノビだが、学校では普段通りに席についている。というか、私のクラスメイトとかいうやつだった。
「蘭丸くん、蘭丸くん」
うちの忍者はモテる。モテモテだ。認めよう。顔が良く、勉強ができて、スポーツ万能の優等生で料理もできる。という設定をそのままなぞっていれば、『おまえは他にモテ要素としてなにを挙げるのだ。金か?』という話になっても仕方なかろう。
そして私は、furyo-だ。髪は地毛がくすんだ茶色だし、ケンカは、そこいらのまたたび系男子よか強ぇ。口も悪い。ついでにキレやすいし、空気も面倒だからよまない。
ついでに言うと手先は不器用で音痴だ。でも歌うのは大好きだ。アイドルも好き。マイクは放したくない。一度奇跡的にカラオケに誘われたが、翌日には除け者扱いになっていた。
一体なにが悪かったのか。思えば、furyo-の道を歩み始めたのは、あの経験がきっかけだった。
「ねぇねぇ、蘭丸くん、今日の放課後、みんなでカラオケいこーよ♪」
クラスの美少女アイドルグループに、うちの忍者がハーレムられている件。
ラノベのタイトルっぽく言ってみたが、どうだろうか。我ながらセンスありすぎだと思う。著作権フリーだ。好きに使っていいぞ。
「ごめん、そういうのはちょっと困るんだ。僕には仕える人がいるからね」
蘭丸はちょっと迷惑そうな顔をして拒否っていた。貴様。後で屋上な。
※5 ゆりるり。
私は、私立の名門お嬢様学園に通っている。正確には中学から高校の一貫であり、それはもう可愛い女子がわんさかおる。なかにはそっち系の人もいるとかで、うっかり体調不良で保健室に横になると、腹を空かせた狼に貞操を奪われ、今では海外で養子をとって幸せに暮らしている。と言った話も聞くので注意が必要だ。
「蘭丸」
「お呼びですか、姫」
教室の天井を開き、私の忍者が降りてくる。
「おまえ、性別は」
「女ですが」
「テメェー! そういうことは早く言えっつってんだろうがァーっ!」
※6 うちのシノビが実は女で、くのいちだった件。
「蘭丸」
「お呼びですか、姫」
「今すぐに腹を切れ。切腹しろ」
「それは出来ません」
「なんでだよ」
「姫君の母上様と契約を交わしていますので。一年、しっかりと面倒を見ると」
「なんだよ! それなんだよ! おまえは、あたしと母親のどっちの味方なんだよっ!」
「契約主は、母上さまです。しっかりと年間契約を交わしております」
「じゃあ、あたしがそれ以上の額を払ったら、あたしの方に乗り換えるのか」
「考えておきましょう」
「よーし、わかった。じゃあそれまで、切腹するなよ」
「御意」
「あーもう、腹立つわー。イライラが収まらんわー」
「姫、お茶でも煎れましょうか」
「うるさいよおまえ。いいから、もう帰れよ」
「御意」
しゅたっ。くるり、すたっ。
………。
「蘭丸ぅー」
「お呼びですか、姫」
「よ、呼んでみただけだし! 特に意味はないんだからねっ!」
「御意」
しゅた。くるり、すたっ。
……。
「らんまるー」
「お呼びですか、姫」
「なんでもない」
「姫」
「な、なんだよ」
「次、用事がない時に呼びますと、腹を切ります」